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■春拳(10)

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高田コーチはじっと百合絵の言葉を聞いていた。
 
そして言った。
 
「選手枠の選考は僕と山野さん、坂口さん、そして川渕会長まで入れて4人で決めた。これがくつがえされることはない。以上」
 
「でも・・・」
と言って百合絵が言いかけるのを高田さんは遮る。
 
「まあ僕も君と前田君の友情は分かっているつもりだ」
 
百合絵と彰恵は岐阜F女子校の同輩である。彰恵が主将で百合絵が副主将でふたりは高校時代、チームメイトとして、そしてお互いライバルとして切磋琢磨してきている。
 
「そして長年のライバルでもあるよね。だからお互いに相手のことを知り尽くしている。それで大野君としては、自分は前田君にはかなわないという気持ちを高校の時からずっと持っていたのではないかと思う」
 
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「それはあるかも・・・」
 
「だけど、僕たちの結論としては今回、前田君ではなく大野君を選んだ。まあ、実際は前田君は広川主将との比較、大野君は平田君との比較だったんだけどね。どちらも僅差の判断だったんだよ。ここだけの話」
 
百合絵は意外だという顔をする。まさか広川主将がボーダーラインだったとは思ってもいなかったのだろう。
 
「しかし君は選ばれた。だから選ばれた以上は、前田君を越えなさい。そうすることが、君が前田君との友情を裏切らないことだと、僕は思うよ」
 
と高田コーチは言った。
 
百合絵はしばらく考えていた。
 
そして言った。
 
「分かりました。必死でやって彰恵を超えます」
「うん」
 
百合絵はこの夜、江美子を誘って夜遅くまで練習を続けた。それを高田コーチはコート脇で暖かく見守っていた。
 
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そして7月2日からは第五次合宿が始まる。1日の夕方やってきた広川主将が
 
「嘘!? あんたたち、ずっと泊まり込んで練習してたの?」
と驚いていた。
 
「なんで私も誘わないのよ〜?」
「すみませーん」
 
「いや、プラハからの帰り、丸一日飛行機の中にいて身体を動かしてなかったら、なんか変な気分だったんですよね」
 
「そうそう。それで少し練習していいですか?と聞いたら、いいよという話だったから練習してたら、なんかみんな集まってきたし」
 

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7月1日(金)。
 
この日青葉はいつものようにアクアで美由紀たちを伏木駅まで送った後、明日香と運転交代して明日香に富山市まで送ってもらった。富山駅近くのホテルでステラジオの2人と会い、青葉はホシのヒーリングをした。
 
「でもヒーリングの時はいつも裸だから毎回、川上さんにおちんちん見られてるなあ」
などとホシが言う。
 
「おちんちん要らないなら取ってあげましょうか?」
「そんなの取れるの?」
「友達の男の娘のおちんちん切ってあげたことありますよ」
「マジ!?」
「じゃ、さっちんおちんちん取って女の子にしてもらいなよ」
とナミが言っていた。
 
青葉はここの所だいたい週1回のペースでホシのヒーリングをしている。6月は水泳の大会が土日に入っていたので、金曜日にヒーリングのスケジュールを入れることが多かった。ホシもヒーリングする度に元気になり、音楽活動に対する意欲を回復させてきている感じではあったものの、この時点ではまだ作品が書けないと言っていた。
 
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夜中までヒーリングした後、この日は青葉も富山市内に泊まる。そして翌7月2日、朝1番の新幹線で東京に出た。
 
今回の東京行きは、運転中に足首付近に手が出現するという怪異(?)調査のためである。取り敢えず一週間くらい滞在の予定で、その間、アクアは明日香が使って伏木と金沢の間を往復する。最近はやっと美由紀もあまり騒がなくなってきたし、明日香もかなり運転に自信を持ってきている。
 
朝食を取った後、10時頃冬子と政子のマンションを訪れたら、ちょうどそこに中村晃湖さんが来ていた。
 
「久しぶり〜青葉ちゃん」
「晃湖さん、ご無沙汰しておりまして済みません」
 
「でも青葉今日は随分可愛い服を着てきたね」
と冬子が言う。
「そ、そうですか?」
と青葉は焦る。
「青葉は確かにいつもおばちゃんが着るような服ばかりだったよね」
と政子も言う。
 
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「それって、若いとクライアントに不安がられるから、わざと年齢が高く見えるような服を着てたんでしょ?」
と中村晃湖さんが言うが
 
「すみません。地です。こないだからさんざん、40歳に見える、社会人入学の方ですかとか、言われてばかりで」
と青葉。
 
「うーん・・・。地であのファッションは無いよなあ」
と言われた。
 

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中村さんは冬子たちのマンションの「あやしい物チェック」に来ていたのだが、結局青葉もこれを手伝うことになる。
 
その処理が終わった後で、中村さんと話していたら、青葉が千里や中村晃湖さんと遠い親戚関係にあるという話を聞き、青葉は驚愕することになる。その話は今年の春頃に中村さんと千里姉が話していて判明したことらしい。
 
   ウメ=榮作
     ┃
 ┏━━━╋━━┓
十四春 サクラ モモ
 ┃   ┃  ┃
武矢  礼蔵 雷造
 ┃   ┃  ┃
千里  晃湖 礼子
        ┃
       青葉
 
政子は霊的な素質も、男の娘が出るのも遺伝ではないかと言っていたが、男の娘は別として霊的な素質は遺伝より小さい頃の環境のほうが大きいですよね、などという話を晃湖さんとはした。
 
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それで中村さんが帰って行った後で、青葉はやっと本題に入れた。
 
「こないだの運転中に足首のあたりに手があった話をよくよく聞きたいのですが」
 
「何それ?」
と冬子が訊く。
 
青葉が当日のことを簡単に説明すると「それ、寝ぼけてたのでは?」と冬子が言う。政子もあらためて言われると自信が無さそうだったが、実は似たような事件がいくつか起きているということを青葉が言うと、政子はあの夜のことを詳しく語った。
 
「最初右足首がかゆい気がしたのよね。それで掻こうと思ってハンドルを左手で持ったまま、右手を下に伸ばしたのよ。そしたら、誰かの手とぶつかったのよね。手のひらを開いていたから、ああ握手したいのかなと思って握ってあげたら、向こうも握り返してきた」
 
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「握手会の感覚かな?」
と冬子が言う。
 
「あ、そーかもー。応援ありがとーって感じ」
と政子は笑顔で言っている。
 
たいていの人間はそんな所で手に触ったら仰天して、左藤さんや芳野さんのように運転を誤って事故を起こしかねない。政子の物に動じない性格が事故を防いだんだ、と青葉は思う。
 

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青葉は東京都の地図を広げて、あの運転交代したのはどのあたりでしたっけ?と政子とふたりで協議するも、政子が場所など覚えている訳が無い。
 
青葉もかなり悩んだのだが、ここで政子が重要なことを思い出した。
 
「そうだ。あれ、鹿鹿鹿ラーメンの近くだったよ」
「そういえば、なんかラーメン屋さんの看板がありましたね!」
 
「あそこ量が多いから好きなのよね〜」
などと言っている。
 
「あれ写真見ただけでギブアップ。私は店内には入らなかった」
と冬子は言っている。
 
「なんか二郎の全マシでも足りないと言っている人たちがひいきにしているらしいね」
と政子。
 
「それどんな人さ?人間なの?」
などと冬子は言うが、
 
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「だって二郎だとお代わりできないじゃん」
と政子は言っている。
 
「私は二郎でも外で待っている。それに二郎をお代わりしたいと考える人間がこの世に存在することを普通は想定できない」
と冬子。
 
「鹿鹿鹿ラーメンはどんぶり自体が二郎より大きいんだよ。二郎みたいに列まではできてないから、ゆっくり滞在してお代わりもできるし」
と政子。
 
「若いお相撲さんの常連さんがいるみたいで、こないだ、お店で関取の駿河湖に会って、サイン交換したよ」
 
「ほほお」
「ラーメン3杯食べる競争したら私が勝った」
「はぁ・・・」
 

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鹿鹿鹿ラーメンは都内に3ヶ所あるのだが、青葉自身の運転ルートの記憶から、鹿鹿鹿ラーメンの芝店であることが断定できた。
 
「そうだ。思い出した」
 
と政子が言って1枚の紙を取り出してきた。
 
「青葉、ちょっとこれに曲付けてくんない?」
と言う。
 
『エメラルドの太陽』というタイトルが付けられている。
 
「曲を青葉に頼むから、作詞名義は岡崎天音にしちゃおう」
と言って、名前を書いている。
 
「私でいいんですか?」
「冬に見せたら、こんな壊れた詩はそのまま発表できないから修正しなさいって言って。でもこの詩、太陽がエメラルドだからいいと思うのよね〜」
 
冬子が困ったような顔をして頭を掻いている。
 
「まあ確かにこれ普通の色彩感覚に修正したら、つまらない詩になっちゃいますよ」
 
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「そうそう。そういう所が冬は融通が利かないのよ」
「でもこれ誰が歌うんですか?」
 
「アクアだったら歌ってくれないかなあ。それか青葉、歌手デビューしない?」
「さすがに時間的に無理です」
 
「ああ、忙しそうだもんね〜。やはりアクアを説得しよう」
 
「じゃ取り敢えず預かりますね」
と言って青葉はその紙を居間にある複合機でコピーしてかばんに入れた。
 
冬子は「それ発表できないかも知れないからね」と言っていた。
 

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青葉は彪志と連絡を取り、十条駅で落ち合うことにして、恵比寿駅から電車で移動した。十条駅について電話すると、すぐに彪志が真新しいフリードスパイクでやってくる。青葉の前で停めるので、すばやく助手席のドアを開けて乗り込む。彪志が車を出す。
 
「お疲れ〜」
と言ってキスをする。
 
「青葉、なんか凄く可愛い服着てきた」
と彪志が言う。
 
「何歳くらいに見える?」
「うん。充分女子大生に見えるよ」
 
えーん。せめてまだ女子高生に見えるくらいは言ってよぉ!
 
「じゃ病院に行こうか」
 
「あのあと、どのくらい運転した?」
「今オドメーターは50kmを越えた所。青葉が遊びで出てきたんなら、一緒に高速に乗って遠出したい気分なんだけどな」
「そうだね。事件が解決して時間があったら」
 
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まずは芳野さんの入院している病院に行く。芳野さんは当初、それ話すと寝ぼけていたかクスリでもしていたかと思われるからやめろと上司から言われたらしく、話すのを渋っていたが、青葉が事件の解明のためなので、誰にもこのことは話しませんからと言うと、考え考えながら話してくれた。
 
「あの日は何ヶ所も客先をまわって結構疲れていたんだよね。それで足の筋肉がこわばっているなあと思って、足首を少し揉もうとしたんだよ。後から考えると、それをちゃんと車を脇に停めてからすれば良かったんだよね」
 
「それで右手を下に伸ばした時に誰かの手とぶつかったんだよ。最初は何か物が転がっていたかと思ったんだど、感触が柔らかいんだよ。生暖かくて。それでぞっとしてしまって。その時前の車が突然車線変更したんだ。え?と思って見るとその前に超低速車がいて。ぶつかる!と思ってハンドル切ったら防護壁に激突してしまった」
 
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「その手に触った時ですね。相手の手の形はどうでした?手を開いてました?」
 
芳野さんは考えるようにした。そして言った。
 
「手は握られてました。こぶしの形でした」
 

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