広告:オトコの娘コミックアンソロジー-奈落編-ミリオンコミックス-OTONYAN-SERIES9
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■春社(14)

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そこで目が覚めた。
 
ハアハア息をしていたら、
「大丈夫?」
とナミが心配そうに言った。夜中だが、ナミはニコ動のトーク系番組を見ていたようである。
 
「あ、うん」
と曖昧な答えをしてから股間に触る。
 
良かったぁ!おまたには変な物は付いてない!!
 

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夜中ではあるが、気分転換にお風呂入ろうよとナミが言うので、一緒に大浴場に行った。結構人の声がすると思ったのだが、どうも男湯の方に団体客が入っているようだ。あるいは夜遅く到着したのだろうか。
 
女湯の方は誰も居ないようである。ふたりでおしゃべりしながら服を脱ぎ、一緒に浴室の方に移動する。浴室に行ってみたら、浴槽に1人先客が入っていた。ああ、1人いたのかと思いながら、洗い場の方に行こうとしたのだが、その時、浴槽にいた人物がこちらを振り向く。
 
「きゃっ」
とホシとナミは小さな悲鳴をあげて反射的にタオルで身体の前面を隠した。
 
「水下さん?」
と言ってホシは顔をしかめる。
 
「やあ、君はクラバ君だったっけ?」
「クラベですけど。なぜ水下さんが女湯に入っているんです?」
 
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「男湯に入るつもりだったんだけどさあ。なんか飲んべえの集団でうるさくて。ゆっくり瞑想にふけってられないと思って、念のため女湯のほうをのぞいてみたんだよ。誰かにとがめられるかもと思ったけど、誰もいないみたいだし。夜中だから、こんな時間に入る女はいないんじゃないかと思って、こちらに入った」
 
「通報しますよ」
とホシが厳しい顔でいう。
 
「勘弁、勘弁。すぐあがるから」
と言って水下は湯船からあがり、脱衣場の方に行った。
 
男性器があらわになる。
 
ホシは男の人のって、あんなに巨大だったんだっけ? と思ってそれを眺めていた。高校時代にセックスした時は、相手の性器をしっかり見る余裕もなかった。それでホシはよくあんな巨大なものが、あそこに入るもんだなあと、今更ながら考えていた。
 
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「ねえ、マジで通報しなくていい?」
とナミが訊く。
 
「うーん。。。。年寄りだし見逃してやるか」
とホシ。
 
「でもさ、おちんちんってあんなに大きなものなんだっけ?」
とナミ。
「実は私も思った!」
とホシは笑い顔になって言った。
 

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身体を洗った後、湯船につかり、たわいもないおしゃべりをする。高校時代まではこういう女の子同士のおしゃべりって苦手だったなあ、と昔のことを思い出す。でもナミとなら不思議といくらでも話題が出てくる感じだ。
 
こういう感覚になれるのは、ナミと以前担当してくれた八雲さんだけである。ホシは八雲さんが実は「仮面男子」で女装の常習犯であることを知っている。ナミとふたりでおだててツアー先で女装させてみたら、ふつうに女にしか見えなかったので、すっごーいと驚いた。ホシはそれまで持っていた「女装男」のイメージを変えることになったのである。
 
しかし・・・・
 
ホシはナミとおしゃべりしていても、最近悩んでいる問題については気が晴れない感じであった。
 
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ホシは悩んでいた。
 
ここには「アルバム制作中」という名目で来ている。来てから1ヶ月経つので精神的には結構落ち着いてきた気もするし、自分としてもまた少し曲を書こうかなと思っているものの、全く書けないのである。
 
ナミは
「あまり悩むことないよ。これまでだって数ヶ月書けない状態が続いたあと、ドドドっと10曲くらいできちゃったことあるじゃん」
 
と言うものの、ホシは自分はもう2度とまともな曲を書けないかも知れないという気さえしていた。
 
曲のモチーフを書いていたら、何だかそれが異常な旋律のように思えてしまうのである。詩を書いていても、尋常ではない気がして、丸めて捨ててしまう。
 
自分が薬物の影響でこの詩や曲を書いているのではないかという気がしてしまい、それで人が死んだりしないだろうかと怖くなって中断する。
 
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薬に溺れていたのはほんの数ヶ月だ。そして薬をやめてからもう7年になる。それでも当時のことを思い出すと自己嫌悪に陥る。
 
フラッシュバックも薬抜きのための入院の後では1度起きただけで、もう6年起きていないが、念のためホシは車の運転を控えている。運転はマネージャーさんか、あるいはナミに頼んでいる。
 
自分の生理が止まってしまったのも、根本的には薬のせいなのかも、ともホシは悩んでいた。
 

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5月15日朝。都内のホテルで目を覚ました千里は「同室の人」がまだ眠っているのを放置して自分だけ出かけ、朝一番にレンタカー屋さんに入り、予約していた福祉車両を借り出した。
 
ジャネさんや青葉たちが泊まっていたホテルまで行き、4人を乗せて神奈川県の某大学まで行く。そしてここで行われていたBlind Basketballの試合を見せた。
 
ジャネさんは、目が見えない人たちがこれだけプレイできるとはと感動し、自らの競泳復帰に強い意欲を持ったようであった。
 
ハーフタイムに千里は青葉にこの試合に参加していた鱒鷹さんを診せた。
 
「どう?」
「視覚神経は生きてますね」
「ああ、やはり」
「網膜がかなり痛んでいるけど、これは少し改善できると思う」
と言って青葉はずっとヒーリングをしていた。
 
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「なん目の奥が冷やされるような感覚がある」
「これで少しは視認能力があがると思います」
と青葉。
「継続的にセッション受けたら、もう少し回復する?」
「保証はできませんけど。網膜の能力が少しでも回復すれば、あとはお医者さんのお仕事になります」
 
「それ、ぜひセッション受けたい」
 
「富山まで来ていただけるなら、月に1回くらいのサイクルで予定を入れますが。ただ1年くらいやってもあまり効果が出ないようなら諦めて下さい」
と青葉は必ず最初に最悪のケースを伝える。
 
「回復する可能性に賭けてみる。富山まで行きますから、ぜひしてください」
 
そういうことで鱒鷹クムカは青葉のセッションを当面の間毎月1度受けることになった。
 
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試合が終わった後は、大学の学食で少し休んでから、借りた福祉車両を運転して新横浜駅まで行く。ここで千里は車の運転席に鍵を置いたまま降りたが、朝の内に分離して新幹線で移動してきていたOL風に女装した《こうちゃん》がすぐにその車に乗り、千里や青葉たちが駅構内に入ったのを見て、車を出した。そのまま東京まで戻り、福祉車両を返却する。
 
駅構内で千里は青葉に、駅弁・お茶・おやつなどの購入を頼み、その間に自分はみどりの窓口で岐阜羽島までのグリーン乗車券を5枚買った。
 
この時、自分に用事を言いつけてその間に何かするのではと感じた青葉が眷属の笹竹を残し、笹竹はじっとこちらを見ていたが、実は鍵の眷属への受け渡しは、車そのものに鍵を置き去りにする方式で既に済ませていたし、《こうちゃん》の分離もそもそも青葉と会う前に済ませていた。
 
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かくして笹竹は「千里さんは何も怪しいことしませんでした」と青葉に報告することになり、青葉は自分の眷属が気付かないような高等魔術を使って何かをしたのではと疑ったようであるが、実は青葉の心理的な隙を突いただけである。
 
術者同士の「化かし合い」は、実は術そのものより、この手の駆け引きの部分が大きい。そして青葉はこういうものがまだまだ甘いのである。
 
ちなみにこの日、《きーちゃん》は《せいちゃん》と一緒に名古屋でローズ+リリーのライブに関する作戦実行中である。
 

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5人で新幹線で移動し、岐阜羽島で降りると、そこに舞耶さんが会社所有の福祉車両を持って来てくれていた。彼女の運転で、舞耶さんが勤めている、義肢製作所に行った。
 
ジャネ母娘にも、青葉にも内容は言っていなかったので
 
「これは・・・・」
と驚いている。
 
「事前に内容をお知らせして打診しておくべきだったのですが、電話などではなかなか伝わりにくいので、直接実物を見て頂いた方がいいと思いまして」
と千里は言う。
 
「もし良かったらこれをちょっと填めてみてもらえませんか?」
とスタッフの人が右足用の義足を見せる。
 
「あ、はい」
と言ってジャネが右足を出す。
 
「ちょっと待って下さいね。調整しますから」
と言ってスタッフさんはジャネの足の末端に保護用の弾力包帯を巻いた上で、3Dスキャナでスキャンし、そのデータを元に自動掘削機で、用意していた義足の接続部の形を再調整した。それで足の末端に填めると
 
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「すごい。ピッタリだ」
とジャネさんが言う。
 
「ピッタリになるように合わせましたから」
とスタッフさん。
 
「3Dスキャナのおかげですね」
「ええ。3Dスキャナ、3Dプリンタは産業革命ですよ」
 
「なんか足の先に巻かれた包帯が結構痛いです」
とジャネさん。
 
「それをしておかないと、歩いている時の衝撃であの付近がむくんでしまうんですよ。最悪足の先が変形します。水泳の大会に出場なさる時は包帯は使用できないかもしれませんが、その場合に控え室とプールの間の往復の間くらいなら包帯無しでも大丈夫です」
とスタッフさん。
 
「それについては連盟に照会してみよう」
とお母さんが言っている。
 
足に靴下と靴も履かせる。
 
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「歩いてみてください」
「あ、はい」
 
と言ってジャネはおそるおそる歩き出す。
 
「歩ける!」
「ちゃんと足が動きますでしょ?」
「ええ。凄い。これ、ちゃんとこちらの思うように動く」
 
「動くんですか?」
とお母さんが驚いたように言う。
 
「うん。これ自分の思うように動いて地面をキックできるんだよ」
「慣れたらそれで走れるはずです」
 
「やってみよう」
と言って、ジャネさんは普通の歩行から少し早歩きに変え、やがて室内を軽く走り出した。
 
「走れる!これ凄い!」
 
「普通の人なら走れるようになるには数日かかるのですが、スポーツ選手で運動神経がいいから、できちゃうんでしょうね」
とスタッフさんは逆に感心していた。
 
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「セラミックの骨格と人工筋肉にマイクロチップを内蔵していて、足の動きから今どう動くべきかを判断して義足自身がちゃんとそれに合わせた動きをするようになっているんです。ただのシリコン樹脂の固まりとは違うんですよ」
とスタッフさんは説明する。
 
「これ凄いですね!」
 
「主治医の先生と相談する必要はありますが、もし可能でしたら、これの試用、トライアル・ユーズにご協力いただけないかと。これ開発中の商品なんですよ」
 
「それぜひやりたいです」
と本人はかなり乗り気である。
 
「なんかこれ指が動かせる気がする」
と言って、ジャネは腰掛けて靴と靴下を脱ぐ。そして少し考えていると、ちゃんと親指が上下する。
 
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「すごーい。これ」
「足を動かすための電気信号を読み取っていますので。現在、その電気信号に反応するロジックと、足自体の動きから意図を推測するロジックの優先比率を調整中なんですよ」
 
「いや、これほぼこちらの意図する通りに動いてくれる感じです」
 
「現在試用していただいている方からは、足表面に触覚が無い以外はまるで自分の足みたいと言って頂いているんですよ」
 
「いや、まさにそういう感じです」
とジャネさんは感激しているようであった。
 
それでジャネさんは主治医の許可を得ることを条件にこの試用実験に参加することになり、お母さんと一緒に仮契約書にサインした。
 
「これ、正式契約ができてから、お借りできるんですか?」
「今日お持ち帰り頂いていいですよ」
「持って行きます!」
「月に1度レポートをお願いします。あと異常があったら休日でもいいですのでご連絡ください。プログラムはリモートでも書き換えられますので」
「分かりました!」
 
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「接続部分に痛みや違和感があったらすぐお知らせ下さい。協力関係にある金沢市のK工業大学でも多少の調整はできますので」
 
「金沢市内でできるならいいですね!」
 
接続部分は身体の側に負担を掛けないよう柔らかいシリコンゴムでできているものの、結果的に劣化しやすいので、定期的に交換する必要があるらしい。取り敢えず予備のを1つもらった。ふつうの人なら2〜3年大丈夫らしいのだが、あなたはスポーツ選手だから半年くらいで交換になるかも、とスタッフさんは言っていた。
 

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