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■春拳(23)

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それでまた車に戻り、片倉さんの車に続いて走っていっていたのだが、突然ダン!という大きな音がしたかと思うと、片倉さんの車が急ブレーキを踏んだ。青葉も急ブレーキを踏む。
 
「どうしました?」
と青葉は外に出ずに窓を開けて声を掛けたが、片倉さんはドアを開けて車の前の方に駆け寄る。
 
青葉も車を降りてそちらに行った。
 
片倉さんの車の前方5mほどの所に60代?の男性が倒れている。車との距離から考えて、片倉さんの車がはねたりした訳では無さそうだ。男性のそばにはサブマシンガンのようなものが転がっている。しかしまさかサブマシンガンを一般の人が持っている訳無いから猟銃なのだろうか??
 
「どうしました?」
と片倉さんが声を掛けている。
 
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「道を歩いていたら熊が出て来て」
「熊にやられたんですか?」
 
「いや、驚いて銃を一発撃ったら向こうも驚いたようで逃げて行った。でも車のエンジン音で逃げたのかも」
 
「弾は熊に当たりました?」
「いや当たってない。だから半矢(はんや)にはしてないと思う」
 
銃弾や矢などが当たったものの死んでいない獣(猪・熊・鹿など)は極めて危険なので、きちんと仕留める必要がある。また鳥の場合も危険は少ないものの半矢にした場合はちゃんと仕留めて回収するのがハンターのマナーである。
 
「でもこちらも驚いた拍子に転んで足を打って」
「動かないで!これ折れてます。固定します。誰か板か棒のようなもの持ってませんか?」
 
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と言って青葉はその場にいるみんなに訊く。
 
「あ、これが使えないかな?」
と赤木さんがスマホの自撮棒を出して来た。
 
「それなら僕のも使って」
と小針さんも自撮棒を出す。
 
「貸して下さい」
青葉はそれを借りると、自分の着替えのTシャツで2本の自撮棒を一緒に巻いて男性の足の骨折部がずれたりしないように固定した。
 
「手際いいね。君、看護婦さん?」
と男性が訊く。
 
「いえ。でも応急処置の講習を受けているので」
 

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その時、少し離れて様子を見ていた朋子が声をあげた。
 
「あ、ソウ∽(そうじ)さんだ!」
 
「え!?」
とみんなが声をあげる。
 
「ラララグーンのソウ∽さんですよね?」
と朋子。
 
「よく知ってるね。僕がここに来てからもう10ヶ月近いけど、その名前を言われたのは初めてだよ」
と男性は笑顔で言った。
 
「ちょっと待って。ラララグーンのソウ∽さんって、もう少し若くなかった?」
と小針さんが言う。
 
すると朋子が言った。
 
「テレビに出ているソウ∽さんと、本物のソウ∽さんは別なんですよ」
 
「え〜〜!?」
 

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とりあえず、赤木・小針・片倉の3人で彼をフリードスパイクの後部座席に横になったまま寝せた。ラッシュでは狭いので、フリードスパイクの方を使う。
 
「これ新車っぽい。シートを汚しちゃうよ」
とソウ∽さんが言うが
 
「そんなの全然気にしませんから」
と彪志は言った。
 
その上で、朋子と彪志がラッシュの方に乗り(助手席に朋子、後部座席に彪志)、桃香がフリードスパイクの助手席に乗って出発する。落ちていたマシンガン?も彪志が持ったが、それでなくても小さなラッシュの後部座席に大の男3人は結構窮屈である。
 
それで道路を進んでいくと、やがて旅館の建物が見えてきたが、ゲートがあって閉まっている。
 
「ありゃ。こんなの昔は無かったのに」
と片倉さんが言っているが、ソウ∽さんが
 
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「そこの操作盤を開けて****と打ち込んで」
と言うので、青葉が降りていって、その番号を打ち込むとゲートがアンロックされた。それでゲートを手で開けて中に入る。車が通過した後でゲートを閉じると自動的にロックされた。
 

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「そこに通用口があるから、そのそばに車は停めて」
とソウ∽さんが言い、2台とも車が数台並んでいる所の横に駐める。
 
それでまた男性3人でソウ∽さんを運んで旅館の中に入っていくと、旅館のスタッフさんが気付いた。
 
「水下さん、どうなさいました?」
と声を掛ける。
 
青葉が
「骨折して道に倒れておられたんです。足を固定してずれないようしてここまで運んで来ました」
と言う。
 
「お医者さんを呼びます!」
 

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それでお医者さんの車が来るまでロビーで待機する。
 
「あのぉ、すみません、ところであなた方は」
「あ、予約していた高園です」
 
「もしかして道路の方を通って来られたんですか?」
「はい」
 
「あの道路は関係者専用なので、通って欲しくないのですが」
「すみませーん!」
 
するとソウ∽さんが言う。
 
「原田さん勘弁してやって。この人たちが道路を通って来たおかげで僕は助かったから。誰もいなかったら、僕は動けなかったし、熊も逃げなかったかも知れないし」
 
「熊が出たんですか!」
と原田と呼ばれた老年の男性が驚く。
 
「うん。ツキノワグマのまだ若いやつだったよ」
「それは無事で良かった」
 
とは言ったものの、原田は
 
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「でもあの道は、何かあった時にも責任を持てませんし、お客様にはフェリーで来ていただきたいのですけど」
と桃香たちに言う。
 
「済みません。次からはちゃんとフェリー使います」
と片倉さんが代表して謝った。
 
取り敢えず桃香がその原田というマネージャーさんと一緒にフロントに行ってチェックインした。
 
・・・と書くのはこの旅館にはそぐわない。書き直し!↓
 
桃香は原田という番頭さんと一緒に帳場に行って、宿泊手続きをした。
 

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ロビーでけっこうな騒ぎになっていた所にステラジオの2人が降りてきた。そばに大堀浮見子さんも付いているが浮見子さんは宝塚の男役みたいな雰囲気の男装をしている。どうもこの人はコスプレして出歩くのが趣味のようだ。しかしステラジオの2人には常務の春吉陽子さんが付いていたはずだが、浮見子さんはお使いか何かできたのか、あるいは交代要員なのか。
 
「水下さん、どうしたんですか?」
とホシが訊く。
 
「いやー。面目ない。骨折してしまって。そこの女子大生っぽい女の子に応急処置して旅館まで連れてきてもらった」
 
「あらぁ!」
と言ってからホシは青葉に気付く。
 
「大宮万葉先生!」
「どうもどうも」
 
「え?君、大宮万葉なの?」
と水下さん。
 
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「済みません。名乗ってませんでした。でもソウ∽(そうじ)さん、大宮万葉をご存じでしたか」
と青葉。
 
「知ってるよ。『黄金の琵琶』はすげーと思ったよ」
「ありがとうございます」
 
「あら、ステラジオのホシさんとナミさんだ」
と朋子が言う。
 
これまでホシとナミはだいたい高岡や富山のホテルで青葉のセッションを受けていたので、朋子はまだ2人に会っていなかった。
 
「どもー。ステラジオです」
とホシが笑顔で名乗るのを見て、青葉はホシさんも少しは元気になってきたかなと思った。
 
「今日は有名歌手にたくさん出会う。凄い」
と朋子。
 
「有名歌手?」
とホシが訊く。
 
「こちらはラララグーンのソウ∽さんらしい」
と桃香。国内の音楽に疎い桃香でも、一時期各種の賞を独占していたラララグーンは知っていたようだ。
 
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「嘘!?」
とホシ・ナミ。
 

「でもソウ∽さんがテレビに出ている人と“本物”とが別ってどういうことなんですか?」
と赤木さんが訊くと
 
「これ、初期のファンの間では常識の範疇なんですけどね」
と言って、朋子が説明した。
 
「元々ラララグーンはこちらのボーカル&ベースのソウ∽(そうじ)さん、ギターのキセ∫(きせき)さんの2人で結成したユニットで、後に、ドラムスのルイ≒(るいじ)さん、キーボードのハル√(はると)さんが加わって4人編成になったんです。ところが、実質的にリーダーで作詞作曲もこなしているソウ∽さんには大きな問題点があって」
 
とまで朋子さんが言った時、本人が
 
「僕は極端なあがり症なんだよ」
と言う。
 
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「スタジオでは最高のパフォーマンスをするのに、人が見ている所では手や足が震えてしまってダメだとおっしゃってましたね」
 
「うん。そういうこと」
 
「そのあがり問題はデビューまでには克服できるだろうとラララグーンをスカウトした事務所では考えていたんだけど」
 
「ぜーんぜんダメだったんだよねー」
と本人。
 
「それで影武者を立てることになったんですよ」
 
「それが普段見ている方のソウ∽さんですか!」
 
「そうそう。元々ラララグーンは他のメンバーが20代なのに、僕だけ40代だったんだよね」
 
デビュー当時40代だったとしても今は50代か。てっきり60代かと思ったのにと青葉は思ってから、年齢を上に誤解されるのは自分もだなと思って、少しソウ∽に親近感を持った。
 
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「それはキセ∫さんのお友達を勧誘してメンバーに加えたから結果的にそうなっちゃったんですよね」
「うん。そうなの」
 
「それで、僕の甥の水上翔太というのが口パク・当て振りすることになったんだよ。だから歌唱と実際のベースはいつも僕が人目の無い所で歌って演奏しているんだ」
とソウ∽は説明する。
 
「そんな事情があったんですか!」
 
「まあ結果的には翔太と僕との二人羽織で《ソウ∽》を演じているようなものだよね」
と水下荘児は言っている。
 
「初期のファンの間では、本物のソウ∽さんと区別して、影武者ベーシストの方はショウ∽とか言っているんです。でもこのことはどこにも発表してないし『湖のロマンス』が爆発的にヒットした後でファンになった人たちはこの事情を知らないんですよね」
 
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と朋子。
 
「翔太は僕と声質は似てるし、バンドやってたこともあってベースもまあまあ弾くから当て振りも様になるんだけど、絶望的な音痴なんだよ」
と荘児。
 
「あらら」
 
青葉はこの話を聞いたとき、どこかの話と構図が似ているような気がした。ただこの時点ではまだそれが何かを認識できなかった。
 

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「でも1年近くここに滞在しているとおっしゃいました?」
と朋子。
 
「実は頭が壊れちゃったみたいでさ」
と荘児は言う。
 
「なーんにも曲が書けない状態が続いているんだよ」
 
その言葉にホシが厳しい顔をした。曲が書けなくなっているのはホシも同じだ。
 
「最初2−3ヶ月という約束で来て、半年に延ばして、更に延長中。社長からはここでダメなら海外にでも行く?と言われたけど、ここが気に入っているし、少しずつ良くなって来ているからと言っているんだけどね」
と荘児。
 

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「ソウ∽さん、オーディシヨン番組の優勝者のお世話をする話がありませんでした?」
と朋子が尋ねる。
 
「うん。実は3月までここに滞在して4月から東京に戻る予定だったから引き受けたんだけど、無理な状況だったんで、話を持って来た森原泰造君に相談したんだよ。そしたら詩を書くのとプロデュースだけでもしてくれないかと言われて、それで詩だけ書いて、曲はコンペで募集という話にいったんなったんだけどね」
と荘児。
 
「あのオーディシヨン番組では当初そう発表されましたね。私はソウ∽さんが詩だけというのに違和感を感じたんですけど」
と朋子。
 
「ところが詩だけというのでも、いいのがぜーんぜん思いつかなくてさ。毎日のように森の中を歩き回ったり、小型の船で湖の上を走ったり、温泉に入ったりしても全然まともな詩が書けないんだよ。それで結局それも辞退させてもらった」
と荘児が言うと、ホシが発言する。
 
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「ソウ∽先生とはレベルが違うでしょうけど、私も実は創作ができない状態で悩んでいて」
 
「それは難儀だね。僕と一度セックスしてみる?そしたらお互い復帰できたりして」
と荘児が言うが
 
「先生、セクハラ発言はご遠慮下さい」
とそれまで一言も発言していなかった大堀浮見子が言った。
 
「君はお母ちゃんより怖そうだ」
「どういたしまして」
「でも君、女装の方が可愛いのに」
「先生のような変な男に襲われないようにするには男装の方がいいかも」
「僕は自分が変な男なのは認めるけど、男でも女でも行けるよ」
 
どうもこのやりとりを聞いていると、浮見子さんは荘児さんとけっこう親しくしている雰囲気である。度々この旅館に来ているのだろうか。
 
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番頭の原田さんまで言う。
 
「水上さん、そもそも骨折を直さなきゃ、女もできませんよ」
と言った。
 
「うーん。こんなことなら、先週泊まってた可愛い男の娘と寝とけば良かったなあ」
と荘児が言うと
 
「ああ、女湯の中で遭遇したという男の娘ですか?」
とホシが言う。
 
は?と青葉は耳を疑った。原田さんも「え?」という顔をしている。
 
「そうそう。可愛い子だったなあ。あと一押しだったんだけど、その子の後輩の女子高生の方にも目移りして」
 
「泊まり客さんの摘み食いも勘弁してください。それと未成年者には絶対手を出さないで下さい」
と番頭さん。
 
「めんご、めんご」
 
「それとまさか、水上さん、女湯に入られたんですか?」
「間違っただけだよ。すぐ出たよ」
 
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ホシがにやにやしている所を見ると、どうも常習犯っぽい。
 

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