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■夏の日の想い出・つながり(4)
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演奏が終わってから、系図を書いてみて分かった。
新婦のお父さん・楠本龍太の妹・久保虎世の子供が久保早紀、つまり丸山アイになるという関係である。政子は楠本龍太の妻・真弓の妹・恵美の子供なので、楠本龍太・真弓夫妻をブリッジにして、政子と丸山アイは元々親族だったようである。
「ちなみに龍太の弟・楠本玄司の子供が私のマネージャーしてくれている京華さん。どっかその付近にいると思うけど」
「じゃ取り敢えず私たちみんな親戚ということになるのね」
「なんか親戚の数が膨大になってきている気がする」
「最近はきょうだいの数も2人くらいの家庭が多いけど、今回の結婚に関わっている家は4人とか5人とか、数の多い所がたくさんあったみたいね」
「そういえば今年の震災復興支援イベントって、出演者調整中ということになっていたけど、微妙な人がいるの?」
とアイは訊いた。
「まあAYAがね〜。事務所の方針で難しいみたいで」
「事務所の方針?」
「つまりAYAをノーギャラで全ての売上げを寄付するというイベントに出した場合、ふつうにギャラをもらえるチャリティーイベントに出る同じ事務所の他のタレントさんとのバランスが取れないので、AYAにも控えて欲しいということなんだよね」
「難しいなあ。そもそもチャリティーでギャラをもらえる日本の風習がおかしいと思うんだけどね」
とアイは嘆くように言う。
「あそこの社長個人は私たちのイベントの趣旨に理解を示してくれているんだけど、あの事務所は“社長”というのもひとつの管理職にすぎないから」
「伝統のある事務所はやっかいだね〜」
「それで代わりに誰か出られる人がいないかと思っているんだけど、今言ったようにギャラが払えないし、アゴ・アシ・マクラが自腹というイベントだから、ある程度経済的な余力がある人でないと気の毒だし」
と私。
「それなら私たち出ようか?」
とアイは言った。
「ホント?」
「でも私たちというと?」
「私と、フェイと信子とヒロシかな」
「女湯に入る会だ!」
「その名前はあまり大きな声では言わないで」
「じゃCBFで」
「それそれ。バンド名はOlive Lemonね」
「随分可愛い名前を」
「女性志向のある子の集まりだから、可愛いのが好きなんだよ」
「なるほど〜」
「でも女性志向ってアイちゃん、女の子じゃないの?」
と政子が訊く。
「丸山アイは女の子で高倉竜は男の子だから」
と本人は言う。
「そのあたりがどうも謎なんだけど」
「ヒロシも女の子になりたいんだっけ?」
「女装に味をしめてるよね」
「ああ。ローズクォーツのタカと似た状態か」
「ヒロシは基本が男の子だから、ちんちんは無くしたくないはず。ボクやフェイは無くなったらその時と思ってる。だからアクアにも近い」
「アイちゃん、おちんちんあるんだっけ?」
「内緒」
「今井葉月(ようげつ)ちゃんもヒロシに近い気がする」
とアイは言う。
「ああ、なんとなくそんな感じはする」
「あの子もCBFに勧誘しようかなあ」
「アクアは結局入会したんだっけ?」
「会員証は1年くらい前に送りつけた。返送されてこないから入会に同意したと考えている」
「返送しないと同意したことになるんだ!」
「よし。葉月ちゃんにも送りつけちゃおう」
「でも実際アクアは女湯に頻繁に入っている気がする」
「ああ、するする。結構な数の女性タレントとも遭遇しているみたいだけど、全く騒ぎにならない」
「谷崎潤子・聡子姉妹とも遭遇したらしい」
「貝瀬日南も遭遇したらしい」
「城崎綾香とは数回会っているらしい」
ともかくも、アイの提案でアイ・ヒロシ・フェイ・信子の4人で出ることにしたものの、やはり信子は出産からあまり日が経っておらず、リダン♂♀の活動も再開していないので自粛して、代わりに谷崎聡子に出てもらうことにしたのである。
Olive Lemonのメンバーの事務所だが、アイとヒロシが鈴木社長の∞∞プロ、フェイは野坂社長の@@エージェンシー、信子は兼岩会長のζζプロである。ζζプロは兼岩さんさえOKを出せばたいていのことは通るし、@@エージェンシーは若い事務所で柔軟な対応をしてくれる。鈴木社長は芸能界のドンの1人であるが、逆に細かいことは気にしない性格である。
私はこの話がまとまった後、実際に鈴木さん、兼岩さん、野坂さんに直接会って、無料出演に関するOKを取った。
その時、信子に関しては、リダンリダンの活動も再開させていないので、その前に出すのは問題があるということで、同じ事務所の聡子が代理を務めるというのもその場で、兼岩さんと信子・聡子との電話でまとまったのである。
谷崎聡子はCBFのメンバーではないものの(実際、女の子は「女湯に入る会」に参加する必要は無いはず)、メンバーの複数と(性行為を伴わない清純な)交流があるらしい。
谷崎潤子・聡子の姉妹は、潤子が私たちより1つ上(ゴールデンシックスのカノンたちと同学年)、聡子は私たちより2つ下の1993年度生まれで、CBFの主要メンバーと似た世代である。
この姉妹には今まで恋愛関係の噂も立ったことがない。ζζプロは恋愛関係には厳しいので、実際恋愛をしたことがないのかも知れないと思っている。
(さすがに潤子は既に恋愛禁止の適用は外れていると思うが)
今回の震災復興支援イベントの出演者はこのアイたちの参加で出演者が確定し、2月10日(土)に発売され、即日完売した。なお、アクアのライブチケットだけは前週3日(土)に発売され10:00から18:00まで受け付けて抽選方式で19:00に当選結果が発表された。キャンセルの連絡のあったものや振り込みの無かった人の分の枠を木曜日に追加当選通知。最終的に浮いた分は、被災者の人などを対象にFM局が募集した招待券で処理した。
そういう訳で私たちは3月9日の夕方、滝沢市に入った。盛岡と滝沢の間は、いわて銀河鉄道で15分ほどである。私たちはこの日は会場の下見をしただけで盛岡に戻って、市内のホテルに宿泊する。
この日盛岡に来ているのは、私たち2人とアクア、コスモスだけである。七星さんを含むスターキッズは日曜日の朝出てくることになっている。私たちは4人で一緒に夕食をとった。
「え?葉月(ようげつ)ちゃん、まだ進学する高校が決まってないの?」
と私は驚いて言った。
都立高校の合格発表が3月1日に行われたのをニュースで聞いていたが、さすがに彼は公立ということはないだろう。私立はもっと早く合格発表があっていたはずである。
「受けた私立、全部落としてしまったみたいで」
とコスモスが心配そうに言う。
「わあ」
(実際には女子高のS学園だけ合格しているのだが、この時点ではコスモスもまさかそこに行くことになるとは思いもしなかった)
「どうするんですか?」
と私は訊いた。
「2次募集のある学校があるので、それを受けるみたいです。実は明日もその試験なんですよ」
「だったら、明日の演奏はキャンセルですか?」
「いえ。少数でも自分の歌を聞きに来る人がいるかも知れないし、出ると発表した以上は出るということで。試験は2時くらいまでらしいんです。場所は船橋市で。ですからそれから来るので滝沢到着が18時すぎになるので、ラストの桜野みちるの直前に入れることにしたいのですが」
「ええ、それは構いませんよ。進行係の小風にも伝えておきますね」
10日の進行係は小風、11日の進行係は川崎ゆりこがしてくれることになっている。
3月10日。
アクアのライブは10時からなのだが、会場には朝早くからファンが詰めかけて列が出来ていた(座席は指定席である)。岩手の3月はとっても寒い。それで長時間屋外に並ぶのは健康上問題があるという判断から会場の管理者とも話し合って、予定より1時間早い8時には開場して、ロビーで待っていてもらうようにした。
アクアのライブは例によって興奮しすぎて失神したり、裸になって走り回るなど異常行動を取る子なども出る騒ぎで、途中で退場することになった観客が10人も出た。
11:30までの予定だったが、セカンドアンコールまでしても観客が興奮して危険な感じだったので、特別にサードアンコールで『アクア・ウィタエ』を歌った。静かな曲なので、これでやっと観客が落ち着き、公演の終了を告げて退場させられる状態になった。
「ありささん、済みません。これありささんの歌なのに」
とアクアは公演終了後、品川ありさに謝ったが
「いや、その曲は元々アクアちゃんと醍醐先生の曲だからね。私はまた自分なりの歌で歌うから大丈夫」
と、ありさは笑顔で言う。
「すみませーん」
「でもアクアちゃんにはスローなナンバーが無いもんね」
と川崎ゆりこが言う。
「そうなんですよ。みんな元気な曲ばかりで」
とアクア。
「今度、醍醐先生にお願いしてみよう」
午後の公演は13時から始める予定だったのだが、少し遅めに始めようということにした。
実はアクアの公演が長引いたので、場内の清掃などに少し時間が掛かっていたこと。それに万一葉月が予定通りに移動できなかった時に、ギリギリまで待てるようにするためである。
コスモスと私は、最悪の場合、トリの予定の桜野みちるが歌った後に葉月に歌わせるケースも検討した。その場合は、葉月でトリという訳にはいかないので§§グループ・オールスターのステージを30分入れて、それをラストにしようということにした。終了が19:30になってしまうが仕方ない。会場は演奏を21:15までに終えれば問題無い。撤収作業は今日は必要無い。
それで13:10にトップバッターの石川ポルカが、午前中にもアクアのバックで踊った信濃町ガールズと一緒に出て行き、元気いっぱいな歌声を披露した。
信濃町ガールズを一緒に出したのは、まだデビュー前のポルカが不安がっていたので、大勢と一緒なら心強いだろうということで急遽付けることにしたのである。
ポルカは予定通り25分間のパフォーマンスを終えて13:35に舞台袖に下がる。そして13:40に2番手の桜木ワルツが出て行く。このようにしてこの日のライブは本来の予定より10分遅れのまま進行していった。
桜木ワルツは自分の持ち時間を使って、
「みなさんにお願いがあります」
と言って、今井葉月のことを話した。
司会進行役の小風が説明してもよかったのだが、葉月の保護者のような感じになっているワルツが、自分に説明させて欲しいと言ったのである。
「高崎ひろかちゃんの次に歌う予定の今井葉月(ようげつ)あるいは“はづき”ちゃんなんですが、実は、あの子、先月受けた高校に全部落ちてしまいまして、今日急遽2次募集のあった所を受験することになったんです」
会場がざわめく。
「本人は今日のライブがあるから、そこは受けないつもりだったのですが、私やコスモス社長が、試験の後、こちらに移動してくるのでいいから、試験を受けておいでと勧めました。それで“はづき”ちゃんの演奏順序が予定より後になる見込みなので、よかったら了承して頂けませんでしょうか?」
観客から強い拍手がある。
「ご承認ありがとうございます。本人は到着したら元気いっぱい歌いますから御免なさいと言っていました」
ワルツは最初「ようげつ」「はづき」と両方発音してみたものの、明らかに「ようげつ」より「はづき」の方が観客の反応が良かったので、後は全部「はづき」で通してしまった。
どうも彼の名前は「はづき」ということで一般に認識されているようだと考えたのである。また性別問題はとりあえず棚上げにした方がよさそうと考えて、“彼”とも“彼女”とも言わず、“あの子”とか“はづきちゃん”という表現にしておいた。
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