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■春退(12)

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ところで貴司だが、ウィリアム・ジョーンズ・カップが終わって7日に帰国すると、いったん大阪のマンションに帰る。合宿の合間の7月下旬に帰宅して以来の帰宅であったが、晩御飯を食べて京平の顔を見ただけで爆睡してしまう。そして翌日8日は「会社に色々報告があるから」と言って朝から出て行き、夜遅く帰宅する。そして9日には
 
「また合宿があるから」
と言って出て行ってしまった。阿倍子は貴司が戻って来ている間に色々買出しとかもして欲しかったしベビーベッドの位置も移動して欲しかったのだが、もう諦めの表情をしていた。
 
しかし貴司の合宿が始まったのは実は11日(金)であり、貴司が本当に合宿所に入ったのは10日の夕方である。
 
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9月9日(水)は千里とデートの約束をしていた。
 

その千里は帰国した9月6日は実際物凄く疲れていたので用賀のアパートで寝た。翌7日も日本代表のみんなとともに、あちこち挨拶に行ったり行事に参加したりして大忙しで疲れたので、やはり用賀の方に戻り、青葉や夕子と電話で話してから寝ようとしていた所で桃香から電話が掛かってくる。
 
「千里〜。まだ帰国しないんだっけ?」
「ごめーん。昨日帰国したんだけど、貯まっている仕事が凄まじくて」
「カップ麺とレトルトカレーとホカ弁のローテーションに飽きた。千里の作る料理が食べたい」
「はいはい。疲れてるけど、じゃ作りに行くよ」
「御飯のあと、千里も食べていい?」
 
千里は吹き出しそうになったが
「いいよ」
と答えた。
 
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なんか桃香と貴司の思考回路って似てるよなあ、と思ってから、要するに自分は似たタイプを好きになっているのか?と思い至った。
 

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桃香が経堂のアパート近くに駐めていたミラで迎えに来てくれたので、それに乗って一緒に経堂駅まで行き、Odakyu OXで買物をする。
 
肉ジャガが食べたいなどというのでジャガイモ・タマネギ・ニンジン・キヌサヤにお肉は桃香のリクエストで交雑牛を500g買う。普通女子2人であれば100gもあれば足りそうだが、桃香は男子並みの食欲だし、千里も遠征の疲れが残っているのでお肉をたくさん食べたかった。
 
アパートに戻って材料を切ったり筋を取ったりしていたら「摘まみ食い」と称して千里のスカートとパンティを下げてあのあたりをいじっている。どうも食欲も性欲も充分あるようである。
 
お腹空いて死にそうという割に元気じゃん!
 
圧力鍋の蓋が落ちるまで待つ間に早速1戦交える。
 
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「千里好きだよぉ」
と桃香が言ってたくさん愛撫するのを千里は微笑んで受け止めていた。
 
何気なく乳首を舐めた上で吸うようにすると、実際お乳が出てくるので桃香が「わっ」と言う。
 
「千里、お乳が出る」
「赤ちゃん産んだから出るよ」
「いつ産んだんだっけ?」
「内緒」
「誰の子供?」
「内緒。でも不倫はしてないよ。ちゃんと体外受精してるから」
「うーん。。。。で、このおっぱい飲んでいい?」
「まあ桃香ならいいよ。その子と乳兄弟になるかな」
 
などと千里が言うと、桃香はほんとにおっぱいを吸っている。京平より下手だな、などと思いながら千里は桃香に乳を吸わせていた。
 

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8日は午前中にバスケ協会に夕子たちと一緒に行ってきたあと、例の体育館の館長・立川さんも入れて、個室のある和風レストランで昼食を取りながら運営会社設立の問題について話し合った。
 
「だいたいどのくらいの経営規模が必要なんですかね?」
「男子のプロチームで、栃木ブレックスの場合で資本金5000万円、年商5億なんですよ。でも今度Wリーグに復帰するバタフライズの場合年間売上が現在2-3千万のようですね。プロ化すればもう少し増えるかも知れないけど」
 
「女子は男子ほどの売上はあがらないと思う」
と夕子。
 
「それチケット売り上げ?」
「今はファンクラブの収入とあとはスポンサーの協賛金でしょう」
「プロ化すればチケットも売るだろうけど、どのくらい売れるかは未知数だな」
 
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「取り敢えず3年間は私が毎年2000万円拠出していいよ」
と千里が言う。
 
「逆に取り敢えず2000万円で足りる範囲で経営を考えた方がいいな、それって」
と麻依子が言う。
 
「チームはプロ化してもプロ契約して年俸払う選手が最初ゼロだったりして」
「いや様々な経費がかかるはずだから、マジそうなるかも」
 
「あと地域戦略が必要だから、江東区の方と僕が話してみますよ」
と立川さんが言う。
 
「うん。地域の支援が得られることは絶対条件だからね」
「ステラが地元のミニバスチームの指導とかしてあげてるし、そのあたりのつながりも活用できるといいね」
 

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その日の午後も手分けして、プロチーム化に関して協力を求めたい人との話し合いを進めたりして、結局その日は19時すぎにいったん用賀のアパートに戻る。が、またまた桃香から電話が掛かってきたので、経堂のアパートに移動し、一緒に夕食を食べ、一緒に寝た。
 
翌9月9日。
 
桃香を会社に送り出した後、千里は少しワクワクしていた。
 
貴司とのデートは半年ぶりくらいである。千里も貴司も今年は日本代表の活動でほんとに忙しかった。
 
『千里、貴司君が尾行されてるぞ』
と《こうちゃん》が言った。
 
『阿倍子さんが雇った興信所の人か何か?』
『雑誌記者かも』
『へ〜!何とかなる?』
『千里と会うまでには何とかする』
『よろしく〜。私は大丈夫?』
『今の所問題無い』
 
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経堂から小田急に乗り新宿で降りて京王プラザまで歩く。貴司から連絡の入っている部屋番号のフロアまでエレベータで昇る。ドアの前で携帯を鳴らすと貴司がドアを開けて中に入れてくれた。
 
まずはキスする。
 
どさくさまぎれに服を脱がせようとするので「だーめ」と言って身体を離し、新宿駅そばの店で買ってきたモスバーガーを2人分出し、部屋のポットでお湯を沸かす。
 
「待たせちゃった?」
と訊く。
 
「駅前の信号がなんかトラブルで変わらなくなっちゃってさ」
「へー」
「なかなか駅に渡れなくて焦ったけど、すぐ警官が来て交通整理始めて。それでぎりぎりドアの閉まりかけに飛び込んで電車に乗った」
「それ危ないよー」
 
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と千里は言うが、たぶんぎりぎり飛び込んだので尾行者をまいたんだろうなと思う。
 
お茶が入ったところでお茶を飲みつつ、モスを食べつつおしゃべりする。大半はお互いのバスケの活動のことで、それに京平のことも話題にのぼる。京平の写真をUSBメモリーでもらう。千里はそれを胸に抱きしめるようにした。千里がアジア選手権でもらった金メダルを見せると
 
「いいなあ」
などと言って触っていた。
 
「貴司もこれからが本番だよ。私と同じ色のメダル取ってオリンピック切符を手に入れなよ」
「いや、ウィリアム・ジョーンズ・カップであらためて日本のレベルの低さを感じた。根本的に実力が足りない」
 
「実力を持った選手がたくさん眠っているからだと思う。貴司はたまたま気付いてもらって日本代表に招集されたけど、本当ならトップリーグに来ていい選手が実業団にもクラブチームにもたくさんいると思う。その人たちが上にあがっていけば、日本も変わると思うんだけどね」
と千里は言う。
 
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そして千里は言う。
「貴司もBリーグに行けばいいのに」
「うーん。ここまで育ててもらった恩がMM化学にはあるし」
「冒険がしたくないだけでしょ?」
「正直それはある。今の所なら給料が家賃補助を除いても40万あるし」
「あれ?もっと無かった?」
 
「実は会社の売上が落ちているので、スポーツ手当が今年の春から減額になったんだよ」
「あらら」
 
京平の妊娠成功に至るまでの不妊治療に掛った医療費は軽く1000万円を超えている。それだけの資金が投入できたのは貴司が高給取りであったからだ。
 
「社長が病気でなかなか執務できない状態で。今副社長が実質切り盛りしているんだけど、それもあって大口の受注をいくつか取り逃したのもある」
「うーん・・・」
「今の社長になって急速に業績をあげた会社で社長の個人的なコネで仕事してきたような面があるから」
 
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「そういう状態なら、それこそ移籍すればいいのに」
「いや、そういう会社を見捨てて出る訳にはいかないよ。でも実は今年の春、有力選手が2人bjチームに移籍したんだよ」
 

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ふたりはモスや、その他に千里が持って来ていたクッキーなども食べながら1時間くらいおしゃべりしていたのだが、その内、明らかに貴司がそわそわした様子なのを千里は感じ取っていた。
 
「ねぇ、いい?」
ととうとう我慢しきれなくなって貴司が言う。
 
「うん。いいよ」
と千里は言った。
 
「え?ほんとに?あれはしちゃいけないよね?」
「あれ?やろうよ」
「ほんとに?」
と貴司が嬉しそうに言うので千里は自分のバッグからバッシュを取り出した。
 
「へ?」
「手合わせでしょ? ボールを撞いたらさすがに迷惑だから、シャドウバスケだよ」
「う・・・・そっちか?」
「しない?」
「する!」
 
貴司も明日夕方合宿所に入るつもりで当然バッシュを持っている。ふたりは靴を履き替えた上で少し準備運動、ふたりで組んでの柔軟体操!をした上でボール無しのシャドウ・バスケットを始める。
 
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攻守を交代しながら、マッチングの練習である。
 
「今の抜いたよね?」
「ダメ。私がスティールしたよ」
「そうかなあ?」
 
「う。千里素早い」
「貴司が遅すぎるんだよ」
 

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ふたりは1時間ほどマッチングを楽しんだが、けっこう良い汗を流した。
 
「疲れた。一休み!」
「OKOK。私シャワー浴びてくるね」
「あ、うん」
 
それで貴司は若干期待して待っていたのだが、千里はちゃんと服を着てバスルームから出てくるので少しがっかりする。
 
「貴司もシャワー浴びておいでよ」
「そうする」
 
それで貴司はバスルームに入って汗を流した。もう半年も立っていなかったあれが、しっかりと大きく硬くなっている。やはり僕のって千里が傍にいると立つんだなあ、とあらためて不思議に思った。
 
ちょっとドキドキしながら、裸のままバスルームを出る。裸で出て行ったら千里怒るかなあ、と若干の不安がある。
 
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部屋に戻ると千里はベッドに入っている。こちらを見ている。怒って・・・ないよね? 貴司はベッドに近づき、自分も中に入ろうとしたのだが、千里はそれを押しとどめる。
 
「だーめ」
と千里は笑顔で言い、代わりに元気に立っている貴司のそれを優しく咥えてあげた。
 
「あ・・・・」
 
貴司はあっという間に逝ってしまう。名残惜しそうだ。デートの度に射精は最大1回の約束である。千里は急速に縮んでいくそれを舐めてきれいにしてあげる。
 
「ねえ、ちゃんと付けるからさあ。アジア選手権優勝のお祝いに1度だけセックスしない?」
 
千里は思わず噛みそうになるのをすんででこらえて口を離してから言う。
 
「じゃ貴司がアジア選手権で優勝したら1度だけしてもいいよ」
「ほんとに?」
「だから頑張りなよ」
「そういう話なら、ちょっと気合い入れ直して頑張る」
「うん」
 
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千里は下着だけをつけてベッドに入っていた。それで貴司も下着をつけて千里の隣に寝る。こういう状況では、並んで寝るだけでHなことはしない約束である。ふたりはそのまま1時間ほど仮眠を取った後、ルームサービスで遅い昼食を取った。
 
「じゃ私はこのあと、色々会う人があるから、またね」
と千里はお化粧を直してから出る準備をする。
「貴司は疲れてるでしょ?このまま寝てるといいよ」
「そうする。今夜もここに泊まってから、明日の午後合宿所に行くよ。千里は誰に会うの?」
 
「それがね」
と言って千里が40 minutesのプロチーム化の話をしようとした時、貴司の携帯に着信がある。
 
「はい」
と言って取る。どうも相手は貴司のお母さんのようだ。
 
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「え〜?ばあちゃんが?」
 
貴司の祖母・淑子のことだろうか?
 
「分かった。何かあったら連絡して。え?阿倍子。ごめーん。無理、あいつ身体が弱いから、とても北海道までの旅行なんてできないと思う。うん、僕が連れて行ければいいんだけど、今日本代表の活動で忙しくて。うん。ごめんね」
 
と言って貴司は電話を切った。
 
「淑子さん、どうかしたの?」
「心臓発作みたいで。御飯食べている最中に突然倒れて。心臓が停まっていたのを母ちゃんが心臓マッサージして蘇生させて病院に運んだけど、容体がはっきりしないと言うんだ。僕かせめて阿倍子でも来られないかと言われたけど、ちょっと難しい」
 
千里は淑子と、京平の顔を淑子が生きている内に見せてあげる約束をしていたことを思い出した。
 
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千里はポーチからタロットカードを出すと1枚引いた。
 
「星だよ。おばあちゃん助かるよ。貴司はほんとに日本代表の活動で頑張りなよ」
「千里の占いなら当たりそうだ。分かった。そうする」
 
それで千里はまたキスしてから部屋を出た。フロントでふたりが逢い引きした部屋とその「真下の部屋」の部屋代を払い、真下の部屋の鍵は返却してチェックアウトした。
 
 
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