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そして12:04に留萌駅に着くと
「取り敢えず時間調整しよう」
と小春が言うので、コンビニでおやつを物色した。なお荷物が多いので、大半の荷物はカノ子に自宅まで持ってってもらった。
「そろそろ行こうか」
と言われて、会計してコンビニを出る。
「どこに行くの?」
「市民体育館」
「へ?そんな所で何するの?」
「千里を待ってる人たちがいるんだよ」
「へー」
それで千里(千里Y)は、12:30頃、市民体育館に到着した。
「バスケットの大会があってるんだ?」
「うん」
そこに小春のエイリアスが来る。
「千里、待ってた。来て」
「いいけど」
小春に連れられて行くと、そこに留実子がいる。
「あれ?るみちゃん、バスケットの応援?」
と千里は尋ねた。“この千里”も留実子が応援団に入ったことは聞いていた。でもバスケ部に入ったことは知らない。
「ぼくはバスケット部員だけど。千里剣道はよかったの?」
「剣道って何だっけ?」
「だってさっき、剣道の試合に出なきゃと言って出ていったじゃん」
「へ?剣道なんて小学校を卒業した後はずっとやってないよぉ」
「向こうに出ないの?だったら午後の試合にも出てよ」
と久子が言う(この千里はこの人のことを知らない)。
「私が・・・何の?」
「バスケットの試合に決まっている」
「おお、参加してくれるなら歓迎歓迎」
と2人の女子(助っ人の子たち)が言った。
そういう訳で、“この千里”(千里Y)が午後のバスケットの試合に出ることになったのである。
体育館で履けるような靴を持ってないと思ったのだが、小春が
「これ使って」
と言って、バッシュを渡してくれる。これは千里Bのバッシュで、午前中の試合では千里Rが使用したものである。体操服にスポーツブラ!も小春から渡されたが、これは小春(のエイリアス)が自宅から持って来ていたものである。
「靴とか体操服にブラまで用意してるって用意がいいね」
と千里は小春に言った。
「でも女子バスケ部ってユニフォーム無いの?」
「予算が無いし、部員みんな貧乏だし」
「千里が寄付してくれるなら作ってもいいが」
「それっていくらくらいするの?」
「1着8000円くらいだと思うんだよね。それをホーム&アウェイで色違いの2枚作る必要がある。だから15人分作ると24万円になる」
「結構かかるね!」
「女子バスケ部の年間予算は生徒会からの補助が2000円と部費が月500円の5人で合計32000円(*5)」
(*5)留実子の部費は千里が一緒に払っている。留実子の家は貧乏である。
「確かに制作予算が取れそうにない」
「男子は5年前にOBさんが寄付してくれてユニフォーム作ったんだよ。ベンチ外の子用まで含めて30組で40万円掛かったらしい」
「へー。奇特な人いるね。女子にはそういう奇特な人がいないんだ」
「千里よかったらぜひ寄付を」
「宝くじでも当たったら考えてもいい」
取り敢えず千里は更衣室に行ってスポーツブラを着けた上で体操服に着替えた。そして、S中の控え場所で、札幌で買っておいたパンを食べたのであった。
13:20 S中とR中の試合が始まる。
千里は自分に背番号4の物凄く強そうな人が付いたのでびっくりした。
『この人すごいよー。なんで助っ人(と思っている)の私にこんな凄い人が付くの?』
と千里は思った。
千里は取り敢えずこの4番の人に完璧に封じられる。また留実子も向こうの5番の人に封じられるので、S中は攻撃方法が無い!むろんテニス部の2人は全く向こうの選手にはかなわない!
ということで、この試合前半は完璧なワンサイドゲームになった。第2ピリオドを終えて33-4である(4点の内2点は留実子が向こうの5番さんを振り切って決めたシュート、2点は久子が自分でシュートに行って決めたもの)。
ハーフタイムで休んでいる時、千里は尋ねた。
「点数がさ、一度に2点入る時と3点走る時があるのは何でだっけ?」
久子が呆れて頭を抱えている。午前中にスリーを千里に教えてあげた博実が再度教えてあげた。
「午前中も説明したけど、ゴールを中心に大きな半円が描かれているでしょ。あれがスリーポイントライン。あそこの外からシュートすれば3点になるんだよ」
「そんなルールがあったんだ!」
「まあミニバスには無いルールだよね」
「知らなかった。だったらあの外がらシュートすればお得じゃん」
「普通の人はあんな遠くからシュートしても入らないのだけど」
「そうだっけ?」
「じゃ次はあの外側からでも撃てるチャンスがあったら撃ってみなよ。たぶん4番の人も第3ピリオドでは休むと思うし」
「という説明を午前中にもして、君は第2試合でひたすらスリーを撃ったんだけどね」
と久子。
「え?私午前中はJRに乗ってたよ」
「へー、そうなんだ?」
そういう訳で、千里は第3ピリオドでは、とにかく“スリーポートライン”(←この千里の発言のママ)の外側からシュートしてやろうと思って出て行ったのである。
久子の予想通り、前半千里をずっとマークしていた4番の人、ずっと留実子をマークしていた5番の人はともに休んでいた。それで留実子も代わってマークに入った8番の人を結構振りきってシュートに行ったし、千里は代わってマークに入った12番の人からマークされてても気にせずスリーを撃った。
千里はスリーって、少々マークされてても撃てるじゃんと思っていた。近くまで寄ってからレイアップシュートしようとすると、その進入を阻まれるのだが、遠くからなら相手のガードしてない軌道でゴールを狙えばいいのである。
すると千里はこのピリオド6分までで10本のシュートを撃ちその内の9本を決めて27点を奪った。更に留実子も8得点してふたり合わせて35点である。R中側も10得点したので点数はここまでで43-39であるが、R中は完全にお尻に火が点いた。
4番さんと5番さんが出てくる。まだ疲れは取れてないだろうが、そんなことは言ってられなくなった。
実はもっと早く出たかったのだが、交替できるタイミングが無かったのである。結局、千里をマークしていた12番の人が(空気を読んで)わざとファウルして試合を停めた(千里はその後、しっかりフリースローを3本とも決めた)。
4番さんが本気で千里を停めに来る。“この千里”はバスケ初心者なので、“動き”は停められる。でもブロックされないように高い軌道で撃つと、確率はどうしても低下するものの、それでも結構入る。千里は第3ピリオドの残り4分間で4本のシュートを撃ち2本決めてフリースローの分まで入れて9点を取った。留実子も5番さんのブロックをかいくぐってシュート1本を決め、ファウルでもらったフリースローも1本決めて合計3点である。つまりこの4分間でふたり合わせて12点取った。一方R中側も9点取った。
結局、第3ピリオド終了時点で49-48とわずか1点差となる。第2ピリオド終了時点で33-4というオクトプル・スコアだったのが、先行きが予断を許さない所まで迫った。
第4ピリオド、R中は何と“千里に”ダブルチームを掛けて来た。どんどんスリーを放り込む千里の方が、留実子より危険と見てである。
元々“素人”の“この千里”はダブルチームを掛けられるとさすがにシュートが撃てない。それでもファウルを3回ももらって、フリースローを全部決めたのでそれで9点である。留実子も5番さんが厳しくマークするので得点できずフリースローを含めて3点に留まった。その間、R中は14点取ったので、最終的なスコアは63-60 と僅差でR中が逃げ切った。
でも4番さんも5番さんもファウルが4回であと1回でもおかせば退場になっていたところだった。万一退場になっていたら、そこからS中に逆転されていたであろう(後でファウルが多すぎるとして注意をくらった!負けてる側のファウルは戦術として認められているが勝ってる側のファウルには厳しい)。
それでともかくもこの大会はR中が優勝、S中が準優勝となった。
しかしこのR中との激戦は、S中に凄い選手が居るというのを、留萌地区全体に知らしめる大会となったのである。
なおバスケ部顧問の伊藤先生はずっと男子の方に付いていたので、女子がR中と3点差の接戦をしたと聞いてびっくりしていた。これまではいつも大差で負けていたのである。
男子は貴司の活躍で優勝を勝ち取った。男子はR中が準優勝だった。
貴司が翌日スコアを見て
「千里、女子の試合に出たんだ!?」
と驚いて訊いたが、尋ねられた千里(千里B)は
「私が女子の試合に出られるわけない。何かの間違いでは?」
と言った。
確かに千里Bは17日のバスケットの試合には出ていない!
(17日に試合に出たRもYも卵巣があるので間違い無く女子であったし、生徒手帳はセーラー服の写真で性別もちゃんと女子になっている。そもそも千里は戸籍上も女子なので、女子の試合に出る権利がある。Bは卵巣が無いので(*6)中性だし、生徒手帳では学生服姿で写っていて性別も男子になっている)
(*6)正確には小春の左側卵巣が入っているが、キツネの卵巣なので能力が小さい。実際にはBの身体は、女性ホルモン製剤により女性的に保たれている。1学期の頃は、鞠古君の身代わりで女性ホルモンの注射をされていたのも効いていた)