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■夏の日の想い出・無茶言うなよ(3)

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3月25日(金).
 
朝9時に広告代理店から§§ミュージックの信濃町の事務所に電話があった。
 
「すみません。急な話で申し訳ないのですが明治の“いろいろイロハ”というチョコ菓子のCMを撮りたいのですが、低予算で出してもらえる女の子2〜3人おられませんかね」
 
「明治のCM撮影ですか」
と電話に出た川崎ゆりこは答えた。
 
「はい。演技ついでに短い歌も歌ってもらえると助かるんですが。予算が本来60万の所急なので80万出しますがそれ以上は無理なのでギャラのあまり高くない方に。あ、見た目が女の子なら男の娘でもいいですよ」
 
撮影して歌まで歌って80万というのはプロの価格ではない。しかも2〜3人?信濃町ガールズの若い子の仕事だなと思った。
 
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「それいつ撮影するんですか?」
「実は今日午前中に撮影と歌唱収録をしたいのですが」
 
随分急な話だ。わりと無茶な依頼である。恐らくは誰か別のタレントで予定していたのが使えなくなったのだろう。撮影だけならモデルクラブなどで行けるだろうが、歌も歌わないといけないということで、うちに話があったのだろう。
 
明治なら羽鳥セシルがミトラチョコのCMをしているが、むろん羽鳥セシルはこのギャラでは出せないし、スケジュールも空いてない。
 
「分かりました。誰か行かせます。何時にどこに行けばいいですか?」
「10時半くらいまでに飯田橋の##スタジオに」
 
ゆりこは電話を終えてから最初宮地ライカ・知多めぐみ付近の起用を考えた。ところがこのクラスはしばしばこの手のCMに出ているので本人たちもどこのCMに出たのか覚えていないし、このクラスの子の仕事は誰も管理していない。それで万一ライバル社のCMにも数ヶ月以内に出ていたらクレームものである。記録は残っているから調べれば分かるが調べている時間が無い。それでゆりこは昇格組を使うことを考えた。多分もう3〜4人は入寮しているはずだ。
 
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ゆりこは女子寮の花ちゃんに電話した。
「新人で既に入寮してるのは誰々?」
 
「春野わかな、広瀬みづほ、それに東海林椿希、小野寺雪、糸川穂美の5人ですね。他に男子寮に杉本ひかりが入っています」
 
ゆりこは考えた。
 
取り敢えず男の子の杉本ひかりは除外する。長岡飛鳥なら喜んで女装するだろうが、杉本ひかりは普通の男の子だ(と本人は言っている)。女子で考えると東海林椿希はエリートタイプである。チョコ菓子のCMには合わないと思った。家電品とか問題集とかなら行ける。
 
小野寺雪は少し控えめの感じなのがあまり芸能人に向いてない感もあるが(だから秋の昇格試験では実力は評価されたのに昇格保留になった)、度胸はある感じで歌手よりタレント向きである。糸川穂美はあまり目立たないタイプだが、かえってこの手の仕事向きかも。
 
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それに小野寺雪と糸川穂美は同い年である。東海林椿希はひとつ上だ。こういうのは同学年で組ませた方がいい。
 

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ここまでゆりこは20秒ほどで考えた。
 
「小野寺雪ちゃんと、糸川穂美ちゃんに、CM撮影と短い歌の録音をしてもらいたいのだけど」
「いつですか?」
「10時半に飯田橋」
「今日ですか?そんな急な仕事大丈夫ですかね」
「その2人は度胸が据わってると見た」
「じゃ誰か付けて行かせますよ」
「ギャラが80万の仕事だからあまり単価の高くない人で」
「低予算ですね!ところで2人はまだ芸名が決まってないのですが」
 
「うーん。小野寺雪ちゃんは色白だし本名も雪だからバニラで。糸川穂美ちゃんは健康的な肌の色だからショコラで」
「今日はそれでもいいですけど、後でちゃんとした名前付けて下さいよ」
「もちろん、もちろん」
 
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でもこれがそのまま芸名になった!!
 
(ありがちな話)
 

花ちゃんは、小野寺雪と糸川穂美を1階の寮母執務室に呼んだ。糸川穂美は荷物を片付けている最中だったが、姉に任せて出てきた。
 
CM撮影の話だと言うと2人とも
「やります、やります」
と元気である。
 
それで小野寺雪にバニラ、糸川穂美にショコラという“臨時芸名”を付けると言うと2人とも一瞬困ったような顔!をし掛けたもののすぐ笑顔になって
 
「ありがとうございます」
「可愛い芸名ですね」
と言った。さすが昇格オーディションの合格者はレベルが高いなと思った。
 
「名乗る練習をしてみようか」
「はい」
 
と言うと、2人は顔を見合わせてから
 
「おはようございます。バニラとショコラです」
と笑顔で名乗った。
 
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「よしよし」
 
花ちゃんは執務室のプリンタで名刺を20枚ずつプリントして渡したが
「すごーい」
と感動していた。
 
それでセーラー服に着替えさせてから、芸能界の習慣を熟知している海浜ひまわり(無給!)を2人に付けて飯田橋のスタジオに向かわせた。
 

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このCMは翌日、3月26日からオンエアされた。全く泥縄な制作である。でも常滑舞音のCMだって時々そういうのがある。
 

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3月28日(月).
 
年末の長時間ドラマで使用されたオープンセットを整備した“八犬伝村”が一般公開された。公開されたのは、芳流閣、対牛楼、指月院、四六城木工作の家、などである。整備に時間が掛かったのは、芳流閣と対牛楼にエレベータを付けたり、転落防止の安全柵を作ったりしていたため。
 
これで郷愁村のセット公開ゾーンは3個になった。
 
平安村、白雪城、八犬伝村
 
ただ平安村の建物は多くがホリボテなので、きちんと造った部分だけに集約する方向である。ゴールデンウィークが終わったら一時閉鎖して工事する。そして空いたスペースに『お気に召すまま』のセット(公爵邸・ロザリンド邸・洞窟と森)を移設する予定である。『黄金の流星』のセット(天文台2個・判事邸・無線室など)は郷愁マンション(昨年末解体)の跡地に移設予定。なお、声当て用のスタジオは越谷の小鳩シティに移設した。制作スタジオも§§ミュージック熊谷分室に移動させた。↓は今年夏頃の予定図。
 
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源平記のセットはスタジオで組んですぐ崩してしまったので残っていない。ロミオとジュリエットのセットは川崎市の借地に建てたもので昨年末までに解体された。オルガンだけがホテル昭和のロビーに移設されている。
 
移設の際にミーントーン調律だったものを平均律に改造している。改造に数百万円掛かったようだが・・・金銭感覚の違う人だからこのくらいは気にしないのだろう。資産が兆を超えている若葉にとっての500万円は、一般人の50円か100円くらいの感覚である。
 
また壁の一部が、ΛΛテレビが千葉市に作った大型スタジオに記念碑的に移設されている(でもその壁を背景にドラマを制作した!)。
 
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なお“窓”のシーンは用賀の橘ハイツ(男子寮)敷地南端に建っている“ヴィラ”(フロント係の篠田姉妹が住んでいる)で撮影した。ここは元々ヨーロッパの貴族の別邸離れを移設して内部を若干和風に改造したものである。
 

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3月30日(水).
 
ラピスラズリの11枚目のシングル『占い110番/聖少女』が発売された。
 
前者は4月から放送開始される、ラピスラズリ主演のドラマ『占い女子高生・みつる』(◇◇テレビ)の主題歌である。
 
後者はローズ+リリーのカバーで、ドラマの中でも使用される。
 
『占い110番』(花園光紀作詞作曲)では、ベールをかぶり、水晶占い師の扮装をした東雲はるこが映っている。彼女が手に持つ水晶玉(*19)はクライマックスになるとビームを放って敵を倒す(水晶玉の使い方が間違っている気がする)。
 
『聖少女』(マリ&ケイ作詞・マリ&ケイ+Leaf作曲)はローズ+リリーが2011年に出した曲のカバーである。この曲では、はるこが白い天使の衣裳、朱美が黒い悪魔の衣裳を着ていて、ふたりが協力して!妖魔?みたいなものを倒している(番組のコンセプトが分からない)。
 
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(*19) 撮影に使用しているのはクリスタルガラス。本物のクリスタルの水晶玉をいつもぼーっとしている東雲はるこに扱わせたらすぐ割ってプロデューサーが真っ青になるのは必至。実際はるこは早々に1個割って
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と謝っていた。
 
「もうはるこにはアクリル玉でも渡したほうがいいかも」
と朱美が言っていたが、ちゃんとクリスタルガラスの水晶玉を再度用意してもらった。
「今度は落とさないでね」
「気をつけます」
 
でも、はるこが水晶玉を落として割ってしまうシーンは偶然撮影されていたので、水晶玉が強力な敵の魔法で割られてしまうというストーリーを制作することになった!
 

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このシングルは初動が48万枚もあり、ゴールデンウィーク前にはラピスラズリにとって6枚目のミリオンに到達する。
 
ドラマでは、高校生占い師みつる(東雲はるこ)をサポートする女子高生3人組が出ており、これを直江ヒカル・今川ようこ・甲斐波津子の3人が演じている。演技の上手い信濃町ガールズを並べて演技に問題がある!東雲はるこをサポートする体制である。
 
今川ようこは
「名前変えたんですか?」
と訊かれ、
「変えました!直後に今回のドラマの話があったのでゲンがいいです」
と答えていた。
 
(実は元々今川容子を想定していた。今川容子が退団した場合は多忙な斎藤恵梨香のスケジュールを何とか空けてもらって使うか、半ばバクチだが新人の東海林椿希を起用する案もあった。今川が続けてくれたので当初の予定通り起用した)
 
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町田朱美は多少意地悪な生徒会長の役だが、実は占星術の達人で全てを予見しており、クライマックスでは必ずみつるたちと一緒に戦ってくれるというストーリーになっている。(おジャ魔女だと瀬川おんぷ的ポジション)
 

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熊谷の郷愁村のコテージ“つばめ”での青葉・南田容子・立花紀子による、若杉千代トリビュートアルバムの編曲作業は順調に進んでいた。
 
私は今のままなら、多分3月31日くらいに青葉の作業は終わるなと思い、“ミュージシャン・アルバム”の取材を、少し余裕見て4月2日くらいにUFO, スパイスミッション、ビンゴ・アキでやる方針を堅めた。それで各々の事務所に紹介した。これが3月10日頃である。調整が必要だったが下記の日程でスケジュールを確保できた。
 
3/31(Thu) ビンゴアキ
4/01(Fri) スパイス・ミッション
4/01(Fri) UFO
 
やはりこのクラスは土日は仕事が満杯で平日になってしまった。アルバムの編曲作業の終り付近に割込むかもしれないが、最高に多忙な相手だから仕方ない。
 
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これに合わせてラピスラズリの予定も確保した。
 

3月下旬になり、アルバム制作の進行が見えてくる。高崎3姉妹の制作を東京のスタジオで指揮している花ちゃんによると、多分3月30日前後に熊谷班の作業は終わるだろうということだった。
 
私は青葉が“どこかに逃亡する前に”身柄を押さえる必要を感じた(←ほぼ犯罪者扱い)。彼女は2月14日くらいから26日くらいまで、どこか誰も知らない場所に隠れていた(*20).
 
私は青葉が編曲を終えたらすぐ彼女と会って取材の話をしようと思い、終わるくらいのタイミングで熊谷に行くことにした。
 
(*20) 実は熊谷に居たのだがムーランエアやホテル昭和のスタッフが守秘義務を守った結果、ケイも金沢の皆山幸花も青葉の所在を掴んでいなった。
 
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3月30日(水). 私は熊谷のホテル昭和まで行き、ホテルの部屋をひとつ取って待機した。11時頃、花ちゃんから
「大宮先生から最後の曲を頂きました。これで松梨詩恩に歌わせます」
という報告が来る。私は青葉に電話をした。
 
「青葉、日本選手権(4.28-5.1)まではこちらに居るよね?」
「それは分かりません」
 
どうも青葉は警戒しているようだ。これは早く身柄確保しないとやばいぞと思う。
 
「ミュージシャン・アルバムの取材をしたいんだよ。こちらもラピスラズリの日程を調整するから、3日くらい時間取れない?」
「そのあたりは何ともいえません」
「午後そちらに行くよ。まだ居るよね?」
「さあ、どうでしょうか」
「まあ取り敢えず行くよ」
 
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青葉は、私が行くと言ったので“つばめ”のゲートパスをこちらのスマホに送ってくれた。QRコードの下に、TSUBAME 8021 2022.03.30 13:20-13:50 と表示されている。“つばめ”はセキュリティが厳しいので、このゲートパスを持っていないと、“つばめ”のコテージが並ぶエリアにも進入できない。無理矢理入ろうとすると武装した?警備員が飛んでくるらしい。この特殊警備隊はGSG-9(ゲーエスゲー・ノイン)とかグリーンベレーとかの経験者を10名ほど雇ったとも聞いた。
 
(↑さすがに武装はしてないと思うぞ。特殊警棒と楯にサスマタ程度。でも戦闘能力が高いのは事実)
 
来客用ゲートパスは最大30分なので出る時はまた発行してもらう必要がある。
 
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夏の日の想い出・無茶言うなよ(3)

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