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■夏の日の想い出・無茶言うなよ(1)

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「でも無茶なことというのは不可能なことと大変なこととが割と混同されてるよね」
と政子は言った。
 
“でも”の前に政子はウサギさんとイルカさんがかけっこしたらどちらが勝つかという話をしていたはずだ。なぜその話と“でも”という接続詞で結ばれるのか私はよく分からなかった。
 
「覆水盆に返らずというけど、それは不可能なことではなく物凄く大変な作業をすればできないことはない。月に行くことは不可能だとずっと思われていたけど現代の技術では物凄いお金を掛ければ実現できる。これに対して永久機関みたいなのは原理的に不可能。過去を変えることも原理的に不可能」
 
と私が言った時、政子が目に涙を浮かべた。
 
多分松山貴昭とのことを考えたのではないかという気がした。あの時、政子は自分が必死になって貴昭との関係を維持しようとしなかったことを後悔しているのだろう。私は話を変えた。
 
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「暗号の安全性というのは、その暗号を解くために物凄い時間と手間が掛かるから、普通それを解こうとは思わないという点にあるんだよね。だから時代とともに暗号は複雑にしていかざるを得ない。今銀行で使われている4桁の暗証番号は既に安全ではない」
 
すると政子は言った。
 
「昔UKの政治学者が『議会とは女を男に変えたり男を女に変えたりする以外は何でもできる機関である』と言ったけど(*1)、今は女を男に変えたり男を女に変えたりできるからね」
 
政子の話はなぜそっち方面に行くのか。
 
「無茶なことというと『無茶な歌』というのがあるよね。『よく晴れた雨の日に、曲がりくねったまっすぐの道を、荷物満載の空(から)トラックが、全速力でゆっくり走ってたら、乾いた水たまりでスリップし、水無し川に水没した』」(*2)
 
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「それは聞いたことがある」
 
(*1) イギリスの政治学者ジャン・ルイ・ド・ロルム(1740-1806) の言葉。原文:Parliament can do everything but make a woman a man and a man a woman. イギリス議会の権限が強すぎると批判したもの。
 
(*2) この歌はこの先に差別用語3連発があるため現在ではここより先を書くことは許されない。また多分この歌は全国的にかなりのバリエーションがある。
 

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「でもほんとに無茶な歌というと『スカーバラ・フェア』だね」
と私は言った。
 
「何だっけ?」
「日本では『スカボロフェア』という人が多いけど正しい発音はスカーバラ」
「なんか無茶なこと言ってるんだっけ?」
 
それで私はS&G (Simon & Garfunkel)版ではなく、少し古いメロディーで歌ってみせた。
 

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Scarborough Fair
スカーバラの市(いち)(*12)(*13)
 
↓G-minorで書いた楽譜(階名と1つずれます)

 
(Man)
Where are you(*3) going?
To Scarborough(*12) Fair.(*4)
Parsley, sage, rosemary and thyme (*14)
Remember me to one who lives there
For once she was a true love(*5) of mine.
 
どこに行くの?
スカーバラ(*12)の市に。
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム(*14)
そこに住んでいる人によろしく言ってください。
だって彼女は僕の真の恋人だったから
 
(*3) このyouはthou(あなた)の複数形であることに注意。「あなたたち」あるいは遠慮が必要な相手への呼びかけ。フランス語の vous と同様の意味である。
 
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(*4) この先頭行は Where が無くて "Are you going to Scarborough Fair?" と単純質問文になっている歌詞も存在する。
 
(*5) 男女カップルの男性側をlover, 女性側をlove と言う。攻めと受け!である。
 
この歌は基本的に男女のデュエットソングである。でも実際に男女でデュエットしている音源を聞いたことが無い。S&G版が有名になりすぎて元の形式が忘れられたのではないかという気もする。
 

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Canst thou make me a cambric shirt
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Without any seam or needle work?
And thou shalt be a true love of mine.
 
僕に上等なシャツを作ってくれないかい
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
つなぎ目も無く針も使わずに(*6)
そしたら君はきっと僕の真の恋人になる
 
(*6) もちろん現代ではこういう服は存在する。時代の推移で不可能が可能に変わった例
 
Canst thou wash it in yonder well
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Which never sprung water, nor rain ever fell?
And thou shalt be a true love of mine.
 
そのシャツをあそこの井戸で洗ってよ
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
水が湧いたことも雨が降ったこともない井戸で
そしたら君はきっと僕の真の恋人になる
 
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Canst thou dry it on yonder thorn
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Which never bore blossom since Adam was born?
And thou shalt be a true love of mine.
 
(洗ったら)あそこのイバラで干してよ
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
アダムが生まれてから一度も花を咲かせてないイバラで
そしたら君はきっと僕の真の恋人になる
 

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(Woman)
Where have you(*7) been?
To Scarborough Fair.
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Remember me from(*8) one who lives there,
For he once was a true lover of mine.
 
どこに行ってきたの?
スカーバラの市に。
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
そこに住んでいる人からよろしくって言われるよ。
だって彼は私の真の恋人だったから
 
(*7) 前出と同様、このyouはthou(あなた)の複数形。
 
(*8) 先のスタンツァでは to だったのがここでは from になっている。
 

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Canst thou find me an acre of land
Parsley, sage, rosemary and thyme,
Between the salt water and the sea-sand?
And thou shalt be a true lover of mine.
 
1エーカーの土地を見つけて欲しいの
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
海と砂浜にはさまれた場所がいいな
そしたらあなたはきっと私の真の恋人になる
 
Canst thou plough it with a lamb's horn
Parsley, sage, rosemary and thyme,
And sow it all over with one peppercorn?
And thou shalt be a true lover of mine.
 
その土地を赤ちゃん羊(*9)の角で耕して
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
そして一粒の種を全部の場所に蒔いてね(*10)
そしたらあなたはきっと私の真の恋人になる
 
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(*9) 生まれたてのヒツジには角は無い。だいたい2〜3ヶ月で生え始める。
 
(*10) 量子学的には可能??但し育つのは1株だけ。その1株が全ての場所に確率的に分散して生えている。どこに生えているかは確率的にしか記述できない。
 
Canst thou reap it with a sickle of leather
Parsley, sage, rosemary and thyme,
And bind it up with a peacock's feather?
And thou shalt be a true lover of mine.
 
(実ったら)革の鎌で刈ってね
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
そしてクジャクの羽根で束ねてよ
そしたらあなたはきっと私の真の恋人になる
 

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(Duet)
Dear, when thou hast finished thy task
Parsley, sage, rosemary and thyme
Come to me, my hand for to ask
For thou then art a true love(lover) of mine. (*11)
 
愛しい人よ、君がその仕事を終えたなら
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
僕の所に来て腕に抱かれなさい
だってその時、君は僕の(私の)真の恋人だから
 
(*11) この最後の歌詞は shalt を使ってない。未来形ではなく現在形である。多分目の前に相手が居る。
 

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(*12) 日本ではなぜかこの歌は「スカボロフェア」と呼ばれているが、この町Scarboroughの読み方はスカーバラ(またはスカーブラ)である。第1音節にアクセントがあるからアクセントの無い bo はボとは読まず曖昧母音になる。多分最初に紹介した人が誤ったのが踏襲されてしまったものと思われる。
 
この町では古くから大規模な市が開かれてきた。でも歌詞の内容にスカーバラは全く関係ない!
 
筆者は初期の頃、市(いち)と言ってて、パセリ・セージ・ローズマリー・タイムと言ってるから、そこの市(いち)でハーブを買う話かと思った。歌詞をよく読んでみたらスカーバラもハーブも歌ってる内容とは無関係だった!
 

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(*13) 『スカーバラの市』の歌詞には大きく分けて2つのタイプがある。ひとつは男が女に無理難題を言い続けるもの。もうひとつがここに紹介したように男女がお互いに相手に無茶を言い合って戯れているもの。
 
Where have you beenの所は代わりに下記のようなスタンツァが入るものもある。
 
(Woman)
Now thou hast asked me questions three,
Parsley, sage, rosemary and thyme,
I hope thou'lt answer as many for me,
And thou shalt be a true lover of mine.
 
あなたは私に3つの問題を出したわね
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
じゃあなたも私に3つの事をしてちょうだい
そうしたらあなたはきっと私の真の恋人になる
 
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この歌の起源は17世紀頃まで遡るらしいが初期の頃は地名は出てこず、また様々な地名が出てきた時期もあり、スカーバラになったのは19世紀頃らしい。
 
サイモン&ガーファンクルが歌ったバージョンはかなり新しいもので、直接言い合うのではなく、tell her to make me ... などと他人に伝言を頼む形式に変化している。メロディーもかなり新しいものと思われる。S&Gが歌ったメロディーは Mark Anderson (1874-1953) という鉱夫から習ったものとされている。
 

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(*14)このリフレインは英語で歌うと
「パースリー・セイジロズ・マリーアンドサイム」
と聞こえる。ハーブの名前を並べたのは特に意味は無い。一種のハヤし言葉なので、ここは本来メインボーカルではない人が歌うべきかも。そうするとこの虚を歌うには「どこ行くの?」という質問に「スカーバラの市に」と答える人まで入れて3〜4人が必要になるかも。
 
thyme と 歌詞最後の mine とで不完全な韻を踏んでいる。
 
ここは古いバージョンョンでは下記のような形になっているものもある。
 
Sober and grave grows merry in time
シラフの奴も沈んでる奴もやがて陽気になる
 
Every rose grows merry with time
全てのバラはやがて陽気に育つ
 
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Sweet savory grows, rosemary and thyme
甘い香りを放つもの、ローズマリーとタイム
 
Saffron, sage, rue, myrrh, and thyme
サフラン、セージ、ヘンルーダ、ミルラ、そしてタイム
 
-----
time で終わる系統と thyme に行く系統があったようである。
 

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私が歌ってみせたら政子は
「面白い面白い」
とはしゃぎ
「これ貴昭に教えてあげよう」
と言って、私に歌詞をタイプしてくれと言った。
 
まあ貴昭も心労でくたくただろうし、気晴らしも必要だろうと思い、私は歌詞を入力し始めた。
 
「でも大輔さんとは別れたんだっけ?最近顔を見ないけど」
「大輔とは去年の夏に別れたけど」
「そうなの?でも1月にデートしてたじゃん」
「したいしたいと言うからセックスはさせてあげるけど付き合ってはいない」
「よく分からん」
 

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男子寮203号室に入寮した杉本ひかりは、3月24日に母が帰った後、テーブルの上に乗っている箱を開けた。この箱には信濃町ガールズのユニフォームが入っている。母がいる時は、上着とショートパンツを出して着て見せたのだが、実はキュロットとスカートも入っていた。
 
「なんでキュロットとかスカートまで入っているのかなあ。曲によって穿き替えるのかな?」
などと呟きながら、スカートを穿いてみた。
 
鏡に映してみる。
 
ちょっとドキドキ。
 
ぼくスカートでも結構行けるよね?
 
などと思う。スカートでダンスに参加してもいいのかなあ?などと少し妄想してドキドキした。
 
スカート・キュロットを出した後、昨日は気付かなかった通販のカタログが入っているのに気がつく。
 
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わあ、セシールにベルメゾンにフェリシモだぁ。
 
可愛いスカートとか女の子下着とか注文しちゃおうかなあ。。。ぼくブラジャー3枚しか持ってないし。
 
(↑なぜブラジャーを持っているのか真剣に訊きたいのだが)
 

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3/25の夕方、女子寮から巡回バスで男子寮に辿り着いた長岡飛鳥は、フロントの篠田さん(*15)に挨拶し、ちょうどフロントの所にいた“セーラー服姿の”セレンとクロムに案内してもらって3階の303に入居した。セレンが言った。
 
「この寮は男の娘が多いから、遠慮せずに女の子の服着てね。寮内で女の子の服で出歩いてる子も多いし」
「そうするかも」
「4階に入ってるのはもう男の子を廃業しちゃった子たち。2階は普通の男の子。3階は普通の男の娘」
 
「ぼく多分普通の男の娘でーす」
「見ただけで分かったよ。“秘密の相談事”とかあったら相談に乗るよ」
「相談させてもらうかもー」
 
飛鳥は早速女の子の服に着替えてくつろいだ。信濃町ガールズのユニフォームが置いてあったので出してみる。上着とスカートである(*16)。早速着てみる。
 
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「これ可愛いなあ。早く実際に踊ってみたいな」
と思った。
 

(*15) 筆者も時々書き間違っているが、男子寮のフロント係は篠田ユキ・ツキ。女子寮の配膳係は稲田あかり・ひかり。篠田ユキ・稲田あかりは右利き、篠田ツキ・稲田ひかりは左利き。
 
年齢を言うと石が飛んできそうだが、女子寮の守り神・稲田姉妹は寛政10年(1798)生。(平成10年(1998)ではない)の若いおキツネさん。
 
男子寮の守り神・篠田姉妹は462年生まれで2本の尾を持つお姉さんキツネである。つまり勾陳より年上で法力も桁違いである(怒らせたらとっても怖い)。462年は雄略天皇6年ということになっているが、篠田姉妹によると実際はその年に“武王”は大王(おおきみ)になったはずという。雄略天皇は格好良くて2人にとって憧れの男性だったらしい。
 
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(*16) つまり飛鳥の所にはショートパンツとかキュロットは入ってなかった!!使うとは思えないものを入れておくのは無駄である。
 
なお、足に傷がある広瀬みづほの部屋には、ロングスカートとロングパンツのユニフォームが入っていた。これらのボトムは実は広瀬みづほのために新たに設定したものである。
 
でも、みづほは後にゆりこと話し合って、不透明のベージュストッキングとミニスカを組み合わせた衣裳を使うようになった。
 

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夏の日の想い出・無茶言うなよ(1)

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