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■女子中学生の生理整頓(16)

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お昼を食べた後、更に動物園を見て回っていたら、バッタリとその千里と遭遇した。千里は叔母さんか従姉だろうか、20歳くらいの女性と、お祖母さんだろうか、70歳くらいの女性と一緒である。
 
「わざわざセーラー服着てきたんだ?」
と千里が言う。千里はフリースのトップに厚手のジーンズのスラックスを穿いている。スカートでなくてもちゃんと女の子に見えるのが千里の凄い所だよなあとセナは思う。そして千里の胸の膨らみがまぶしい。自分もおっぱいあるといいなあと思った。
 
「うん。セーラー服外出に慣れなさいと言われて」
とセナは言ったのだが
 
「今更慣れる必要無いじゃん。ずっと学校ではセーラー服着てるのに」
と千里は言った。
 
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母と姉の冷たい視線!
 
「ふーん。そうだったんだ?」
と姉が言っている。
 
「毎日セーラー服着てたのなら、慣れてる訳よね」
と母。
 
セナは、どう言い訳しよう?と焦っている。
 

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千里はまずいこと言っちゃったかな?と思ったが、フォローするように言った。
 
「女の子ライフに慣れるということなら、今夜うちにお泊まりとかする?」
「えーっと・・・・」
「セナちゃん、一晩借りていいですか?お母さん」
「でもいいのかしら?この子は・・・」
と母は迷っている。男の子を女の子の家に泊めていいものかと悩んでいるのである。
 
「明日の朝までにちゃんと女の子の身体に改造しておきますから」
と千里は言う。
 
「だったらいいかもね。性別変更届けを書いとくね」
と姉は言った。
 

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それでセナは母・姉と別れて一足先に動物園を出る(弟が遊園地で遊びたいと言ったので、母とアランはそれに付き合った)。
 
動物園の駐車場で、瑞江のRX-7に、助手席に天子、後部座席に千里とセナが乗って天子のアパートに向かった。
 
千里は後部座席に並んでいて
「ほんとに女の子にしか見えないよ」
とセナに言い、胸やお股!に触った。そして喉にも触った。セナはドキッとした。喉仏が出てると男とばれるので、これを隠すのに結構苦労しているのである。これの隠し方は、沙苗から幾つかの手法を教えてもらったのでその組み合わせを実行している。
 
(1)喉は物理的に隠してはいけない。チョーカーなどは不自然で、何かを隠していると他人に思われてかえって性別疑惑を持たれる。そもそも喉仏は位置が動くので、動いても隠せるようにするには、かなり幅広のチョーカーが必要で全く不自然。喉は思い切って曝して、喉仏が“無い”所を見せるのが良い。
 
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(2)唾を飲み込んで停めるようにすると喉仏は上に上がって見えなくなる。これが基本。
 
(3)俯いていると喉仏は見えない。トイレの待ち行列などで長時間隠す必要がある場合は(2)と(3)を併用する。
 
(4)女声で話している時は、喉仏は上がったままになる。
 
しかしあらためて触られると、喉仏があるのは分かってしまう。
 

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セナは(4)女声の発声ができないので、ひたすら(2)吸い込み停止と(3)俯きである。
 
でも沙苗が教えてくれてセナは1月からずっと女声を出す練習をしている。準備段階でハイトーンで話す練習をしているのだが、ハイトーンで話すと、どうしても緊張の高い声になる。その緊張を緩めていけば女声的に聞こえると言われているのだが、そこがまだうまく行かない。
 
ただ沙苗も祐川君!?も、女声の練習ってしてると、ある日突然出るようになるということだった。それが起きることを夢見て、セナは毎日練習している。
 
(祐川君が女声を出せるのかどうか、彼は明言を避ける)
 
ただ、これは沙苗にも玖美子にも言われたのだが、元々セナの“話し方”は女の子の話し方だという。だから、セナが男声で話していても、相手は声の低い女の子だと思ってしまうのだと。それがセナがセーラー服を着て授業を受けていても、先生たちが違和感を覚えない大きな理由のひとつだろうと、鞠古君も言っていた。
 
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鞠古君はけっこう女の子っぽい声を出すことができる。
「でも6月にセーラー服で登校してきた時は変な声で話してた」
「あれ、女の子として適応できそうと思われたら、ほんとに性転換手術されてしまいそうだったから、わざと変にやっただけ」
「そうだったんだ!」
「俺は女の服を着るのは好きだけど、女にはなりたくない」
「それは分かる気がする」
 
「高山は女の子になりたいんだろ?」
「自分でもよく分からないけど、なりたい気がする」
「どっちみち性転換手術を受けられるのは高校を出た後だから、それまで沢山悩むといいよ」
 
「そうするかも」
 
鞠古君とその話をしたのは、自分にとって大きかったかもとセナは思う。
 

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やがて車は団地のような所に到着する。ラインが引かれている駐車枠に駐め、4人は階段を昇って、3階の部屋に入った。
 
「入って入って、ってお祖母ちゃんちだけど」
と千里。
 
「お邪魔しまーす」
と言ってセナは中に入った。
 
「みんな休んでてね。すぐ作るから」
と言って、千里は台所に立った。セナも立っていき
「何か手伝うよ」
と言う。
 
「じゃ、お味噌汁作って。“ゆうげ”だけど」
「OKOK」
 
それでセナはケトルでお湯を沸かすとともに、IHヒーターの空いている側でも小鍋に水を入れてお湯を沸かす。湯が沸く間に、漆器のお椀を4つ出し、それに、まず具のバックを入れてから味噌のパックを入れていった。
 
「ああ、普段やってるね」
「うん。これ便利だし。味噌を先に入れると、味噌がお椀の底に付いて溶けないことがある。先に具を入れておけば味噌はお椀の底にくっつかない」
 
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「こういうインスタントでも、微妙な要領ってあるよね」
「あるある」
 

茶碗とか箸もどれが誰のというのは無いということだったので、セナは磁器の茶碗(有田かな?と思った)を4つ並べ、御飯を盛る。その中のひとつは少なめに盛って、天子の前に置き、他の3つを(天子と将棋をしていた)瑞江の所、自分と千里が座るだろう場所に置いた。お味噌汁を並べ、箸も並べる。
 
その間に千里が青椒肉絲(チンジャオロースー)を作り終えて、セナが並べてくれていた白いボーンチャイナのボウルに盛った。それで食卓に運んでいく。
 
「お疲れ様」
「頂きまーす」
 
「でもセナは家事をしなれている」
「小さい頃から料理はお母ちゃんの手伝いしてたから、実はお姉ちゃんより鍛えられている」
「ああ、女の子2人いると、わりと妹のほうが鍛えられがちですね」
と瑞江。
 
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またぼく“妹”と言われちゃった、とセナは思っている。
 

食事も終えて、一息ついたところで
「じゃセナ、帰ろうか」
と言って千里が立ち上がる。
 
「え?留萌に帰るの?」
「違うよ。別の家に行くんだよ。ここに4人は寝られないから」
と千里。
「無理すれば4つ布団敷けないこともないけどね」
と瑞江。
 
それで千里とセナは瑞江に送ってもらって、旭川市郊外のわりと広い家まで行った。建坪は50坪くらいだろうか。セナはその家に違和感を覚えた。
 
「この家、2階建てだよね?」
「残念。平屋建てでーす」
「嘘!?こんなに屋根が高いのに」
「天井の高さが5mあるからね。だから部屋の中で剣道の練習ができるよ」
「へー」
「今夜はもう遅いけど、明日練習しようよ」
「あ、でも竹刀とか防具とか持って来てない」
「竹刀はあるよ。防具はエア防具で」
「あはは」
 
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「じゃ明日のお昼くらいに迎えに来てくれる?」
「はい。じゃお休みなさい」
と言って、瑞江は帰って行った。
 
千里が鍵を開けて、セナを中に入れる。
 
「ここは親戚の家か何か?」
「まあ親戚みたいなものかな。鍵を預かってて、いつでも使っていいことになってるんだよ。ああ。お茶でも入れるね」
と言って、千里はセナを居間のテーブルの所に座らせ、お湯をケトルで沸かして紅茶を入れた。
 
「何か香りが凄い」
「これはフォションの紅茶。フランスの紅茶ってフルーツの香りの付いてるのが多いんだよね」
「ずっと昔、お父ちゃんがお土産にもらったことあった」
 
お茶を飲みながらたわいもない話をしていたのだが、千里はやがて白いカードにマジックで、A・B・O・P・T・U・V、という7つの文字を書いた。それを裏返してシャッフルする。
 
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「これから起きることは夢だから」
「うん」
 
「セナ1枚引いて」
「うん」
 
それでセナは1枚引いた。
「開けてみて」
 
セナが引いたカードは“A”だった。
 

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「まだまだ勇気が足りないな」
と千里は言った。
 
「どういうこと?」
 
「A=Adam's apple, T=Testicles, P=Penis. この3枚のどれかを引けばセナの男性的な部分を取り除く。セナはAを引いたから、喉仏を取ってあげるよ」
「え〜?」
「取られたくない?」
 
セナは首を振った。
「まだちんちんや睾丸は取る勇気無いけど、喉仏は無くならないかなあと思ってた」
「じゃ明日の朝起きるまでに無くなってるから」
 
「・・・・・」
「取られたくないなら今すぐ帰るといいよ。タクシー呼んであげるから」
「ぼく、じゃなかった。わたし、帰らない」
「うん」
と千里は頷いた。
 
「他のは何だったの?」
「B=Bust, V=Vagina, U=Uterus, O=Ovary. これを作ってあげていた」
「まだそこまで自分を改造するのは勇気が無い」
と言いながら、卵巣や子宮も作れるのだろうか、とセナは疑問を感じた。
 
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セナの記憶はここで途切れている。
 

セナは明るい日差しの中、目が覚めた。窓から朝日が差している、自分はセミダブルサイズのベッドに寝ていた。6畳くらいの洋室にベッドが置かれている。部屋にはワークテーブルと本棚、小型のクローゼットがあり、そのクローゼットの中にハンガーに掛けた自分のセーラー服が掛かっていた。
 
喉に手を当ててみる。
 
喉仏が無くなってる!
 
手術されたのかな?それにしては痛みとか無い。
 
おそるおそる声を出してみた。
「おはよう」
 
なんか声が女の子の声みたいに聞こえる!?
 
自分のミニーマウスのバッグ(姉からもらった)がワーキングテーブルに載っているので、そこから携帯を取り出し、自分の声を録音してみた。
 
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「人恋うは、悲しきものと平城山(ならやま)に、もとおり来つつ、たえがたかりき」(『平城山』作詞:北見志保子 1885-1955)
 
自分でも信じられないくらいハイトーンの声が自然に出る。そして録音を停めて再生する。
 
女の子の声に聞こえる!すごーい! 喉仏が無くなったら、こんなに可愛い女の子の声になれるのか、とセナは感動した。
 
実際には《きーちゃん》はセナの喉の“変形”を元に戻しただけである。だから甲状軟骨の隆起も消えたし、声帯の変形も声変わり前に戻って、ボーイソプラノが“出やすく”なった。セナの女声は実はもう完成間近だった。
 
だから今回、きーちゃんは“喉には”メスを入れてない。
 

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セナはシルクっぽいネグリジェを着て寝ていた。枕元にパンティとブラジャー、スリップが置かれていて「シャワーを浴びたらこれを使ってね」という千里の字のメモがある。
 
千里の字って可愛いよなあと思う。きっと女の子たちは小学5-6年生の頃から可愛い字になろうとたくさん練習してるんだ。ただ、彼女たちはこういう友だち同士で使う字と、授業やテストで使う字を使い分けている。そもそも女の子って建前と本音の落差が凄いよなというのも、ここ3ヶ月ほど、女の子のコミュニティで過ごしてきて感じたことである。
 

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お風呂はどこで入ればいいのかな?と思いながらネグリジェ姿のまま部屋の外に出る。居間に千里がいた。
 
「おはよう」
「おはよう」
「千里ちゃんありがとう。喉仏が無くなって凄く調子いい」
と発音する言葉が女の子の声なので、セナは感激している。
 
「喉仏?何それ?」
「千里ちゃんがカードを並べて1枚引いて。私がAを引いたらAはアダムズ・アップルと言って喉仏を取ってくれたじゃん」
 
「セナちゃん、何か夢でも見たのでは。セナちゃん、最初から喉仏なんて、無かった気がするけど」
 
セナははっとした。そういえば昨夜千里は、これから起きることは夢だと言った。だからきっと喉仏が無くなったことは夢だと思えばいいのたろう。
 
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「そうだ。お風呂借りられないかなと思って」
「お風呂はそこに温泉のマークが付いてる所だから自由に使って」
「ありがとう!」
「着替えは新品の下着だからそのままあげるよ」
「じゃもらう。何かの時にお返しするね」
「うん」
「剣道の練習したら再度汗かきそうだけど」
 
そうだ。忘れてた!
 
「剣道やった後、お風呂もらおうかな」
「再度着替えてもいいよ」
 
 
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