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■春社(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-07-31
 
洋彦が、現地にいる春彦(山彦の息子)と電話連絡した所、レンタル代は出すから、8人ならエスティマかアルファードの8人乗りを借りて欲しいということであった。それで空港そばのトヨレンで訊いたところエスティマ・ハイブリッドの8人乗りが借りられるということであったので、借りて千里のカードで決済した。
 
千里がカードを見せた時にトヨレンの係の人が一瞬ギョッとした雰囲気があった。洋彦も言う。
 
「千里ちゃん、凄いカード持ってるね」
「ああ、これですか? 銀行の人がぜひ作って下さい。初年度の年会費はサービスしますからと言うんで作ったんですけどね〜。来年からの年会費が頭痛いから1年で解約するかも」
 
「ああ、年会費が恐ろしそうだね」
 
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「皆さんお疲れでしょう? 僕が最初は運転しますよ」
と彪志が言って運転席に座る。すると当然青葉が助手席に座り、2列目に洋彦・恵奈・朋子、3列目に千里・桃香・月音と座って出発した。この間、千里も桃香も朋子もひたすら寝ていた。みんなチケットの手配で遅くなり寝不足であった。
 
高速を降りた所で近くにあったローソンで休憩し、その後は千里が運転席に座って車を出した。千里が運転席なので当然桃香が助手席に座り、2列目に月音・朋子・恵奈、3列目に青葉・彪志・洋彦という配列になった。
 
「この人数だと座り方で悩むかと思ったけど、なんか自然に席順が定まるね」
と洋彦。
「きっとうまい組み合わせになっているんですよ」
と桃香は言っていた。
 
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通夜・告別式が行われる斎場に到着したのは14時頃である。早速青葉・千里・朋子・月音は「何か手伝うことありませんか?」と佑子さん(春彦の妻)に声を掛け、各々準備作業に入る。彪志はおろおろしている内に芳彦さんから
 
「お、なんか元気そうな男の子がいる。僕のを手伝って」
と言われて、力仕事に動員されていた。
 
洋彦と恵奈は桃香と一緒に親族控え室に行く。すると、夏彦さんと貞男さん(秋子の夫)が居てビールを飲んでいた。
 
「おお、洋彦おじさん、遠い所からお疲れ様。桃香ちゃんも大きくなったね。もう20歳過ぎた?」
などと夏彦さんが言う。
 
「ええ、過ぎました」
「じゃビール飲む?」
「頂きます」
 
と言って、よく冷えたキリン・ラガービールの缶を勧められる。
 
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「おお。ラガー大好きです」
と桃香は笑顔で言って夏彦からビールを受け取り、開けてごくごくと飲む。
 
「美味し〜い!」
「おお、いい飲みっぷりだね。どんどん行こう」
 
ということで、桃香は「飲み組」の仲魔!?になってしまった。
 
洋彦も「俺もビール飲もうかな」と言ったものの「あんたの葬式も一緒にすることになりたいのなら別だけど」と恵奈から言われ、名残惜しそうにドイツ産のビールテイスト飲料Beckersを貞男さんから受け取って飲み始めた。洋彦はもう5年以上禁酒している。
 
「でもまだあまり来てないのかしら?」
と恵奈が言う。
 
「うん。あんたたちが1着」
と夏彦は言っていた。
 

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青葉や千里たちが到着したあとすぐに、博多組と平戸組が到着した。平戸組の長男・健伸(高校1年)をのぞけば、中学生以下の子供が多いので、健伸君だけ準備作業に加わり、他の子は控え室で、コーラやジュース、またおやつなどをもらっていた。また萌枝さんは道程でかなり疲労したようで「少し休ませて」と言っていたものの、その旦那さんの学さん、また芽依さんと旦那さんの太一さんは準備作業に参加した。
 
結果的にはこの14時前後に着いたメンバーでほとんどの準備作業は進められた。
 
「通夜は何時から始めるんですか?」
「18時半頃と言っといて。北海道や与那国から来る人たちが多分その頃の到着になるから」
 
実際の弔問客は17時頃からポツポツと来始める。千里は町内会の30代くらいの女性、横山さんという人と一緒に受け付けに立ち、その人たちを迎えた。香典の封筒を渡されると名前が書かれていることを確認してビール券入りの会葬御礼を渡していく。議員秘書さんが名刺だけ持ってきたのは、単純に受け取るだけである。お米を2-3kg持って来た人、他にタケノコのでかいのを2つ持ってきた人、他にも野菜など持って来た人がいたが、横山さんと視線を交わした上で名前を尋ねて紙を貼り付けた上で、ふつうに会葬御礼を渡した。
 
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少し客が途切れたところで、横山さんが千里の数珠を見て
 
「なんか凄い数珠ですね」
と言う。
 
「ええ。私、戒名を頂いているものですから、それに前後して作ったんですよ」
と千里は答えておく。
 
実際にはこの数珠を佳穂さんから(千里用・青葉用・桃香用の)3種類セットでもらったのは2011年4月であるが、瞬嶽から「瞬里」という名前をもらったのは同年7月のことである。
 
青葉は知らないことだが、この数珠には佳穂さんによれば「セルフ・トレーニング・システム」が組み込んであって、この数珠を持って日常的に使っていると自然に自分の力量ギリギリくらいの事件に出会っていくので、10年くらいで一人前の霊能者になるらしい。もっとも千里も桃香もほぼ放置しているので、そのトレーニング・システムに鍛えられているのは青葉だけである(多分)。
 
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「へー。凄いですね。じゃ、お経とかもたくさん唱えられるんですか?」
と横山さんが言う。
 
「それが私、お経は大の不得意で。私、本来は巫女なんですよ。ちょっと本山の偉いお坊さんに気に入られて戒名は頂いたのですが。ですから私がお経を読むと、祝詞に聞こえるんです」
 
「それ聞いてみたい!」
「じゃ後で」
 

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通夜が長引いていたので、秋子さんと笑美さんに芽依さんの3人が話し合って高校生以下は旅館に帰そうということになる。
 
それで芽依・安子・幸恵・愛の4人が付き添って子供たちを旅館に連れていくことにする。
 
「何人いるんだっけ?」
「15人かな」
「かなり居るわねぇ」
「バス使う?」
「でも誰が運転する? 来彦さんは席を外せないよね」
「うん」
 
そんな話をしていら、それを聞いた桃香が
 
「あ、うちの千里が大型免許持ってますよ」
と言う。
 
「あら、凄いわね」
「千里さん、お願いできる?」
「はい、いいですよ」
 

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それで千里は子供たちを乗せて、芽依さんたちも一緒に旅館までバスを運転した。安子さんだけは赤ちゃん連れなのでベビーシートをセットしている自分の車で伸子ちゃんを運んだ。安子さんが結構飛ばすのに対して千里は速度遵守で行ったので途中で離れてしまう。ところが旅館に着いたのは千里が先だった。
 
「着きましたよ。お疲れ様」
「あら、ここ以前来たことあった?」
「いいえ。でもここですよね?」
「うん。私ったら道案内するつもりがうっかり忘れてた」
「言わなくてもたどり着けるって凄い」
 
そんなことを言いながら子供たちを降ろしていた時、安子さんが着いた。
 
「あれ?先に行ってたと思ったのに」
「参ったぁ。スピード違反で切符切られちゃった」
「ああ。可哀相に」
「成明に叱られる〜」
「こっそり反則金払っておけばバレないよ」
 
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愛さんと幸恵さんは子供たちが小さいので一緒の部屋で付いていたものの、芽依さんは小4・小2・年長なので、子供たちがすぐに寝たこともあり、富山組に割り当てられている部屋で休んでいた千里を呼びに来た。それで一緒に安子さんの部屋に行き、そこで長時間おしゃべりをしていた。
 

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22時半頃、旅館を出てバスを出し、斎場に戻る。そちらはちょうど通夜振る舞いが終わった所で、片付けなどをしていた。千里もすぐヘルプに入ろうとしたものの、横山さんに捕まってしまう。
 
「千里さーん、さっき言ってた《祝詞風のお経》聞かせてください」
 
「そうですね。じゃ失礼して」
と言って千里は般若心経を唱え始める。
 
おしゃべりなどしていた人がみんなそれをやめて千里の方を見る。周囲の視線を集中的に浴びている中で、千里は半分ヤケクソで、心経を唱えていった。かなりの人が笑っていた。横山さんはもう我慢できずに笑い転げている感じであった。
 
「すごーい」
「こんなの初めて聞いた」
「これぞ神仏混淆?」
 
咲子まで
「凄くいいものを聞いた。あの人が生きている内に聞かせたかったくらい」
などと言っていた。
 
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山彦などは呆気に取られていたようである。
 

だいたいの片付けが終わった所で、地元の人たちにお疲れ様を言い、遠くから来ている親族は千里が運転するバスに乗って旅館に移動する。
 
だいたい親族関係の1家族ごとに部屋が割り当てられている感じで、朋子・桃香・千里・青葉・彪志の5人は「富山組」として1つの部屋が割り当てられていた。
 
「青葉と彪志は端の布団を使うといい。他の人の安眠妨害をしない程度に」
と桃香は言っていたものの
 
「すみません。体力の限界です」
と言って彪志はいちばん端の布団に入ると、そのまま眠ってしまった。
 
朋子も「ごめん。私寝不足」と言って反対側の端の布団で眠ってしまう。それで桃香が「じゃ3人で飲み明かそうか」と言ったものの、ビールを1本持って来てふたを開けて1口飲んだところで「うっ」と声を挙げる。
 
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「どうしたの?」
と千里が訊く。
 
「何だか身体がアルコールを拒否する」
「それって飲み過ぎということでは」
「仕方無い。寝よう」
 
と言って、朋子の隣の布団に行くと、そのまま眠ってしまった。
 
「この開けちゃったビールどうする?」
「私がもらうよ」
と言って千里は美味しそうにキリン・ラガービールを飲んだ。
 
千里と青葉はそのあとお風呂に行ってきてから、2時頃までふたりで話し込んでいた。
 

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翌朝は7時から旅館の大広間で朝食となるが、この場で「帰り方」について話し合いがもたれた。それでJR組と飛行機組に分かれ、JR組は中村駅が斎場の送迎バスのサービス範囲なので、それで送ってもらい、飛行機組は昨日高知空港でレンタルしたバスで移動することにした。結果的にエスティマが余ってしまうのだが、これは芽依さんの提案で「いちゃいちゃ組」青葉&彪志と、満彦&紗希の4人が使うことになり、4人は早めに送り出すということになった。
 
朝は山彦さんがバスを運転して1往復半し、旅館に泊まっていた人たちを斎場まで運んだ。
 
千里は第1便で移動して、笑美さんを手伝い精進落としの料理の準備などを手伝った。煮染めを作る作業を芳彦さんの彼女の舞耶(まや)さんと一緒にした。
 
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「桃香ちゃんの彼女でしたよね。富山に住んでるんですか?」
と舞耶が訊く。
 
「いえ。桃香が地元から離れて関東の大学に出てきたんで、そのまま居座って今は東京都内の企業に勤めているんですよ」
 
「ああ、そうでしたか。富山組ということになってたみたいだから」
「まあ分類が大雑把ですね。舞耶さんも高知組に分類されてたけど、言葉が四国の人じゃないみたい」
 
「芳彦が大阪の大学に入って、そのまま居座ったもので」
「まあだいたいそうなりますよね」
「でも大阪の会社に入ったと思ったら即岐阜に飛ばされて」
「サラリーマンに転勤は宿命ですもんね〜」
 
「それで岐阜で私と知り合ったんですよ」
「ああ。岐阜の方でしたか」
 
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「千里さんも桃香さんと東京で知り合ったんですか?」
「ええ。大学の同級生だったんですよ」
「なるほどー。出身は・・・北海道?」
 
「すごーい。よく分かりますね」
「関東の言葉と似てるけど、微妙なイントネーションの違いがある感じで」
「概して北海道の人は自分たちは標準語を話していると思っています」
 
「ああ。そういう地域もありますよね。お仕事はなさってるんですか?」
「あ、名刺あげておきます」
と言って千里は舞耶にレッドインパルスの名刺を渡す。
 
「すごーい。バスケット選手ですか!」
「一応プロ選手のはしくれですね。給料安いけど」
「ああ。バスケットは確かに給料安そう」
「プロスポーツで、まともに食っていけるのは、たぶんプロ野球とかサッカーのトップクラスの選手くらいですよ。それも男子のみですよね」
 
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「ですよね〜」
「女子バスケはそもそも大して観客の入らないような会場でやってることも多いし。大きな会場は料金も高いから」
「なるほど〜」
 
「舞耶さんは何かお仕事なさってるんですか?」
「ギシ製作所に勤めているんですよ」
と舞耶さんはこちらを試すように言う。
 
「義肢ってプロステーシス?」
「よくご存じですね〜」
 
「まあ色々なプロステーシスがありますよね。手や足、指だけのもあるし、おっぱいとか、おちんちんとか。白内障の手術に使う人工水晶体もプロステーシスの一種ですよね」
 
「詳しいですね! でもうちは、水晶体とかおっぱいやおちんちんの義肢は作ってないです。おちんちんも義肢というのかな?」
 
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「男性は真ん中の足とか言ってますね」
「確かに言ってる!」
 
「私の知り合いの男性で、ペニスを失ってプロステーシスを検討したことのある人もいたので」
「わあ、男の人がペニス失うのは辛いでしょうね」
「自分が無くなってしまったような気がしたと言ってました」
 
「なるほどー」
「結局その人は移植手術を受けてペニス復活したんですけどね」
「移植なんてやるんだ! ドナーは?」
「お父さんが自分はもう使わないからと言ってあげたんですよ」
「へー。凄い愛ですね」
「それでお父さんの方がプロステーシスをつけたんですけどね」
「なるほどー」
「息子に息子を移植してやった、と本人はジョーク飛ばしてたらしいです」
「余裕がありますね。でも移植したペニスってちゃんと機能するもんなんですか?」
 
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「問題無いらしいです。手や足に比べたら随分単純な器官だもん。普通に性的に興奮すると勃起して、ちゃんとセックスに使えるそうですよ。別におちんちんを動かして物をつかんだりはしないし」
「それできたら凄い」
「テレビに出られますね」
「放送できませんよ!」
「あ、そうかも」
 
「でも手術のあと傷が治るまでは勃起禁止だったらしく、できるだけ性的に興奮しないように気をつけていたらしいです」
「それも辛そう」
「女性ホルモンを処方したら立たないけど?と言われて、我慢しますと答えていたとか」
「女性ホルモンを摂れば永久に立たなくなったりして」
 
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