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■女子中学生・夏祭り(15)

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7月28日(木).
 
朝起きてもお婆さんはまだ居た!どうも幽霊ではないようだと思う。それでレストハウスのトイレに行って来て、朝御飯にパンとスープを食べてから8時頃出発した。
 
「湯殿山まで行った後、こちらに戻って来るにはバスとかありますかね」
「うん。バスはあるけど、うちの孫に迎えに来させますよ」
と言って携帯からメールを送っていたようである。
 
なおここは携帯の電波がとても弱い。メールなら行けるが通話は困難と思われた。
 

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善美はそれでレストハウスのところからお婆さんと一緒に月山の登山道を歩き始めた。善美の靴はアシックスのランニング・シューズ、お婆さんはなんか1000円くらいで売ってそうなズック靴である。ところがこのお婆さんが物凄く足が速い。見た感じは65-66歳に見えるのにかなり速いペースで登って行く。善美はハーフマラソンを走ったこともあるしわりと足に自信があったのだが、お婆さんについて行くのがかなり大変だった。
 
結局途中1回10分ほど休憩しただけで10時前には頂上の月山神社に到達。この山の上の神社で清々しい気持ちで参拝できた。
 
「そういえばあんた神社大丈夫だったんだっけ?クリスチャンとかだったら」
「大丈夫です。私は無宗教だからどこの神様でも仏様でもいけます」
「それは良かった」
「中学・高校の頃は神社で巫女さんのバイトしてましたけどね」
「ああ、それでか。あんた神さんの跡が付いてると思った」
「跡とかあるものですか」
「東京から来た?」
「はい、そうです」
「どこに行くの?」
「全然決めてません」
 
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と答えてから、この答え方だと自殺志願者か何かと思われたかなあと思った。
 

それで山頂で1時間ほど休憩し、パンなども食べて水分補給もしてから
「では湯殿山に行こうか」
「はい」
というので11時頃出発した。
 

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それからの約3時間のことは、善美の記憶からほとんど抜け落ちている。
 
「ひぇー!」
「こ、ここを降りるの?」
「今日が私の命日かも」
 
などという感覚の連続であった。
 
しかし14時頃、善美は(多分)生きて湯殿山に辿り着いた。
 

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「あんた本当に体力あるね。私にちゃんと付いてこれたね」
とお婆さんは言っていた。
 
「こんなところで置いてかれたら絶対そのまま死ぬと思って頑張りました」
と善美。
「あんたは彼岸(ひがん)の世界を通過して此岸(しがん)に戻って来たと思うよ」
 
やはり自殺志願者と思われてる気がした。
 
「そうだ。あんたの名前を聞いてなかった」
「七尾善美です」
「あれ?もしかしてあんた五島照子さんのお孫さん?」
「祖母をご存じだったんですか!」
「まあ古い知り合いだね。私は藤島月華」
 
(照子は1922生、月華は1928生)
 
「へー。月華って可愛い」
「私ゃ可愛いなんて言われたのは50年ぶりかも」
 

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そして湯殿山のご神体を、ご神体の上に素足で乗って拝礼する。
 
ここの様子は「語るなかれ、聞くなかれ」と言われるので、ここでも敢えて書かない。
 
「気持ちいい」
「あの山道を歩いたご褒美だね」
「これ語るなかれ、聞くなかれ、というのはあまり気持ちいいからでは」
「私もそう思う」
 
その後、一緒に温泉に入る。
 
「温泉に入ったら私の性別がバレちゃう」
「大丈夫だよ。あんたの性別も語るなかれ、聞くなかれ」
「あ、そうですよね!」
 
温泉に浸かって休憩したあと九十九折りの道を歩いて大鳥居の所まで降りる。
 
「あ、これ非常食に持って来たんですけど、いかがです?」
と言って金沢で買った“きんつば”を出すと
「美味しいね!」
と食べていた。
「これどこの?以前にも人にもらったことある」
「金沢の中田屋という所のです」
「へー。覚えとこう」
 
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17時頃に駐車場に月華さんの孫・瀬高美奈子(この当時30歳)が迎えに来てくれた。
 
「すごーい!RX-7だ」
と善美が言うと
「あんたも車好き?」
と訊かれる。
 
「私はごく普通のBMW-mini(ベーエムヴェー・ミニ)で」
「そんな車に乗ってること自体、かなりマニアとみた」
と美奈子は言う。
 
善美は美奈子とは仲良くなり、メールアドレスも交換した。
 

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「そうだ、美奈子。善美さんに倒れてた所を助けてもらって、食料とかもだいぶ分けてもらっったのよ。代金分1万円くらい払ってあげて」
「OKOK」
「あ、それは登山のガイド賃と相殺(そうさい)で」
と善美は言った。
 
「そう?」
「あの道は道をよく知っている人と一緒じゃないと絶対生きて辿り着けませんよ」
「じゃ相殺ということで」
 
それでお金のやり取りは無しということにしたが、美奈子は言ってた。
「お祖母ちゃんもお金くらい持ち歩けばいいのに」
 
「私が最後に手にした現金は聖徳太子の千円札だわ」
などと月華は言っていた。
 
それいつの話!?(*35).
 

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(*35) 1000円札が聖徳太子から伊藤博文に変わったのは1963年。この時点から42年前。
 
千円札の変遷
 
1945 日本武尊(甲券 1946失効)
1950 聖徳太子(B券)
1963 伊藤博文(C券)
1984 夏目漱石(D券)
2004 野口英世(E券)
2024(予定) 北里柴三郎
 
※A券には千円券は無い。百円券(聖徳太子1946)まで。
 

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それで美奈子の運転するRX-7に乗ったのだが・・・・
 
彼女の運転はとてもワイルドで!キュキュッと発進し、キキキキ!と曲がる。月山8合目に向かうカーブの多い道では、この車、林に突っ込まないだろうかと恐怖の連続である!!
 
善美は限界を超えた。
 
「済みません。ちょっと停めて下さい」
「うん?どうかしたの?」
「皆さん、ちょっと降りませんか」
「いいけど」
 
と言って全員降りる。
 
「体操したくなったんです。皆さんもしませんか?」
と言って善美はラジオ体操を始める。月華と美奈子も一緒に体操している。そして体操が終わると善美は言った。
 
「この先は私に運転させてください」
「え〜〜〜!?」
 
でも月華がパチパチパチと拍手している。
 
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それで善美が運転席、美奈子が助手席、月華が後部座席に乗った。
 
「この車、MTだけど大丈夫?」
「私のミニもMTですから」
「ああ。マニュアルのを買ったんだ!」
 
それで善美が運転すると、車は華麗にカーブの多い山道を走っていく。乗っている人に重力がかからないように、スローイン・ファストアウト、そして、遠心力が小さくなるように、アウト・イン・アウトで走る。
 
「あんた凄く上手いね!」
と美奈子が感嘆したように言う。
 

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「私A級ライセンス持ってるし、大型二種も持ってるから」
「すごーい!A級ライセンスってF1とかに出るの?」
「F1に出られるのは国際A級ライセンスですね。私のは国内A級ライセンスです」
「国内と国際ってあるんだ!」
 
「国際はスポンサーがいなきゃ個人で取得するのは無理ですね。国際C級なら個人で取ってる人もいますが、無茶苦茶お金がかかります。レースに出るための服だけで100万円くらいしますから」
「金かかるね!」
 
(万一事故が起きた時に身を守ってくれる不燃性の服が高い)
 
善美は月山8合目の駐車場まで戻ると
「少し休んでから帰ります」
と言って、美奈子・月華と別れた。
 

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7月28日(木).
 
旭川合宿組の所に、仕事を早めに切り上げたという越智さんが来てくださった。
 
合宿している8人各々の様子を見てくれたし、また1人1人対戦してくれた。竹田君と所沢君には
 
「この6日間で結構伸びたね」
と言っていた。本人たちも
「なんか自分たちでもそんな気がします」
と言っていた。
 
(マッサージしてもらったのがいちばん効いてたりして)
 

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7月29日(金).
 
この日、留萌の村山家では玲羅が熊カレーをたくさん買ってきた。また御飯も千里に買ってもらった新しい炊飯器で、玲羅が自分で炊く。お米を研ぎ、十分浸透させてからスイッチを入れた。
 
それでこの日帰って来た武矢は美味しいカレーに満足気であった。
 
なお千里の長期不在で玲羅に経済的な負荷がかかっているようなので、千里Gは星子に小春に擬態させた上で、神社から帰る途中の玲羅を捉まえ
「これ千里さんから頼まれた」
と言って現金を少々渡してあげた。
 
でもそれで新しいゲームを買っていた!!
 

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7月29日(金).
 
七尾善美は28日の午後、暗くならない内に山を降りることにした。
 
実際には月華たちが帰ってすぐ、ポリシーには反するのだが“弟”に運転してもらい、自分は後部座席で寝ていた。車は月山を下りてから、山形自動車道に乗り、東北道方面に向かう(*36)。村田JCTから東北道下りに行き、岩手県内の岩手山SAで休憩した。
 
SAの施設で食事を取る(夜食?朝食?)
 
休憩後、また東北道を北上する。安代JCTからは八戸(はちのへ)道(*38) に分岐。八戸道から百石(ももいし)道路・第二みちのく有料道路に入って六戸(ろくのへ)で降りる(*37)。この付近が結構分かりにくい。
 

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(*36) 山形自動車道は2001年に村田JCT(東北道)−酒田みなとICの全線が開通している。
 
なお鶴岡JCT-酒田みなとICの区間は2012年に日本海東北自動車道に移籍された。
 
(*37) この時期は上北自動車道がまだ出来ていない。
 
(*38) ○戸という地名は昔の荘園のネーミングが元になっていると言われる(実は正確な起原は分かっていない)。
 
一戸いちのへ 岩手県一戸町(二戸郡)
二戸にのへ  岩手県二戸郡/二戸市(*39)
三戸さんのへ 青森県三戸郡/三戸町
四戸(消滅!)
五戸ごのへ  青森県五戸町(三戸郡)
六戸ろくのへ 青森県六戸町(上北郡)
七戸しちのへ 青森県七戸町(上北郡)
八戸はちのへ 青森県八戸市(*40)
九戸くのへ  岩手県九戸郡/九戸村
 
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“十戸”は無いけど代わりに“十和田”がある、と三戸出身の父は言っていた。
 
元々は一戸から七戸までが南から北へと順に作られた。後に、四戸の近くに八戸、一戸の近くに九戸を追加した。後に四戸はそこを支配していた櫛引氏が滅亡したため結果的に八戸に吸収されたと言われる。
 
(*39) JR二戸駅は、以前は“福岡駅”次いで“北福岡駅”という名前だったが1987年に二戸駅と改名した。
 
(*40) 現在のJR八戸駅は昔の尻内駅で、元の八戸駅は現在の八戸線・本八戸駅である。東北本線上の駅に市名の“八戸”を名乗らせたもの(1971)。年配の人にはタクシーに乗って「尻内駅まで」と言う人が随分後まで居た。
 

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善美は県道10号→国道4号で野辺地(のへじ)まで行き、国道279号(はまなすライン)を走る。
 
田名部(たなぶ)の町で少し食料や飲み物を補給する。青森県道4号(一部の区間が恐山街道(*41)と重なる)で11時頃に恐山に到着した。
 
(*41) 県道4号は田名部から恐山・薬研(やげん)を通って大畑の西側に出る。
 
本来の恐山街道は、田名部の隣町・大湊の海上自衛隊総監部前から始まり恐山に至る古い道である。小学生の遠足のルートになっていた。
 
この他に大湊の西側の宇曽利(うそり)から釜臥山(かまぶせやま:下北半島の最高峰)を越えて恐山に行くルートもあり、地元の高校生の徒歩大会のコースにもなっていた。
 
出来の悪い地図では、釜臥山のことを恐山と書いてあるものもある。
 
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大湊中学校校歌(横山武夫作詞・清野健作曲)
 
大空かぎる釜臥の、山とこしえの生命(いのち)あり。
宇曽利の水の濁りなき、道理(みち)の伝統(つたえ)をつたえきて、
自律の光をかかげん、いざや。かかげん、いざや。
 

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温泉に入って自分を覚醒させる。それから賽の河原などを散策。大きなカルデラ湖の恐山湖(別名=宇曽利湖:うそりこ)なども見る。
 
(たぶん“おそれ”も“うそり”も同じ言葉の表記揺れ。元はアイヌ語と思われる。青森県付近にはアイヌ語の地名が多い。“恐れる”という意味は無い)
 
「これきっと霊感のある人には色々見えるんだろうなあ」
と思う。
 
そう言えば祖母ちゃんは「恐山湖には柱が2本立ってる」と言ってたけど、私にはそんなの見えないわぁ、などと思って善美は湖を眺めていたが、“伊豆霧”はその様子を呆れて見ていた。
 
駐車場に戻る。
 
ここからは自分で運転する。県道4号を走り、薬研温泉(やげんおんせん)を経て、大畑(おおはた)の西側に出る。ここで国道279号に復帰。下北半島の北岸を走って北西端の大間(おおま)まで行く。
 
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↓下北半島略図

 
ここで夕方のフェリーに
乗った。
 
大間 7/29 17:00(ばあゆ:VAYU)18:40函館
 
このフェリーで渡る区間も国道279号で、このフェリーは国道フェリーになっている。1時間半ほどで着いたので、大間から函館までって近いんだなと思った。
 
この日は函館市内のホテルにチェックインし、“西園”に行って塩ラーメンを食べた。夜中に出掛けて箱館山からの夜景も楽しんだ。
 

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女子中学生・夏祭り(15)

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