広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■春拳(22)

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ふたりで一緒に近くの「焼肉のさかい」に行った。
 
彪志はプレミアムモルツの中ジョッキ、青葉はコーラフロートを頼んで乾杯し、食べ始める。それで食べ始めた時
 
「おお、青葉たちもここに来たの?」
という声が掛かる。
 
見ると、桃香がどうも同僚っぽい男性社員3人と一緒である。
 
「桃姉!」
「こんばんは、桃香さん」
 
「高園、そちらのお姉様は?」
「あ、これうちの妹と、そのフィアンセ」
 
「なんだ彼氏付きかぁ!」
などと桃香の同僚たちは嘆いているものの、そのまま青葉たちと同じテーブルに座ってしまう。
 
桃姉、遠慮してくれないの〜〜!?
 

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結局桃香と同僚3人も中ジョッキを頼み、あらためて乾杯して焼肉を食べ始める。彼らは、赤木・片倉・小針と言った。
 
「おお、事件は解決したのか。良かった良かった」
と桃香。
「桃姉がミラ貸してくれたおかげで色々実験できたしね」
と青葉。
 
「役に立ったのなら良かった。しかし結局フリードスパイクの方で出現したのか」
「昨夜はミラ取りに行く時間が無かったから。最初は運転手にだけ出るものと思いこんでいたんだけど、運転手じゃない人に出ることもあると分かって方針を変えたんだよ」
 
「事件は解決って、私立探偵か何か?」
と赤木さんが訊くので、彪志が事件の概略を説明した。
 
「その妖怪アシモト・クチュクチュ?俺の友達の友達が遭遇したことあるよ」
と小針さん。
 
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「ほんとですか!」
 
「もう5−6年前だと思う。女の子なんだけど、その子は悲鳴あげながらも何とか車を脇に寄せて停めることができて。停めたらもう手は消えていたらしい。みんな寝ぼけたんだろうと言ってたけど、本人は絶対あれは本当に手で触られたと言ってたよ」
 
「やはり、昔から、そういうのあったんですね〜」
 
「しかしじゃんけんで封印できるというのは面白い」
「覚えておいた方がいいかな」
「いえ、じゃんけんに負けるとこちらのペナルティが大きいのでじゃんけんには応じない方がいいと思います。覚醒すれば消えますから」
 
「そうか。とにかく安全な所に停めるのが大事なのかな」
「そうだと思います」
 
「遭わないようにする護符があることが分かって、田舎に戻ったら作って彼に送って配ってそれで終了かな」
 
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「そういう護符があるなら私にもくれ」
と桃香。
「じゃ桃姉にも」
 
青葉はケイさんと星歌ちゃんにも送った方がいいなと思っていた。
 
「だったら俺たちにもくれない?」
と片倉さん。
 
「じゃプラス3枚で」
 
これは高岡に戻ったら護符作りで1日潰れるなと青葉は思った。
 

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「でも事件が解決したのなら、青葉もう帰るの?」
と桃香が訊く。
 
「日曜日にヒーリングの仕事が入っているんだよ。だから日曜日の朝一番の新幹線で帰ろうかと思ってる」
 
「なるほどー」
 
ここしばらく毎週金曜日にステラジオのホシのヒーリングをしていたのだが、今週はいつできるか分からないと言っておいた。しかし昨夜事件が解決したことからメールで連絡を取り、日曜日に青葉が東京からの帰りがけ、ホシが泊まっている旅館に行ってヒーリングすることを決めたのである。
 
「でもそれ高岡市内?」
とその話を今聞いた彪志が訊く。
 
「ううん。富山県内ではあるんだけど、岐阜県との県境に近いかな。富山駅から車で1時間半くらい。水仲温泉という所なんだけど」
 
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「ああ、それ大きなダムがある所でしょ?」
と片倉さんが言う。
 
「そうです。そのダムでできた湖を渡るフェリーでその旅館に行くんですよ」
「でもフェリー使わなくても山道を走っていく手もあるんだよな」
「そうなんですか?」
「ダム建設する時に作業用に作った道路が残っているんだよ。電力会社の施設もあるから、そこへのアクセスルートとして使われているんだけどね。地図にも載ってないけど。俺、高山の友達の車で一度その道を通ったことあって。まあけっこう凄い道だった」
 
「へー!」
 
「今は電力会社以外には、旅館に食料とか燃料とかリネン類とかを納入する業者だけが使ってるらしいよ。土砂崩れがあったり路肩が崩壊したりしたら電力会社が適当に補修して使っていると聞いた。あの付近は崖崩れは日常茶飯事らしくて」
 
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「なるほどー」
 

すると唐突に桃香が言い出した。
 
「よし。その道を通ってその旅館に行こう」
 
「桃姉が行くの?」
と青葉は尋ねる。
 
「もちろん、みんなで行くんだよ」
「みんなって?」
 
「ここにいる6人だな」
「え〜〜〜〜!?」
 
「日曜日にそこでお仕事があるのなら、明日の朝東京を出れば、夕方には到着する。それでその山道を通って旅館まで行こう」
 
「車はどうするんですか?」
と青葉は言ったが
 
「あ、俺の車も出していいよ」
と片倉さんが言う。
 
「一度通ったことのある人がいるなら安心だな」
と桃香。
 
青葉は頭を抱えた。
 

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桃香は、自宅で寝たら寝過ごしそうだから、彪志のアパートに泊めてくれと言うので、その日青葉たちと一緒に大宮のアパートに行くことにした。それで新宿駅まで来て、電車で大宮まで移動しようと言っていた時、桃香の携帯にメールが着信する。
 
「え?母ちゃんが東京に出てきているらしい」
「え!?」
 
「何時頃帰るかと言われているんだけど、どうしよう?」
「うーん。お母ちゃんもこちらに来てもらおうか」
 
朋子に今どこにいるのか訊いてみると小田急に乗ろうと思って新宿駅に居るという返事である。
 
「近くに居るのなら、取り敢えず会おう」
ということで、結局朋子が迷わず来られそうなアルタ前で待ち合わせた。夜のアルタ前は人が多いのだが、青葉がうまく朋子の波動を感知したので、すぐに会うことができた。
 
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都内でゆっくりしすぎると終電を逃すかもということで、大宮駅まで移動した上で駅近くの飲食店で一息つこうということになる。青葉と彪志も移動中に少しはお腹がこなれるので好都合である。
 
「クライン・ボトルのライブを見に来たのよ」
と朋子は言った。
 
「そんなのやってたの?」
「でもお母ちゃんが東京に出てくるとは知らなかった」
「昨夜発表されたのよね。即ネットで申し込んで今朝当選者発表。それで新幹線に飛び乗って来たけど、あんたたちに電話してもつながらなかったし」
 
「ごめーん。勤務中は私物の電話はロッカーの中だし」
と桃香。
「ごめーん。私はひたすら寝てた」
 
大宮駅に着いたのはもう23時近くである。
 
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青葉たちは焼肉をお腹いっぱい食べているのに対して、朋子はお腹が空いている。それで、結局モスバーガーに入った。桃香も彪志も「ハンバーガーくらいなら入る」と言ったが、青葉はとても入らない気分だったので、ドリンクだけ注文した。朋子はライスバーガー海鮮かきあげのセットにチキンも1本頼んでいる。
 
「2時間立って踊ってたから疲れた疲れた」
「お疲れ様」
 
「そうだ。青葉はいつ頃までこちらにいるの?」
「それが明日の朝から移動することになった」
「青葉が日曜日に、富山県の水仲温泉でお仕事があるんで、みんなで彪志君の車で移動しようと」
「その話を聞いた桃香さんの会社のお友達の人たちも一緒に行くことになりました」
 
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「あら。水仲温泉、いいわね。私も一緒に行こうかな」
「お母ちゃん、新幹線は往復で買ってないの?」
「片道しか買ってない。帰りはどうなるか分からないと思ったし」
「じゃ一緒に行くか」
 
それで桃香が旅館に電話して、人数を1名追加した。
 
「それでは7名様、男性4名、女性3名ですね」
「そうです。男4、女3で、その内女3と男1は家族なので1つの部屋でいいですから、部屋は2部屋のままで」
「分かりました。それではお待ちしております」
 

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それで電話を切ると、朋子が訊く。
「もしかして桃香のお友達って男の人?」
「そうそう。一緒に飲みに来ていて、青葉たちと出会ったもんで」
 
「それって、色恋の要素は。。。」
「無い。私が男と付き合う訳無い」
「一瞬期待して損した」
 

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翌7月9日(土)朝9時に関越道の三芳PAで待ち合わせしようということになっている。
 
青葉はまだ疲れが溜まっていて朝6時にやっと目が覚めた。すぐにお米を研いで早炊きで炊飯器のスイッチを入れる。その内朋子が起きてきたので、お味噌汁を作ってもらった。ご飯の炊きあがり時間を見ながら冷凍していた鮭をロースターで焼き、桃香と彪志を起こして、2人が覚醒する間に卵焼きを作った。桃香はなかなか目覚めなかったので、朋子がだいぶ声を荒げていた。
 
7時頃、一緒に朝御飯を食べる。
 
「こんなまともな朝御飯を食べたのは久しぶりだ」
などと桃香が言っている。
 
「ちー姉は8月まで忙しいみたいだしね」
「そうなんだよ。今も合宿中で、月曜日に帰ってくると言っていたが、水曜日の夕方から、8月上旬までまた海外に出るらしい」
 
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「今年はかなり海外遠征やってますよね?」
と彪志が訊く。
 
「うん。フランス、ベラルーシ、チェコと行ってきたようだ。フランス土産のグラーブ・ワインとボンヌ・ママンのクッキー、ベラルーシ土産のチョコレート菓子とアリバリアとかという所の白ビール、チェコ土産のミルカのチョコレートとピルスナー・ウルケルのビールと持って来た」
 
「あちこち行ってるね!」
「渡航費用や滞在費とかはチームの方から出ているらしいし、仕事休むので休業補償も少しもらえると言っていた」
 
「へー。待遇いいんだね」
 
「今度は南米方面に行くらしいが、今向こうはオリンピックで人が多くて大変なんじゃないかね」
と桃香は言っている。
 
どうも千里姉は桃香姉にオリンピック自体に出場することを言ってないようだ。
 
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御飯のあと、食器を片付け、残った御飯は冷凍して、8時前にフリードスパイクで出発した。
 
30分ほど一般道を走って三芳PAのスマートICを通りPAの中に入った。8:50頃に片倉さんのトヨタ・ラッシュが到着する。3人が降りてくるが、車の色が真っ赤である。
 
「こちらすみません。うちの母が加わりました」
「あ、どうもどうも」
 
「でも片倉さん、その車派手な色ですね」
と桃香が言ったが
 
「たまたまこれが値段安かったからね」
と片倉さんは答える。
 
「中古車ですか?」
「そそ。ヤフオクで20万円で落とした」
「私、そういうの大好きです」
「お、気が合うね」
「売り手は男の娘だったよ」
「へー!」
 
「受け取るのに会ったけど、可愛い男の娘だった。27歳と言ってたけど、まだ21-22歳に見えたよ」
「それはすごい」
「このくらい可愛かったら男でもいいから結婚したいと一瞬思った」
「そういう人生も良いのでは」
 
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缶コーヒーなどを飲んで少し休憩した後、出発する。最初は小針さんが運転するラッシュの後を青葉の運転するフリードスパイクが続く形で進行。2時間単位で休憩しようということで、11:00-12:00に上信越道の小布施PA/HOで休憩して昼食を取る。
 
その後、彪志が運転するフリードスパイクが先行し、赤木さんが運転するラッシュが続く形で進み、14:00-14:30に呉羽PAで休憩。そのあと、運転手は片倉さんと青葉に交代して、ラッシュの後をフリードスパイクが続き、車は砺波ICで降りて、国道を南下する。
 
30分近く走った所で大きなダムを見る。
 
片倉さんの車が停まるので青葉も停める。
 
「畑仲ダムだよ。普通はここからフェリーで行くんだ」
と片倉さん。
「なるほど」
 
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「私はフェリーでここから行ったことある。今日はフェリーじゃないの?」
と朋子。
 
「車で乗り付けようという計画なんですよ」
「へー」
 
「国道は川の左岸を通っているけど、温泉は右岸にあるんだ」
「だったら、あの対岸に見える道を行くんですか?」
「それがあの道は支流の方に行っちゃうんだよ。だからここから5−6分行った所にある橋を渡るから」
「分かりました」
 

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それでまた出発する。国道はずっと川の右側(左岸)を走っている。やがて橋が見えてくるのでこれを片倉さんの車に続いて渡る。今度は川の左側(右岸)沿いに走る。少し行った所に大きな旅館っぽい建物が見えてくる。片倉さんの車が停まるのでこちらも停める。
 
「ここですか?」
「ここは道仲温泉。ここに至るまでの道は地図にも載っているんだよね。ここから先が地図に載ってない道になる」
 
「へー!」
 

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片倉さんの車は温泉の建物の前を通過していく。やがて細い道に入るが、その道に入る前に「関係者以外通行禁止」という看板が立っていた。青葉は「いいのかなあ」と思いながらも片倉さんの車に続いてその道に入る。
 
この看板は道の左側に立っていたので、後部座席の右側に乗っていた朋子は気付かなかったようである。桃香はもとよりこういうのを全く気にしない。
 
道は結構なワインディングロードである。ジェットコースター並みの高低差もあるし、巨大なS字もあった。時々枝道があるが、片倉さんは枝道には惑わされずに本道を行く。どうもこの手の田舎道に慣れているようである。その道を5分近く走って、何か建物が見えてくるが、旅館ではないようだ。片倉さんの車が停まる。
 
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「ここは水仲発電所。この施設のために道路が保守されているんだよ」
「これ、揚水式発電所ですか?」
 
上の方に向かうコンクリート製のパイプのようなものが見える。
 
「いや、これはふつうのダム水路式発電所だよ。ダムの水を川の本流より緩い傾斜の水路に導いて、結果的にダム本体より遙かに大きな高低差を作り出して発電する。あのパイプはサージタンクにつながってる。タンクはここからは見えないけどね。川の水量が激変した時のためのバッファなんだよ」
 
「へー」
 
「実はこの山の向こうにさっき見た支流に作られたダムがあってね。そこから山越えにここまで水を導いて発電している」
 
「山を越えるんですか!」
「立地上の問題があったのかもね。崖崩れの起きやすい地区だし。数年前にもその支流側のダム管理事務所が土石流にやられてるから」
「ひゃー!!」
 
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