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■春拳(16)

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「それで自販機でコーヒーとか買って一緒に飲んでから帰ることにして、もう市街地まであと少しと思った時だったのよね。なんか足がかゆいような気がして。でも足を掻くのは厳禁だから、ちょっと叩こうかなと思って下に足を伸ばした時に、誰か人の手とぶつかっちゃって」
 
「星歌さんは右利きですか?」
「うん。だから伸ばしたのも右手」
「その時、相手の手はどんな形でした。手を開いてましたか?握ってましたか?」
 
「うーっんと・・・・」
と言って星歌は少し考えていたが言った。
 
「手は開いていたよ。その手が私のかゆい所を2〜3度叩いてくれたんだ。あ、助かる〜と思った記憶があって」
「ありがとうございます! それでそのあとどうなさいました?」
 
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「もう私びっくりしちゃって。きゃーって悲鳴あげたから、真樹もびっくりして、車をすぐ脇に停めてくれて、どうしたの?と言って」
 
「それで怪異は消えましたか?」
「うん。気付いた時は何も無かった。真樹は寝ぼけたんじゃないかと言って。それで少し休もうよということにして、そこからちょっと走った所にあったコンビニでおやつとか買ってから30分くらい仮眠したんですよ」
 
やはり突然出現した手と握手できるのは政子さんくらいだなと青葉は思った。
 
「もし分かったら教えて頂きたいのですが、その怪異が起きた日はわかりますか?」
 
「待ってね」
と言って星歌は確認してくれているようだ。
 
「2014年2月2日日曜日の夜だよ」
 
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「ありがとうございます!」
 

しかしこれで手の形は2種類あることが分かった。
 
左藤さんと芳野さんは手は握られていたと言った。政子さんと星歌ちゃんは手は開いていたと言った。
 
男女で違うんだったりして!?
 
しかし星歌のおかげで、怪異は別に運転している人でなくても起きることが分かったので、今夜は彪志に運転してもらって自分は助手席でまどろむような状態にすればいいなと青葉は考えた。
 

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この日、7月6日、千里たちは昨日行われたセネガル代表との壮行試合で、疲れがたまっている選手が目立っていたことから、午後の練習は休みということになった。亜津子や妙子キャプテン、留実子や絵津子など何人かは温泉に行ってくると言っていた。
 
「プリン(高梁王子)も行かない?」
とキャプテンが誘う。
 
「私、温泉に行くと高確率で悲鳴あげられるから」
「だいじょうぶ。私たちが弁明してあげるよ」
「うん。この人、男だったけど、手術して女になったからこちらに入れさせてくださいと言ってあげるから」
 
「それ信じられてしまいそうです」
 

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残った千里や玲央美、彰恵や江美子などは自主的に練習をしていたものの、15時半頃、高田コーチが
 
「練習熱心なのはいいが、休む時は休んだ方がいい」
と言ったので、今日はそこで練習を打ち切ることにした。
 
それで練習を終えて部屋に戻った時に毛利さんから電話が掛かってくる。
 
「すごーい。一発でつながった」
「どうかしました?」
「実は山森水絵の件でまた問題が起きて」
「あれ、プレスに回したんですよね?」
「今日のお昼すぎに回す予定だったんだけど」
「今度は何ですか?」
 
「1曲追加して欲しいという話で」
「はぁ!?」
 
「山森水絵の歌を偶然聴いたという大山書店の大山武雄社長さんから接触があってね。今制作準備中のアクア主演の映画のテーマ曲を歌ってくれないかと」
 
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へー!アクアで映画を撮るのか!と千里は驚いた。
 
「えっと・・・・それならその映画のテーマ曲は別途シングルにするんですよね?」
「それが事務所の方針としては、山森水絵はシングルは出さない主義。アルバムしかリリースしない」
 
「どうするんです?」
「∞∞プロの鈴木社長と大山社長とで直接会談して、その曲をこのデビューアルバムに入れることにした。それ以外に映画のサントラにも別テイクで入れる」
 
「えっと・・・曲は?」
「それを今から作ろうと」
「あのぉ、プレスは?」
「明日の夕方20時までに工場に運び込む。それ以前に封入する小冊子は今夜から印刷を始める。発売日は動かせないから、もうこれがホントに最後のギリギリのスケジュールなんだよ」
 
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「どうするんです!?」
「だから、今から醍醐君に曲を作って欲しい」
「何月何日までに?」
と千里はわざと尋ねる。しかしスルーされる。
 
「今夜から伴奏部分の録音を始める。そして山森水絵本人は明日の朝スタジオに呼んで、それから歌唱練習させて、夕方までに録音完了。だから、今日の20時か最悪21時くらいまでに曲を書き上げて欲しい。編曲はもうやむを得ないから、僕が伴奏者の人たちと一緒に演奏しながら練り上げる」
 
確かにこの時間ではDAW上で編曲のスコアを作っている余裕は無い。
 

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千里は取り敢えず作詞担当の蓮菜に連絡を取った。すると蓮菜は今日は18時で上がるので、18時半くらいからなら作業ができるということであった。
 
ということは・・・この曲は曲を先に書いておいて、後から歌詞を乗せてもらうしかない。千里は再度毛利さんに連絡を取った。
 
「作詞担当の葵照子が19時くらいまで時間が取れないんです。曲先で書きますけど、どういう映画なんですか?」
 
「時をかける少女がベースなんだよね」
「アクアが時をかける少女役ですか?」
 
「そういう訳にもいかないから、男の子に改変して芳山和子ではなく芳山和夫で」
「本人の身体を改変すればいいのに」
 
「まあそういう意見も多いけどね。題名は『時のどこかで』という名前で」
 
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「それ、クリストファー・リーヴとジェーン・シーモアの『ある日どこかで(Somewhere in Time (*2))』と混じってません?」
 

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(*2)クリストファー・リーヴといえば『スーパーマン』(1978)がハマリ役、ジェーン・シーモアは『死ぬのは奴らだ』(1973)のボンドガール(美人占い師)としても有名でその2大スターを起用した映画。クリストファー・リーヴが時を遡ってジェーン・シーモアと出会い、恋をするものの、元の時間に戻ってしまってふたりは引き裂かれてしまう。ふたりをつなぐ小道具である懐中時計はいわゆる『タイムループ』になっていて出所不明。
 
1980年の映画で、タイムトラベルの方法は『時をかける少女』(1967)と似ているが薬品の類は使用しない。また1度しか飛ぶことはできなかった。
 

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「俺も思った。実は別の放送局でも『時をかける少女』のドラマが企画中だったらしくて、そちらとタイトルの競合を避ける意味もあるそうだ」
 
「でも内容的には競作になっちゃいますね」
「うん。そうなる。それでアクアの方の企画は最初10月から月曜夕方17時から30分の枠で連続ドラマとして制作する予定だったんだよ」
 
「ああ、昨年の『狙われた学園』の枠なんですね」
「そうそう。ところがドラマ色の強かった昨年の『狙われた学園』に比べて『時をかける少女』ってあまり事件らしい事件が起きないじゃん」
 
「そうでしたっけ?」
「原作の後半3分の1はケンソゴルの独白なんだよ」
「シュールな構成ですね」
 
「それで原作だけではとても半年2クールもたせられないということになって。結局、原作部分は映画でやって、連続ドラマは完全オリジナル脚本で制作することになった。アクアの芳山和夫が、毎回どこかの時間にタイムトラベルしてそこで様々な事件に巻き込まれる」
 
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「タイムパラドックスの解消が大変そう」
「メインライターが花崎弥生さんだから大丈夫と思う」
「『僕は北条政子』のライターさんですか!」
 
「そうそう。あれもタイムトラベルもの」
 
『僕は北条政子』は10年ほど前の映画だが、中学生の男の子がタイムスリップして少年時代の源頼朝に会い、その奥さんになってしまうという物語である。主人公はしばしば現代に戻って歴史書で確認しながら、巧みに歴史を生き抜き鎌倉幕府を作り上げる。
 
「僕男ですー」
「俺は細かいことは気にしない」
 
というセリフは当時随分ネットなどで模倣された。
 
なお、主演は谷崎潤子で当時は現役女子中学生だった。最初だけ学生服姿だがタイムスリップ後はずっと当時の女性の服装になっている。しかし女性の服装をしていても立ち小便するシーン、更に頼朝と連れションして「見比べる」場面まであり、当時の潤子ファンが悲鳴をあげた。興行成績は悪かったものの話題性から毎年のようにテレビのロードショーで放映されており、若い世代にも知名度が高い。結果的には花崎弥生の出世作になった。花崎はその後、異世界を舞台にしたアニメや特撮系の脚本を多く書いている。
 
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「確かに広い意味でタイムスリップものですね」
「10年前にアクアがいたらぜひ北条政子役をさせたかったと花崎さんは言ってた」
「あはは。でもアクアは立っておしっこしないと思いますよ。それで映画の公開はいつです?」
 
「8月12日金曜日公開」
「撮影はいつするんです?」
 
「本来は『ときめき病院物語II』の撮影が7月いっぱいでクランクアップして8月からドラマの『時のどこかで』を撮影する予定だった。しかし映画を作るなら、意地でも夏休み中に公開したい。実はこの映画の件は今週の金曜日に発表される」
 
「かなり厳しいスケジュールの進行ですね」
「だから『ときめき病院物語II』の撮影は7月7日でいったん中断する」
「無茶な!」
「本当はそれまでに完了させられないかと打診したけど脚本が間に合わないと言われたらしい」
「そりゃ無理ですよ。テレビの脚本がどれだけきついスケジュールで書かれていると思っているんです?」
 
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「だから『ときめき病院物語II』は最後の1ヶ月分を8月になってから撮影することになった。元々役者さんたちは8月いっぱいまで拘束する契約だったんだよ」
 
「なるほど。でも端役の人たちはパニックだと思う」
 
脇役の人たちの多くはギャラが安いのであちこち仕事を掛け持ちしている。どれかの撮影スケジュールが変わると、調整が大変になる。
 
「まあね。それで『時のどこかで』は7月9日土曜日にクランクイン。7月中に撮影を終えるけど、実際には中高生の役者さんたちが夏休みに入る7月21日以降が勝負だと思う」
 
「かなり厳しいですね!」
「それでテーマ曲も金曜日からCMでPVと一緒に流さないといけない」
「ほんっとに無茶な進行だ」
 
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「まあ色々な思惑で色々な人たちが動いてるからさ、俺たちしがない作曲屋はせいぜい歯車になって頑張って回転してやろうよ」
と毛利さんは言う。
 
「分かりました。でも『時をかける少女』って実際問題としてどんなお話でしたっけ?」
と千里は訊く。
 
「原作を読んでもらうのがいちばんいいんだけど、その時間もないから、だいたいのこと説明するね」
と言って毛利さんは原作のあらすじを説明してくれた。
 

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「ラベンダーが絡んでいるのは覚えてました」
「ドラマの方のテーマ曲は主題歌を平原夢夏さんが書いて高崎ひろかが歌い、エンディングテーマはマリ&ケイが書いて、アクアが歌う」
「なるほど」
「それで映画は主題歌を鴨乃清見が書いて山森水絵が歌い、エンディングテーマはまだ未定だけど、近いうちに決める予定」
 
「まあ近い内に決めないと、どうにもなりませんね」
「一応そちらもアクアに歌わせようという話になっている」
 
「じゃアクアの方はCDを2枚連続でリリースすることになります?」
「たぶんそうなると思う」
 
 
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