広告:オトコの娘コミックアンソロジー~天真爛漫編~ (おと★娘シリーズ8)
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■春退(6)

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8月3日、ニュージーランドの合宿所で千里は山野監督から呼ばれて監督の私室に行った。高田アシスタントコーチ、坂口チーム代表も来ているし、同じシューターの花園亜津子、三木エレン、今回のチーム主将の広川妙子も居る。
 
「揃ったね。では悪いことの相談をしよう」
とチーム代表の坂口さんが言った。
 
「私に最初に発言させて下さい」
と三木エレンが言った。
 
「私は3年前のトルコでのオリンピック最終予選で、私が代表に選ばれサン(千里のコートネーム)が落とされたことに納得がいかなかった。あの時点でもサンの力は私を凌駕していた。そして私が率いるチームはオリンピックの切符をつかむことができなかった」
 
千里は黙って聞いている。
 
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「そのまま引退しようかとも思ったけど、サンが勝ち逃げは許さないと言うし、それで私はこの3年間頑張ってきた」
 
「レン(エレンのコートネーム)のプレイはまだまだ27-28歳の選手の動きですよ」
と妙子が言う。
 
「まあ若い子に負けないつもりでやってきたけどね。今回サンは一時期バスケから離れていたなんて言うからさ、私をがっかりさせるなよと思ったけど、何がしばらく離れていたよ。前より更にパワーアップしてるじゃん」
とエレン。
 
「まだ私は自分の納得いくプレイができずにいます」
と千里は言った。
 
「私とのマッチングにほぼ全勝しておいて何を言う?」
とエレンは言う。
 
「まあそういう訳で、私はもうこれで日本代表から引退させてもらうから。Wリーグからも3月いっぱいで引退するつもり」
とエレンは言った。
 
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そのエレンの言葉を引き取って坂口チーム代表が言った。
 
「まあそういう訳で、明日8月4日には、今月13-16日に東京で行われる代表強化試合に出場するメンバーを発表することになっている。そのメンバー表でシューティングガードには、三木エレン君と花園亜津子君を入れることにするから」
 
千里は内心「へ?」と思った。ここまで引っ張っておいて、結局今回の代表は三木さんなのか?正直三木さんには負けてない気がしていたのだが、上の決定には従う必要がある。
 
「分かりました。私はまた2年後のアジア選手権、3年後の世界選手権を目指して鍛錬を重ねることにします」
と千里は顔色ひとつ変えずに言った。
 
「違う違う」
と山野監督が笑って言う。
 
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「三木君はこの代表強化試合を花道に代表から引退するんだよ」
と山野さんは言った。
 
「え?」
 
「代表強化試合とうたっているけどさ、全然強化試合じゃないよね」
と花園亜津子が言う。
 
「うん、相手はT国。まあそこそこ強い相手ではあるけど、うちの敵ではない」
と広川妙子主将。
 
「強化試合というより壮行試合。快勝して景気付け」
と亜津子。
 
「村山はアンダーカテゴリーではこれまでたくさん活躍しているけどフル代表ではまだ大きな試合に出ていない。だからこんな秘密兵器をアジア選手権本戦前にわざわざ公開する必要は無い」
と千里とはもう8年来の付き合いになる高田コーチが言う。
 
「それで今度の強化試合ではサンの代わりに私を出してもらって、それを引退の花道にしたいんだよ」
と三木さんは言った。
 
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「それでは・・・・」
「だから明日の発表では村山君はあたかも落選したかのように装う。その後、アジア選手権の直前に代表を入れ替える。三木君の代わりに村山君を入れる」
と坂口代表。
 
「あぁ・・・」
「だから、私の引退試合、派手に暴れて、東京の観客に三木エレンという選手の印象を焼き付けるから」
とエレン。
 
「分かりました。頑張ってください」
と千里は言った。
「ということで、村山君は居残りな」
と山野監督。
 
「え?」
 
「他のメンバーは10日でニュージーランド合宿を終えて帰国する。村山は僕と一緒に合宿を続ける」
と高田コーチが言う。
 
「え〜〜!?」
「何度か練習相手になってくれたP大学のチームが村山ともっとやりたいと言っているから彼女たちと一緒に練習。でも日本人ひとりじゃ寂しいだろうから、練習パートナーも兼ねて鞠原(江美子)君にも居残りしてもらう」
 
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千里は一瞬考えた。
 
「それって鞠原も強化試合の後に代表入りするということですか?」
「さすがに2人も入れ替える訳にはいかないから、鞠原君はメンバーとして入れておくけど、強化試合は体調不良と称して欠席させる」
 
「分かりました。キラ(江美子のコートネーム)となら気心が知れているからやりやすいです」
 
実際、江美子とは2008年以来、ずっと出羽の修行仲間である。
 

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翌8月4日の「東日本大震災復興支援バスケットボール日本代表国際強化試合2015代表チーム発表」では、その代表メンバーの中に千里の名前は無かった。その件で、青葉や冬子、また40 minutesのチームメイトたちからも「残念だったね」というメールが来ていたので、千里は
 
「落ちちゃったぁ! また頑張るね」
とお返事しておいた。また代表からは外れたものの、アジア選手権まで代表チームの練習相手を引き続き務めることを書き添えておいた。またJソフトの山口専務にも経過報告をしておいた。
 
貴司からは直接電話も入っていたが、千里はこれを無視した。代わりに青葉に電話を掛ける。
 
「ちー姉、せっかく会社を休職してまで参加してたのに残念だったね」
「うーん。それ自体が問題って気がするよ。やはりプロで1日中バスケしている人たちにはかなわないよ」
「ちー姉、その会社辞めてプロになったら? 日本代表候補にまで招集されるような選手、欲しがるチームはあると思うよ」
 
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「ユニバ代表になった時と、フル代表候補になった時と、2度退職願い出したんだけどさ、受け取ってもらえないんだよ」
「うむむ」
 
「でも青葉こそ、もうすぐインターハイだね。思いっきり泳いできなよ」
「うん。頑張る。でも全国から凄い水泳選手が集まっているかと思うと緊張してしまいそう」
 
「青葉らしくないね。インターハイって、たかが素人の高校生の大会じゃん。気楽にいけばいいんだよ」
「そうだね」
 
「私もバスケはずっと趣味でやってるからね。だってスポーツは楽しむものだもん。確かに厳しいトレーニングを積んで必死に努力してという部分もあるけど、それは結局試合を楽しむためにトレーニングしているだけなんだよ」
 
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「うーん・・・・」
 
「冬子がさ、音楽は究める音楽と楽しむ音楽があると言ってたけど、スポーツもそうだと思うんだよね。私は玲央美や麻依子からは逃げすぎだと言われるんだけど、究める道から逃げてばかりで、楽しい所だけ摘まみ食いしてきてるんだよね」
 
「いや、ちー姉は凄い練習している気がするけど」
「年間平均で1日12時間程度しか練習してないよ」
 
「12時間って凄すぎると思うんだけど!?」
 
「青葉ってそういう育ち方してきてるからだろうけど、何でもまじめに考えすぎるんだよね。桃香を見習いなよ。あの子、明日どうするかというのでさえなーんにも考えてないから」
 
「桃姉はそのあたりが適当すぎる」
「青葉ももっと楽に人生考えた方がいいと思うよ。とりあえずインターハイは京都旅行に行ってきて、ついでにちょっと泳いでくるか程度に思っていた方が、結果的には実力を出せるよ」
 
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「そう言われるとそうかも知れないような気もしてきた」
 
「肩の力を抜いて、イージーに考えよう。お土産はおたべさんでよろしく」
「ちー姉、何日に帰国するんだったっけ?」
「まだ分からないんだよね。だからお土産は桃香のアパートに送っておいて。実は私、代表から落ちたついでに、某校のコーチと一緒に中国に行って会場の下見をしてきてと言われてさ」
 
「へー」
「日本はまだFIBAから制裁を受けている最中だから、代表選手の行動も色々と制限されている。8月9日の東京でのFIBAの会議で制裁は解除してもらえる見込みではあるけどね。だから代表選手ではない私が個人的な旅行で行ってくるんだよ」
 
「すごーい」
 

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青葉の次に掛けたのが桃香であった。
 
「桃香ごめーん。帰国が延びちゃった」
「あっと、バスケットの合宿やってたんだっけ?」
「そうそう。その合宿が延びちゃったんだよ」
「ということは、私のカップ麺生活も延びるのか。いつ帰ってくるの?」
「まだ分からないけど今の予定では8月17日の朝に帰国。でもその日の夕方からまた国内で合宿に入る」
 
「え〜〜!?」
「そのあと今度は中国に行ってきて、帰国するのは9月6日かな」
 
「千里〜、カップ麺もレトルトカレーも缶詰も飽きたよう」
「桃香、料理の得意なガールフレンドとか居ないの?」
「あいにく、しばらくそういう子には当たってない」
「会社の食堂とかは?」
「お昼はそこで食べてる」
「うーん。和実のお店とかは?」
「あそこのメニューはあまり数が無い」
「確かに。学生の振りして△△△とかN大学とかの学食に行って食べるとか」
「あ、それ試してみよう!」
 
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千里はまた雨宮先生に電話した。
 
「私10日に帰国して、帰国したらすぐインプレッサの廃車手続きするつもりだったのが、バスケ協会から特別任務を仰せ付かってしまって17日まで帰国できなくなったんですよ。でも車検が12日で切れてしまうので、大変申し訳ないのですが、先生か、あるいはどなたかの手でインプの廃車の作業をして頂けないでしょうか?**市の***モータースという所で処理してもらうことにしているのですが、そこに持ち込まないといけないのと、車内の私物を全部回収しておいて欲しいんですよ」
 
「あんた、ほんとに私を便利に使うね?」
と雨宮先生は半ば呆れているようだ。
 
「すみませーん!」
 
「まあいいよ。わざわざオーストラリアから私の親父の葬儀に駆け付けてくれたからね。今度は私が借りを返す番だ。作業しておく」
「ありがとうございます」
「私物はアテンザの方に移しておくね」
「はい、助かります。あと細かいですが、ドアポケットの中身とか、ワイドミラーやステアリングの所にぶら下げている《無事カエル》とかも回収しておいてください」
 
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「ああ、ワイドミラーは見落としがちだね。新島と一緒に2人で作業するよ」
「ありがとうございます」
 
そういう訳で、結局先日舞鶴までの往復をしたのが千里にとっては本当にインプを運転した最後になったのであった。
 

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青葉は、8月の前半、朝から補習に出て、昼休みは合唱軽音部の練習に行き、放課後は水泳部の練習に出るという生活を続けた。
 
本当はこの時期には高野山で瞬嶺さん主宰の回峰行が行われており、青葉は昨年参加したので今年も出ないかと言われたものの、インターハイに出るのでということでお断りした。
 
インターハイは8月17日から20日まで京都で行われる。それで青葉は杏梨と男子の魚君の3人で顧問の先生に引率されて行くことになる。実際には世間ではお盆の中日となる15日の朝からサンダーバードで京都に入る。京都に着いたのは8時前であった。顧問の先生は打ち合わせがあるということで、朝御飯は君たちで適当に食べてと言われたので、生徒3人でホテルのラウンジに入っていく。
 
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するとそこに冬子と政子がいるのでびっくりする。
 

「青葉!?」
「ケイさん!?」
 
向こうも驚いたようである。青葉は冬子・政子のすぐそばに女性2人と男性2人がいるのを認める。女性2人は何か影のようなものが付着している。そして男性2人は・・・明らかに低級霊に取り憑かれている。
 
思わず祓いたくなったが、千里から「火中の栗を拾いすぎ」と先日も注意されたことを思い出して、思いとどまる。
 
「青葉、もしかしてインターハイの応援?」
「いえ、選手です」
 
それで青葉は、杏梨と魚君を紹介した。冬子もそばにいる4人を紹介してくれた。女性2人はパラコンズというユニットのふたり。男性2人はその婚約者で今日このホテルで結婚式を挙げるという。
 
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「お盆にですか!?」
と青葉は驚く。
 
「ふたりとも無宗教らしいので。だから人前結婚式」
と冬子。
 

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青葉は悩んだ。本来ならちー姉にも言われたように放置すべきことだ。しかし、パラコンズといえば、確か冬子さんがデビューした前後の頃から交友のあったユニットのはずである。
 
もし、自分がこの状況を放置したら・・・・この女性2人は男性に取り憑いている悪霊に彼女たちまで取り憑かれてしまうだろう。その上で、彼女たちが冬子さんとの交友を続けたら・・・
 
それは冬子さんの霊的防御の重大な「穴」になる。冬子さんたちを攻撃しようとする呪者たちが、この穴を利用しない訳が無い。
 
となれば、これは放置できないと青葉は判断した。青葉は過去にも同様の理由でUTPの須藤さんに関して「ある処置」をしている。
 
それで青葉は確認する。
「もう籍は入れられました?」
「婚姻届けは書いたので、挙式のあと提出の予定です」
 
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だったら間に合う。
 
「くっくさん、お名前、何でしたっけ?ご本名」
「原玖美子ですが」
 
「原玖美子さん、本当にこの男性と結婚するんですか?」
と言って青葉はくっくに憑いている暗い影を一瞬で祓い飛ばした。
 
彼女はまさに「憑きものが落ちた」ような顔をして言う。
 
「私、結婚やめます。この人とは別れます」
「え〜〜〜〜!?」
 
「のんのさん、そちらはお名前なんでした?ご本名」
「近藤徳子ですが」
 
「近藤徳子さん、本当にこの男性と結婚するんですか?」
と言って青葉はのんのに憑いている暗い影を一瞬で祓い飛ばす。
 
彼女も「憑きものが落ちた」ような顔をして言う。
 
「私、結婚やめます。この人とは別れます」
「え〜〜〜〜!?」
 
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春退(6)

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