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■春拳(20)

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青葉は3人を仙台駅で降ろしてから、また病院に戻り、和実の病室に行った。
 
「でも病室を取ってもらったんだね」
「うん。明日からは母子同室になるから」
「なるほどー」
「初日はきめ細かいフォローが必要だから、別室なんだよ」
「ああ」
 
「それと、新生児室の赤ちゃんは廊下からも見えるからさ、《誰か》がトイレに行く時とかにそばを通っても見ることができるでしょ?」
 
「そういう深い意味もある訳だ!」
 
「代理母してくれた人は今回がもう3回目の代理母なんだって」
 
「よくやってるね」
「今回で最後にすると言ってた。自分でも子供を3人産んでるんだけど、亡くしちゃったらしいんだよ」
「あらあ」
 
「詳しい話は聞いてないけどね。でもそのあとその件で旦那さんや姑さんとの仲も険悪になって離婚して。だから今度は自分で失った3人の子供を産み直したいと思ってたんだって」
 
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「でもなぜ代理母とか。誰か新たに他の男性と結婚してその人の子供を産めば自分の子供が得られるのに」
 
「3人目を出産した時に、不妊手術をしちゃったんだよ」
「あぁ」
 
「だから自分の卵子では妊娠できない。でも何らかの方法で受精卵を子宮に入れることさえできれば妊娠可能なんだよ」
 
「それで代理母を志願したのか・・・」
 
「むろん自分の卵子を採卵して適当な男から精子搾り取ってきて体外受精させれば遺伝子的な自分の子供を妊娠可能ではあるけど、それって凄い費用かかるから庶民には無理と言ってた」
 
「確かに体外受精は高いもんなあ」
 
京平君も体外受精で出来た子供だが、1年以上掛けて挑戦してやっと妊娠成功したので、物凄い費用が掛かったようである。貴司さんが高給取りだからこそ可能だった治療である。
 
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「代理母なんてやろうという人は、やはり色々事情があるんだと思うよ」
 
「かもねー」
 

1970年代に1件だけ国内で行われた代理母出産の場合、代理母をした人は親が広島で被爆した人で、本人には放射能障害は出ていなかったものの、そのことが分かる度に結婚の話が破談になってしまい、結婚することができずにいた。それで自分の赤ちゃんでなくてもいいから産みたいという気持ちで志願したらしい。
 
なお当時はまだ体外受精の無い時代なので、卵子も代理母さんの卵子であり、精子のみ依頼者の夫の精子が使用されている。1970年代にアメリカで代理母が始まった頃は、全て代理母はそういう方式(依頼者夫から採取した精子を代理母の排卵に合わせて子宮に投入する)で、これをTraditional Surrogacy(古典的代理母方式)という。1980年代以降に体外受精の技術ができた後、受精卵を胚移植してて育てる方式にしたものはGestational Surrogacy(直訳すると借り腹)という。
 
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多くの場合は依頼者夫の精子と依頼者妻の卵子から受精卵を作るが、夫婦の一方が生殖細胞を作れない場合、各々の親族の精子や卵子を使用する場合もある。例えば依頼者妻の妹の卵子と、依頼者夫の従兄弟の精子の組合せで受精卵を作るなどといったことが行われる場合もある。私は個人的にこれを近似的生殖細胞と呼んでいる。性別逆転して、妻の兄の精子と、夫の姉の卵子で受精卵を作ったというケースもあったことが報道されている。いわば夫が近似的母になり妻が近似的父になるものである。
 
1970年代に日本で1回だけ行われた代理母の場合、実は人工授精ではなく、依頼者夫と代理母さんが性行為をして妊娠している。このことが倫理的に問題ありとして実行した医師は後に批判されている。私もなぜ人工授精にしなかったのか理解に苦しむ。
 
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「でも不思議だよね。不妊手術しても生理はちゃんと毎月来てたらしい」
と和実は言う。
 
「え?そうなの?でも卵子が出てこられないよね?」
と青葉は訊く。
 
「うん。子宮にはたどり着けない。だから妊娠しないんだけど、卵子は卵巣を出て行くから、それで子宮ではちゃんと赤ちゃんのベッドを用意するんだろうね。でも卵子が来ないから、それは廃棄される」
 
「それが月経の出血になるわけかぁ。人間の身体って凄いね」
 
と言いながら、青葉はもしかして卵巣が無いのに毎月月経がある自分の身体とどこか似ているのかもと思った。
 
「まあ子宮がホテルなら、電話予約を受け付けたのにドタキャンされてる感じかもね」
「卵巣を出ていった卵子はどうなるんだろう?」
 
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「卵管の途中から先に進めないから、そこで頓死だと思う。そのまま身体に吸収されてしまうんだと思うよ」
「なんかドラマがあるなあ」
 
「どっちみち精子に出会わなかったら、死んじゃうんだけどね」
「それで小説が書けそうだ」
 

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「でも今回の代理母出産って、凄い費用が掛かったんじゃないの?」
「うん。体外受精の費用も含めて1200万円くらいかなあ」
「ひゃあ!」
 
「半分は代理母さんの報酬」
「そのくらいはもらっていいよ。妊娠中はお仕事できないし」
「うん。その生活補償分もある。残り半分は様々な作業の実費」
「かかるかもね」
 
「最近タイで代理母出産している日本人がいるらしいだけど、代理母さんの報酬は100万円くらいらしい」
「それはあまりにも安すぎると思う。命がけなのに」
 
「同感。でも私たちの場合、体外受精は松井先生が実費だけでやってくれたからその程度で済んでるんだよ。男の娘から卵子を採取するなんて、本来できそうもないことに挑戦して成功させたというので、自分は満足だと言ってた」
 
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「本当なら松井先生にこそたくさん御礼をしないといけなかった所だよね」
「うん」
 
「でも、お店の開店資金大丈夫?」
「まあ淳が今年頑張って稼いでくれれば」
「大変だね! 少し出資しようか?」
「場合によっては頼むかも」
「遠慮しないでね。変な金融機関とか借りたら、利子が大変だから」
「そうなんだよね〜」
 

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和実が「少し寝るね」と言うので寝せる。彼女も徹夜している。青葉はメモを渡されたので!和実が寝ている間にフリードスパイクで出かけて、買い物をしてきた。
 
お昼すぎに戻って来たら、和実は起きて、病院の昼食を食べていた。
 
「病院のご飯が出るんだ?」
「うん。私、入院患者だから」
「なるほどー!」
 
青葉は悪戯心を起こした。
 
「ねぇ、おっぱいが出るようにしてあげようか?」
「え〜〜〜!?」
「要らない?」
 
と青葉が訊くと
 
「して!」
と和実は言った。
 
それで青葉は数珠を腕に巻いて和実の手を握り、脳下垂体にある信号を送る。
 
「なんか変な気分」
「スイッチは入れたから。あとはおっぱいマッサージすれば出るようになるよ」
「やってみよう」
「おっぱいマッサージの仕方は分かる?」
 
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「実は出産に関する本、たくさん買い込んじゃったから、それに載ってるのを練習してた」
「じゃ頑張ってみよう。助産婦さんにも少し習うといい」
「うん!」
 

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12:40頃になって千里から電話が入った。
 
「ボン・ジア」
 
むむむ。ポルトガル語で来たか!負けるものか。
 
「ボン・ジア。トゥード・ベン?」
「ベレーザ。エ・ヴォセ?」
「ベレーザ。オブリガーダ」
 
「ああ、さすが言い間違えないね。ボルトガル語よく分かってないと、女性なのにオブリガードと言っちゃう」
と千里が言う。
「これはたまたま知ってたんだよ。でもちー姉、お疲れ様。合宿は間に合った?」
「うん。ちゃんと間に合ったよ。青葉もごめんね。急に呼び出して。忙しかったんでしょ?」
 
「うん。ちょっと行き詰まりぎみだったから気分転換になったかも」
 
「東京には仕事ででてきたの?」
「うん。彪志からの依頼なんだけどね」
「それは高額の依頼料をむしり取らないと」
「身体で払うと言われそうだからやめとく」
 
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「でも今回はこないだのみたいに人がボロボロ死ぬような案件じゃないみたい」
 
こちらの背景を一瞬で霊査したなと思った。まあそれは私もするけどね〜。
 
「そうだね。今の所私が知っている範囲では死者は出てない」
「どんな事件?」
「それがさあ」
 
と言って青葉は千里に今回の事件のあらましを説明する。そばで聞いている和実が驚いたような顔をしている。
 
「へー、妖怪アジモドというのか。でもなんで濁音なわけ?」
「命名した人が東北出身だったのかなあ」
「だったら、雪道を歩いている時とかに足下つかまれたんじゃないの?」
「それあり得るかも!」
「でもその話だと結構古くからいる妖怪なんだ?」
 
「室町時代の文献に書かれていたんだって。政子さんは妖怪くちゅくちゅとか言ってたけど」
「可愛いじゃん。そう改名しちゃったら?」
「あちらが気に入ってくれたら」
 
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「でもその妖怪なら私も会ったよ」
と千里は言った。
 
「うっそー!?どこで会ったの?」
「富士急ハイランドだよ」
「そんなところで。あれ?運転してたんじゃないの?」
 
「桃香に無理矢理『ええじゃないか』に乗せられてさあ」
「あぁ・・・」
「もう死ぬ目に遭って、30分くらい意識も朦朧とした状態で休んでいた時に足下に手が出現したんだよ」
 
「そんな条件でも出現するのか・・・・。でどうしたの?」
 
「私その子に訊いてみたんだよ。何したいの?って」
「そしたら?」
「じゃんけんしようと言うから、じゃんけんしたら私が勝った」
「じゃんけん!?」
「そしたら、僕の負けだから消えるねと言って消えたよ」
 
「ありがとう。それ凄いヒントになる」
 
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「ところでさ、これもこないだから聞こうと思ってたんだけど、私とちー姉と中村晃湖さんが親戚だという話をこないだ中村さんから聞いたんだけど」
と青葉は言った。
 
「その話、青葉にはしてなかったっけ?」
「聞いてない」
 
「そっかー。まあ私と青葉も親戚だし、桃香と青葉も親戚だから」
「うっそー!?」
と青葉は驚愕する。
 
「桃姉と私も親戚な訳?」
「あれ?その話は晃湖さんから聞かなかった?」
「聞いてない!」
 
「青葉のお母さんの系統が私の父親や晃湖さんの系統とつながっている。そして青葉のお父さんの系統が桃香のお母さんの系統とつながっているんだよ」
 
「詳しい話を聞きたい」
 

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すると千里はいったん電話を切って簡略系図をメールしてくれた。
 
 ┏━━━┓
安紗呼 麻杜鹿
 ┃   ┃
敬子  梅子
 ┃   ┃
朋子  広宣
 ┃   ┃
桃香  青葉
 

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「そんな所でつながっていたのか・・・・」
「私と青葉の関係は、間をつなぐモモさんの戸籍が無いからそこは辿ることができないんだけど、こちらは実際に除籍簿を取って確認したから間違い無い」
「そんなことまでしたんだ!」
 
「桃香から聞いていた安紗呼さん、そして青葉から聞いていた麻杜鹿さんって名前のパターンが似ていると思っていたんだよね。それで除籍簿を取り寄せてみたんだよ。桃香と青葉の名前を勝手に使って」
 
「違法っぽい」
 
「元々晃湖さんは、青葉と桃香は親戚だろうと思っていたらしいよ。波動が似ているから」
「そうなの!?」
 
「私もそれは感じていた。だから、青葉の後見人申請をした時にも遠縁の親戚なのでと朋子さんに書いてもらった。当時はあてずっぽだったんだけど、確認できたのは良かった」
 
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「それも知らなかった」
 
青葉は唐突に思って言った。
 
「私とちー姉、私と桃姉が親戚だったら、ちー姉と桃姉も親戚ってことはない?」
 
すると千里は言った。
 
「それがよく分からないのよね〜。けっこう微妙な感じで」
 
 
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