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2005年7月29日(金).
河洛邑に行っている千里Yはこの日までに光辞の残りの部分を全部朗読した、
2002年1月に読み始めて以来、3年半掛けての作業の完成だった。
恵雨さんも香留子さんも
「お疲れ様」
と言ってくれた。
千里は自分で書いた写しを持つと自分の部屋に戻った。
「疲れたなあ。でも何とか完成させた」
と千里。
「ほんとによくやったね、千里。結構精神力使う作業だったのに」
と小春。
あれを読むには高レベルの精神集中が必要である。それを維持するには物凄い精神力を要求する。人が入ってきただけ、電話が掛かって来ただけで集中は崩れる。
「うん。最後のあたりはこちらも無理をしたけどこれでホッとしたよ」
「うん。かなり無理してるのは判った」
「思えば来光さんの魂が私に降りてきて読んでたのかもね」
「千里が恵雨さんの後継者になる?」
「香留子さんはそれを警戒してる感じだったけど、私はそんなことに興味無い」
「だよねー」
「あの文書が後の時代に伝わるよう来光さんが私に少しだけ力を貸してくれただけだよ」
「まあそんなものかもね」
千里は何だかボーっとしているようだった。やはりかなり疲れたんだろうなと小春は思った。
「千里?」
と声を掛ける。
「朗読が完成して、私の役割は終わった」
え!?
千里の姿が揺らぐようにする。
「千里ぉ!だめぇーーーーーー!」
小春は叫んだが千里Yの姿はかすむようにして消えた。
「千里・・・・・・」
三重の河洛邑で千里Yが消えた瞬間、留萌のS中体育館に“千里”が現れた。
「ここどこだっけ?私、何してたんだっけ?」
バスケットボールが転がってくる。反射的に止める。
「あれ?千里じゃん。剣道の練習はいいの?」
と言うのは数子である。
「私、剣道なんてしないけど」
ん?これは剣道してる千里ではないのか?だったらよくP神社にいる千里だっけ?
「千里、もし時間取れたら一緒に練習しない」
「いいよ」
それで千里はなぜかそばに落ちていたジャージに着替えると「バスケットするのもなんか久しぶりだなあ」と思いながら練習に参加する。
スリーは絶好調である。それを見て2年生たちが感心している。
「凄く調子いいね。これなら秋の大会ではR中に勝てるかもね」
と数子は言った。しかし千里は答えた。
「何言ってるの?私男の子なんだから女子の試合に出られるわけない」
この千里は試合に出てくれない千里かぁ〜〜!?と数子は天を仰ぎたい気分になった。
この千里は1時間ほどの練習が終わった後自宅に戻ろうとしたが、途中で消滅した。消したのはGである。千里のそばにジャージを転送したのもGである。
Gは思った。この千里が今自宅に戻ると話がややこしくなる。町中でも人に見られないようにしなくてはいけない。千里は剣道の道大会に行ったことになってるから。
Gはバスケットの練習に参加した千里を消滅させた上でいったん司令室に戻った。
「今の千里はBだよね?」
とVが尋ねる。
「うん。Yが消えたのでそのエネルギーでBが出現したのだと思う」
と答えながらGは難しい顔をした。今のYの消え方は普段疲れて勝手に消えるのとは違っていた。気のせいならいいけど、と思う。
「ちょっと三重に行ってくる」
小春は千里が消えたあと、1時間ちょっと、ボーっとしていた。そこにGが出現する。
「千里!?」
「私は別の千里だよ」
と言って緑色の腕時計を見せる。
「撤退しよう」
「うん」
それで千里はコリンを召喚する。コリンが困惑しているようなので
「私は黄色じゃないよ。別の千里だよ」
と言って彼女にも緑色の腕時計を見せる。
「四日市に戻っていつものようにコンビニで光辞のコピーを取って」
「分かった」
一方、Gは小春を促して、千里の荷物をまとめさせた。とにかく小春には何かさせたほうがいい。そして小春と一緒にコリンのいる所(四日市市)に瞬間移動する。
「コリン、私の振りして小春を連れて留萌に帰って」
「了解」
それで小春を髪留めに変えて、千里に擬態したコリンの髪に付けた。こうしたのは小春に“いつもの感覚”を体験させるためである。
一方、河洛邑では恵雨さんが千里に
「一緒に食事をしよう」
と言って呼びに行かせたものの
「おられませんでした。荷物も無くなっていました」
と報告がある。
「帰っちゃったのかな」
と恵雨は言う。もう少し話したかったのに。
千里に擬態したコリンと髪留めに変身した小春は、名古屋に移動し、飛行機で北海道に戻った。
近鉄四日市13:21(近鉄特急)13:48近鉄名古屋/名鉄名古屋14:02(名鉄快特)14:30中部国際空港15:15 (JAL3113)16:50 新千歳空港 17:19(エアポート173)17:55 札幌札幌駅前BT18:50(高速るもい号)21:29 留萌ターミナル
留萌駅前には小春のカローラを回しておいた(星子に回送させた)のでそれをコリンが運転して帰宅した。
「コリンさん、小春さん、お帰りなさい」
と源次が言う。寝ていたふうの小糸も起きだしてくるが、小春が元気無いのでどうしたのだろうと思う。
コリンはとにかく小春を小糸と一緒に寝せた。
その上で源次を自分の部屋に呼んで小さい声で言った。
「黄色の千里はもしかしたらしばらく出てこないかも知れない」
「嘘!?」
コリンは新千歳空港でGと電話で少し話したのだが、Gにもまだ状況がよく判らないようなのである。
「だから小春の気持ちが落ち着くまで、千里のことはあまり口に出さないように」
「分かりました」
それで源次は千里が死んだのでは?と思った。でもそうなるとやばくない?
源次は遠慮がちに尋ねる。
「あのぉ、ぼくの身体は?」
「8月22日くらいに赤い方の千里が戻ってくると思うから、そしたら男の子に戻してもらえると思うから」
そうか千里さんって何人か居るんだった!
「お願いします」
7月29日(金).
旭川で合宿している千里Rたちは午前中練習して12時に切り上げる。全員シャワーを浴びて、女子はお互いにマッサージしあった。男子2人もお互いにマッサージした。
そして荷物を持ち、セレナとトリビュートに分乗して旭川駅に向かった。そして前述のようにJRで蘭越に向かった。
旭川14:00(スーパーホワイトアロー18) 15:20札幌15:28(ニセコライナー) 18:38蘭越
列車に乗ったのは8人である。
千里・玖美子・沙苗・公世・清香・柔良/竹田・所沢
女子6人の席と男子2人の席は少し離れている。(公世は女子の分類で問題無い)
ギリギリまで練習したいということでお昼は列車の中でお弁当を食べた。その後は、乗換の時以外、全員ひたすら眠っていた。
札幌に着く少し前に千里Gが千里Rを起こそうとしたのだが起きない!
それで仕方ないので感応しやすい沙苗を起こし、それで沙苗がみんなを起こした。
8人は主催者が確保してくれている宿に入る。R中の3人については、R中様で2部屋取られていたので、女子と男子で別れてそこに入った。S中は部屋割が分からないので、取り敢えずひとつの部屋にまとめて入り、バス移動組が到着するのを待つ。
やがて20時頃、バス組が到着。岩永先生と鶴野先生はこのような部屋割表を貼った。
「僕も悩んだんだけど多分これがいちばん問題無い」
と岩永先生は言った。
A(8J)村山千里、沢田玖美子、原田沙苗、工藤公世
B(8J)羽内如月、ノラン・エイジス、月野聖乃、清水好花
C(4.5)潮尾由紀、春女秀香
D(8J)竹田治昭、佐藤学、吉原翔太、工藤大樹
団体戦出場者は7人(選手5+補欠2)である
部屋割を見て言う。
「全く問題無いね」
と玖美子。
「うん。問題無い」
と千里。
「うーん。なんと自然な部屋割」
と竹田君。
「やはりこうなるのか」
と公世。
「嘘!?ぼく潮尾さんと同室なの?男女混じるのまずくないですか?」
と言った子がいたが
「君も女子なのでは?」
と言われていた。
ちなみにこの部屋割、工藤姉弟(公世と大樹)を同室にして、由紀を千里たちの部屋、秀香を男子部屋にする手もあるというのを沙苗は考えたが、言わなかった。実際には多分秀香は女子と同じ部屋でも平気とみた。恐らく彼はそういう扱いを小さい頃から受けている。
(誰も由紀が男子である可能性は全く考えていない)
実は先生たちも工藤姉弟同室案を検討したが、優勝してもらいたい公世がリラックスして試合に臨めるようにするにはいくら姉弟といえども男の子と同室にするより“女性同士”安心して休める部屋が良いと判断した。
(公世はやはり女子と思われている)
それで各々の部屋に入る。
由紀は秀香に言った。
「お互い後を向いて着替えようよ」
「うん。そうしましょうか」
「大丈夫だよ。ぼく小学校の修学旅行でも男子と同室だったから」
と由紀はソプラノボイスで言う。
「同室の男の子は安眠できなかった気がします」
とバリトンボイスの秀香。
由紀は移動中は体操服の上下だったが部屋に入るとTシャツとスカートに着替えちゃった!バストが結構目立つ。
「可愛い」
やはり潮尾先輩、女子部屋に行くべきでは?と秀香は思う。
(ここが女子部屋だったりして)
「秀香ちゃんも楽な服装に着替えなよ」
「ぼくは体操服のまま寝ようかな」
「秀香ちゃん、今回はレディスの服持って来なかったの?」
「ぼくは女装しませんよー」
「隠さなくてもいいのに」
7月30日(土).
朝9時、“千里”がQ神社に出現した。Q神社には既に千里Bを装った星子が来ていたが、慌ててGが司令室に戻した。
「笛どうしましょう?」
と星子が訊く。
星子はNo.221 の笛を使用している。千里Bの使用笛はNo.200(織姫)とNo.224である。千里Yの笛はNo.222である。
「あれは千里B?Y?」
とVが尋ねる。
実はモニターには同じ場所にBlueのランプとYellowのランプが重なって表示されているのである。
「Q神社に現れたのだから表面に出ているのはBだと思う。Vちゃん224番を貸して」
「うん」
それでVが普段使用しているNo.224の笛を千里のそばに転送した。これは元々Bの笛だが休眠中だったのでVが使用していたものである。
巫女衣裳に着替えた千里Bはその笛を取ってスタッフの控室に行き
「おはようございまーす」
と細川さんや香取巫女長に挨拶した。
「しばらく休んでて申し訳ありません。また頑張りますから」
などと千里は言っている。
一方の細川さんや香取さんは
「しばらく休んでて??」
と思ったが、すぐに、修学旅行の間休んでいたことかなと思い
「うん、また頑張ってね」
と言った。
「そういえば去年もBとYが重なって現れたことあったね」
とVが司令室で言う。
「うん。あの頃からYとBは重なりやすかったのかも」
昨年電車で痴漢している男を捕まえ、警察に証言のため行った時、2人が重なっていたのである。あの時はこうだった。
(1)千里Yが電車の中で痴漢を捕まえる。
(2)痴漢男が先日千里をレイプしようとした男であることに気付いた途端、千里Bが出て来た。
(3)警察に行き、主として先日のレイプ事件ことを詳しく話す。
(4)千里Yに電話が掛かって来たら、警察署の外に突然Yが出現して電話を取った。Yは上野駅に行き、カシオペアに乗車した。
(5)警察での事情聴取が終わった後、Bは消滅した。
ここで(2)の瞬間から(4)の瞬間までB(Bs:Blue strong)とY(Yellow) が重なっていた。ただし表面に出ていたのはBだった。
「千里たちはR>B>Yの順に強いからBとYが重なればBが表面に出るのだと思う」
とGは言う。
「でもYが本当に消滅したのでなくて良かった」
とVが言う。
「私もホッとした。Yは今年に入った頃から昨日まで、本来の自分の精神力を大幅に超えて光辞の朗読作業をしていた。だから疲れてしばらく休みたいのだと思う」
とG。
「どのくらい休むのかなあ」
とVが訊くとGは少し考えてから言った。
「多分5年以上」
「え〜〜!?」
「その間も休眠中のBが時々出現したように、必要な場合は出てくると思う」
「うーん・・・」
とVは悩む。
「でもBとYが重なった状態でQ神社に行ったら、P神社のほうは?」
「それについては考えてることあるけど、取り敢えずこのままBが毎日Q神社に現れるのか様子を見よう」
「うん」
Vは何か嫌な予感(自分が代理させられるのではという予感)はしたものの今日は敢えて自分では言わなかった。薮蛇(やぶへび)になりそうだし。
一方千里B(+Y?)は、Q神社でのご奉仕が終わると
「何か久しぶりにたくさんお仕事した。疲れた」
と言ってそのまま消えてしまった。
A大神は千里たちの休眠場所で“4人”の千里が並んで寝ているのを見て『なんでこういうことになってるんだっけ?』と悩んでいた。