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■夏の日の想い出・無茶言うなよ(23)
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最後に上島が結論を言う。
「あの事件については、僕も色々誤解していたことが多くて。でも今日の午前中左座浪君と話して、様々な誤解が解けた。去年当時のことを知る関係者が居ないか探した時も、左座浪君はもう亡くなっているとばかり思っていたので、彼を探そうともしなかった。本当に申し訳無いと思う」
「でもあの事件で高岡にも夕香にも責任は無かったことをご理解頂けたのではないかと思います。当時のそのような警察の捜査の結果、事故を起こした人物は特定できないものの、ふたりには責任は無かったと判断して、保険会社もふたりの生命保険を払ってくれたんですよ。おかげで、車の代金とかも払うことかできましたし」
と上島は述べた。
(*69) 左座浪の説明には意図的に“話さなかった”ことがある。この場では単に混乱を招くだけだからである。
・佐藤小登愛がしていた作業と、彼女の謎の死について。
・夕香が「広中君に運転を依頼して下さってありがとうございます。私も安心して後部座席で休んで大阪に向かえます」というメールを左座浪にしていたこと。広中は2003年10月に既に亡くなっていたこと。そして彼の遺体も後から考えるとまるで交通事故で重大な打撲を受けたかのような状態だったこと。
(当時はマンションの屋上から飛び降りたのだろうと言われたが実際には屋上は施錠されていて入れなかった。彼が住んでいた部屋の窓から落ちたにしては損傷が大きすぎた/高さ50mから転落すると地面に衝突する時の速度は112km/h。しかし広中は8階に住んでいたのでそこから転落しても70km/h程度である。高岡たちは120km/h程度で壁に激突したものと思われる)
・自分が運転していて事故を起こしたと告白した人物は7人とも事故の数ヶ月後に別の事故で亡くなったこと。その亡くなる直前に警察官や救護に当たった人にその告白をした。しかし全員、その事故で受けたにしてはあまりにも大き過ぎる損傷を受けていた。友人たちの証言から当人がよく中央道を走っていたことは裏付けられた。
左座浪はこの事件の真相は“魔術戦争”だと思っている。
事件の捜査をしていた刑事さんの中に魔術関係に詳しい女性刑事さんがいて、彼女と
「こんなこと報告書に書いたら頭おかしいと思われるけど」
などといって雑談的に話したが、左座浪と彼女の見解は一致した。
ふたりが想像したのでは、真の犯人はやはりあの高岡を包丁で殺そうとした女で、裕恵や広中は多分操られて手駒に使われたのだろうと。佐藤小登愛はそれを防ごうとしたが負けて亡くなったのだろう。しかし最終的に誰か強力な女魔術師か魔女かが、あの女を倒したのだろうと。
(捜査官の中の幾人かは、小登愛とあの女が相打ちだったのではと想像していた。しかし事故は小登愛の死後に起きているので第3の女魔術師が居たと考えた方がスッキリする)
あの女は高岡が夕香に生ませた娘も殺そうとしたが強力な魔女に反撃されて失敗したと語ったらしい。警察に事情を聞かれた志水照絵は、高岡たちが死んだ晩に龍虎が激しく泣いていたことを語った。(調書には“高岡夫妻の長女・龍子”と記載された!)
多くの捜査官は、子供ならではの直観で親が死んだことを感じ取って泣いたのでしょうかね、などと言っていたが、女刑事は、あの女が“龍子ちゃん”を本当に呪い殺そうとしていたので激しく泣いたが、実際に近くに居た“強力な魔女”が“龍子”を守って反撃し、女は倒されたのではと想像した。左座浪も同意見だった。
左座浪は(女刑事さんには言ってないが)もしかしたらその“強力な魔女”というのは、天野貴子さんかもと想像していた。
つまり左座浪(と女刑事)はほぼ真相に到達していた。その“強力な魔女”というのが実は当時12歳の千里であったということ以外は(*70).
「でもあの女と本当に付き合ってて子供生ませた男が分からなかったのが残念ですね」
と左座浪は言ったのだが女刑事は言った。
「たぶんその人もう生きてません」
左座浪は少し考えたが
「そうかもね」
と同意した。たぶんあの女に道連れにされただろう。
(*70) あの時、千里は全く通りがかりだったのだが、(志水照絵が落とした)ワンザナドゥのデータが入ったSDカードのケースをマンション前で蹴ってしまい、何を蹴ったんだろう?と探してカードを拾い上げた時に女の生霊が現れた。そして自分たちまで殺されそうだったので反撃して倒した。
だからあれはワンティスのみんなが龍子(龍虎だっけ?)を守ってくれたようなものである。
ちなみに、女は自分は、千里の隣に居た、いかにも手強そうな遠駒真理にやられたと思い込んだまま死んだ。まさか後ろを向いていた少女に倒されたとは夢にも思わなかった(バックショット)。
(Magic progress)
18:45 女の生霊が佐藤小登愛を殺害
18:50 広中の幽霊が生霊を追い返し、マンションに入る
01:00 広中が高岡と夕香を車に乗せて出発
03:15 広中が車内から『疾走』の歌詞をFAXする
04:51 女が夕香を車外に放り出して殺害。高岡の身体も飛び出してしまい死亡
05:30 女が龍虎のマンション前に現れ千里たちを排除しようとして反撃される。
(Real Progress)
01:10 裕太(現:裕恵)がマンションを訪れる
01:40 裕太が高岡と夕香を車に乗せて出発
03:00 ハイジがマンションを訪れる
03:15 ハイジが『疾走』の歌詞をFAXする
04:20 駒ヶ岳SAで休憩。誰かが車を乗り逃げする
05:41 事故が起きて高岡・夕香が死亡
↓少々読み飛ばすの推奨
Magic progress と Real Progress は、cHa (complete Heyting algebra) 的に補い合って成立しており、どちらも部分的な事実である。7人の乗り逃げ犯もお互いにcHa的に事実を構成しているし、この時の事故と数ヶ月後に現実に起こした事故も cHa的に重なりあっている。
cHa的な現実というのは、量子力学的現実(シュレディンガーの猫のような話)と似ているが両者は真逆の理論である。前者(直観論理)は複数の事実の並立が許容され、後者は全ての事実が成立しない。
前者は cHa(完備ハイティング代数)でモデル化されるのに対して、後者は線形代数でモデル化される。実は量子論理のことは研究者が少なくよく分かってない。cHaは少なくとも筆者が在籍していた頃の九州大学大学院ではよく研究されていた。とても美しい理論である。
ファジー理論は、直観論理や量子論理の簡易なシミュレーションと思われる。
いづれにしてもこの事象は「真実はひとつ」などという素朴すぎる信仰(古典論理)では制御しきれない。
(*71) 左座浪は実際には裕恵がロックしなかったのは、あの女の催眠術(のようなもの)のせいだと想像している:このことを左座浪はアクアには話した。アクアが裕恵を恨んだりすることのないようにである。むろんアクアは人を恨んだりする子ではない。
そういう訳で、この事件ではかえって高岡夫妻、そしてアクアにも同情が集まることとなったのである。
今回は天野貴子(きーちゃん)が、
「左座浪さんに証言させるのが良い」
と千里(千里2A)に言い、彼の所在を唯一知っていると思われた、義浜ハイジ・裕恵夫妻に連絡を取った。それで2人はアメリカにいる左座浪に連絡を取り、千里が飛行機をチャーターして日本に呼び寄せたのである。またハイジと裕恵も自分たちも証言すると言ってくれた。
飛行機のチャーター代は§§ミュージックが出すとコスモスは千里に言ったのだが『証人に§§ミュージックが便宜を供与してはいけない』と千里は言ったので、千里の好意に甘えることにした。左座浪の滞在費や義浜夫妻の交通費も千里が出した。
久々の千里2Aの活躍!
ハイジと裕恵は千里の仲介で越谷に滞在中のアクアに直接謝罪に行き、土下座して謝ったが、アクアは
「ハイジさんにも裕恵さんにも責任は無いです。不幸な偶然の重なり合わせですよ。悪いのは事故起こした乗り逃げ犯で、裕恵さんは被害者ですよ」
と言って、あまり気にしないように言った。
「それにおふたりが留萌振興のためにここ15年以上貢献してこられた話も千里さんから聞いています。おふたりはもう充分な償(つぐな)いをなさってますよ」
と言った。
それでも特に裕恵は
「ごめんなさい、ごめんなさい」
とずっと謝っていた。
この事件の左座浪の発言について照会された警視庁は
「特にコメントすることはありません」
とコメントし、事実上左座浪の見解を追認した。
アクアはこの日だけ映画の作業を休みにしてもらい、翌日からまた頑張った。
俳優のMは信濃町の§§ミュージック事務所まで来て謝罪した。アクアは映画の制作で対応できなかったものの“義父みたいなもの”の海原重観(*72)が代理で応対してくれて
「アクアはもう気にしてないですから、あまり気に病まないでください」
と言った。
Mは自主的に1ヶ月謹慎して全ての番組をお休みした。
またこの事件以降、アクアのアクアの売上は、かえって伸びたので、メーカー側もこの件はこれ以上問題にしなかった。
(*72) 海原重観は、龍虎(アクア)の叔母(旧未成年後見人)長野支香の夫である。龍虎には「お父さん」と呼ばせている!
ちなみに龍虎の従妹に当たる海原美奈代(小3/後の美濃山淳奈)は龍虎のことを「龍虎お姉ちゃん」と呼ぶ!
鈴木一郎(∞∞プロ)・丸花茂行(○○プロ)・兼岩源蔵(ζζプロ)の“業界3巨頭”は
「コスモスちゃんの恐ろしさをまた認識した」
「死人までこの世に呼戻すとは恐ろしすぎる」
「絶対にコスモスちゃんだけは敵に回せない」
と話し合ったとか。
テレビ中継されたのは高岡たちが死亡した事故に関する説明と質疑だけであったのだが、左座浪たちはその後も、記者たちの質問に答えたり説明に応じたりした。
まず『疾走』を誰が書いたかという問題について、義浜裕恵は
「夕香さんが私の目の前で書いて、多少猛獅さんが添削しました」
と証言した。
この歌詞の作者については夕香の字で書かれていたが夕香の作品にしては異質だったことから、夕香作説と、猛獅作夕香清書説があったものの、夕香が書いたものであることが確定した。
「アルバムができあかっておふたりとも凄く昂揚しておられる感じでした。おふたりとも私が行くまで寝ておられて、玄関開けてもらうのにも10回くらい電話したんですよ。どうもその寝ていた時、夢の中で見た情景のようでした」
「夢の中で夕香さんは高岡さんが運転するポルシェの助手席で詩を書いている夢を見ていたそうです。それで夢の中で書いた詩をできるだけ思い出して、ことばが足りない部分を補って、あの歌詞を完成させたんです。最終的にここはこのようにしたほうがいいとか、猛獅さんが助言して歌詞をある程度修正なさっていました」
「それで上島さんの所にFAXして、出掛けたつもりだったのですが、ハイジによると、そのFAXが送られていなかったようですね」
それで夢に見た情景を書いたので異質な詩ができたということのようである。
作者偽装問題について左座浪は
「あれは村上次長(当時)の指示」
と断言した。
「私も正しい作者を表示すべきと言ったのですが、村上さんは『女が書いた歌なんて売れん。高岡猛獅が書いた歌詞ということにしろ』と言って反論を許さなかったんです。社長に抗議しようと猛獅さんは言っていましたが、夕香さんが『今レコード会社とは揉めたくないし、自分たちは夫婦だから印税はどちらが受け取っても同じ事』と言って、取り敢えず指示に従ったんです」
村上による“中絶命令”についてはこのように述べた。
「村上さんが夕香さんに中絶を要求した時、夕香さんは既に6ヶ月だった。当然中絶は不可だし、夕香さんも高岡さんも中絶は絶対に嫌だと言った。それで千代専務が夕香さんにしばらく身を隠して、密かに出産することを勧めた」
「それで千代専務は村上さんには、中絶させたけど、月数が進んでいたのでかなりひどい状態だから半年くらい休ませると伝えた。だから村上さんは中絶は行われたものと思ったと思う。そして夕香さんは8月に無事女の子を出産した」
出産した子の性別については取り敢えず記者たちも突っ込まない。
「このことは、千代専務と社長の他は、夕香さんに色々必要な品を届けるお使いをしていた俺の3人しか知らないと思う。出生届も出すと子供を産んだことがバレて、レコード会社から契約違反だとか言われかねないというので出さなかったんですよ」
と左座浪は言った。
龍虎の養育費についても
「志水夫妻への振込の手続きは俺がしました。だからあの養育費は高岡猛獅の名前で千代さんが出していたものです。残高が不足しないように気をつけて必要なら俺の口座から補充してくれるように、事務のTさんに頼んでおいたのだけど、上島君から聞いたけど、Tさん亡くなっていたのね」
上島が引き継ぐ。
「そうなんです。この事件ではあの前後に亡くなった関係者が多すぎて。それでその件は誰にも引き継がれず送金が途絶えてしまったようで、志水さんたちに申し訳無いです」
葬儀の時に志水夫妻が「帰れ」と叱責された件に付いても
「彼はその現場を見てないから断言はできないけど、社長だったら直接会ったことなくても、志水君たちの話は当然知っていたから「帰れ」とか言うはずがない」
「あの葬儀の時は、猛獅さんの“愛人と子供”を自称する親子が何組も現れて俺も何組が追い返している。あの場はかなり混乱していたから、間が悪かったとしか言いようが無い。だから村上さんは問題外として水上君には責任無いよ。彼は龍子ちゃんのこと知らなかったんだし」
と左座浪は言って、最後は水上信次をかばった。
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夏の日の想い出・無茶言うなよ(23)