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■夏の日の想い出・無茶言うなよ(13)
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閑話休題。
映画だが、物語は基本的に前半のワストン・パリでのシーン、後半グリーンランドでのシーン、そして後日談のシーンに分けられるが、雪が融ける前に撮影したい!ということから、北海道チキサニ島でのロケが最優先された。
しかし直前の配役変更により脚本は大規模な修正が必要になった。特に七浜宇菜に当てられたアトランティスの客室乗務員セルジュは出番が大幅に増え、チキサニ島で撮影したい部分の大幅手直しが必要だった。それで、本来フランス語でメイン脚本を書いていたレイモン紀子さんが、この部分を急ぎ英語で書き直し、それで後半部分のセリフ録音をおこなった。
この録音が3月下旬に越谷の小鳩シティに移設したスタジオで収録された。中高生の出演者がうまく春休みに当り、順調に作業をすすめることができた、
この部分の録音が終わると、映画の出演者は北海道チキサニ島に移動し、ここで映画後半グリーンランド編の撮影を行った。つまりこの映画はいきなりクライマックス部分から撮影開始したのである。
なおセリフの録音をしている間にチキサニ島では後日談のシーンのひとつとなる、雪掻き作業の様子を撮影していた(揚浜フラフラは、この撮影のため北海道日帰り往復した)。雪を溶かして金(きん)を取り出す作業である。また、まほろばグラフィックスのスタッフが行って多数の写真を撮った。それを元にCGを作成する。
脚本は、チキサニ島の撮影をしている間に前半部分をやはりレイモンさんの手で英語で修正した。それで前半のセリフ録音が北海道から戻ってきてから越谷で行われ、その後、撮影が春日部の全天候型スタジオで行われた。
流星の発見者論争、セスとアルケイディアの結婚・離婚、ジルダルとルクールのやりとり、ジルダルの軌道操作、ジルダルのニースでのバカンスなどである。
特に元の脚本で男性だったルクールを女性に性転換(?)させるのは結構大変な作業であった!
撮影している間にチョイ役のはずだった木下宏紀がひじょうに演技が上手かったことから、彼の出番が大幅に増える。脚本を大幅加筆することになったレイモンさんも悲鳴をあげた、
「え〜〜〜?ぼくアクアちゃんと結婚するの?」
「よろしく。子供もできるから」
「それぼくが産むんですか?アクアちゃんが産むんですか?」
「どちらだろうね」
シルヴィアとチボーの掃除攻防も描かれてチボー役・立花紀子の出番も増えた(*46).
しかしこれで木下君の日程が数日塞がったし、篠原君も貴重な男声が出る人として徴用されて、舞音の日程管理をしている村上麗子マネージャーが悲鳴を挙げる。これはとても暇な松元蘭が代理ギタリストを務め、ドラムスは1日だけ花園裕紀が代理を務めた。
モジーク号は春日部のスタジオの隣にあるガレオン船のセットを偽装して蒸気船っぽくし、ここで撮影している、アトランティスの出港・入港のシーンは千里のクルーザーを千葉県の勝浦漁港(和歌山県の勝浦漁港ではない!)に持って来てもらい、そこで撮影した。
そしてレイモンさんは前半部分の撮影の間に後日談部分の台本をやはり英語で書いた。レイモンさんの作業を追いかけるように、日本語・フランス語・ドイツ語の脚本が制作された。レイモンさんの英語台本からフランス語台本を調整したのはノン・クレジットだが、レイモンさんの夫(大学講師:フランス語のナチュラル・スピーカー)である!
そして後日談の撮影まで終わった4月下旬から、出演者(一部吹き替えの外国人俳優)は越谷で日本語・フランス語・ドイツ語のアフレコをした。
ただし後日談撮影をしている間に英語台本は再検討され、問題のある部分は修正して、その分は日本語のアフレコをする前に吹き込み直してもらった。
『黄金の流星』はこのようにしてかなりの泥縄の制作となった。主役のアクアと宇菜はセリフが多いだけに録り直しも多く、またどうしても撮影をし直さなければならない所が出てきて、北海道に日帰りで往復して撮影し直してきたシーンもある。宇菜も物凄く大変であったことから宇菜のギャラも当初約束の5倍にされた。
それで後日ギャラが振り込まれてきた時は、振込ミスだと思って、一瞬 山口県阿武町の事件が頭をよぎり「私逮捕されたらどうしよう?」とビビったらしい!
完成した映画のストーリーは↓
http://femine.net/j.pl/meteo
(*46) 立花紀子は3月30日まで熊谷で若杉千代のトリビュートアルバムの作業をしていた。それで青葉が拉致されて行った後、夕方東京に帰ろうと思ったら白河夜船社長から電話が掛かって来て、越谷に行ってと言われた。
ムジーク号船内レストランでのショーのシーンでは、常滑舞音と招き猫バンドが出演している。舞音・水谷姉妹・招き猫バンドの全員が猫メイクで猫耳カチューシャを付け、アールヌーボー風のドレスを着て演奏している。
(篠原君と谷口君の貴重な女装シーン。篠原君は「このくらいの女子は普通にいる」と言われていた)
使用楽器は下記である。大崎忍がサポートで入っている。
木下:アコスティックギター
篠原:ドラムス&シンバル
平田:アコスティック・ベース
谷口:ピアノ
大崎:ヴァイオリン
ここでいうドラムス&シンバルとは、バスドラム・スネアドラムを足で打てるようにし、両手でシンバルを打つ奏者のことである。この当時は足で太鼓を打つ仕組みが考案された直後だが、まだハイハットが無い。
また電気楽器の無い時代だから平田(ルーシー)にはアコスティック・ベースを弾いてもらった(*50).
これに常滑舞音のボーカルと水谷姉妹のコーラスが入る。但し間奏で舞音はサックス(*49) を吹き、水谷姉妹はフルートを吹いている。
ステージには巨大な黒と白の招き猫が左右に立っている。これは常滑焼き協会からお借りしたものである。
なお楽曲は全て平均律(十二平均律(*47))で演奏した。20世紀初頭は十二平均律の是非が議論されていた時期と思われるが、十二平均律の支持者も充分多かったと思われる。十二平均律に関する理論は1884年に出版されたSimon Stevin (1548-1620) の著作で公開されている。著者の死後264年も経って出版された本である。16世紀に2の12乗根を計算したのは本当に凄い。恐らく計算に1年くらい掛かったのではなかろうか。
(*47) 十二平均律とは、半音の大きさを2の12乗根=1.0594639 として音の高さを定めたもの。すると 1.059463
12=2.0 となり、全ての半音を同じ大きさにして、オクターブ上に到達できる。
それまでの平均律(たとえばJ.S.バッハが使用していた平均律(*48))は、人間の耳で楽器が調律できる範囲で、2の12乗根に近い値で調律していた。
十二平均律の調律には12本の音叉を用意するか、電子チューナーなどが必要である。
十二平均律の強みは、第一に全ての半音が等しい大きさなので、歌う時にとても音程が取りやすいことである。メロディーが美しい音律である。第二に移調がしやすいことである。十二平均律以外の音律で調律された楽器で移調演奏すると元のメロディーと異なるメロディーになってしまう。ただ十二平均律の欠点は三度の和音・五度の和音が完全には響き合わないことである。
五度が響くのはピタゴラス音律、三度が響くのはミーントーンであるがどちらも移調する場合、ヴァイオリンのような自由な高さの音が出せる楽器以外は、調ごとに別の楽器を用意する必要がある。
(*48) J.S.バッハの弟子ヨハン・キルンベルガーが書き残した調律法があり、J.S.バッハの平均律はこれに近いと言われる。
(*49) サックスは1846年にアドルフ・サックス (Adolphe Sax 1814-1894) により発明された。
(*50) この楽器はクラシック音楽で弓で弾く時は擦弦(さつげん)楽器でコントラバスまたはストリング・ベースと呼ばれ、ジャズやブルースなどのポピュラー音楽で指で弾く時は撥弦(はつげん)楽器でダブルベースまたはアコスティック・ベース、アップライト・ベースなどと呼ばれる。
(日本ではウッドベースと呼ぶ人もいるが、ウッドベースという名前の別の楽器もあるので、この楽器をウッドベースと呼ぶのはよくない。アコスティック・ベースのほうが良い)
楽器の形は同じでも奏法により全く別の楽器となるし、コントラバス奏者とアコスティック・ベース奏者は要求される技術も全く別のものであり、全く別のジャンルの演奏者である。
ほぼ同じものがゲームで使えばトランプと呼ばれ、占いで使えばタロットと呼ばれるようなもの?トランプで遊ぶ技術とタロットで占う技術は全く異なる(でもこの区別はきっと日本だけかも)。
あるいは同じ人が夫からは妻と呼ばれ、子供からは母と呼ばれるようなもの?妻に求められることと、母に求められることはまるで違う。妻は(本来は)夫にお乳をあげないし、母は(普通は)子供とセックスしない!
あるいはトランクスとフレアパンティが事実上同じ物なのに男が穿けばトランクスで、女が穿けばフレアパンティになるようなもの??
舞音たちには、4月16日(土)に春日部のスタジオに来てもらい、レストランのセットで『冬の星』を演奏している所を撮影させてもらった。
この映画には舞音の歌が12曲収録されているが、その他の楽曲の音源は女子寮地下のB10スタジオ(音響のある部屋)で収録している。
ビデオは隣のB20スタジオにセットを組んで撮影した。
舞音・水谷姉妹・招き猫バンド(+大崎忍)はこの映画で使用される12曲の音源を1週間で作ってくれたのでほんとに助かった。
全曲アコスティック楽器で演奏しているように聞こえるが、実際にはギターとベースの音はキーボードでアコスティック楽器の音を出している。谷口君のピアノも電子キーボード、篠原君も電子ドラムスである(ハイハットの無い時代なので代わりにウッドブロックでリズムを刻んでいる)。大崎忍は電気ヴァイオリンである。
このあたりはメンバーがあまりアコスティック楽器に慣れてないという問題だけでなく、時間節約の問題もあった。アコスティック楽器のバランス調整には結構な時間を消費する。
「でも君たち仕事が速いね」
「日々、次から次へと音源制作してるので、すぐやっちゃわないと間に合いません」
「タイヘンね!」
たぶん1970年代に大量のCMを録音したダークダックスとか以上の忙しさだと思う。
なお木下君が映画制作に取られてしまったので、一部の曲のギターパートはキーボードプレイがとてもうまい花園裕紀が(キーボードで)弾いている。
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