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■春拳(14)

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青葉はその後部屋の中に積まれている段ボールを探索して鍋や包丁などの調理器具の入っている箱を見つけ出した。これで何とか料理が作れる状態になったので、フリードスパイクを出して近所のスーパーやホームセンターなどを回り、食料品や、追加したい調理器具などを買って帰った。車で行ったので、お米、ミネラルウォーター、トイレットペーパー、キッチンペーパー、洗濯用洗剤、自分用に生理用ナプキンなどかさばるものも買う。汚物入れも買ってトイレに置いた。ナプキンもトイレの棚にわざと目立つように置く。
 
こういうのを置くのは、彪志がまさか女の子を連れ込んだりするとは思わないものの、万一の場合の牽制の目的もある。
 
「彪志ちゃーん。悪戯でナプキン1〜2個使ってみてもいいからね〜」
などと彪志の会社の方に向かって言ってみる。
 
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それでナプキンはわざと封を切って2個ほど取り出しておく。こうしておけば「1個くらい使ってもバレないだろう」という誘惑が起きやすい。
 
買ってきたお肉などは大半をそのまま冷凍室に放り込む。ただし量の多いパックはいったん開けて、半分ずつ解凍できるように途中に仕切りを作ってから冷凍するようにした。そして彪志の帰りを待ちながらカレーを作り始めた。
 

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17時半頃、桃香に電話を掛けた。
 
「あ、東京に出てきてたんだ?」
「うん。そちらに顔出してなくてごめん」
「もしかして彪志君ちに泊まってるの?」
「まあね。それでお願いがあるんだけど」
「うん?」
 
「桃姉のミラを借りられないかと思って。たぶん今週いっぱいくらい」
「それは全然かまわないけど、彪志君のフリードスパイクはまだ納品されてないんだっけ?」
「納品はされたけどさ、ちょっと事件の調査で使うんで、壁とか街路樹とかにぶつける可能性があると思って」
「ほほお」
 
「運転中に発生する怪異を調べているんだよ。それで実地に運転してみたいんだけど、その怪異にうまく対処できずに事故起こす可能性もあると思って。新車をぶつけたくないから、桃姉のミラにさせてもらえないかと」
 
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「つまりミラならぶつけてもいいのではと?」
 
「うん、実はそうなんだ。万一完璧に壊しちゃったら、代わりの車を買うお金私が出すからさあ」
 
青葉がハッキリ言うので桃香は少し呆れているようである。
 
「まああのミラもこれまで随分ぶつけてるからなあ。青葉が死なない程度なら多少ぶつけてもいいよ」
と桃香は言った。
 
青葉はミラを使わせてもらう間、フリードをそちらの駐車場に置かせてくれといい、それも了承をもらった。
 

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8時頃、彪志が帰ってくる。
 
「お帰りなさい、あなた」
と言ってキスで迎える。
 
「なんかいい匂いがする」
と彪志。
 
「御飯にする?お風呂にする?それとも、あ・た・し?」
と青葉は尋ねる(*1).
 
「えっと・・・お風呂のあとで御飯にしようかな」
「あ・た・し、は?」
 
「えっと、寝る前に」
 

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(*1)大量に模倣されて出回っているこのフレーズの元ネタは志村けんと研ナオコの夫婦コントと言われる。但し研ナオコは「御飯にする?お風呂にする?それとも寝る?」と言っている。「寝る?」という所はトーンを下げて強調して言っている。
 

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それで彪志がお風呂に入っている間にカレーを温め直す。あがってきた所でまずは冷えたビールを出す。
 
「お、凄い。キリン一番搾りだ」
「こないだ高知に行った時、キリンラガービールが気に入っていたみたいだったから、それ買ってこようと思ったんだけど、ちょうど品切れしちゃったらしいのよね。それで同じキリンで別のを買ってきたんだけど」
 
「いや。キリンラガービールより一番搾りの方がうまい」
「ほんと?だったら良かった」
「ちなみに一番上手いのはヱビスビール」
「じゃ今度買っておこうかな」
 
「そもそも国産の本物ビールはある程度売れているものの中では、ヱビスビール、プレミアム・モルツ、一番搾りくらいなんだよ」
 
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「ビールに本物と偽物がある訳?」
「本来ビールというのは、水と麦芽とホップのみで作るもの。麦芽はカタカナで言えばモルトね。ドイツではビール純粋令という法律があって、そう定義されていたんだよ。後に製造工程の問題で酵母も使っていいことになった」
 
「へー」
 
「ただしドイツがEUに加入する時に非関税障壁だと言われて、現在外国産のビールに関しては、それ以外の材料を加えてもいいことになっている」
「なるほど」
 
「日本のある程度売れているビールの中でそのモルトとホップと水と酵母だけで作られているのが、ヱビスビールとプレミアム・モルツだけだったんだよね。それに最近一番搾りもそういう製法に変更されて本物ビールの仲間入りをした」
 
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「じゃ、その3つの中から選ぶといいのね?」
「中でもやはりヱビスビールが最高にうまい。少し高いけど」
「なるほどー!」
 

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「でも現実問題としては、ビールは高いから普段は第四のビールでいいよ」
「何それ?」
 
「ビールが高いから、似たような味の安いお酒を作った。これが発泡酒というやつで、ビールが350mlの1缶200円くらいする所を発泡酒なら150円くらい」
 
「へー」
 
「でも更に安いのも作った。これが第三のビールというので、これだと120円くらい」
「わあ」
 
「でもその第三のビールとは全く別の発想でやはり安いのを作った。これが第四のビールでやはり120円くらい」
 
「結構値段違うね」
 
「この値段の差は実は税金の差なんだよ。ビールと発泡酒では税金が50円くらい違う。それが製品の価格差になっている」
 
「そういうことなのか」
「政府は税率を一本化したいと言っている。酒造メーカーは猛反発している。そんなことされたら、誰も発泡酒や第三のビールとか買う人はいなくなる」
 
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「だよねー」
 
「せっかく多大なお金を掛けて安く買えるお酒を開発したのに、その努力が無駄になるし、庶民も気軽に飲めるお酒が無くなる」
 
「それはよくないよ」
 
「でも取り敢えず今の段階では、この種のお酒では第三のビールと第四のビールが一番安い。でも第三のビールと第四のビールはほぼ価格が同じだけど、第四のビールの方を美味しく感じる人が多いんで、そちらばかり売れて第三のビールは沈没気味。製造中止する所が相次いでいて、今残っているのはキリンののどごし生くらい」
 
「なるほどー」
 
「缶を見ると、発泡酒は発泡酒と書かれている。第三のビールは《その他の醸造酒》、第四のビールは《リキュール発泡性》と書かれている」
 
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「うむむ。私、そもそも区別が付いてなかったかも」
 
「第四のビールは安い輸入ものもあるけど、やはり国産の金麦とかクリアアサヒとかが美味しい。シリーズがあるけど金麦は青い缶、クリアアサヒはプライムリッチが良い」
 
「それメモしとく!」
 
と言って青葉は彪志のお気に入りのブランド名をメモしておいた。
 
「くれぐれも糖質オフとか書いてあるのは買わないように。凄く不味いから」
「了解〜」
 

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「でも青葉は飲まないの?」
とビールを数口飲んでから彪志が訊く。
 
「私、未成年だし」
「そう硬いこと言わないで」
「それにこれから運転しないといけないし」
 
「嘘?どこに行くの?」
 
それで青葉が、実際に事件の起きた付近を車で運転してみて、怪異に遭遇しないか試してみたいのだというと
 
「それ危険じゃない?」
と彪志は心配する。
 
「私ならちゃんと対処できるんじゃないかと思うんだよね〜」
「じゃ、フリードスパイクで出かける?」
 
「いや、フリードスパイクだと万一事故った時、新車なのに申し訳無いから、桃姉のミラを借りることにした」
 
「ミラならいいの?」
「ミラはとっくに耐用限度越えてるから。あの車、走行距離がもう30万km越えてるから、壊してもごめんで済むし」
 
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「ごめんで済むの〜?」
「済ませる」
 
青葉はひとりで出かけるつもりだったのだが、彪志がひとりでは心配だから付いていくという。
 
それで御飯が終わった後、少し「仮眠」してから一緒に出ることにした。
 

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それでふたりは10時頃、軽くシャワーを浴びてから、駐車場に行き、まずはフリードスパイクを出した。青葉の運転で世田谷区まで行く(今日は彪志はビールを飲んでいるので運転ができない)。
 
経堂の桃香のアパートまで行き、ミラのスペアキーを借りる。
 
「あ、桃姉、これお土産」
と言って、ゆかり煎餅を渡す。
 
「おお、これ結構好き。でもなんで名古屋なの?」
「昨日インカレ中部大会で名古屋まで行ってきたんだよ」
「相変わらず忙しいなあ」
「じゃ借りるね〜」
「うん。でも気を付けて」
 
それで駐車場までフリードスパイクで行って、預かったキーでミラを出し、代わりにフリードスパイクを駐める。そしてミラに乗って港区まで行った。高速に乗る予定は無いものの、念のためETCカードは刺さっている千里のETCカードを抜いて青葉のを入れておいた。
 
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「あ、しまった。フリードスパイクのキーを桃香さんに渡すの忘れた」
と彪志が言う。
 
「平日は車は使わないはずだから大丈夫だよ。それに新車を桃姉に運転させるのは怖い。ごめーんボンネット壊したとか言われかねない。このミラも年に2度は工場に入れてるみたいだし」
 
「うーん・・・」
 

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あらかじめ計画していたルートに沿って大通りから裏通りまでかなり走る。
 
「この車、小さいから狭い道に入るのにもストレスが無いね」
「まあそれが軽のいい所だよね。田舎に行くと、軽でしか通れないような道もあるし」
「あれ、昔の車幅の規格に合わせて道が作られているんだよ」
「そうみたいね。県道クラスでも5ナンバーなら何とか通れても3ナンバーは無理って所が結構ある」
「道幅だけじゃなくてあまりにも急なカーブで、3ナンバーでは曲がることが不可能な箇所もあるんだよ」
「いわゆる酷道・険道だよね」
 

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この日は休憩をはさんで11時半頃から午前2時半頃まで3時間、港区内を走り回ったものの、怪異には遭遇しなかった。なお運転はずっと青葉がしていた。彪志も酔いは醒めているのだが、彪志では何かあった時に、対処できない可能性があるからである。
 
「しかし青葉だと強すぎて向こうも出てこないのかも知れないよ。明日の夜は俺が運転しようか」
「うーん。そういう考え方もあるかもね。だったら触られても一切動じずに脇に寄せて停めて」
 
「頑張る」
 
それでその日は3時半頃さいたま市内のアパートに戻って寝た。彪志には明日会社があるし、助手席で寝ておいてと言って帰り道はずっと眠ってもらっていた。翌朝はわかめの味噌汁と、焼き鮭の朝御飯を作って一緒に食べ、
 
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「あなたいってらっしゃい」
などと言って、キスして彪志を会社に送り出した。
 

7月5日(火)。
 
彪志を会社に送り出した後、青葉は瞬法さんを訪ねた。
 
「こないだのは済まん。俺も見事に騙された」
 
と言って瞬法さんは先日の「悪魔の曲」の楽譜とSDカードのお焚き上げが失敗した件を謝っていた。
 
「その後は気を付けてもらっているのですが、復活しないようです。あれは結局姿を保ったまま、封印してしまわないといけなかったんですね」
と青葉。
 
「おそらくあれはこの世界への噴出口なんだよ。金太郎飴の先端だけがこの世界に露出しているようなもの。その先端だけ破壊してもその奥にあるものが押し出されてくるだけ」
 
「おそらくこの世は様々な異世界とあちこちでつながっているんでしょうね」
「まあ、そういうのをお互い結構見てきてるよな」
 
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