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■春拳(11)

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青葉は芳野さんが早く治るように骨折箇所のヒーリングを30分くらいしてから病院を出た。
 
「芳野さんは最初に駆けつけてきた課長の助言で、警察には足下の手のことは言わないことにしたみたい。単に前を走っていた低速車を避けきれなくてと言ったって」
と彪志。
 
「その方が無難という気がする。そんな話、誰も信じないし、覚醒剤か幻覚剤でもしているのではと疑われるだけだもん。私も類似の事例を聞いていなかったら、信じてないよ」
と青葉。
 

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左藤さんについては直接面識が無いので、先輩の土師さんに来てもらい、一緒に会いに行くことにする。土師さんとは18時に待ち合わせることにした。
 
時間があるので、彪志がどこか行く?と言ったものの青葉は「少し寝せて」と言い、病院の駐車場に駐めたフリードスパイクの後部座席で少し仮眠させてもらった。
 
「私が眠っている間に悪戯しててもいいよ」
「いや、そこまで飢えてないから」
「私に触りながら自分でしててもいいし」
「こんな人がのぞくかも知れない所でできないよ」
「今夜まで我慢できる?」
「あのねぇ・・・」
 
青葉がしばらく眠ってから起きるとそばに保冷バッグに入れたウーロン茶が置いてあったのでそれを飲み、病院のトイレを借りてから彪志に連絡する。近くのケンタッキーで落ち合うことにする。
 
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「ごめんねー。どこか行ってた?」
「近所の本屋に行ってた。疲れ少しは取れた?」
「うん。ごめんね。昨夜はホテルで寝たし、今朝も新幹線の中で熟睡してたんだけどね。何か眠たくなっちゃって」
「青葉仕事のしすぎだもん。先月は随分大会にも出たんだろ?」
 
「そうなんだよねー。6月の1週目には中短、中部学生短水路選手権かな?に出るのに名古屋というか正確には日進市まで往復して、 次の週は大大、県内の大学の水泳大会があって、先週は北五といって北陸三県の国立大学の大会があって。これは今年うちが主幹だったから、他の大学から来ている人たちのお世話とか記録とかで大変だった」
 
「北五って、北陸に国立大学が5つもあったっけ?」
「昔は5つあったから北五って言ってたのよね〜。減っちゃったけど、略称はそのまま残っている」
「なるほどー」
 
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「今日・明日はインカレ予選だけど、出ません!と宣言して東京に出てきた」
「いいの!?」
「付き合っていたら、夏が終わるまでどこにも行けない」
「あはは」
 
「そうだ。荷物は少し片付いた?」
「道は遠い気がする」
 
「ああ」
 

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食事の後は病院に戻りフリードスパイクを出して、土師さんとの待ち合わせ場所、本蓮沼駅に向かった。
 
途中、ナショナル・トレーニング・センターのそばを通る。今、千里姉はここで激しい練習をしてるんだろうな、と思った。
 
本蓮沼駅は地下鉄駅で、車を駐められる場所もない。それでその付近を走って土師さんを見つけられたらピックアップする方式で行く。1回目のアプローチでは発見できなかったものの、近くを回ってきて2回目のアプローチで発見。無事、拾うことができた。
 
「ごめん、ごめん。ちょっと遅れた」
「いえ。こちらこそお休みの所、呼び出して申し訳ありません」
 
「左藤が事故起こした時のこと調べるんだって?」
「芳野さんの事故とパターンが似てますでしょう?」
 
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「うん。あんな話が広まったら、うちの部署はこっそりクスリを横流ししてたりしないか?と言われそうで、課長が一切その話は言うなと指示を出したんだよ。うちの事務所にはアンフェタミンとかコカインとかも置いてあるからさ。麻薬類は課長と薬剤長さんだけが持っている鍵の掛かる棚に入っていて数も厳重に管理されているけど、その気になればちょろまかすのも不可能じゃないもん」
 
「取り敢えず、私の名刺差し上げておきます」
と言って、青葉が
《心霊相談師・川上瞬葉》
の名刺を渡すと
 
「なんか、かっこえぇぇ!」
と土師さんは言っていた。
 
「俺の田舎の親戚にも、神さんとかしてるばあちゃんがいるんだよ。似たような系統かな」
 
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「土師さんはもしかして九州かどこかですか?」
「そうそう。良くわかるね」
 
「九州のほうで『神さん』って言うからと思って。東北では拝み屋さんと言うのですが、だいたい似たような仕事ですね。土師さんは九州のどちらですか?」
 
「大分のヒジって所。漢字知ってる?」
 
「日が出ると書いて日出(ひじ)ですよね」
「おお、すげー。俺、出身地も苗字も読んでもらえない」
「実はサンリオ・ハーモニーランドの最寄り駅なので、女子には読める人がけっこう居るんです」
「ああ、そんなもんがあった!俺も小学生の頃、姉貴たちに付き合わされて一度行ったよ」
 
「土師さん、ご兄弟はお姉さんが何人かおられるんですか?」
「うん。姉貴4人に男は俺1人」
「わっ」
「次は男だろう、次は男だろうと思って作っている内に5人になっちまったということみたいだけど、親父は長距離トラックの運ちゃんでさ、なかなか自宅に戻ってこないからふだんは女ばかりの中に俺ひとりで、随分母ちゃんや姉貴たちのおもちゃにされてた」
「なるほどー」
 
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「女装はふつうだったし。だから俺の小さい頃の写真、全部スカート穿いてんだよ。小学5−6年生頃までしばしば女装させられてた。むしろ小さい頃は自分も女の子だと思い込んでいたような気もする。その内チンコも取れて無くなるのかなあとか思ってた記憶あるよ。蛙のしっぽが成長したら無くなるみたいに」
 
「あああ」
 
「でも私の知り合いで大分市内に住んでいる土師さんもいますよ」
「ありゃ。だったら親戚かも」
「土師よしみさんというんですけど。お父さんは土師・・・有高さんだったかな」
「うーん。知らないな。どこかでつながっているのかも知れないけど」
 
「土師(はじ)は古く伝統ある名前ですよ。垂仁天皇の代に相撲取りの起源としても知られる野見宿禰(のみのすくね)が殉死の風習をやめて代わりに埴輪(はにわ)を作って一緒に埋めることを提案したのですが、その時、天皇から土師職(はじのつかさ)に任じられ、その子孫は仁徳天皇から土師連(はじのむらじ)の姓を与えられました。《はじ》という読みは《はにし》の音便と言われますね」
 
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「へー!そんなに伝統あるんだ!」
 
どうも土師さんは青葉のことが結構気に入った様子であった。
 

そんな話をしている内に病院に到達する。駐車場に車を駐め、上の病室に上がっていく。
 
「おお、生きてるか?」
と土師さんが声を掛ける。
 
「暇でしょうがない」
と左藤さん。
 
彼は足と肩を骨折したものの、他は異常無いので、暇をもてあましているようである。ベッド脇に漫画が大量に積まれている。肩の方だけでも治れば仕事に復帰できるのだけどと言っていた。
 
土師さんは、芳野さんが先日事故を起こし、その時芳野さんが言った話が左藤さんの言った話と似ているので、これはひょっとして何かの怪異ではないかという噂も出ており、それで彪志のフィアンセである青葉が、その方面の専門家なので、内々に調査しているのだということを説明してくれた。
 
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「同じような事故が起きたのか」
「実はこの会社と無関係の人で、私の知人の女性がやはり似たような現象に遭遇したんです。彼女は平気でその出てきた手と握手して、事故も起こさなかったのですが」
と青葉は説明する。
 
「すげー。やはり女は肝が据わってるのかね」
と左藤さん。
 
それで左藤さんは当時のことを話してくれる。
 
「運転している内に右足がかゆくなってさ。虫とかに刺された訳ではないと思う。なんか血行とかの関係でかゆくなることはあるじゃん」
 
「ええ」
「それで掻こうと思って。右手を下に伸ばして掻こうとしたら、誰かの手とぶつかった訳よ」
「なるほど」
 
「それでびっくりして、焦っちゃって。焦ってる内に向こうがこちらの手を握りしめてきて。ぎゃーっと悲鳴あげて、そのあと気付いたら車は街路樹にぶつかってたんだ」
 
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青葉は考えた。
「その最初に手がぶつかった時ですね。相手はどんな形に手をしていました?手は握ってましたか?開いてましたか?」
 
左藤さんは腕を組んで考えていた。そして言った。
 
「手は握っていたと思う」
 

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青葉は左藤さんの怪我が早く治るようにヒーリングをしてから病院を出た。この日はその後、近所のカフェで1時間ほど土師さんと彪志とで話した後、別れた。帰りは青葉がフリードスパイクを運転して大宮のアパートまで行った。100mほど離れた所にある駐車場に駐め、歩いてアパートに入る。
 
「何これ?」
と青葉は言った。
 
「ごめーん。俺も片付けようとは思ったんだけど」
 
部屋は5月末に引っ越して段ボール箱を大量に運び込んだ時のままという感じである」
 
「どこに寝てんの?」
「そちらの部屋のそこに何とかスペースを作った」
 
「まあいいか。シャワー使える?」
「あ、うん。使って。バスタオルは何とか発掘したから」
 
それで交代でシャワーを使ったあと、ふたりは久しぶりに一緒に寝ることができた。2月末に盛岡の彪志の実家で一緒に寝て以来、4ヶ月ぶりの愛の交換になった。
 
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「高知に行った時、エスティマの中でしても良かったんだけどね」
「さすがに人のいるそばでする勇気は無かった」
「でも紗希さんたちはしてたね」
と青葉。
「あれ、紗希さんが満彦君に入れてたよね?」
と彪志は確認する。
 
「うん。直視はできないから、音だけだけど、間違いなく紗希さんが腰を動かしていて、満彦さんはあえぎ声みたいなの出してたし、もう少し優しくとか、壊れるぅとか言ってたし」
「紗希さんは壊れたら一生面倒見てやるからとか言って容赦無い感じだった。最後は紗希さんが逝って終わった感じだった」
 
「冗談で言ってたけど、紗希さんって本当に男の娘なんじゃないよね?と私悩んだ」
「俺も判断つかなかった。男の娘だとしたら完璧なパス度だよね」
「でも男の娘なら僕とか言わずに私と言うと思うから、たぶん女の子なんだよ」
「実はFTMで既にちんちん装備済みとかは?」
「そこまで疑うともう私も分からない」
 
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「あれって、女性器はそのままにして男性器だけ作れるの?」
 
「原理的にはできる。MTFの手術ではおちんちんをヴァギナの材料に使うから確実におちんちんは無くなるんだけど、FTMの手術では女性器のどこかを材料に使って男性器を作るわけではないから、女性器を完全に温存したまま男性器を形成することは可能。男性ホルモンを取らなければ妊娠能力も維持できる。尿道だけ延長して、おしっこはちんちんの先からすることになるけど」
 
「それやると両性体になるよね」
「うん。男としても女としてもセックス可能になる。そういうのを希望する人がいるかどうかは別として。但し女性器が残っている以上、戸籍の性別を男に変更することはできない」
 
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「それで妊娠すると、男の身体で出産するわけ?」
「そういう人は現実に存在するかも知れないよ。医師も助産師もそういう場面を見たとしても、守秘義務で誰にも言わないし」
 

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