広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■春社(20)

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16日朝、青葉がΘΘプロの事務所に入っていくと
 
「これなんですよ」
と結局、事務所に泊まったふうの春吉社長が青葉に言ってカーナビを見せた。
 
立山みるくとターモン舞鶴さん、それに大堀浮見子まで泊まり込んでいたようで、不安そうな顔で出てきた。今日の浮見子さんは男性用のビジネススーツを着ている。この人の服装はどうにもよく分からない。また何かの撮影なのだろうか。しかしこの人の男装は妖しい魅力がある。それは自分が女だから妖しさを感じるのだろうかと青葉は訝った。
 
社長から渡されたものを見ると、たしかに五洋社のポータブル・カーナビ、アナコンダの古いモデルである。裏に株式会社ΘΘプロダクションという名前と電話番号がテプラで貼り付けてあるので、本来は会社の備品だったのかも知れない。
 
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「みなさん、念のため耳栓をしてください」
と言って、全員に耳栓を配る。青葉も耳栓をする。
 
カーナビのスイッチを入れる。準備中の表示から、楽曲の再生画面になった瞬間に一時停止ボタンを押した。
 
再生中だった曲は、ほね組 from AKB48の『ほねほねワルツ』である。演奏時間4:13の内2:16まで再生が進んでいる。楽曲の再生はランダムが指定されている。青葉はそこから索引を表示させる。
 
この曲の次に再生予定だった曲は『20100722-001342』と表示されている。これはマラが死亡した日時である。フォルダ名は20110221。これはメーン長浜が死亡した日である。アーティスト名やアルバム名などは無い。間違い無く問題の曲である。青葉は次の曲にスキップさせて、槇原敬之『天国と地獄へのエレベータ』になった所でカーナビの電源を落とした。
 
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青葉は耳栓を外した。他の人も外す。
 
「もし次の曲が再生されていたら死んでましたね」
と青葉が言うと
 
「きゃーーーー!!」
と立山みるくが叫んだ。社長も舞鶴さんたちも厳しい顔をしている。
 
「それって川上さんからの連絡が少しでも遅れていたら、カーナビを持っているのが、みるくちゃんではないかと気付いた社員からの連絡が少しでも遅れていたら、みるくちゃんが電話を取るのがあと2分遅れていたら、アウトだったということですね」
と社長。
 
「ひーーー!!」
と悲鳴を上げて、みるくは青くなった。腰が抜けてしまったようで、その場に座り込む。
 
「その再生直前に発見できたんだから、みるくちゃん、運が強いよ」
と浮見子さんが言うと
 
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「あ、そうそう。私って悪運が強いって小さい頃から言われていた」
と本人は言って、少しは気を静めたようである。
 

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「このカーナビはいつから使っておられました?」
と青葉は立山みるくに尋ねる。
 
みるくは浮見子さんから、気付けにワインを1杯もらって飲んだので何とか起き上がることができたようで、椅子に座っている。
 
「今年の2月に免許を取って、3月に中古車でモコを買ったんです。私、給料安いからとても新車は買えないので」
と言うと、社長が苦笑いしている。
 
「でも私って方向音痴なんですよねー。道に迷って撮影に遅れそうになってギリギリで飛び込んだりして叱られて。その時、カーナビ付ければいいよと言われたんですけど、お金無いしと言ってたら、誰が言ったか覚えてないんですけど、確か事務所の隅に古いカーナビが1個転がってたよということで、転がってるなら借りててもいいかなということで借りることにしたんですよ」
 
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「それがいつですか?」
「4月頭だと思います」
 
青葉は社長と顔を見合わせた。それはもしかしたら大堀さんが亡くなって間もない頃ではなかろうか。
 
「楽曲はいつもランダム再生ですか?」
「ランダムって?」
 
どうも立山ミルクは機械音痴っぽく、ランダム再生とシーケンシャル再生の違いもよく分かっていなかったようである。その付近の設定は変えてないと言うので、ずっとランダム再生のままだったようである。
 
「4月頭から1ヶ月以上、ずっとこれを使ってた?」
「はい。そうなると思います」
 
「その間に1度でも問題の曲が流れていたら、その日が立山さんの命日になっていたところでしたね」
と青葉。
 
「うっそー!!」
 
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「まあ、こういうのがまさに、知らぬが仏だろうね」
と春吉社長は腕を組んで言った。
 

浮見子さんがカーナビのSDカードを取り出してパソコンで何か見ている。その上で、スマホを出して何か計算しているっぽい。
 
「1月半、約45日間に、毎日2時間再生したとしてざっと1800曲。このカーナビの中に登録されている曲が1078曲なので、この1月半の間にDSに当たる確率は81%ありました」
 
と浮見子さんが言う ( 1.0-(1077/1078)1800= 0.8119 )
 
「きゃー!!」
と立山みるくがマジで悲鳴をあげる。
 
「生存確率2割を生き延びた訳だ」
と社長さん。
 
「やはり私運が強い?」
「うん、強い」
 
「ランダム再生だったから良かったね。シーケンシャル再生なら、確実に1度は回ってきていた」
 
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「ひぇーっ!!!」
 
今日はみるくは悲鳴の上げっぱなしである。
 

青葉は、浮見子さんがパソコンでそのSDカードを開いているついでに問題の曲の入っているフォルダをチェックさせてもらった。2010.6-7月の録音が記録されている。フォルダ内の曲は21曲で、最後の1曲が問題のDSである。
 
その後、社長は何人かの社員とメールのやりとりをしていたが、このカーナビはみんな少なくとも2月頃までは見てないという。以前長浜さんが使っていたのを覚えている何人かも、長浜さんの遺族が引き取ったのか、あるいは誰か他の人が使っているかと思っていたらしい。社長はここ数年の間に辞めた社員やタレントさんまで含めてこのカーナビを使っていなかったか問い合わせたが、使っていたという人は見つからなかった、
 
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社長のおごりで全員けっこう豪華な仕出しでお昼を食べ、少しした頃であった。
 
「社長、ツイッターにこんな書き込みがあるんですが」
と浮見子さんが言う。
 
「何だね?」
 
社長が青葉を手招きするので、青葉もそのメッセージを見る。
 
《ΘΘプロって常識の無い会社だな。カーナビの落とし物があったの見つけて、わざわざ送料掛けて送ってやったのに、その後、なーんにも音沙汰無し》
 
日付を見ると4月上旬である。
 
「これ、母が亡くなる少し前くらいのことではないでしょうか」
「ちょっと気になるね」
 
春吉さんはそのツイッターの発信者に
 
《ΘΘプロの社長、春吉でございます。そちら様が落とし物を拾ってくださったのに、何も対応ができておりませんで、大変申し訳ありませんでした。改めて御礼をさせて頂きますので、ご住所とお電話番号を教えて頂けませんでしょうか》
 
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と直信をした。
 
すると10分ほどで相手から反応があり、住所と携帯の番号を教えてくれた。社長はそのカーナビをどこで拾ったのか尋ねた。すると、新潟県の親不知海岸で拾ったと彼は言ってきた。彼は最初連絡した時、オオホリさんという人が対応したので、そのオオホリさん宛に送ったと言った。
 

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「社長、長浜さんが乗っていた車はもしかして外車でした?」
「うん。フィアットの左ハンドル車だよ。どうも川上君も僕と同じこと考えたようだね」
 
「はい。恐らく、長浜さんは運転しながらSDカードに入っていた曲を聴いていて、問題の悪魔の歌が再生されたのに驚いて、車を停められる所に停めた。しかしまともに聞いてしまったので、もう自分の死は免れないと悟った。それで、これ以上被害が出ないようにと、運転席の窓を開けてSDカードをカーナビごと海に投げ捨てた。そこで事切れた」
 
「うん、そういうことだろうね」
 
「それをこの人が偶然拾った。5年経ってますけど、その間にいったん海に流されていたのが、波に寄せられて海岸まで戻って来たのかも知れません。そして届けてくれたので、大堀さんが受け取り、そのまま電源を入れたら、問題の曲が再生されてしまった」
 
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「5年も海に沈んでいたら故障してそうなものだけど、悪魔の歌の作用が機械を生かしておいたのだろうね」
「だと思います」
 
「大堀は急に死にそうになって、これは今聞いてしまった曲が元凶ではと考えてカーナビからSDカードを抜いて焼却した。しかし、焼却したにも関わらずカードは復活したんだよ」
と社長。
 
「だいたいそういう状況でしょうね」
 
「この届けてくれた人は悪くないですよ。たぶんこのカーナビは中に入っていた問題の歌の作用で自ら、岸まで辿り着いたんだと思います。そしてその人が放置していても、きっとその内東京まで何らかの方法で辿り着いていましたよ。実際問題として、死んだのが母で良かったんです。社員さんが死んでいたら申し訳無いですから」
と浮見子さんが言う。
 
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「浮見子君にそう言ってもらうと、僕も少しだけ気持ちが楽になるよ」
と社長は言った。
 
今回の事件では春吉社長もかなり参っているようである。
 
青葉は、木倒家で回収したボイスレコーダーと、このカーナビをまた例の封印の場所に持っていって封印すると告げた。
 
「あのぉ、そしたら私のカーナビは?」
と立山みるくが言うので、社長が笑って
 
「新品をひとつ買ってあげるよ」
と言うと
 
「やった!」
と言って立山みるくは喜んでいた。
 

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春吉社長が「大堀君のことでちょっと」と言って、浮見子さんと青葉だけを別室に招き入れた。
 
「これターモン舞鶴君には言っていいかどうか迷っていてね」
と春吉社長は言う。
 
「実は浮見子君に言われて、例の大堀君の家で復活していた《SR楽譜集》を先日、川上さんが東京に来る前に、うちの調査部門に調べさせたんだよ。楽譜の譜面は絶対に見るなと厳命した上で、紙とSDカードについている指紋を分析させた」
 
「はい」
 
「楽譜については紙質の問題から指紋の採取は困難と言われた。しかしSDカードには3種類の指紋があった。そのひとつはメーン長浜君のもの、1つがキャッスル舞鶴君の指紋、もうひとつはあの場で触った八雲君の指紋。他の人の指紋は検出されていない。川上君は手袋をしていたからね」
 
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「はい。手袋するのは基本です。でもつまり大堀清河(さやか)副社長は触っていないんですね」
 
「うん。だからやはり清河ちゃんは、あの譜面またはSDカードで死んだのではなく、カーナビの方のを聞いて亡くなったのだろうね」
と春吉社長。
 
浮見子さんはじっと聞いている。
 

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「それとね。キャッスル舞鶴君が亡くなった時のことで思い出したことがあったんだよ」
 
「はい」
 
「あの時、警察が彼女の携帯をチェックしたら、亡くなったと思われる時刻の直前に5分間ほど通話していたんだよ」
 
「はい?」
 
「当時事務所の子にも事情聴取しているのだけど、その通話は元々事務所に掛かってきたのを、ステラジオ絡みだったので、事務所の子が舞鶴に照会して舞鶴が相手に掛け直したようなんだ。それで通話した相手について、警察も電話会社に照会して調査したみたいでね。通話中に舞鶴に変わった様子が無かったか確認するのに向こうの人とも話したみたい。それで相手の人に心当たりはありませんかと私も当時警察から尋ねられてね」
 
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「ええ」
 
「その時に相手の名前をメモしていたのが、こないだ出てきたんだよ」
 
と言って春吉社長が見せたメモに青葉は衝撃を受けた。
 
キトウ・ワサオ 080-****-****
 
と書かれていた。
 
「私も当時はステラジオ絡みで、木倒真良さんという人が亡くなっていたのを知らなかったからさ。でもこれって、あの真良さんの息子さんだよね?」
 
その関係は社長がこのメモに気付いてから調査させたのだろう。当然ワサオが死んでいることも社長は既に知っているだろう。
 
「そうです。舞鶴さんが亡くなったのって、何日でしたっけ?」
「2015年1月12日19-20時頃。その通話は19:14-19:19の5分間。だから警察はこの通話の直後くらいに亡くなったのではと推測した」
 
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と社長はメモを見ながら言う。
 
青葉もメモを見ながら確認する、
「ちょうどそのくらい時刻にワサオさんも亡くなっているんですよ」
 
「ああ、やはり同時くらいか」
 
ワサオが鉄骨の下敷きになっているのは通りがかりの人により19時半頃発見されている。しかし工事関係者が19:10頃に現場に異常が無いことを確認している。またワサオはすぐに病院に運ばれ、医師は30分程度以内に死亡したものと推定したことを、青葉は昨夜カタリさんから聞いている。
 
「警察の人は当時実際にはお母さんか誰かと話したのではないでしょうか」
「そうだろうね」
 
「これをどう推測する?」
と社長は青葉に投げかけてくる。
 
全く、今回はまるで探偵だよ!と思いながら青葉は答えた。
 
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「いくつかの考え方がありますが、ひとつの考えは、ワサオさんは自分が死ぬ前にこの曲をこの世から消そうとして手元にあるデータも捨てるか焼却した上で、舞鶴さんにそちらには残ってないか確認してもらおうと思い、連絡した。ところが舞鶴さんはこの曲にまつわる因縁を知らなかったし、ワサオさんの話もあまり信用せずに、どんな曲なのか確認しようと思って再生してしまった。聴くだけで死ぬ曲なんて話は普通信じませんし、万一やばそうだと思ったら途中で止めればいいと思ったのではないでしょうか。ところがこの曲は恐らく最初の数秒が流れると、最後まで再生を停められなくなるんですよ。それでワサオさんも電話越しにそれを聴いてしまって、双方同時に死亡した」
 
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と青葉は話した。
 
「川上君、君って性善説だね!」
と春吉社長は言った。
 
「だったら、僕もそういう解釈にしておくよ」
 
と社長は言い、浮見子さんも頷いていた。
 
 
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