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ところで始業式の日の放課後、セーラー服姿のセナは、学生服姿の祐川君を呼び止めて、校舎のかけに連れ込んだ。
「まさみちゃん、これあげる」
と言って紙袋を渡す。
「セーラー服!?」
「鞠古君がくれて、私が3月まで着てた服。クリーニングして持って来た。私、卒業したお姉ちゃんからセーラー服譲ってもらったからさ、こちらの制服は、まさみちゃんにあげるよ。実は私には少し大きかったんだけど、まさみちゃんなら割とちょうどいいかもしれないと思って」
「えっと・・・」
「みんなの前で渡したら、絶対そのままみんなから着るように言われるだろうしさ。だからみんなの見てない所で渡そうと思って」
「もらっちゃおうかな」
「うん」
とセナは笑顔で頷いたが、その仕草が凄く女の子っぽいなと祐川君は思った。この子、もしかして女性ホルモン飲んでるのかな?それとも卵巣移植したんだっけ??
始業式の翌日7日の午前中、各クラスでは授業振り替えにより学活が行われて各委員を互選により決めた。冒頭司会役のクラス委員・恵香は
「私のクラス委員にみんなが不安を持っているようなので、私辞任しますから最初に新しい女子のクラス委員を決めたいのですが」
と言った。しかし昨年1年3組のクラス委員を務めた風月美都が
「クラス委員は色々大変だけど、一度経験しておくのもいいと思う。困ったことあったら、私とか(昨年1年2組のクラス委員を務めた)広川(佐奈恵)さんとかに相談すればいいし」
と言うと、突然名前を呼ばれた佐奈恵も
「そうそう。悩む時は誰かに相談。取り敢えず1学期だけでもやってみたら?」
と言う。
「でも私、信用無いし。とてもクラス委員なんて大役、務まらなそうにないです」
と恵香が言うと
「『務まらなそうにない』というのは『務まらないという可能性は全く無い』ということで要するに『簡単にできる』という意味かな」
「うん。きっと『寝ててもできる』ということだよ」
「あ〜れ〜!?」
(もちろん『務まりそうにない』の言い間違い。恵香らしい間違いである)
そういう訳でみんなから「頑張ってみなよ」とか「何事も経験」と言われて、結局1学期だけでもやってみて、どうしても無理ということになれば2学期に誰かと交替することになった。女子の他の委員は下記のように決まった。
クラス委員 恵香
生活委員 玖美子
保健委員 蓮菜
体育委員 優美絵
図書委員 萌花
放送委員 千里
美化委員 世那!
図書委員と放送委員は
「誰か経験者は?」
と言われて、みんなから名前があがり、そのまま確定した。こういう専門職は未経験の人は大変である。千里は小4以来4年間“女子として”放送委員をしており、萌花は昨年はしてないものの、小4−6の3年間図書委員をしていた。
世那を“女子の”美化委員にしたのは。みんな半分面白がっての推薦である。さすがに保健委員や体育委員はやばいだろうということで、美化委員にされた。
本人は「うっそー」という顔をしていた。彼女は“男子時代”にクラス委員を務めたこともあるので、委員をすることは問題無い。なお男子の美化委員は祐川君になり
「祐川君がもし性転換して女子になった場合は、再考するということで」
などという声もあがっていた!?
(「性転換した場合は」と言われて喜んでいる)
7日の午後からは、入学式が行われた。昨年同様、N小とP小の卒業生を主体とする新入生が入学してくる。
新1年生は76人しかいなかった。
本来なら2クラスになるのだが、北海道の場合、中学1年生は特例でクラスの人数上限を35人で編成してもよいことになっている。それでS中では特に申告して、3クラス編成にした。
特例は北海道の場合1年生のみなので、もし来年春までに81人以上にならなかった場合は、2年生になる時に2クラスに再編されることになる(*18).
(*18) 都道府県によりルールが異なる。2004年当時の資料が見付からなかったのでこの物語は2011年時点の基準で書いている。2011年当時の資料では栃木県や山口県は全学年35人学級だが、兵庫県など複数の県で中学校には35人学級の制度が無い県もある。滋賀県などは北海道と同様、中学1年のみ35人学級である。こういうのは、きっと予算の都合。
学級定数は古くは50人の時期もあったが、1964年度から45人学級が進められ、1980年度から40人学級が進められている。その後、35人学級の実現に向けて政策は進められているが、都道府県によっては37人, 38人などという微妙な人数になっている所もある。多くは各学年ごとだが全学年の平均でという所もある。欧米ではクラスは20-30人という所が多く、日本の学級の詰め込み状態は先進国では異常。
入学式では吹奏楽部が入場曲(瀧廉太郎の『花』)を演奏したので、千里(R)や沙苗もそれに参加してフルートやサックスを吹いた。
入学式が終わった後は、新入生は退場せずそのままで、オリエンテーションが始まる。生活指導の先生や、教務主任の先生から、勉強の仕方や中学生としての生活について、お話があった。また生徒会長から生徒会の運営やクラブ活動について全体的な説明があった。
その後、部活紹介がある。
バスケット部は3年男子の、佐々木君・田臥君・貴司が出て、ドリブルしたりパスしたりするパフォーマンスをしたが、最後に貴司が華麗にランニングシュートを決めた・・・・・と思ったらボールはゴールの上でぐるぐる回ってから、外にこぼれちゃった!
しまったぁ!と天を仰ぐ貴司。でも佐々木君がすかさず
「こういう人でも、うちに入って練習していたら、その内ちゃんと入るようになります」
と言って、笑いが起きていた(部長は田臥君だが彼はあまり機転が利かない)。
剣道部では、女子が出てよと言われたので、千里(R)と玖美子が壇上にあがり、模範試合をしたが、凄い攻防に歓声があがっていた。千里が玖美子に面で1本取ったところで、3年生の藤田美春部長が
「うちは初心者でも歓迎です。初心者でも毎日練習してるとこの子たちみたいに強くなれますよ」
と言った。
部活紹介まで終わった所で新入生も退場するが、女子はそのまま視聴覚室に入り、性教育のビデオを見たようである(男子にも必要な教育だと思うが)。その間男子は身体測定をやっていたようだ。女子は後日測定するのだろう。
千里・沙苗・セナは3人とも昨年の入学式に出ていないので(*19)、へー、入学式ってこういうことするのかと思って眺めていた。
(*19)入学式を休んだ3人に、共通の特徴がある、と言われた!千里と沙苗は入院して生死の境をさまよっていたが、セナは単純に風邪を引いただけで、3日目には(学生服を着て)登校してきた。そして
「セーラー服着て来るかと思ったのに」
と言われた!
入学式の翌日、4月8日(木).
この日、2〜3年生のクラスでは生徒手帳が配られた。
千里はセーラー服を着た写真で、女子と記載され、出席番号31の生徒手帳を受け取った。1年の時と同じ番号だなと思った。記載事項を眺めて特に間違いは無いなと思い、制服のポケットに入れた。古い生徒手帳はカバンに移した。
沙苗もセーラー服を着た写真で、女子と記載され、出席番号28の生徒手帳を受け取った。沙苗は大きく息をつき、生徒手帳を抱きしめてからセーラー服のポケットに入れ、古いのはカバンに移動した。
セナもセーラー服を着た写真で、女子と記載され、出席番号24の生徒手帳を受け取った。自分の身分証明書欄に性別・女と書かれているのを見てドキドキしていた。
2年1組女子の出席番号(★:勉強会メンバー)
21.大沢恵香(クラス委員)★
22.琴尾蓮菜(保健委員)★
23.沢田玖美子(生活委員.剣道部)★
24.高山世那(美化委員.剣道部.合唱)★
25.戸口萌花(図書委員)
26.那倉絵梨(卓球部)
27.新田優美絵(体育委員.バレー部)
28.原田沙苗(剣道部)★
29.広川佐奈恵(合唱.吹奏楽)
30.風月美都(合唱)
--.深草小春★
31.村山千里(放送委員.剣道・合唱・バスケ)★
32.矢野穂花(合唱)★
30分ほど時間を戻す。
この日、各クラスで朝の学活が行われる前、職員室で、出来上がった生徒手帳が各担任に渡された。1組担任の吉永先生は、その生徒手帳をチェックしていて、出席番号16という生徒手帳が存在することに気がついた。
「うちは男子は15人しか居ないのに」
と思って、名前を確認すると、生徒手帳の入った封筒の表書きは16.村山千里になっている。
「村山さんは女子だから間違いだな。これ作り直してもらわなきゃ」
などと言ってその手帳を外す。女子の方も見ていくと、女子の方にもちゃんと31.村山千里というのが入っている。
「重複間違いか。じゃこれ返品すればいいな」
と言って、16.村山千里と印刷された袋に入った生徒手帳を机の上に置いたまま、他の手帳の入った箱を持ち、2年1組の教室に向かった。
吉永先生が出ていった後、机の上に置かれていた16.村山千里の生徒手帳の袋がスッと消えたことに、周囲の先生たちは誰も気付かなかった。吉永先生も重複のことは、きれいに忘れていた。
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女子中学生の生理整頓(19)