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■春退(11)

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9月5-6日の土日2日間、新潟市で全日本クラブバスケットボール選抜大会が行われていた。これに2月の関東選手権で1位・2位になった40 minutesと江戸娘が出場した。
 
ただ千里は日本代表として5日まで中国でアジア選手権に出ており40 minutesは中心選手の千里抜きで臨むことになった。
 
しかし千里が居ないという状態に普段千里頼りのチームが危機感を持ち、主将の秋葉夕子、ヤング日本代表にもなっているポイントガードの森田雪子を中心に必死で頑張る。
 
1回戦を84-85、2回戦を68-69と連続1点差で何とか勝ち上がり、迎える準決勝の相手は3月の選手権で決勝戦を戦った東海地区1位のセントールである。
 
ここで千里の不在を埋めるべく必死で頑張る中折渚紗がひとりで21点も取る活躍を見せる。するとそれに刺激されて中嶋橘花・竹宮星乃・橋田桂華・若生暢子といった自称「日本代表まで後ちょっと」レベルのメンバーたちも頑張って得点を重ね、結局53-72の点数とこの大会初めて快勝した。
 
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「負けた〜」
「あんたたち、村山さん抜きでもこんなに強いなんて」
「もうWリーグに加盟しない?」
などと向こうの選手から言われる。
 
「40 minutesがプロになってクラブ連盟から抜けたら私たちの天下が来るのに」
「あははは」
 
「でもお金が無いよ。だいたい私たちみんな無給だから」
と秋葉夕子が言う。
 
「嘘!? じゃバイトとかしながら?」
「みんなどこかに勤めてたり主婦してたり」
「練習は気が向いた時に出てくる」
「そんなんでは、あり得ない強さだ」
 
「それに結構みんな子供の学校の行事とかで大会を欠席したりする」
「そんなの、あり得ない行動だ」
「私は参観なんて亭主に任せてるのに。亭主がダメな日は母ちゃんに頼む」
「それやると、奥さんを首にされそうで」
「離婚されてもいいんじゃない?」
「亭主の世話よりバスケの練習の方が面白いよ」
 
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決勝戦は宮崎県のチームとの戦いになった。
 
このチームは準決勝で渚紗がポンポンいかにも簡単にスリーを放り込んでいるのを見ていたので、渚紗に異様に警戒し、厳しいマークをするものの、その分他の選手が動きやすくなってしまう。それで前半は星乃と桂華が点の取り合いをする展開となり、前半で12点も点差が付いてしまう。
 
後半になると渚紗に対するマークが甘くなり、しばしば渚紗はマークを外してスリーを奪う。加えて前半の星乃・桂華に代わって出てきた橘花・暢子の《旭川ペア》が星乃たちに負けじと頑張って得点を重ねる。
 
最終的には30点の大差を付けて40 minutesが勝利。
 
全日本クラブ選手権に続いて全日本クラブ選抜も制して、クラブ2冠を達成した。
 
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表彰式の後で、バスケ協会の宮本専務理事が下田監督と秋葉夕子主将に声を掛けてきた。
 
「こないだ村山君と話をする機会があった時にも言ったんですがね。おたくのチーム、本当にプロ化する気はありませんか?」
 
「いや、私たちは楽しみでやっているので。主婦で家事の合間に練習している人もいるし、会社勤めで結構重要なポジションにあって仕事を辞められない人もいるし、ファーストフードの店長してる人もあるし」
 
「うんうん。そういう部分はあって結構。実際今Wリーグに所属しているチームでも、様々な契約形態の選手が混じっているから、チームをプロ化しても選手はプロでなくてもいいんですよ」
 
「ああ、なるほど」
「若い選手とかで、バイトしながら練習もしているような人だったら、いっそプロになって練習に専念してもらった方が、やりやすい面もありません?」
 
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「うーん。それは考えられますが、採算が取れます?」
「基本的に採算が取れる範囲で活動すればいいんですよ」
「ほほぉ」
「だって今、そちらのチーム年間数百万経費が掛かってますよね?」
「です。実はその経費は全部村山が個人で負担しているんですよ」
「凄いですね!それは。でも有料の試合をしたり、ファンクラブを運営したりすることで、その内のいくらかでもカバーできると思いますよ」
 
「そうですねぇ・・・」
「村山君が帰ってきたら、一度一緒にうちに来てゆっくり話しませんか?社長になってくれそうな人の心当たりがなければ、適当な人を紹介もできると思いますし」
 
「そうですね。ちょっと村山とも相談して」
「ええ。いつでもご連絡ください」
「はい」
 
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千里たち日本代表一行は9月5日夜の決戦で勝利を収め金メダルを獲得した後、その日は武漢市内のホテルにそのまま泊まり、翌日日本に帰国した。帰国後すぐに成田空港近くのヒルトンホテルで記者会見し、広川主将とMVPを取った佐藤玲央美がインタビューに応えたほか、千里も含めて各選手が一言ずつ喜びの言葉を述べた。
 
バスケ協会の川淵三郎会長は女子日本代表の新たな名称を決める意向も示した。
 
なおウィリアム・ジョーンズ・カップに出ていた男子日本代表は女子日本代表の翌日、9月7日に帰国し、やはり記者会見したが、集まった記者の数は女子日本代表の時より多かった。もっとも参加9チーム中8位(9位が台湾Bチームなので実質最下位)という成績に、男子の監督や主将は悲痛な表情で敗戦の弁を語ることになった。
 
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一方の女子日本代表は7日も様々なスケジュールが組まれており、あちこち駆け回ることになり、千里たちが解放されたのは、7日も夕方であった。
 
用賀の自宅に戻った千里は夕子に電話して、お互いに
「アジア選手権優勝おめでとう」
「全日本クラブ選抜優勝おめでとう」
と言い合った。
 
取り敢えず12日、今度の土曜日に40 minutesの優勝祝賀会をしようということを決めた。また夕子は協会の専務理事さんから、40 minutesをプロ化しないかという話をされたことを話す。
 
「うん。それは私も個人的に別の人からも聞いた。協会はどうもうちとローキューツのクラブ2チーム、それに玲央美の実業団ジョイフルゴールドの3チームをプロ化したいみたいね。他にも幾つかのチームに声を掛けている気がする。それである程度プロチームを増やしてWリーグも2部制に戻したいのだろうし」
 
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Wリーグは不況の影響で廃部になるチームが続出して、2部制を維持できなくなり、2012年冬シーズン以降、1部制でリーグ戦が行われている。
 
「実際今、千里、凄まじい経費を負担してるでしょ?」
「うん。今年は多分40 minutes関係の経費は500万円を超えると思う」
「ひぇー。ほんとにそんなに負担して大丈夫?」
「今は何とかなっているど、正直将来まで負担できるかどうかについては不安もある」
「だよねー。私とかも少し出せたらいいけど」
「気にしないで。夕子にはキャプテン引き受けてもらってるし」
 
「ただ私も来年くらい、そろそろ子供産みたいなという気もしててさ」
「あぁ」
「もし引退したら千里、キャプテンよろしくね」
「うーん。。。。夕子が逃げるなら私も逃げだそうかな」
「え〜〜〜!?」
 
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「実はさ」
と言って千里はここの所、少し悩んでいることを夕子に打ち明けた。
 
「千里、それは前進すべきだよ。千里がそうするなら、私は籍だけでも来年いっぱいは40 minutesに置いておくよ。キャプテンはステラにでも押しつけて」
 
「ああ、あの子はキャプテン向きの性格」
 

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時間を1日弱巻き戻す。千里が帰国して女子日本代表の記者会見が行われた9月6日の深夜、青葉の携帯に冬子から電話があった。
 
「夜分ごめん」
「いえ大丈夫ですよ」
「青葉ならたぶん受験勉強している所かなと思ったから」
「ええ。最近はだいたい2時頃まで勉強してます」
「凄いね!」
「夏休みインターハイで時間使ったし。今もまだコーラスの中部大会に向けて部活に時間使っているから、どこかで勉強を取り戻さないといけないんですよ」
 
「頑張るなあ。そうそう、例のFlying Singerなんだけど、考えてたんだけど、いっそ良かったらFlying Soberをバックに私たちが歌うようにできないかなと思ったんだけど」
 
「いいですけど、それいつ収録しますか?」
「たぶん、そちらの部活動の活動限界があるよね? それを確認してくれない?こちらは今アルバム制作中心の活動していて、たいてい何とかなると思うから」
 
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「分かりました」
 
それで翌朝、青葉が今鏡先生に相談し、今鏡先生は更に教頭先生と相談する。その結果、9月中であればよいという教頭先生の許可が取れたので青葉はその場で職員室から冬子に電話を掛ける。
 
「Flying Soberっていったん先月末で活動停止したんだよね?」
「そうです」
「だったら、みんなが楽器の感触を忘れてない内の方がいいな。今週末の、12-13日とかどう?」
 
「至急打診してお返事します」
 

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それで昼休みにFlying Soberのメンバーに急遽集まってもらい、スケジュールを確認する。
 
「大歓迎」
「ローズ+リリーのバックで演奏するとか凄い」
「用事は入っていたけど、ローズ+リリーが来てくれるんなら何とかする」
 
それでその場で青葉は冬子に再度電話し、12-13日にローズ+リリーの2人とサウンド管理のため近藤さん・七星さん夫妻も一緒に来て、一応その2日間で収録を終えるが、万一の場合は14日(月)の夕方に積み残しの作業をするかも、という線で話がまとまった。
 

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一方青葉はこの日の夕方から、自動車学校の第2段階の講習に通い始めた。
 
第2段階は学科16時間・実車19時間で、実車(路上実習)は1日最大3時間乗ってもよいのだが、3時間連続してはならないことになっている。
 
青葉はコーラスの富山県大会が終わった後、9月7日から11日までの5日間は夕方16時まで授業があり、その後18時すぎまで部活があるのだが、自動車学校の講習に間に合うように17:45で抜けさせてもらって、そこから1.5kmほどの道を走って18時と19時の講習に参加した。基本的に学科を1時間聞いて実車1時間だが、日によっては学科の開催される時刻の都合で実車が先になった日もあった。
 

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千里、夕子、麻依子に、下田監督、矢峰コーチの5人は9月8日、バスケ協会を訪問した。
 
宮本専務理事は5人に実際、将来のWリーグチーム拡張を目指して、その候補となるようなプロチームを数年以内に7〜8チーム育てたいのだということを言った。
 
「まあ私たちとローキューツ、ジョイフルゴールドには声が掛かっていることはお互いに情報交換していたのですけどね」
「まあ村山さんは、その2チームとは色々関わりも多いみたいですしね」
と言って専務理事は笑っている。
 
「村山は去年まではローキューツと40 minutesの両チームのオーナーでしたからね」
と下田監督。
 
「ええ。両チームが大会でぶつかる可能性が出てきたんで、ローキューツの方は作曲家で歌手のローズ+リリーのケイさんにオーナーを引き受けてもらったんですよ」
と千里は説明する。
 
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「ああ、それは村山さんが仲介したんですか?」
「ケイとは震災のボランティアを通して知り合ったんですよ。震災当時、私は被災地で炊き出しのボランティアしていて、ケイは当時組んでいたローズクォーツというバンドで被災地の慰問をしていて、たまたま同じ会場でかち合ったのがきっかけで」
 
「やけどした赤ちゃんをみんなで協力して応急処置したって言ってたよね」
「そうそう。それで仲良くなっちゃったんですよ」
 
「面白い縁ですね」
と宮本さんは感心していた。
 
千里は40 minutesの運営会社を設立する場合は社長をしてくれそうな人のアテはあると言った。
 
「現在40 minutesが練習場所にしている体育館の館長をしていて3月いっぱいで勇退なさる予定の方なんですよ。スポーツには理解があるし、元々は舞通の子会社の九州支店長とかマニラ支店長とかをなさっていた方で、経営センスはあると思うんですよね。まだ計画はどうなるか分からないけどと断った上で話をしてみた範囲ではわりと乗り気です」
 
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「元々、村山さんがその舞通絡みで彼を知っていたから、あの体育館を借りられることになったんでしょ?」
と下田監督は言う。
 
「まあ、実はそういうことなんですけどね。うまい具合に火木土が常に空いていたし」
 
「村山は完璧に舞通派閥だからなあ」
と矢峰コーチが言うことばを、夕子と麻依子の2人が一瞬厳しい表情で受け止めた、
 

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