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■春退(20)

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千里が京平を連れてマンションに戻った時、阿倍子は薬が効いたのか寝室のベッドで熟睡していた。千里は風邪のウィルスを部屋から追い出すために少し換気をした上で、そっと京平を居間のベビーベッドに寝せ京平の額にキスする。ベビーベッドの枠・手摺りを洗剤を染み込ませた布で拭き、枕元にはクレベリンも置いた。このベッドの周囲に作っている結界に念を込めて再強化しておく。
 
京平は近くを漂っている浮遊霊などに結構反応するが、反応してしまうと向こうもこちらに警戒する。すると、まだ対処能力の無い京平は危険である。そういう場合のために、京平のそばには必ず千里の眷属の誰かが付いているし、ベビーベッドの周囲に結界を作って、そもそも変な霊などは近寄れないようにしているのである。
 
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「京平、またお母ちゃん来てあげるから、阿倍子さんを困らせるなよ」
と言うと京平が笑ったような気がした。
 
部屋のゴミなどを捨てておく。茶碗も洗っておく。搾乳したお乳のボトルを冷蔵庫内に追加し、空きボトルを回収する。またスーパーで買ってきた食材も冷蔵庫に追加しておいた。テーブルに胃腸が弱っていても食べやすいヤマサキの北海道蒸しパンと水分補給用にアクエリアスなどを置く。ついでにおかゆを作ってパイレックスの容器に入れておく。この容器も実は数年前に千里がここに持ち込んでいたものだ。
 
そして後のことは《びゃくちゃん》に託して、マンションから引き上げ、新幹線で東京に戻った。この日は《びゃくちゃん》も《きーちゃん》も大活躍であった。千里は新幹線の中で今日ずっと京平を抱いていた感触の記憶が蘇り、寂しさが込み上げてきた。千里の目には涙が浮かんでいた。
 
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9月30日(水)。
 
昼休みの合唱部練習を終えて教室に戻ろうとしていた青葉は以前からずっと気になっていた「そのこと」を確かめたい欲求が急に高まり、渡り廊下の所から電話を掛けた。
 
「はい、Jソフトウェアでございます」
という中年女性の返事がある。
 
「お仕事中、大変申し訳ありません。私、村山千里の妹ですが、村山はおりますでしょうか?」
 
「妹さんですか?お世話になっております。今すぐお呼びしますね」
と電話の相手。
 
あれ〜? ちー姉、絶対会社なんかに出てないと思っていたのに、本当に出勤してるわけ〜?
 
1分ほどで千里が電話口に出た。
 
「はい、電話替わりました」
と確かに千里の声がする。感じられる波動も間違いなく千里の波動だ。
 
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「ちー姉、忙しい時にごめんね」
「うん。今いいよ」
「例のJ市の件なんだけど」
「妖怪さん、また動き出した?」
「ううん。そちらはまだ抑えられているみたい。でももうひとつのクラクションの怪の件でさ、試してみたいことがあるんだ。ちー姉と一緒に現場に行きたいんだけど、そちら時間の取れる日ある?」
 
「ああ、それだったら、今度の土曜に行こうか?10月3日かな」
「ありがとう。助かる」
 
「それでその件だけどさ」
と千里は言った。
「うん?」
 
「桃香も連れて行った方がいい気がする」
「桃姉も?」
「すると何かが起きそうな気がしてね」
「ふーん。ちー姉がそう感じるんだったら、恐らくそれが必要なんだと思う」
 
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電話を切った千里は、ふっとため息をついた。実はさっきまでカラオケ屋さんに居て、そろそろレッドインパルスの練習場所に移動しようと思っていた。それが千里B(きーちゃん)から
 
『青葉から会社に電話。替わって』
というメッセージがあり、急遽交代して電話に出たのである。実は突然交代したので服装を千里Bと合わせていない。物凄くラフな格好だが、この会社ではこういう格好もあまり目立たない。スカートなんか穿いているのは事務の子と専務の奥さんくらいだ。
 
しかしそれでも千里の服が突然変わったことに誰にも気づかれない内に元の場所に戻ろうかと思った時、専務が
 
「ちょっとみんないいかな」
とオフィス内の社員全員に声を掛けた。隣に同期で入った女性社員・石橋が立っている。
 
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「急なことなんだけど、実は石橋君が今日いっぱいでこの会社を辞めることになったので」
 
なに〜〜!?
 
「短い間でしたが、皆さんには大変お世話になりました。突然の辞職でご迷惑お掛けしますが、この会社と皆さんの今後の発展を祈っております」
 
と言って彼女はペコリと頭を下げる。
 
うっそー。これで私と同期に入った人全滅? というか、専務、私の退職願いは受け取ってくれないのに、他の子のは受け取るの〜〜?
 

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中国湖南省・長沙(チャンシャー)。
 
アジア選手権に参加している男子日本バスケ代表は2次リーグでフィリピンに負けたものの、パレスチナと香港に勝って2勝1敗。予選リーグの成績と合わせて3勝2敗(予選リーグで脱落したマレーシアに勝った分は数えない)のグループE・3位で2次リーグを通過。決勝トーナメントに駒を進めた。
 
前回は5位で決勝トーナメントには行けなかったので、メンバーも関係者も歓喜であった。
 
そして10月1日は準々決勝のカタール戦が始まる。
 
試合はカタールが先行して始まった。身体的に勝る中東の選手たちに日本の貧弱な体格の選手たちは身長でもスピードでも負けてしまい、どうにもならない感じである。
 
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監督はタイムを取った。選手たちに指示を与えるものの、妙案は浮かばない。選手たちに言うことばも、ありきたりのものだ。その時、ふと監督は熱い目で自分を見つめる貴司に気づいた。
 
「よし。流れを変える意味でも細川を投入しよう」
と監督。
「あ、それは悪くないかも」
と主将も言った。
 

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負ければそこまでのトーナメントである。貴司は無心でプレイした。先日の京王プラザホテルの一室での千里とのシャドウ・バスケットのことが思い起こされた。千里って会う度にうまくなっている。正直もう自分は千里にかなわないような気もしていた。しかし千里はあくまでアマだし、女子選手。自分は実業団のセミプロで男子選手という自負がある。ちんちん・・・無くなっちゃったけど無くたって自分は男だという気持ちをあらたにする。
 
そしてこの試合の貴司はひたすら体格的にずっと自分より優位の相手選手に勝って行った。そして貴司が実質的な司令塔としてボールを支配し、巧みに相手のマークの甘い選手の所にボールを供給すると、日本はどんどん挽回していった。
 
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そしてとうとう1点差まで迫った所で、貴司は目の前に思わぬスペースができていることに気づく。敵は貴司が誰かにボールを供給すると思って、特に最大の得点源であるセンターの赤尾を2人でマークしている。
 
貴司は反射的にその空いているスペースにドリブルで切り込み、そのまま鮮やかにレイアップシュートを決めた。
 
逆転!
 
日本応援団から大きな歓声が上がる。
 
この後も貴司はひたすら試合を支配続け、終わってみると67-81と14点差を付けてカタールに勝利していた。
 
貴司自身が取った得点はその逆転を決めた1ゴール2点のみなのだが、日本のファンに物凄く強く細川貴司という選手を印象づけた得点であった。
 
これで日本はベスト4となり、最悪でもオリンピック世界最終予選には出られることが確定した。
 
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10月2日(金)。
 
彪志は7月の段階で内々定になっていた製薬会社から内定通知をもらった。誓約書、入社承諾書、身元保証書、健康診断書を提出してくださいという指示があったので、取り敢えずその日の内に学生課に行き、4月に大学で受けた健康診断に基づく診断書を1部、発行してもらった。
 
身元保証書については母に連絡してみた。
 
「ああ、その提出時期になったのね。1人はお父ちゃんに書いてもらって、もう1人は、大介叔父さんに頼めば良いよ」
「ああ、頼めるなら助かる」
「取り敢えず週末、こちらに戻っておいで」
「うん」
 
それで彪志は週末、一度帰省することにした。
 

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10月3日(土)。
 
千里は桃香と一緒に新幹線で富山に向かった。ふたりが一緒に富山に戻るのは3月以来である。5月のゴールデンウィークの時は桃香だけの帰省、6月の時も7月の時も千里がひとりで高岡に来た。
 
富山駅で青葉と落ち合う。そして水城さんの黄色いブーンで3人拾ってもらってJ市に向かった。なお、今日は青葉・千里ともに巫女服を着ている。これは実は「戦闘服」なのである。
 
「そういう訳でこちらがレスビアンの姉です」
などと青葉が桃香を紹介するので、桃香が
「ちょっとちょっと。突然何を言い出す?」
と焦る。
 
「大丈夫です。私はニューハーフのレスビアンですから」
と水城さんが言うので
「え〜〜!?」
と桃香は驚いていた。
 
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「それで先日もご報告したように、あの後、怪異は全く出なくなったんですよ。町内会での集まりでも、凄い先生に来てもらったんだなあ、とみんな感謝してました」
と水城さんは言う。
 
「でもあくまで私がしたのは応急処置なんですよね。ですから神社の孫息子さんが戻って来て、町内巡回を再開してくれるまで何とかもってくれたら、という状態なんです」
と青葉。
 
「はい、それも町内会では言っておきました」
と水城さんも言う。
 
「一応これ、取り敢えずの御礼ということで」
と言って水城さんは素敵な布の袋に入ったお酒の四合瓶6本セットを渡す。
 
「地元の酒屋さんが造っている銘酒のセットなんです。ふつうの清酒、大吟醸、本生酒、2本ずつですが、本生酒は早めに召し上がって頂ければと」
 
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「ありがとうございます」
と言って千里はお酒を受け取るが、お酒好きの桃香が興味津々な様子だ。
 

青葉は車を例の直線の始まり付近で停めてもらった。
 
「ここに車を置いておいて大丈夫ですか?」
「ええ問題ありません。田舎は交通量も少ないですから」
 
4人とも車を降りるが千里は清酒を1本手にしている。
 
「それどうすんの?」
と桃香が訊くと
「たぶん必要になる」
と千里は言った。
 
4人で町の方に向かって歩いて行く。
 
「けっこう距離あるなあ」
「あのカーブまでだいたい600mくらいかな」
「ひゃー。そんなに歩くのか」
「多分桃香が居ないとできないことなんだよ、これ」
と千里が言う。
 
青葉が千里に都合のいい日を訊いた時、桃香も連れて行きたいと言ったのが千里なのである。青葉は桃香の作用というのは何なのだろうかと考えていた。
 
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しかし、水泳で鍛えている青葉、バスケット選手の千里に比べて、桃香は運動などしていないので、ちょっと歩いただけで「きついよー」などと言っている。
 
「桃香、運動不足解消のために会社まで毎日歩いて通勤する?」
と千里が言う。
 
「それさすがに無茶」
「無茶じゃないけどなあ」
 
「桃姉のアパートから会社までってどのくらいの距離だっけ?」
「15kmくらいだと思うよ。私の足なら2時間掛からない」
「いや、それは速すぎる」
 
 
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