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■春社(4)
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青葉は4月15〜17日には東京に行ってきて、ステラジオのマネージャー連続怪死事件を解決した。
その事件に関して亡くなったステラジオのマネージャー大堀さんが自宅で使用していたパソコンが複雑にパスワードが掛かっていてデータが取り出せないということであったので、青葉はそのパソコンを預かって事務所に持って来た。
16日夕方、事務所の若い人が新しいハードディスクを1台買ってきて作業を始める。まずはそのハードディスクをUSBケーブルでつなぐ。
本体ディスクの中のファイルは、50組のアーティストに関する様々なデータ、一部は未発表曲のCubaseのデータなどもあったが、各アーティストごとに別のパスワードが設定されていたのである。
青葉はそれぞれのパスワードが各アーティストの作品名をある規則で変形させたものであることに気づき、それで事務所の人から曲名のリストをもらい、だいたい「これかな」と見当を付け、その曲名からパスワードを作ってひとつずつ解除しては新しいディスクにコピーした。何度か試行錯誤する場合もあったが、だいたい3回目くらいまでには「当たって」解除できた。
作業はその日22時までやった所で
「いったん休憩しましょう」
ということになり、翌日また朝8時から再開する。このアーティスト関係のデータの処理が14時頃まで掛かった。
それ以外に個人的なデータが入ってる。どうも写真のようなので、この件については娘さんの浮見子さんに来てもらった。彼女は今日は露出度の高い服を着ていて、青葉は目のやりように困った。この格好で電車に乗ってきたのだろうか?それとも自家用車か??と思っていたら、ターモン舞鶴さんがそのことを尋ねる。
「浮見子ちゃん、凄い格好で来たね?電車」
「電車ですよ〜。なんか今日は凄い視線を感じました」
「感じるだろうね!」
「今日は都内のスタジオで写真撮影してたんですよ。撮影用の衣装なんですけどね」
「ああ、そうなんだ」
「カメラマンの方が、それ家から着てきたの?と言ってましたけど変ですかね」
「うーん。。。浮見子ちゃんがよければそれでもいいかも」
「そうそう。今日のカメラマン助手の子が可愛かった」
「へー」
「タレントさんとかになる気無い?と言ったら興味あると言ってたから、今度事務所に呼ぶようにしたんですよ」
「おお、スカウトしてくれてる」
「男の娘ですけど、別にいいですよね?」
「可愛ければ問題無い」
「了解了解」
それでやっと本題になる。
「お母さんの思い出の場所とか、好きだったものとか、あるいは飼っていたペットの名前とかあったら教えて欲しいのですが」
それで青葉は彼女が思いつくもので解除を試みるもなかなかうまく行かない。
青葉もさすがに腕を組んで悩んでいたのだが、ふと思いついた。
I LOVE FUMIKO SATSUKI HANAE
と打ち込むとフォルダを開けることができた。
「おお!」
と見ていた社長が声をあげる。
「お子さんたちの名前だったのか」
とターモン舞鶴さん。
「お母さん・・・・」
と浮見子さんは涙を浮かべていた。
中はF S H P Xという5つのフォルダに分かれており、各々浮見子さん、五月さん、英恵さん、親族、そして別れた御主人絡みの写真が入っていた。
この家族の写真はUSBメモリーにコピーして浮見子さんに渡し、サルベージ作業は完了した。
青葉は17日の最終新幹線(東京21:04発)で高岡に帰還した。
18日(月)。夕方17:17頃に司法書士さんから連絡があり、17:12に法人登記の申請をしたということであった。2016.4.18 17:12 なら数理は6であり、会社の数理としては最高である(営利企業は4-6, 研究所や教育機関は7-9が良い)。基本的にはホロスコープ優先で数理はあまり重視していなかったのだが、幸先が良いなと青葉は思った。
なお登記完了はこの時期混んでいることもあり、4月28日(木)になるということであった。青葉はその日に登記事項証明書を取り、また会社実印を登録して、その印鑑証明書を取ってくれるよう依頼した。
23日土曜日、先日のステラジオの件で、最初の犠牲者となったスナック経営者の男性との補償交渉の場に同席することになった青葉は、その亡くなった男性の父親にあたるスイミングクラブのコーチさんから、思いがけず30年ほど前の悲恋物語のことを聞いた。
ところが翌々日の25日には大学構内で偶然遭遇した中川教授から、それとは全く違う話を聞き、ようやく青葉は水泳部事件の真相にほぼ到達することができた。
28日、司法書士さんから連絡があり、会社の登記が完了したこと、印鑑登録もして登記事項証明書と印鑑証明書を取って来たという報告を受けた。
これで青葉も「社長」である。
「今日中に税務署と高岡市と社会保険事務所への届けもしておきますので、数日中に税務署から法人番号指定通知書が会社の登記住所に送られると思いますので」
そのあたりは提携している税理士さんや社会保険労務士さんと連携して作業してくれるようである。提携している税理士さんというのは、青葉がこれまでも頼んでいたJ税理士事務所である。
「分かりました。ありがとうございます」
法人番号の通知書が届かないと(銀行によっては)法人口座を開設できないのである。結局銀行口座の開設は連休明けになるなと青葉は思った。
5月2日、青葉は水泳部事件の「ホンボシ」と対決することになった。相手のパワーが思いがけず強く苦戦したものの、最後は千里や美鳳の介入で何とか倒すことができて(恐らく)100年くらいの因縁を解消し、マソも成仏させてやることができた。
その件を翌3日、圭織に報告したのだが、ここで青葉は大きな誤解をしていたことに気付く、今回の一連の事件で、てっきり「最初に死んだ」と思い込んでいたジャネさんは実際には死んでおらず、意識不明のまま1年間入院中だと言うのである。
青葉は彼女の回復に何か力になれるかも知れないと思い、圭織と一緒に病院に行く。そして青葉の「霊的な治療」の結果、彼女は1年ぶりに意識を回復することになる。
そして彼女の口からジャネは自殺を試みたのではなく、木倒さんに突き落とされたこと(無理心中未遂)であったことが判明した。そして木倒さんの方こそ自殺であったことが、警察の事情聴取に対して彼のお母さんが、公開していなかった遺書が存在していたことを告白して判明。警察はその内容から、ジャネさんを突き落としたのが木倒さんであったことを断定した。木倒さんのお母さんはジャネさんの病院に行き、本人とご両親の前で土下座して謝罪した。
5月6日(金)。青葉は千里から借りていた2100万円を千里の口座に振り込んだ。2月に車を買うのに借りた200万円、3月に税金を払うのに借りた1200万円、それに先日会社設立の資本金用に借りた700万円の合計である。
3月〆の印税は5月2日(月)に振り込まれていたのだが、2日の日は壮絶なバトルをしていたので、とてもそこまで作業する余裕が無かったのである。
その日の夜遅く、千里から電話が掛かってくる。
「お金、確かに返してもらった。ありがとう」
「こちらこそ。本当に助かった」
「会社の設立は終わった?」
「終わった。あとは法人番号を税務署からもらった上で銀行口座を作れば、一通りの作業は終わりかな。あと、もう少し細かい手続きがあるけど」
「色々大変だろうけど頑張ってね」
「うん。ありがとう」
「でも2日の日はありがとう。本当に助かった」
と青葉は言った。
「ああ。あれは私じゃないから」
「ちー姉の眷属さんが倒してくれたんだよね?」
「まさか。あんなのそんじょそこらの僧兵とか龍とかに倒せるもんじゃない」
と千里は言う。
僧兵ね〜。龍ね〜。
と青葉が頭の中で千里の言葉を反復すると、《海坊主》が『ん?』という顔をしている。
「じゃ・・・誰がやったの?」
「あれは瞬嶽さんの能力だよ」
「師匠の!?」
「パワーとしては土地の神様の力を借りている」
「神様でないと無理かもと思った!」
「何が出てくるか考えずに封印開けちゃうなんて、青葉もわりと無謀だね。人間が航空機に立ち向かったって勝てないよ」
青葉はドキッとした。その飛行機のたとえは生前の瞬嶽から言われていたことである。
「私、瞬嶽さんのパワーとか呪法とかをいくつか預かっているから、その中のひとつを使わせてもらった。周囲の自然の《気》を自らがレンズになって集中させ相手を倒す。だから凄い風が吹いたはず」
確かに・・・凄い風だった。
「瞬嶽さん、まだ90歳とか100歳の頃はそれでイノシシ倒して食料にしてたみたいよ」
「実用的な呪法だ」
「霞を食べて暮らすようになったのはここ10年くらいだったかもね」
「ふーん。でもそれって、使える修行をしている人にしか使えないのでは?」
と言いつつ、青葉は千里姉が実際問題としてかなりの修行を積んでいるのではと想像していた。
「青葉はその前提修行が済んでいたからね。あれは***法というものだよ」
青葉は緊張した。その名前は聞いたことがあったものの、実態は知らなかった。
「青葉に伝授しちゃったからね。気を付けて使ってね。ビルの1個くらい簡単につぶせるから」
って・・・つまり、あれは結局私が倒した訳〜?うっそー。
「かもね」
「ただし、力加減を考えて使わないと、全力出し切ったら、使った後3ヶ月くらい寝込むことになるから。運が悪いと自分が死ぬ」
「だろうねぇ」
と青葉はため息をつきながら言った。
「今回は明治時代に始まった、たかが幽霊4〜5匹の集団だったから、青葉も私も大して消耗せずに済んだ」
そのくらいの集団だったのか・・・自分には相手の強さがどのくらいかがよくは分からなかった。修行不足だなと青葉は思った。
「青葉が使えるようになったから、これで***法を使える人は日本国内で3人になった」
「あと2人は誰?」
「羽衣さんと虚空さんかな」
青葉は腕を組んで沈黙した。
その日青葉が帰宅すると、税務署から法人番号指定通知書が届いていた。それで、司法書士さんと連絡を取り、明日一緒に銀行に行って口座開設の依頼をすることにした。銀行によってはひとりで行ってもなかなか作らせてくれない所もあるらしいのである。
それで青葉は明日は美由紀たちを金沢まで送れないことを3人にメッセで送っておいた。
5月10日(火)。朝から霧川司法書士と待ち合わせて、H銀行の伏木支店に行く。青葉の個人口座もあり、また登録している事務所住所(自宅)に最も近いので最も適切な開設場所である。
青葉が窓口で法人口座を作りたいと言うと、窓口の人が後ろの方にいる上司に確認するのに席を立とうとした所で、その前に先日個人口座を作った時に対応してくれた副支店長さんが出てきた。
「川上様、今日はどういうご用件ですか?」
と笑顔で言う。ちゃんと名前を覚えているのは偉いなと青葉は思った。商売をしている人の中には時々このように1度会っただけで顔を覚えてしまう人があるのである。
それで株式会社を設立したので法人口座を作りたいと言うと、頷き、青葉が提出した書類を見て
「資本金800万円ですか。分かりました。すぐ手続きを致します」
と言って法人用の口座開設申し込み書を渡してくれる。
「作るのは普通預金ですか?当座預金ですか?」
「普通預金で。今の所小切手とか使う予定はありませんので」
「分かりました。必要になったらまたご相談下さい」
会社名や代表者名を書き、銀行印を押して提出する。30分ほど待たされたものの、特に問題無く口座開設は行われ、通帳をもらう。
「この口座のキャッシュカードは後日、御登録の住所に簡易書留で郵送致しますので」
「はいお願いします」
ということで、青葉の会社の銀行口座は無事作ることができた。
世間では会社を作っても法人口座の開設を断られ、やむを得ず社長の個人口座で取引をしている会社も結構あるようなので、青葉の場合は物凄くうまく行った例のようである。また法人口座を申し込むと色々審査をして口座開設までに半月くらい掛かる場合もあるという。今回は即日作ることができた。
「私は特にすることなかったね」
と司法書士さんが言うが、
「いえ。一緒に来ていただいて、桐のバッヂを付けている人がそばに座っていただけで絶対、銀行側の態度が変わったと思いますよ」
と青葉は言った。
司法書士のバッヂは銀色の地に金色の「五三の桐」である。
「まあそれはあるかもね。僕らの役割の大半は実はそういう権威付けだから、そういうので役に立ちそうな場面があったらいつでも使って下さい」
と霧川さんは笑っていた。
なお、銀行口座は地銀だけでは不便なので、SBI住友ネット銀行にも開設することにした。この銀行の場合は「他行に開設した通帳のコピー」が開設申し込みに必要なので、どこかの銀行で口座開設に成功していないと、法人口座を作ることができない。
この日青葉は午後から学校に出たので帰りは美由紀と世梨奈を乗せて帰った。
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