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■春拳(3)

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それで結構走っていた時のことだった。
 
「あれ?」
と政子が声を挙げる。
 
「どうかしました?」
 
「いや、窓開けてたら虫が入ってきたみたいでさ」
「はい」
「何か刺されたような気がしたから、足首を掻いたんだけどね」
「ええ」
「右手を足首の所まで伸ばしたら、誰かの手とぶつかっちゃって」
「はあ!?」
 
「握手を求めているみたいだったから、握手してあげたけど、誰だろ?」
 
「政子さん、車を脇に寄せて停めてください!」
「へ。何で?」
 
と言いながらも政子は素直に車を路側帯に寄せて停める。
 
「政子さん、それ寝ぼけてますよ。私が運転交代します!」
 

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「え〜?起きてるけどなあ。今日はまだ宇宙人に会ってないし」
などとと政子は言いながらも運転交代し、青葉が運転席に乗って政子が助手席に乗る。この車には若葉マークが常備してあるので、それを前後に貼ってスタートする。
 
「ケイから宇宙人に会ったら、運転は他の人に替われと言われてるのよね」
などと政子は言っている。
 
「それがいいですね」
と青葉は笑いをこらえて答える。
 
それで青葉の運転で湾岸に出て、南下、レインボーブリッジを渡った。
 
「きれいだね」
「やはりここは夜景で見るのがいいですね」
 
既に天文薄明は始まっているのだが、それでも充分きれいな景色である。橋を渡った後は、お台場のコンビニに駐め、ここでおやつとコーヒーを買って少し休憩した。ここで休憩している内にもう夜明けとなる。
 
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「すっかり明るくなっちゃったね。帰って寝ようか」
などと政子が言うので、戻ることにする。
 
帰りはずっと青葉が運転し、レインボーブリッジを戻って恵比寿のマンションに帰還した。帰って来たのはもう4時半である。ちょうどマンションに着いたころ、日の出となった。
 

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その後、青葉は奥の寝室の彪志のそばで寝たが、政子は居間でそのまま寝たようである。
 
朝7時に川崎ゆりこがやってくる。呼び鈴が鳴ったものの政子は起きないようなので青葉が起きてきてエントランスをアンロックする。上に上がってきた所で玄関を開ける。
 
「わぁ!おはようございまーす、大宮万葉先生」
「おはようございます、川崎ゆりこさん。でも『先生』は勘弁して下さい」
 
川崎ゆりこは青葉より5つも年上である。
 
「今日ケイ先生のエルグランドを貸してもらうことになっていたんですけど」
「ケイさん出てるし、マリさん寝てるけど、話していたんならいいと思いますよー。鍵はこちらですね」
 
と言って、政子がテーブルの上に放置しているエルグランドの鍵を渡す。
 
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「昨日は私が借りていたんですよねー」
「わあ、そうだったんですか。そういえばケイ先生はエルグランドを自分で1度くらい運転したんでしょうか?」
 
「あ。どうなんでしょう? なんかもう諦めている雰囲気ではあったけど」
 
ケイは昨年1月にエルグランドを買ったものの、おりしもケイとマリの呪殺未遂事件が発覚し、あやうくそれで交通事故を起こす所であったというので、★★レコードはマリ&ケイほか、数組の作曲家に専用ドライバーをつけた。
 
それで、これまでケイが運転していたようなケースの多くの場合に、ドライバーの佐良しのぶさんが運転するようになった。またエルグランドは大きいので、都内程度の移動には同時に買ったリーフを使うことが多い。
 
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そういうのもあって、ケイはエルグランドを買って以来、自分で運転する機会が全く無いらしいのである(リーフの方は運転している)。その間にエルグランドを運転したのは、★★レコードのドライバーの佐良さん・矢鳴さん・染宮さん、∴∴ミュージックの北嶋花恋、ローキューツの原口揚羽、40 minutesの河合麻依子、トラベリングベルズの相沢海香、それと友人の千里・和実・琴絵・麻央などと、この川崎ゆりこ、といった所である。実はマリでさえこのエルグランドを運転しているのにケイは運転していない。
 
ゆりこは自身が監督兼主将を務める少女ソフトボールチームの試合で道具と一部のメンバーを運ぶのに借りたいということだった。これまで何度もこのチームで使うのにこの車を借りだしている。
 
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「ソフトボールのメンバーってどういう人たちなんですか?」
 
「いや、テレビ番組に出てて、ソフトボールチーム作っちゃおうかあなって何気なく発言したら、凄い問い合わせ来たから、正式に応募要項を発表してメンバーを公募したんですよ。そしたら応募者が300人くらい来ちゃって。それで入部テストやって25名選抜したんですよ」
 
「凄い競争率ですね!どんなテストしたんですか?」
「80m走、バッティング、遠投」
「本格的ですね!」
「それと面接。選手としての能力が高くても、和を乱す人は困るから」
「ああ」
 
「でもタレントへの道かと誤解してきてた子が多くて」
「でしょうね〜」
「遠投どころか、投げたボールが5-6mしか飛ばない子の多いこと多いこと」
「あはは。塁間距離(18.29m)は投げられないと、話になりませんからね」
「そうなんですよ」
 
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「ゆりこさんはソフトボールの経験は?」
「小学校の5−6年生の時にソフトボール部だったんです」
「へー!」
 
「でも私、ウィンドミルができないんですよねぇ。私がウィンドミルするとボールはどこに飛んでいくか自分でも分からない」
 
「ああいうのできるのは一種の才能ですよ」
 

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「そうだ。メンバーには男の娘も1人入っているんですよ」
「へー。それ試合に出られるんですか?」
 
「協会に相談したら、IOC基準に合致していれば試合に出てもいいと回答があって」
「なるほど」
 
「以前は去勢してから2年間女性ホルモンを摂取していることというのが基準で、彼女は去勢もしてないんですよね。それで練習試合とか男女混合の大会には出すけど、男女別の公式戦ではマネージャーとしてベンチに座らせているんです」
 
「ああ」
 
「でもIOCの基準が変わったんですよ」
「変わりましたね〜」
 

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IOCはリオデジャネイロ五輪に先行する2015年11月に性転換者の扱いに関する新たな見解を出した。
 
■女子から男子からの性転換者は、自分は男子であり、男子の試合に出たいと宣言するだけで男子として扱われる。
 
■男子から女子への性転換者の場合、下記の条件で出場を認める。
 
・自分は女子であり、今後最低4年間は性別を変更しないということを宣言すること。
 
・過去12ヶ月にわたって血清中の総テストステロンの量が10 nmol/L未満であること。また競技期間中もそのレベルであること(ケースバイケースで12ヶ月より長い期間を要求する場合もある)
 
※性転換手術の有無は問わない。
 
女性として認める基準に性転換手術を受けていることを要求してはならないというのがジョグジャカルタ原則にうたわれている。
 
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※女性の総テストステロン正常値は 0.2-3.0 nmol/L 程度である。一方男性の場合は 7-26 nmol/L 程度である。つまりこの基準は、かなり緩いと思われる。しかしこのくらい緩くしないと、たぶん普通の女子選手でひっかかってしまう人が出てくる!
 
(女子選手の高アンドロゲン症については、現在インドの女子陸上選手デュティ・チャンドのケースが係争中である。スポーツ仲裁裁判所は参加を認めるべきという裁定を出したが、IOCおよび国際陸連は、他の女子選手に不公平になるとして反発している。彼女はリオ五輪には女子選手として出場を認められたものの、彼女の取り扱いは今後揺れる可能性がある)
 

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「その子、まだ高校生なんですよねー。それで親からは去勢するにしても高校を出てからと言われているらしくて。でも女性ホルモンは黙認状態で採っているんです」
 
「じゃもう後戻りできないんですね」
「うん。本人としては何も迷ってないみたい。それで男性ホルモンの濃度検査を毎月受けさせているんです」
「ああ、それはいいことです」
 
「ここまでの検査は全部基準未満、というより女性の正常値の範囲。本人としてはどっちみち取り敢えず高校出たら去勢するつもりではいるものの、新しい基準だと来年春から女子選手として参加できることになるかも」
 
「そうなるといいですね〜」
 
「新しい基準では手術してなくても認めるということではあっても本人としてはタマタマが付いたまま女子の試合に出るのは罪悪感を感じると言ってて」
 
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そういえば、そんなことをちー姉も言ってたよなあと青葉は思った。だからちー姉は間違いなく、女子選手としてインターハイに出る前に最低でも去勢はしていたはずだ。
 
「その気持ちは分かります」
 
「まあまだ付いていても女湯には入っていますけどね。拉致しているというか」
「あははは」
 

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川崎ゆりこは30分くらいおしゃべりしてから、エルグランドの鍵を持って出ていった。
 
朝9時に政子の監視役の交代要員で仁恵さんが来て、奥村さんに「お疲れさまでした」と言い、交代する。
 
朝御飯は、青葉・彪志・奥村さん、仁恵さんの4人で食べた。政子は昼過ぎまで寝ているのがふつうのサイクルである。
 
「まあ、政子は絶対会社勤めなんかできないし、主婦も無理だよなあ」
などと仁恵さんは言っていた。
 
茶碗の片付けとかはやっておくからと仁恵さんが言うので、9時半頃、彪志と一緒に恵比寿のマンションを出た。
 
電車で移動して、10時半に大宮駅で、ミラを運転してきた桃香と待ち合わせ、無事合流する。そこからミラを《青葉が》運転してホンダ車を扱っているお店に入った。
 
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今日は午前中に彪志の車も選ぼうということにしていたのである。
 

「こんにちは。盛岡**店の鈴江宗司の紹介で来たのですが、店長さん、いらっしゃいますか?」
と言って彪志が父の名刺を見せる。それで店長さんが出てきてくれた。
 
「どうもどうも。お父さんから連絡を受けてます。ようこそいらっしゃいました」
と店長さんは笑顔で挨拶して取り敢えず店内のテーブルに案内してくれた。女性事務員さんがコーヒーとケーキを持って来てくれた。店長さんが
 
《大宮##店店長・山本深水》
という名刺を渡してくれる。彪志も自分の会社の名刺を渡した。
 
「彪志(たけし)さんかあ。格好いい名前ですね。うちも男の子が欲しかったなあ」
「そちらは女の子ですか?」
「そうなんですよ。3人女ばかりでつまらない。おまえら誰か性転換する気はないか?と言ったら『おとうちゃんがちんちん譲ってくれるなら考えてもいい』と言われましたが」
「あははは」
 
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「でも店長さんも凄い名前ですね。画家の伊東深水(いとう・しんすい)からとったんですか?」
と青葉は訊く。
 
「そうです、そうです。親父がファンだったらしいんですよ。うちの自宅には深水の真筆だという絵がありましたよ」
「それは凄い」
「まあ親父が真筆だと言っていただけだから本当かどうかは分かりませんけどね」
「どうなんでしょうね」
 
「でもこの名前、伊東深水を知らない人は、『ふかみ』さんですかとかどうかすると『みみ』さんですかとか言われて、たまに女の子だと思っちゃう人もいるみたいで」
 
「まあ確かに水という字は最近けっこう女の子の名前の止め字に使いますし、『みみ』と読めないこともないですけどね」
と彪志。
 
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「女性幹部親睦会の招待状が来たこともありますよ」
「それはぜひ出席しておきたかったですね」
と桃香。
 
「いやあ、マジで女装して出席してこようかとも思ったけど、女房がそんなことしたら離婚すると言うんで諦めました。娘たちは『お父さん女装するなら応援するよ。スカート貸してあげるよ』とか言ってたんですけどね」
 
「あははは」
 
店長さんはかなりの体格である。ふつうの「娘さん」のスカートが入るとは思えない。
 
「そうだ。父とは大学時代に同じ部活だったとか?」
「そうなんですよ。落語研究会だったんです」
と笑顔で言ってから、店長さんは
 
「お父さんの悪事を色々教えましょうか?」
などと小さい声で言っている。
 
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