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■春拳(24)

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「でも世間的にはソウ∽作詞・キセ∫作曲と発表してますけど、実際には全部ソウ∽さんが書いてますよね?」
と朋子が話題を変えるように言う。
 
「うん。その話もあまり言いふらさないでね。実際僕がほぼ全部完成させてる。楽譜をCubaseに入力するのは輝汐(きせき)がしてるけどね。僕の書く譜面は、あまり一般的じゃなくて、他の人には読めんから彼に頼んでる。キセ∫作曲・ラララグーン編曲ということにしているのは、印税を山分けするためなんだよ」
 
「へー」
 
確かに印税対策でその手の操作をしているバンドは結構ある。
 
「まだデビュー前の時期にライブハウスでキセ∫さんが言っておられましたけど、ソウ∽さんの譜面には独自の省略記号が多いとか」
 
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「そんな時期から聴いてくれてたのか。凄いね。まあできるだけ速く楽譜を書くために編み出した書き方なんだけどね。だって、楽譜って急いで書かないと、思いついた旋律を忘れちゃうじゃん」
 
この荘児の言葉に、ホシと青葉が頷くようにする。
 
青葉は実際問題として、この言葉で荘児がケイなどと同様のチャネラー型作曲家であることを認識した。作曲家には頭で書くタイプの人と、第六感的に書くタイプの人が居るが、荘児さんは後者のようである。
 

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車が到着したような音がする。原田さんが小走りに通用口の方に向かう。その時荘児さんが思い出したように言った。
 
「あ、そうだ。誰かその銃を僕の部屋に持っていってロッカーにしまってくれない?」
 
「私が行ってきます」
と彪志が言った。
 
「頼む。あまり人に見られたくないから」
と荘児は言って彪志に部屋の鍵とロッカーの鍵を渡す。
 
「それ、さっきから思ってたんですけど、もしかしてMP5では?」
と片倉さんが言う。
 
「うん。そう」
「個人が持てるんですか〜?」
 
「内緒にしといて」
 
「もしかして違法なんですか?」
とホシが尋ねる。
 
「これ、警察の特殊部隊とかが持ってるサブマシンガンですよ」
と片倉さん。
 
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「え〜〜!?猟銃じゃなかったの?」
「まあ猟銃には見えませんね」
「アメリカの友人から一時的に預かっているだけなんだよ。実は交換で本物の日本刀を貸している」
 
「本物の日本刀も違法のような」
「今年中には返却するから、見なかったことにしといて」
 
「その割には結構堂々と持ち歩いている気がしますけど」
とホシが言う。
 
「うん。みんな猟銃だと思い込んでいるみたいだし」
と荘児。
 
「銃にあまり詳しくない人には区別がつかないかもね」
と片倉さんが言う。
 
取り敢えず彪志はその銃を片付けてきた。
 

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原田さんと一緒に60代くらいの医師と40代くらいの女性看護師が来たが、医師は触ってみた感じでは骨はずれてないようだと言い、応急処置の適切さを褒めてくれた。とりあえず本式の添え木を当てて包帯で巻いてしっかり固定したが、MRIを取って確認するために病院に連れていくと言う。
 
「先生、一通りの診察が終わったら、病院の病室ではなくこの温泉で療養したいんですが」
と水下さんが言う。
 
「まあ、いいでしょう。骨折の治療って、ひたすら寝てるしかないですからね。病院のベッドにいても温泉旅館にいても大差は無いし」
 
と老齢の医師は笑って言っていた。
 

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青葉は担架に乗せられて水下荘児が連れて行かれる時、彼の手を握ってから
 
「早く骨折も治って、また良い曲が書けるようになるといいですね」
と言ってニコっと笑った。
 
「ありがとう。大宮君も頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
 
病院の車が去った後で、彪志が小さな声で訊いた。
 
「今何したの?」
「チャンネルが閉じてしまっていたのを開いてあげた」
と青葉は答える。
 
「じゃ、ソウ∽さん、復活するかな」
「復活するといいね」
 

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水下荘児が運ばれて行ったあと、そろそろ最終のフェリーが来ますという案内が旅館内に流れる。この最終フェリーでステラジオのマネージャーでもある春吉陽子さんがやってきて、交代で大堀浮見子さんは帰って行った。やはり一時的な交代要員だったのだろうか。
 
そろそろ夕食のサービス開始時刻ですという案内があり、みんな食堂の方に移動する。
 
食事は和食中心のバイキング方式のようである。ここは山の中の温泉ではあるものの距離的には富山湾に近いので、海の幸がたっぷりである。冷却剤を乗せたお刺身のパックなども並んでいる。
 
料理人さんが、美しい手さばきで次々とオムレツを作っている。それを見て桃香が「美味しそう!」と言って、一皿もらう。つられて朋子も一皿もらっていた。他の料理もいろいろ取って、テーブルの方に行く。
 
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先に朋子や青葉が席に就き、最後に桃香が席に座ろうとした。その時、桃香の持つオムレツの皿が傾いた。
 
「あっ」
と声を出したときはもう遅い。
 
オムレツが床に落下してしまった。
 
「ありゃ」
「もったいないこと、してしまった」
と桃香が嘆いていると、朋子が
 
「私のをあげるよ」
と言って自分の皿のオムレツを桃香の皿の上に滑らせて乗せてあげた。
 

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その瞬間、青葉の頭の中でひとつのヴィジョンが見えた。
 
桃姉のオムレツの皿がジャネさんだ。皿の中身が落下した。それはジャネさんが意識を失った状態である。お母ちゃんのオムレツの皿はマソさんだ。お母ちゃんの皿に載っていたオムレツが桃姉の皿に移動した。もしやジャネさんが意識を取り戻したように見えたのは、実は本当はまさか、成仏したはずのマソさんの魂がジャネさんの身体に入ったというのは考えられないか?
 
自分がマソさんの幽霊を「成仏」させた翌日にジャネさんが意識を取り戻している。青葉はマソさんの成仏の時の感覚が、ふつう迷っている霊を成仏させた時と微妙に違う感覚だったことを思い出していた。
 
青葉はさっき、水下荘児さんが、甥の翔太さんと「二人羽織」で《ソウ∽》を演じていると言った。ひょっとして「意識を取り戻したジャネさん」って、まさか「二人羽織」になってないか?と青葉は思い至ったのである。
 
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よし。何とかして確認してみよう。
 

落ちたオムレツは桃香が片付けようとしたのだが、旅館の仲居さんが寄ってきて「お客様、大丈夫です。片付けます」と言って片付けてくれた。
 
「お代わりをお持ちしましょうか?」
「だったら4つ」
「はい、かしこまりました」
 
それで仲居さんがオムレツの皿を4つ持って来てくれると、桃香・朋子・青葉・彪志の前にひとつずつ置く。それまでに既に朋子から譲ってもらったオムレツをたいらげていた桃香は
 
「これ美味しいですね」
と言って笑顔で2皿目のオムレツに取りかかった。
 

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しばらく食べていると、赤木さんが桃香を呼びに来た。
 
「高園、今日は狐拳行くぞ」
「またやるんですか〜?」
「ちゃんと道具も持って来た」
 
と言って、狐のマフラー、銃、羽織が2つずつ用意されている。狐のマフラーは本体はフェイクファーで頭もフェルトで作ったぬいぐるみである。口の所がクリップになっており、しっぽ部分を咥えさせて留められるようになっている。銃はもちろんモデルガンである。
 
「この銃、さっきの人が持ってたのと似てない?」
「うん。MP5の姉妹品、HK94」
 
双方後ろ向いて、狐のマフラー、銃、羽織のうちどれかを手に取り同時に振り返って負けた方が日本酒を1杯飲むということらしい。
 
「高園の弟さんだっけ? 君も参加しなさい」
などと言われて、彪志も強制的に参加させられた。
 
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桃香はかなりの確率で負けて随分お酒を飲んでいたようである。
 

青葉は結局、7月9日の夕食後3時間と、翌日10日の午前中に3時間、ホシとのセッションをして心のヒーリングをした。青葉はこのヒーリングの作業も既に山場は過ぎたなというのを感じていた。ホシはかなり元気になってきている。たぶん彼女の作曲能力が回復するのはもう時間の問題だ、と青葉は思った。荘児と違って、ホシの「チャンネル」は最初から開いていたのである。恐らく彼女は「曲が書けない」のではなく「曲を書くのが怖い」だけなのではないだろうかと青葉は想像していた。
 
青葉たちは10日のお昼を食べてから水仲温泉を出ることにした。
 
一行7人の内、青葉と朋子を除く5人は狐拳でかなりの量のお酒を飲んでおり、10日のお昼の時点でもまだ二日酔いから醒めていなかった。
 
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それで結局、ラッシュは朋子、フリードスパイクは青葉が運転して宿を出ようということになる。
 
「いっそこのまま東京まで走っていくか?」
と桃香が言う。
 
「それって、私たちにまた東京まで行けということ?」
と朋子が言う。
 
「僕はあと2−3時間で運転できるようになると思うのですが」
と彪志。
 
実際問題として朝9時の段階で全員の呼気検査をした時、彪志が0.42mg/L, 桃香の同僚の中でいちばん狐拳に勝っていた小針さんが0.65mg/Lで、他の3人は測定不能であった。
 
それが13時に再度呼気検査した所、彪志は0.14mg/L 小針さんは0.30mg/Lまで減っていた。計算上は彪志は15時、小針さんは16時半くらいにアルコールが抜けることになる。
 
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「彪志君のはもう警察につかまるレベルを割ってるから運転して良いと思う」
と桃香は言ったが
「ゼロになるまではダメ」
と朋子が言う。
 
一応酒気帯び運転とされるのは0.15mg/L以上である。
 
「呼気チェッカーは誤差もあるから、自分のチェッカーで測ったのと警察で測られたのはけっこう数字が変わることあるよ」
と赤木さんも言っている。
 
「じゃ、長野あたりまで私と母が運転するということにしませんか?」
と青葉が提案する。
 
長野まではここからだいたい3時間くらいである。その間に彪志と小針さんもだいたい酔いが覚めるだろう。
 
「じゃ、そのあと私たちは新幹線で戻ればいいね」
「うん、そうなる」
 

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それで出発するという時になって、荷物を取って来た赤木・片倉・小針の3人だが、片倉さんがスカートを穿いている。
 
「なんでスカートなんですか?」
「昨日の狐拳でいちばん負けたんで、罰だと言われて穿かされた」
「よく片倉さんが入るスカートありましたね」
「これウェスト85だよ。しまむらで買った」
と赤木さんが言っている。
 
「ちなみにパンツも女物穿いてもらった」
「飛び出してしまって、中に収納するのに苦労した」
「3Lサイズだったのにな」
「立てちゃうからだよ」
「だってあんなの穿いたら立つよ」
 
朋子がその会話を呆れて聞いている。
 
「ブラジャーは断固拒否した」
「実際問題として後ろが届かなかった」
 
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どうも楽しそうである。
 
ともかくも青葉たちは13時半頃、旅館の人に見送られて車で出発した。旅館の人が自分のフォレスターで国道に渡る橋のところまで先導してくれた。
 
「ご利用ありがとうございました。でも次回からはフェリーでお願いしますね」
「分かりました。お手数おかけしました!」
 
砺波ICまで出て北陸道に乗る。
 
一度流杉PAで休憩する。スカートを穿いた片倉さんは男子トイレの個室に入っていた。
 
「片倉、女子トイレでなくていいの?」
「女子トイレに行ったら通報されるよ」
「まあスカート穿いても男にしか見えないもんな」
 
ここでは運転は交代しないでそのまま青葉と朋子の運転で出発する。16時頃、お腹が空いたという人もあるので名立谷浜SAで休憩し、早めの夕食を取ることにする。
 
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「俺、スカートでレストラン入るの恥ずかしい」
「大丈夫だよ。今の世の中、変態は多いから」
「やはり変態に見える?」
「変態にしか見えん」
 
「でもスカート穿いて赤いラッシュに乗っていたら、オカマさんと思ってもらえるかもね」
「うーん。。。オカマもいいような気がしてきた」
「まあ女装は癖になると言うから」
「そのスカートやるから、今度会社に穿いて出て来いよ」
「それはクビにされそう」
「大丈夫だよ。俺たちが弁明してやるから」
「片倉は自分は女だと思っているんです。女装させてやってくださいって」
「俺、人生考え直そうかな」
 
夕食が終わって一息ついた所で呼気検査すると、彪志はゼロ、小針さんは0.05mg/Lである。
 
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「これなら運転大丈夫だよ。もう奈良漬け食べた程度だよ」
と小針さんが言うので、青葉たちも異論ははさまないことにした。
 
「だったら長野駅まで行く必要無いね」
「上越妙高で青葉と母ちゃんを降ろそう」
 
ということになり、ラッシュに小針さんたち3人、フリードスパイクに青葉・彪志・桃香・朋子が乗った状態で17時半に名立谷浜SAを出発。ラッシュはそのまま上信越道を南下するが、青葉が運転するフリードスパイクは上越高田ICで降りて、約3km走り、上越妙高駅まで行った。
 
ここで青葉と朋子が降りて、彪志が運転席に座る。
 
「気を付けてね。体調良くないと思ったら休んでね」
「うん。じゃそちらも気を付けて」
と言って別れた。
 
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それで青葉たちは18:35の《はくたか571》で高岡に帰還した。
 
彪志たちは結局途中長時間の仮眠をはさみながら夜中すぎに東京に辿り着いたようである。実際には桃香は「起ききれないから」と言って彪志のアパートに泊まり、翌朝彪志は桃香を起こすのに苦労したようであった。
 
 
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