広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■春拳(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-08-13
 
「プロモーション用の写真撮るから、この服着てね」
とその日アクアは呼び出された写真スタジオで言われた。
 
「はい」
と言って、アクアは渡された服を手に取ったのだが「え〜!?」と思う。
 
「あのぉ、これ女の子の服みたいですけど」
 
「うん。サイズは合うはずだから」
「また女の子役するんですかぁ」
「女の子役、好きでしょ?」
「ボク、男の子なんですけどぉ」
 
「いいじゃん、いいじゃん。可愛いアクアちゃんを見たいというファンの要望があるからさ。こういうのって若い内しかできないもん。声変わり前の可愛い姿を記録に残しておこうよ」
 
とプロデューサーは楽しそうにアクアに言った。
 

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桃香は欲求不満であった。
 
第1に千里と最近全然会えないのである。
 
どうも千里は昨年の暮れ頃から超多忙モードに入っている雰囲気である。まあソフト会社なんて忙しいんだろうなとは考えている。それに加えて、趣味でしているバスケットの方も合宿や海外遠征まで入っていて忙しそうである。よく趣味と両立しているなと思うが・・・・結果的にほとんどアパートに帰ってこない。
 
1月から2月中旬くらいまでは、まだ週に1〜2回会える感じであった。しかし2月20日から3月2日まではどうも鹿児島から岩手・秋田まで飛び回っていたらしくさすがに本人も疲れたと言っていた。3月3日は一緒にひな祭りをしたものの、5日早朝に出かけた後、また長野山梨から四国奈良と駆け回って戻って来たのは24日。3月最後の一週間は居たものの、4月1-4日は不在。4日の夜遅く戻って来たので四国の祖父が亡くなったので一緒に葬儀に行き、その足で7日は金沢に行って青葉の入学式を見る。その日は一緒に東京に戻ったが、4月8日朝桃香を会社に送り出してくれた後は6月8日に戻って来るまで丸2ヶ月間、桃香は千里に会うことができなかった。
 
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桃香が不在の間に何度か戻って来たようで、食料の備蓄が作ってあったり手書きのメモが置いてあったり、テンガまで置いてあったが、さすがの桃香もテンガは自分では使い道が無い。会社の男性同僚に譲ったらなんだか喜んでいた。
 

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第2の問題として、ここの所「彼女」がいないのである。
 
年末に半年ほど付き合ったガールフレンドと別れた後、桃香は新しいガールフレンドを見つけられずにいた。
 
学生時代はキャンパスを歩いていて、ピーンと来た女性に接触してみると、大抵向こうもレスビアンで、それで一緒にお茶を飲んだり、映画など見に行ったりして交友(?)をしていた。
 
ほかに、レスビアン系のSNSで親しくなった人と「2人オフ」をして更に親密になるケースもあったし、優子・鈴子・季里子など、過去の恋人と絡んでいた子と仲良くなるようなケースもあった。
 
しかし昨年春に就職した後は、会社の同僚の中にはビアンっぽい子がおらず、そもそも桃香は「OL志向」の彼女たちとは全く話が合わないので、女性同士のコミュニティの中からビアン傾向のある子を調達してきた過去の手法?が使えない。SNSなどでも、あまりフィーリングの合う子に出会えずにいた。
 
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そして第3の問題として、仕事が面白くないのである。
 
この会社に入った当初は、男性と誤認!されていたこともあり、結構やりがいを感じる仕事をさせられていたものの、女性であったことが発覚!?してからは責任のある仕事をほとんどさせてもらえなくなった。
 
何度か、たまたま男性の社員が空いてない時に生じた案件を見事に契約に至らせたし、気の弱い男性のヘルプに入って、うまく交渉をまとめたりもしたが、そういうのは、その男性社員の成績としてカウントされ、桃香の給料は低いままであった。
 
一方で桃香は「OL的素養」がほとんど無いので、ボーナスの評価はかえって他の女性社員より低いほどであった。
 
この会社、もしかしたら自分には合ってないのかもと桃香は考え始めていた。
 
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千里は5月11日まで東京北区のNTCで合宿した後、12日は都内でBlind Basketballの見学。12日の夜いったん経堂のアパートに戻ったものの、この日桃香は留守であった(放送局との交渉で男性社員2人と一緒に徹夜で打ち合わせ。明け方成約に至った)。
 
青葉からジャネさんのことを聞いていたので、その人にBlinkd Basketballを見せたら、勇気づけられるのではないかと考え、青葉に電話して彼女を東京に連れてきてくれるよう頼む。
 
13日の日中は午前中、あまりに散らかりすぎている部屋の中を片付けてから午後川崎に行き、レッドインパルスの練習に参加した。その練習中に、先日舞耶さんに頼んでいたジャネさん用の義足試作品ができたという連絡が入ったので、ジャネさんにブラインドバスケットを見せてから岐阜に連れて行き、義足を見てもらおうと計画を立てる。青葉からは向こうは4人で来ることになったという連絡が入ったので取り敢えず東京までのチケットを手配して青葉の所に届けてもらった。
 
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夕方練習が終わって帰ろうとしていたら、雨宮先生から呼び出されたので、都心に出て行き、またまた桃香と会えなかった。
 
雨宮先生との打合せは徹夜になり、千里は午前中桃香が出かけた後の経堂のアパートに戻ると、仮眠してから茶碗を洗ったり洗濯をした上で、テーブルの上に「桃香におみやげ」というメモ付きでテンガエッグを1個置いて、出かける。
 
この日は昼過ぎから川崎でクロスリーグの試合(対ジョイフルゴールド)をして、夕方からは餅原さんの結婚式披露宴に出た。そのあと出張で東京に出てきていた貴司とお泊まりデートし、15日は朝から予約していた福祉車両を借りて青葉が泊まっているホテルに行く。
 
そしてジャネさんにブラインドバスケットを見せた後で、岐阜に連れて行き義足を見せた。そのまま金沢に送っていく途中でステラジオのふたりと遭遇。ここで青葉やジャネたちとホシ・ナミが交わした、たわいもない話題から、青葉が「解決した」つもりでいた事件に重要な見落としがあったことが判明。青葉は急遽、金沢で事件の鍵を握る人物と深夜の対決をすることになる。千里もそれに付き添っていくことにし、結局午前3時までその人との話し合いは掛かった。
 
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その話し合いの最中に、極めて危険なカーナビが東京に残っていることが判明。急遽連絡して回収できたものの、あと2分連絡が遅れていたら死者が出る所であったことが判明。千里もさすがに驚いた。
 

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千里は16日は朝から青葉と一緒に移動して、16日朝9時すぎに合宿所に入った。他の多くの合宿者は15日夕方から来ている。しかし千里は今回は最初から夕方には間に合わないことが分かっていたので、15日夕方には《すーちゃん》を身代わりに合宿所に入れておいた。
 
それで《すーちゃん》は合宿所で夕食を食べた後、自主練習に参加したが、千里の眷属たちとこれまでも何度か話をしたことのある佐藤玲央美にはすぐ身代わりがバレてしまった。
 
千里は実際問題として、16日朝東京駅で青葉と別れた後、《すーちゃん》と交代したのだが、千里は試合の最中でしかも自分がボールを持ってスリーポイントラインの前に立っていたのでびっくりした。
 
しかしきれいにスリーを決め、その姿を玲央美が腕を組んで見つめていた。
 
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5月22日には代表候補チーム22名はスタッフとともに成田を出発。約12時間半の旅で同日夕方パリ・シャルルドゴール空港に到着した。そのあとTGVに乗って合宿の地、アンジェに到着する。この日は長旅でもあるし時差もあったので、みんな宿舎に入ると、すぐ寝ていた。
 
翌日から練習相手になってくれる地元の大学生チームと練習を重ねる。
 
最初向こうのチームが何か言っている。聞いてみると
「そちら、男子が1人混じってるの?」
と言っている。
 
通訳さんからそれを聞いて
「ん?」
とみんなの視線が集中するのは高梁王子(たかはし・きみこ)である。
 
「彼女はよく性別を誤解されるけど、間違い無く女性ですから」
と高田コーチがフランス語で直接向こうのチームに説明する。
 
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「性転換したの?」
「いえ、生まれた時から女です」
 
向こうはどうも半信半疑のようであったが、実際練習試合を始めてみると、向こうはフィジカルが強い強い。その性別疑惑を持たれた王子でさえ吹き飛ばされる。
 
なかなか苦戦したものの、最初の頃負けに負けていた王子が気合いを入れ直して燃えるし、千里や花園亜津子がどんどん遠くからスリーを撃つし、森下誠美や夢原円がリバウンドを取りまくるので、最終的には日本代表が勝利する。
 
「あんたたち強い!」
「さすがアジアチャンピオン」
と向こうは褒めてくれた。
 
フランスのA代表などと練習試合を組んでも、なかなか向こうは本気になってくれないので、この大学生チームとの試合はマジでやってもらえる分、かなり鍛えられるなと千里は思った。
 
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「でもタカアシは、ちんちん切って女になった甲斐があったね」
「手術までしたんだから代表ロースターに残れるといいね」
 
などとも向こうの選手は言っていたが、通訳さんはそれを訳さなかった。王子はアメリカ留学は何度もしていて英語はできるもののフランス語は分からないので変なことを言われていることには気付かなかったようである。
 
フランス語の分かる千里や玲央美、彰恵などが笑いをこらえていた。
 

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この時点でオリンピックの予選リーグでぶつかる相手は、ブラジル・オーストラリアの2ヶ国だけが決まっており、残りの3ヶ国は6月13-19日に行われる世界最終予選で決まることになっている。ヨーロッパ選手権はセルビアが獲得していたのでフランスはその世界最終予選を勝ち上がらなければオリンピックに出られない状態であった。
 
男子は4カ所に別れて世界最終予選(OQT Olympic Qualifying Tournament)をおこなって、各々の優勝者がオリンピック出場というシステムなのだが、女子は12チームがフランスのナントに集まって決めることになっており、5位以上でオリンピックに行ける。そのナントはこのアンジェのすぐ近くである。
 
ナントにはフランスの女子プロバスケットリーグ LFB に所属するプロチームもあり、日本代表チームは25日にはナントまで行って、そのチームと練習試合もさせてもらった。その中にはフランス代表候補に入っているメンバーもいたものの、この日の試合はお互い本戦で当たる可能性もあることから、やや様子見的な試合になってしまった。千里も亜津子もあまり出番が無く、ベンチから試合の様子を見ていて「コートに出ないのはつまんないね」などと言い合った。
 
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26日にはそのフランス代表と対戦する。これには千里も亜津子も出場した。1,3ピリオドに亜津子、2,4ピリオドに千里が出る。
 
試合は前半フランスに先行されたものの、後半投入した王子や留実子など、フィジカルに強いメンバーが頑張り、最後は同点から玲央美のスリーが終了間際決まって、3点差で辛勝した。
 
「なんか最後の方は結構マジだったよね」
「うん。最初の頃と最後の方で向こうの表情が違った」
 
27日には更にヨーロッパ・チャンピオン、セルビアと対戦する。これは昨日の勝利の勢いに乗って、千里や亜津子もどんどんスリーを放り込み、湧見絵津子や渡辺淳子が地道に得点を重ね、王子や留実子が相手を蹴散らし、誠美や円もゴールを死守。25点差で快勝した。最後は相手チームの選手たちの顔がこわばっていたし、客席から見ていたフランスチームの面々も厳しい顔をしていた。
 
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28日にはそのフランスとセルビアの代表チームの試合を見学してからパリに戻り、空路ベラルーシ(昔の白ロシア)の首都、ミンスクに移動した。
 

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