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■春退(22)
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10月4日(日)、一関(いちのせき)市。
彪志は4月に就職する会社の身元保証書を書いてもらいに帰省して、1人は父の宗司、もう一人は盛岡に住む叔父の大介に書いてもらった。
その日の夕食まで実家で食べてから千葉に戻ることにする。
「勤務地はどうなるの?」
と母から訊かれる。
「それ3月になってから通知されるみたい」
「だったら引越が大変だね」
「うん。バタバタとアパート探して、バタバタと引っ越さないといけないみたい。引越シーズンで料金も高くなりそうだから、それが悩み」
「大変だね」
「夏服とか仕事では使わなそうな本とか、お正月に帰省する時に、いったん一部こちらに持ってこようかと思っているんだよね。レンタカー借りて積んでくる。そしたらその分は引越荷物に入れなくて済むから」
「ああ、いいんじゃない」
「勤務地が東京になったら空振りだけどね」
「東京になった場合は今のアパートから通えるのかな」
「通えると思う。でも近くに引っ越した方がいいと思うけどね。だから当初は千葉から通勤して、6月くらいになってから通勤の便のいい所に引っ越せばいいと思う。その時期には引越屋さんも空いているから」
「勤務地の希望とか出せないの?」
と父からも訊かれる。
「一応出した。第1希望・富山、第2希望・長野、第3希望・東京にした。でも実際には2月くらいの段階での、スタッフの在籍人数とかを見て割り振りを決めるみたいだから」
「富山なんだ?」
「盛岡とか仙台には支店無いんだっけ?」
「仙台にはある。でも俺、青葉の近くに行きたいから」
「青葉ちゃんは大学進学だよね。あの付近の大学に行くの?」
「一応国立は、第1希望が金沢市のK大学、第2希望が富山市のT大学。K大学は推薦で受けるけど、落ちた場合はT大学の後期試験を受ける。それとは別に東京の私立で△△△大学を受けるけど実際には△△△に行く気は無い」
「そんなK大学とかT大学なんて、あまり聞かない大学より△△△に行けばいいのに」
「青葉の地元じゃ、△△△よりよほどK大学やT大学の方が名前が通っているんだよ。この界隈でM大学の名前が通っているのと同じで」
と彪志は笑いながら言う。
「ああ、そういうものかもね」
「特にK大学は俺が通ってるC大学と同じ旧六のひとつだよ」
「旧六って何だっけ?」
「旧帝大に次ぐランクの大学。まあBランクだよね。新潟のN大学、岡山のO大学、千葉のC大学、金沢のK大学、長崎のN大学、熊本のK大学」
「ああ、わりと名門なんだ?」
「でも受験に関わる人以外にはあまり知られていない」
「うん。知らなかった」
「やはり旧帝大の存在感が大きいからね」
「でもさ、あんたいつまで青葉ちゃんと付き合うんだっけ?」
と母は言った。
彪志はピクッとする。
「俺は青葉と結婚するつもりだけど」
「男の娘なんかと結婚して、ほんとにうまく行く?」
「青葉はふつうの男の娘じゃないから」
と彪志が言うと、母の発言に不快な表情をしていた父も彪志を応援して
「あの子はふつうの女の子だよ。いい嫁さんになると思うよ」
と言ってくれた。
それで母もこの場ではこれ以上、この問題については何も言わなかった。
深夜、東関東道の某PAに駐めたムラーノの車内。
「しまった。コンちゃんが切れてしまった」
「じゃ今夜はここまでだね」
「ねぇ、生でしちゃだめ?」
と言う信次に優子は曖昧な微笑みで答えた。
「妊娠したら養育費、月に100万円ちょうだいね」
「優子、変わってるね。そういう時、ふつう妊娠したら結婚してよとか言わない?」
「私は男と結婚する趣味は無い」
と優子。
「それは良かった。俺も女と結婚する趣味はないから」
と信次が言う。
「ホモとレズなんて、お互い全く別世界にいるはずなのにね」
と優子は言う。
「通常お互いの世界が交わらないよね」
と信次は言うと、いきなり入れようとする。
「こら、待て。毎月100万円払う覚悟はできた?」
「うーん。月1万じゃダメか?」
「それじゃさすがに食っていけない」
「2万」
「99万」
「2万3千円」
「隔たりが大きいな。取り敢えず養育費が妥結しないと生はダメだな」
「うーん。仕方ない。じゃこの後は優子が俺に入れてよ。俺は妊娠しないし」
「妊娠させてみたいね。でも付けずに入れて大丈夫?」
「俺丈夫だから」
「だったらいいよ。これは信次専用にするから。名前書いとこう」
と言って優子は本当にマジックで「シンジ」と名前を書いている。
「ちんこに名前書いておくというのは凄い」
「万が一にも他のガールフレンドに間違って入れたら大変だから。でも私はそもそも入れられるより入れる方が好きだし。信次はどちらも好きみたいだね」
「うん。女って俺に入れてくれないからつまらないと思っていたけど、優子は俺に入れてくれるから好きだ。俺もうホモは卒業しようかなあ」
「いっそ男も卒業して女になったら?たくさん入れてもらえるよ。ちょっとタイまで行って手術してくればいいし。私の昔のガールフレンドの今のステディ・パートナーがプーケットで手術して女になっちゃった子だよ」
「それは凄い。でも俺はチンコは放棄したくない。できたら入れられながら入れたい」
「物理的に可能なんだっけ?ふたなりさん同士なら何とかなりそうだけど。でもどっちみち生でする場合は養育費問題を解決してからだ」
「2万5千円」
「98万7千円」
アジア選手権を結局4位の成績で終えた男子バスケット日本代表の一行は10月4日の夕方帰国し、その後やや疲れた感じの記者会見をし、翌日はあちこちに挨拶回りをして、昼過ぎに解散となった。
貴司は大阪に帰るのに東京駅に向かいながら、不完全燃焼の心の持っていきようがなくて鬱屈とした気分だった。準決勝にしても3位決定戦にしても、勝てた試合だという気がしてならなかった。
もっと強くなりたい・・・・。
自宅に戻ったら、自分のペニスが無くなっている問題がばれて阿倍子が騒がないだろうかとも思ったが、考えてみると阿倍子との睦みごとは妊娠成功以来絶えているし、そもそも向こうも子供を産んだばかりで、秘め事をする気力はないだろうから、案外バレないかも知れないと開き直りの気持ちが出ていた。実際帰りの出国・入国審査でも、別に性別に関するトラブルは無かった。
新大阪までの乗車券と新幹線特急券を買い、貴司は改札に向かった。
その頃、大阪豊中市の留守宅では阿倍子が久しぶりにエステとヘアサロンに行って戻って来て、料理の下ごしらえをしている所であった。貴司の好きなヱビスビールも買ってきて冷蔵庫で冷やしている。今日の料理はビーフシチューだ。お肉はグラム500円もする神戸牛を買ってきた。実は先週買った宝くじが10万円も当たっていたので、今少し余裕がある。
「でも貴司、何時頃帰ってくるのかなぁ」
などとつぶやきながらジャガイモの皮を剥いていたら、京平が泣くので行ってみる。お乳はさっきあげたばっかしだし、おむつかな?と思って触ってみると濡れているようだ。
「はいはい。今換えてあげるね」
と言って、ベビー服のお股付近のボタンを外し、おむつを取り外す。新しいおむつを付ける。京平の可愛いおちんちんを見て、ついちょっと触ってみた。
「うふふ、可愛いおちんちん。このおちんちんがその内パパのおちんちんみたいに大きく育っちゃうのかなあ」
などと独り言を言いながら触っていると、小さいなりに立ってしまう。
「あらあら。あんたのはちゃんと立つのね〜。これ取り外してパパにくっつけちゃったらダメかしら?」
などと言うと、京平は不快そうな顔をする。
「ああ、ちんちん取られたくない? でもあんた不思議な子だね。おとなが言っている言葉を全部理解してるんじゃないかと思うことあるよ」
と言いながら阿倍子はおむつをしっかりセットし、ベビー服のボタンも戻してから、おむつの始末をした。
この子は自分と遺伝子上のつながりは無い。でも自分が産んだ子だし。それに・・・・。
阿倍子は貴司と結婚した頃に見た「女神様」の夢を思い出していた。女神様は1人自分の子ではない子を産んだら、その後自分の子供を2人産ませてやると言った。私、もしかしたらこの後、本当に貴司と自分との間の子供を産めるのだろうか。
そう思いながら、どっちみち体外受精だろうけど、また採卵しないといけないかと思うと気が重いなあとも思っていた。
東京駅の改札を通ろうと列に並んでいる時、貴司の携帯にメールの着信がある。見ると千里だ。
《新横浜駅ホテルアソシア2317》
ドキッとする。
並んでいる列からいったん外れてからメールする。
《新大阪行きの切符買っちゃった。どうしよう?》
《もう改札通ったの?》
《いや、まだ》
《だったら新横浜までの特急券を別途買えばいいよ》
《あ、そうか》
《今持ってる新大阪行きの特急券は最終便とかにみどりの窓口で変更すればいいし》
《そうする!》
それで千里の言う通り、みどりの窓口で新幹線指定席特急券は最終便に変更した上で、新たに新横浜までの特急券を買い、新幹線に乗り込んだ。新横浜で途中下車して、駅ビル内のホテルに入る。23階まで昇り、2317号室の前まで行って携帯を鳴らす。
千里は裸でドアを開けて貴司を中に入れた。
「今日のことは忘れることができますか?」
「忘れる」
「じゃ今から1時間くらいのことは無かったことに」
「うん」
と言いながら焦る。
どうしよう?
せっかく千里がその気になっているのに、おちんちんが無いよぉ!!
しかし千里は貴司の焦りに気づいているのか気づかないのか激しくキスして貴司の股間も激しく揉む。
あ、そこは・・・・あれ!?
「とりあえずベッドに行こうよ」
「あ、うん」
あれれれ??と思いながら千里と一緒にベッドに行く。千里が貴司を押し倒すようにする。今日の千里は物凄く積極的だった。あっという間にベルトが外されズボンが下げられ、トランクスが下げられる。
「このおちんちん、もう私専用ということでいい?」
などと千里は言う。
貴司はうっそー!?と思った。自分のおちんちんがちゃんと存在していて、千里はそれを握りしめている。握る力が強すぎてちょっと痛い。
「うん、実際僕は阿倍子とはセックスできないんだよ」
「私専用のおちんちんなら、今夜は私が支配してあげる。いっそこれにチサトって私の名前書いておこうかな」
「それは勘弁して」
「じゃ今日のところは無記名で」
そう言うと千里は貴司のそれに避妊具を付け、即、自分の中に入れてしまう。いきなり入れられてびっくりしたが、この感触は久しぶりだ! 凄く気持ちいい。千里のヴァギナは物凄く濡れている。水音までする。そして千里は貴司の上になったまま自分が腰を動かし始める。
「待って。普通にさせて」
「いいよ」
それで貴司が千里の上になり、貴司が腰を動かす。
千里とのセックスは・・・・2012年6月以来、3年4ヶ月ぶりだ。そして貴司自身セックスというものを3年4ヶ月ぶりに経験していた。
貴司は5分くらいで逝ってしまった。
そしてそのまま眠ってしまった。
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