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■夏の日の想い出・つながり(24)

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「でも千里マジでこないだの四十九日の時に見たのとはまるで雰囲気が違う。何かあったの?」
と私は尋ねる。
 
すると千里は微妙な微笑みを浮かべてから言った。
 
「私、女の子のママになったから、頑張らなくちゃと思った」
「今、仙台で代理母さんのお腹の中で育っている子のこと?」
 
その子について、信次さんが死亡したことで、やはり医者は代理母プロジェクトは中止して、胎児は中絶すると言ったのだが、桃香が頑張って医者を説得し、代理母さんも合意の上で、普通の養子として千里に引き渡すことになったのである。それでその子は中絶されることなく、無事育ちつつある。
 
「ううん。あの子の性別はまだ分からない。でも一昨日、私の血を引く女の子が生まれたんだよ。カンナちゃん」
 
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「かんな?なんか10月生まれみたいな名前」
「そういう名前にするって、貴司と約束していたから」
「貴司さんと千里の子供!?」
「そうだよ。貴司は美映さんが産んだと思っているだろうし、美映さんも自分が産んだと思っているだろうけど、本当に産んだのは私。だからこれ使っているんだよ」
 
と言って千里は産褥パッドの袋を見せてくれた。
 
「美映さんはこういうものは一切使う必要無いはず。そしてお乳も出ない。本当は子供産んでないから。私は、しばらくお乳も出なくなっていたけど、また出るようになった。初乳をカンナちゃんに飲ませたよ」
 
「へー!」
 
「カンナって10月のことでしょ?」
「うん」
「10月の別名は小春。つまりこの子が小春、ローズ+リリーのライブにも出た“謎の男の娘”さんなんだよ。やっと生まれてくれた。写真ももらったよ」
 
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と千里は嬉しそうに言って、生まれたての赤ちゃんの写真を見せてくれた。
 
(この写真は羽衣が千里に渡したものである)
 
「わあ、可愛い。でも女の子なんでしょ?」
 
写真は本当に生まれたての所を撮ったもののようで、血も付いているし裸である。そのお股には確かにおちんちんのようなものが見当たらないので、間違い無く女の子のようである。
 
「男の娘のはずだったんだけど、病院の看護婦さんが『女の子ですよ』と言ってたし、この写真を見る限りは女の子に見えるし、予定が変わって女の子で生まれて来たのかも」
 
「まあその方が苦労しなくて済むよね」
 
「冬にしても、私にしても間違って男の子で生まれて来たおかげで随分苦労しているよね」
「まあね。でも男の子で生まれて来たからこそ体験できた色々なこともあるよ」
「結構黒歴史にしたいものが多いけどね」
「それは同意」
 
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2018年8月29日(水).
 
ローズ+リリーの27枚目のシングル『お嫁さんにしてね』が発売された。
 
このCDの音源はマリが「録り直したい」と言ったので、結局3曲とも新しく録音し直している。特に『Long Vacation』と『祝愛宴』は、当時のマリ自身の歌唱力が低かったので、そのままリミックスだけして出すのは、良心が許さなかったのであろう。『お嫁さんにしてね』はバンジョーとフィドルなども入れてカントリー色のあるアレンジにした。
 
記者会見は、いつもは★★レコードの会見室で、生演奏した後質問に応じるのだが、そういう形で記者会見をするとマリのお腹の中の子供の父親についてかなり追及されるのが目に見えている。それでマリの精神状態に配慮して、記者会見は行うものの、音源とPVだけ流して、記者会見は私と氷川さんだけでやり、マリは欠席させることにした。
 
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PVでは『祝愛宴』で、平安時代かと思わせる、十二単(じゅうにひとえ)や狩衣を着た男女が寝殿造りの屋敷で和歌を取り交わしたりする様の様子がかなり記者たちの興味を引いたようである。出演しているのは○○ミュージックスクールの生徒さんたちである。この人たちには昨年『同窓会』のPVにも出てもらった。
 
『お嫁さんにしてね』は千里が元々フロリダで見た結婚式の様子から着想を得たものなので、今回のPVもFMIに依頼してフロリダの結婚式の様子を撮影してもらい、それを編集してまとめあげた。映っているのはみな現地の役者さんたちだが、結婚式を挙げているカップルだけは本当の夫婦である。
 
『Long Vacation 2018』については、新海誠の『秒速5センチメートル』を思わせるような青春物語に仕立てている。桜木ワルツと岩本卓也が出演し、学校の制服を着た男女が別れに涙するシーン。大学生になった各々が別の恋人と付き合うシーンを経て、おとなになった2人が小さな駅で運命的に再会するシーンが描かれる。ふたりが小さな喫茶店で長く話し合うシーンが描かれ、ふたりのデートが描かれ、最後はふたりの結婚式のシーンで終了する。
 
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このPVについては「これ映画化したいですね」という意見も出ていた。
 

しかし、今回の記者会見では、やはりマリの子供の父親のことでたくさん追及された!
 
むろん私は「聞いてはいますが、マリが公表したくないと言っているので言いません」というので押し通した。
 
この日は記者の数も多くて、席に座れず立ったままの記者が多数居た。
 
「お相手は芸能人か音楽関係者ですか?あるいは一般の方ですか?」
「それもお答えできません」
「答えられないということは芸能人ですか?」
「勝手な憶測をされても困ります」
 
「結婚しないということですが、相手は既婚者ですか?」
「既婚者ではないということはお答えしてもいいです。マリは不倫はしてません」
「既婚者ではないのに結婚しないのはなぜですか?」
「結婚というものに拘束されたくないからと言っております。ですから認知も拒否と言っています。相手もマリの気持ちに考慮して、認知はしないものの、養育については責任を持つと言っています」
 
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この件はみんなしっかり書き留めていた。
 
「ではその人とは現在恋愛関係にあるのですか?」
「恋愛という形でも拘束されたくないと言っています。ですからただのお友達です」
 
「俳優のNさんではないのですか?」
「違います。Nさんとはラーメン屋さんで偶然遭遇しただけでデートもしていません」
「上島雷太さんでもない?」
「上島先生とマリは2人だけで会ったことは1度もありません。いつも私が一緒です。それに私は既婚者ではないと申し上げました」
 
「渋紙銀児さんということは?」
「渋紙さんとはあれ以来、一度も会っていません」
 
「ある方面からの噂で、高校の時の同級生ではないかという話も聞いたのですが」
 
よくそんなところまで調べたなと思った。きっと昔の同級生の誰かが漏らしたのだろう。マリと松山君が交際していたことは、元同級生の間ではけっこう知られていた。相当、私たちの周囲の人物まで取材に回ったもようだ。
 
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「その人も既婚者です。彼は独身時代にマリと交際していた時期もあったので、今回の件で奥さんから疑いを持たれて困っていると相談されました。それで結局DNA鑑定をして、その可能性がないことを証明しました。実際彼とはもう3年ほど会っていないのですよ」
 
他にも数人の名前があげられたものの、私は全て否定した。しかしそれだけ名前があがったのに、大林亮平の名前が出て来なかったのは凄いと思った。おそらくは※※エージェンシーの親会社的な存在である∞∞プロの力で一切情報が流れないように押さえ込んでいるのだろう。桜野みちるの件が漏れてしまったのは、本人たちの自主リークがあった可能性がある。みちるは本来は契約上26歳になるまで結婚できなかった。
 
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結局このやりとりで15分近く使った!
 

その後、私自身の婚約についても尋ねられたが、これはありのままの状況を答えた。エンゲージリングは、つけておられないのですか?と言われたのでバッグの中から出して左手薬指に装着したら、みんな一斉に写真を撮っていた。さすがにちょっと恥ずかしい。
 
「随分小さなエンゲージリングだと思うのですが」
などと無遠慮なことを言う記者もある。カチンと来たが私は平常心で笑顔で答える。
 
「この指輪を買ったのは、私も彼もまだ大学生の時でした。ローズ+リリーも活動休止中で、どちらもお金が無い中、精一杯背伸びして買ったものです。今ならどちらも経済的なゆとりがありますが、愛の記念なので、買い直すことはありません」
 
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「それを買われたのはいつですか?」
「2011年11月15日です。大安です」
「では7年前に買った指輪を今年受け取られたのですか?」
 
「そうです。7年前は一緒に買いに行って、私の指に合わせてもらいましたけど、私はその時はまだ受け取れないと言って受け取りませんでした。でも今回は婚約することに同意したので受け取りました」
 
「それでご結婚なさるのは?」
「少なくとも2〜3年以内は無理です。ひょっとしたら7年後かも知れませんね」
と私はこの時、言ったのだが、本当にそうなった!
 

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私の婚約問題でも10分ほど使い、やっと楽曲の話、そしてツアーの話に入る。
 
「マリさんはこのまま引退ということはないのでしょうか?」
「それはありません。マリは妊娠中も音楽活動を続けます。ライブツアーが終わったら、次のローズ+リリーのアルバム制作準備に入ります」
 
「そのアルバムはいつ頃リリースの予定でしょうか?」
「おそらく来年の春くらいになると思います。ですからマリの産休開けくらいに、新しいアルバムを持って全国ツアーができると思います」
 
「アルバムのタイトルは決まっていますか?」
「まだ未定ですが、今漠然と考えているのは『星たちの歌』というものです」
「“うた”の漢字は?」
「歌手の“歌”です」
 
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「マリさんの産休はいつからいつまでですか?」
「今度のツアーが終わった後、来年の7月までの予定です」
「それでは今年のカウントダウン、および震災イベントはお休みですか?」
 
「カウントダウンはお休みになると思います。震災イベントはローズ+リリーは演奏しませんが、私たちが費用を負担して、お友達のユニットが出場して実施します。私はもしかしたら司会をさせて頂くかも知れません」
 
震災イベントについては和泉・光帆・花野子およびコスモスと同意済みである。
 
これは記者たちが頷いてしっかりメモしていた。
 

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KARIONの12枚目のアルバム『1024』は9月12日(水)に発売された。この日私は夕方から千葉の幕張でローズ+リリーのライブがあるのだが、お昼の12時から発売記者会見をし、トラベリングベルズの伴奏でKARIONがアルバムの中から3曲ショードバージョンで生演奏して、その後、質疑応答に応じた。
 
KARIONのツアーは9月15日より始まるが、ローズ+リリーのツアーは既に8日から始まっていた。
 

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この9月12日、淳が国内の病院でとうとう性転換手術を受けた。
 
私や政子はツアー中でもあり行かなかったが、現地に青葉・桃香・あきら・小夜子が入って、若干不安そうな顔をしながら最後まで逃亡したりせずに!手術を受けた淳を励ましたようである。青葉はヒーリングもしてあげて、それで結構楽になったようだと、小夜子さんから連絡があった。
 
なお、淳は和実との婚姻状態をキープするため、法的な性別は変更しない。
 
現地には和実はもちろん行っているし、他に掛尾さんという淳の古い友人(女性)も来ていた。淳が今の会社に入社した頃の同僚らしい。彼女は淳の会社の専務から、たまたまその話を聞き、手術を受けた病院が近所だったので顔を出したということであった。
 
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「へー。淳ちゃん、結局女の子と結婚したのか。でも女の子と結婚したのに淳ちゃん自身が女の子になってしまってもよかったの?」
と彼女が言うと、和実は少し嫉妬するような顔で
 
「私たちはレスビアンですから」
と答えた。
 
「淳ちゃんにそういう傾向があるとは知らなかった」
 
「淳は、もしかして男性との恋愛経験ありました?」
と和実が訊くと
「言っちゃおうかなぁ」
などと彼女は言う。
 
「ちょっと勘弁してぇ」
と淳は痛みに耐えながら言っていた。
 
「もしかして淳、私が知る前から女性社員してました?」
 
「淳ちゃんが会社に入ってきた時、男の子だと思った社員はひとりも居なかったよ」
と掛尾さん。
 
「淳、私に色々隠し事してたね?」
 
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「実は淳さんって、男性社員だったことがないとか?」
などと小夜子が言うが
 
「いや、ちゃんと男性社員していたけど」
などと言って、淳が焦っているので、ヒーリングをしてあげていた青葉も思わず苦笑していた。
 
 
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