[携帯Top] [文字サイズ]
■夏の日の想い出・つながり(13)
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
(C)Eriko Kawaguchi 2018-03-17
私は和泉から時々送られて来ている歌詞のストックの中から、タイトルを眺めていて
『青い海の思い』
『金色の昇竜』
『黒い激情』
という3つの詩を選び、それにそれから2時間ほどで曲を付けた。
「今日見た地獄の描写だ」
「まあね」
「でも冬、書くのが速い」
と政子に指摘される。
「なんか最近急いで書くのが癖になっているんだよ。でもこれ明日もう1度見直す」
「それがいいね。でもこれ全部色の名前が入っている」
「そういえばそうだね」
「そのまま色の名前がついた曲を10個集めればいい」
「それは行けるな」
それで私は千里2と丸山アイに政子の思いつきをメールしてみた。どちらからもOKという返事があり、まず書いてみるから、色がダブったら連絡してくれと言われた。実際には千里からは
『桃色メガネの少女』(照海名義)
『藤の木の伝説』(歌月名義)
アイからは
『銀色の遠い道』(歌月名義)
『ミルク色の雨』(アイ名義)
というタイトルが送られて来た。
私は青葉に電話した。
「KARION品質ですか。分かりました。今忙しいですけど、何とかします」
「悪いね。よろしく」
それで青葉に色の名前あるいは示唆するものが入っている曲名がいいと言ったら、最近彼女の作詞を担当しているらしい友人の大町ライト(大谷日香理)が書いた詩からKARIONに合いそうな曲ということで『オレンジ色の炎』という曲を送ってきてくれた。歌詞を見ると、世界観が1970年代の歌謡曲か古い時代のフォークという雰囲気だが、曲次第ではちゃんとポップスになると思った。歌詞自体に色々推敲したい気分になる所はあるものの、基本的には使えると思ったので、それで進めて欲しいと言った。ただ歌詞をあと少しリファインできないかというのは伝えた。それは本人に少しやらせてみると青葉は言っていた。
『オレンジ色の炎』
どうしてあなたは
私を不安にさせるようなことばをつぶやくの?
私の愛、まだ足りないかしら?
足りなければもっともっと燃やすわ
愛の炎を
でも、たくさん愛してね
貴方の愛が、愛の炎の燃料なの
不安を燃料にすると、暗い灰色の炎になる
嫉妬を燃料にすると、毒々しい赤紫の炎になる
愛情を燃料にすると、美しいオレンジ色の炎になる
たくさん愛して
たくさん愛を受けとめて
あなたとイチャイチャしていたいの
たくさん愛して
たくさん愛を受けとめて
あなたと楽しく過ごしたいの
どうしてあなたは
私を怒らせることばを言ったりするの?
私って、まだ未熟なのかしら?
足りなければもっともっと熟させるわ
愛の果実を
でも、たくさん優しくしてね
貴方の優しさが、愛の果実の栄養なの
心細さを栄養にすると、未熟な灰色の果実になる
怒りを栄養にすると、毒々しい赤紫の果実になる
優しさを栄養にすると、美味しそうなオレンジ色の果実になる
やさしく愛して
やさしく愛を受けとめて
あなたと気持ち良く過ごしたいの
やさしく愛して
やさしく愛を受けとめて
あなたとひとつになってしまいたいの
楽しいことをたくさんしましょう
愛は辛いものではいけない
愛は喜びなのよ
私は和泉に電話してみた。
「フルアルバムを作るのか!」
「小節数を合計1024にする」
「それ分かる人居ないよ〜!」
「でも10曲くらいになるからいいでしょ?」
「実際問題として今年12曲のアルバム作るのはさすがに無理だと思う。他のアーティストでもアルバム制作の予定を延期している人が相次いでいる。みんな楽曲が確保できないんだよ」
「取り敢えず8曲確保のメドが立っているんだよ。私の作品3つ、醍醐春海が2つ、丸山アイが2つ、大宮万葉が1つ。醍醐春海と丸山アイは、1つは自分の名義で、1つは私の名義で」
「醍醐春海さんや丸山アイちゃんが書いたケイ名義の曲は、ほんとにケイが書いたみたいな曲だったよ。ふたりともそういうのがうまいね」
「ふたりともゴーストライターの達人っぽい」
「職人なんだね〜」
「うん。醍醐は、自分が作っているのは工業製品だからと言っていた。たぶんレプリカ作りの名人なんだと思う。まさに職人だね」
「それで後2曲、櫛紀香さんとか、花畑さんとかから提供してもらえないか、訊いてみてくれない?」
「OKOK」
「私は今回はたぶん演奏・歌唱にしか参加できないと思う。編曲とか、伴奏者の手配とか、悪いけどそちらでやってくれないかな?制作中の指揮も」
「何とかする。アクアに関する作業は彼女が夏休みに入るまでならまだ軽いから」
「彼女?」
「ああ、彼の間違い」
アクアの性別も何か最近はほんとに微妙になっているなと私は思った。アクアを見ていて、この子は絶対女の子だとしか思えない時がしばしばあるのである。震災イベントでも1日目のステージは結構中性的だったのだが、2日目のアクアは明らかに女の色気を漂わせていた。あの子、ほんとに女性ホルモンをしているのではと思いたくなった。
インターネットでのアンケートでは、アクアが20歳までに性転換するという予想が70%くらいになっていたようである。写真こそ出回らないものの、女子制服姿のアクアを見たという書き込みはたくさんある。特にここ1年ほど増えている気がする。
アクアに声変わりの兆候が全く見えないことから、既に去勢済みと考えている人が大半のようでもある。
上島先生は3月29日に釈放後記者会見をして無期限の音楽活動自粛を表明したが、その後、自宅には戻らず、実は沖縄の木ノ下大吉先生の御自宅に行き、地元で海岸清掃や木ノ下先生の家の離れに住んでいる明智ヒバリが管理しているウタキの整備や神具造りなどの作業をしていた。ヒバリの歌唱指導もしてあげているようである。海岸清掃に出る時は顔を手ぬぐいで覆っていたので、上島先生であることには誰も気付かなかったようである。
上島先生の自宅は様々な損害賠償の原資にするため、売りに出して、5月の中旬に、ある不動産会社が1.5億円で買い取った。その不動産会社では家屋は解体してワンルームマンションを建てるという話である。
一方、奥さんの春風アルトさんは、紅川会長が保護し、実は上野陸奥子さんの家に居候していて、取り敢えず6月くらいまでは陸奥子さんの姪(甥?)である今井葉月が密かに様々な連絡役を務めていた。
「葉月(ようげつ)ちゃん、最近いつも女装だね」
とアルトさんが言うと
「はい、女子高に進学したので」
と葉月が言うので
「うっそー!?」
とアルトさんは驚いていたという(私もその話を聞いて仰天した)。
「葉月ちゃん、だったら性転換しちゃったの?」
「いいえ。ボクは別に女の子にはなりたくないです。でも性転換とかしなくても、女ではないとバレないように3年間女子高生生活をしろと父の命令なんです」
「何それ〜?」
「女形(おやま)修行ということで」
「意味が分からん!」
「私もよく分からないんですけど、そこ以外全ての高校に落ちてしまったので」
「ありゃあ」
私は紅川会長の許可ももらって、その葉月を通し、一度アルトさんに会いたいと申し入れ、若葉の自宅で会談した。5月末のことであった。若葉の家はセキュリティが厳しいので密談をするのにはとても良いのである。
「実はアルトさんの前では言いにくいことなんですが、たぶん当事者は切実だと思うので」
と私は切り出した。
「何だろう?」
「実は上島先生の愛人のことなんですが」
と言うと、案の定アルトさんの顔が険しくなる。
「先生はお子さんのお母さんたちに、毎月送金していましたよね?」
「・・・うん」
「その人たちが困っているのではないかと思って」
「あぁぁ」
「その人たちに、せめて日々の生活資金程度だけでも送金してあげたいんです」
「なんでケイちゃんが?」
「上島先生には大きな恩があるので。でもその送金先をご存知なのはたぶんアルトさんだけなのではないかと思ったんです」
アルトさんはしばらく腕を組んで考えていたが、やがて言った。
「送金先までは知らない。でも名前と連絡先だけは分かるよ」
「それでいいです。各々の人と連絡を取ってみます」
それで私は初めて上島先生の隠し子たちおよびその母たちの具体的な名前を知った。
ひとりは作曲家の福井新一さんと、その娘の貴京(たかみ)ちゃんで小学校の6年生である。福井さんのことは私も知っていたのですぐに連絡を取ったが、彼女は蓄えもあるので、具体的な金銭支援は辞退すると言った上で、私が大変そうなので自分の作品を、上島先生の謹慎が解けるまでの間、私の名前で発表してもらえないかと提案してきた。
私はそれを快諾した。結果的には私も楽になるし、楽曲が無くて困っている歌手たちが助かるし、その印税あるいは作曲料で福井さん母娘も助かるのである。
ちなみに貴京ちゃんが生まれた時、私はその場に立ち会っている。
福井新一さんが産気づいて、病院に行く途中で苦しくなり動けなくなった所にちょうど私や蔵田さんたちが居合わせたのである。それで私は鮎川ゆまたちと一緒に彼女を病院まで連れて行き、結果的に赤ちゃんの誕生にも立ち会った。彼女たちとは、それ以来交流もあったのだが、この時期まで私は実は貴京のお父さんが上島先生とは全然知らなかった(知っていたのは鮎川ゆまくらいだった模様)。
貴京は後にローズ+リリーの3代目バックバンドとなる、フラワーガーデンズのギタリストになる。
2人目は元ロマンスガールズのユリカ(橘由利香)と、その息子の美晴君ということであった。現在小学5年生ということであった。ユリカさんに連絡を取ると、彼女は私の好意に感謝した上で、実は雨宮先生から支援を受けているから大丈夫だと語った。
ロマンスガールズはユリカとエリカの双子姉妹ユニットである。
「雨宮先生が上島先生に代わって送金してくれているんですか?」
「いえ、実はうちの息子の父親は、上島雷太なのか、雨宮三森なのか分からないんです」
「え!?」
「本当にふしだらな女と思われても仕方ないのですが、物凄く微妙なタイミングでふたりと関係を持ったもので。血液型は上島も雨宮もどちらもAB型なので、それでは判別できないんですよ」
「DNA鑑定とかは?」
「上島と雨宮が話し合って、鑑定はしないことにしたんです。それでふたりとも父親としてふるまってくれているんですよ。だから、美晴は小さい頃、僕はお父さんが2人居るんだと友だちとかにも言ってました。それで私が男の娘だと周囲に思われていたふしもあって」
とユリカは明るく語っていた。
取り敢えず問題ないようなので、何かあったら連絡して下さいとだけ言っておいた。
(ユリカとエリカの姉妹は実はこの年、各々15曲くらい曲を書いて、その曲は雨宮先生の仲介で醍醐春海あるいは鴨乃清見の名前で発表されていたのだが、そのことを私が知ったのはかなり後のことであった)
3人目は歌手の花村かほりさんと、娘の律子ちゃん(中学1年生)だった。花村さんは、ゆきみすず・すずくりこペアが書いた『帰りたい』で2004年のRC大賞を受賞したのだが、次に出したシングルが全く売れず、翌年の春以降はテレビにも露出することなく実質引退状態になってしまった。
しかし実はその年、上島先生と恋愛関係になり、律子ちゃんを産んだものの、結局結婚することはできなかったらしい。彼女に私が連絡すると、本当に困っている様子で
「実は今週中に電話代を払わないと停められるんです」
と言っていたので、取り敢えず20万振り込んであげて、翌日、電話代・電気代を何とか払ってきました!という彼女と、毎月の送金額について話し合った。
彼女は現在パン屋さんにパートで勤めてパン作りの仕事をしているものの、給料は毎月8万円くらいらしい。しかし娘さんが中学生なら、かなりお金が入り用のはずである。上島先生からいくらもらっていたのか尋ねたのだが彼女はその額は言わない。
「本当に済みません。月々10万くらいでも貸して頂けたら凄く嬉しいです」
と言っていたので、私は取り敢えず15万毎月送金してあげることにした。彼女には、送金分は後日上島先生からもらうから、返却のことは考えないでくださいねと言っておいた。
彼女がお金に困って変なバイトにでも手を出すとまずいと考えたのである。
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
夏の日の想い出・つながり(13)