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■夏の日の想い出・つながり(8)
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目次 8
時間索引 #
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『フック船長』を演奏する。
月子・星子の姉妹が観客の声援に手を振って下がる。風帆と泰華も下がる。香月・宮本と青葉が出てくる。詩津紅はクラリネットを吹く。風花はキーボードから離れてアケミと並び一緒にフルートを吹く。キーボードは月丘・千里・青葉の3人で弾く。月丘さんがキーボードを弾くのは今日はこの曲だけである。宮本さんはメトロノームを操作する!
メトロノームはチックタック鰐を象徴しているのだが、宮本さんはわざわざ、鰐の帽子をかぶって、これをやってくれた。曲のクライマックスでは目覚まし時計が鳴り出して、宮本さんはそれがどこで鳴っているのか探すパフォーマンスもしてくれる。
この時計は私のスカートのポケットから出てきた!(『コーンフレークの花』で風花が出てきた時に、そこに放り込んで行ったのである)この目覚まし時計が曲が終わっても鳴り止まない。宮本さんは叩いたり投げたり!していたが、最後はお玉を出して来て、それで叩くとやっと停まった。
それで宮本さんはそのお玉を私に渡して退場していった。
「あれ?これは?」
と私がお玉を掲げて言うと、客席から
「ピンザンティン!」
という声が返ってくる。
それで私は
「では今日最後の歌です。ピンザンティン!」
と言った。拍手がある。
美耶・月子・星子の3人がお玉をたくさん持ってステージにあがってきて、ステージにいる演奏者に渡した。3人はそのままステージに留まり、お玉を振る。
「サラダを作ろうピンザンティン!素敵なサラダを」
「サラダを食べようピンザンティン!美味しいサラダを」
この日最後の曲『ピンザンティン』である。
美耶・月子・星子は持っているマイクを客席に向ける。月子・星子の姉妹もこの1時間でけっこう舞台度胸がついたようである。
演奏が終わると、全員手を振って舞台を降りる。
拍手がアンコールを求める、ゆっくりしたリズムの拍手に変わる。
楽屋では例によって、政子がジンギスカンを“一気飲み”していた。私は普通に500ccの烏龍茶を3回くらいに分けて飲んだ。
「よし、行こう」
それで今日出演した演奏者全員で出て行く。キーボードを千里、ヴァイオリンを泰華が弾き、風花とアケミはフルート、詩津紅はクラリネット、青葉は篠笛、美耶は胡弓、風帆は琵琶、聖見・月子・星子は三味線、宮本さんはギター、香月さんはトランペット、を持つ。
そしてみんな自由に音を鳴らして『影たちの夜』を演奏する。
客席も物凄い盛り上がりである。風花や詩津紅は音を出したり手を振ったり、している。最後は月子・星子の姉妹もバチを持ったまま手を振っていた。
激しい興奮の中演奏が終わる。
私とマリ以外の演奏者が退場する。
「アンコールありがとうございました」
と私は観客に御礼を言った。
あらためて東北復興への思いを私とマリは語った。
「それでは本当に最後の曲です。『あの夏の日』」
それで私がピアノの前に座り、マリはいつものように私の左に立つ。ブラームスのワルツから借りた前奏を弾き、私たちは歌い始めた。
今年の夏にはローズ+リリーも10周年である。よくまあ10年も続いてきたものだと私はその幸運に感謝しながら、歌を歌っていった。
演奏が終わり、私は立ち上がると、マリと一緒にステージ前面に出る。
そしてたくさんの拍手の中、私たちは深くお辞儀をした。
そして観客に向かって手を振る中、幕が降りる・・・・
と思ったら、舞台袖から入ってくる人たちがある。
へ?
と思ったら、KARION, XANFUS, Golden Six, Olive Lemon, Flower Fourの面々である。
Flower Fourはいったん女装を解いていたはずなのに、また女装している!千里と泰華もゴールデンシックスのメンバーとして出てくる。
XANFUSの音羽が私のマイクを取って観客に告げた。
「ローズ+リリーのライブは終了したけど、今回の復興支援イベントの最後の曲を歌います。『花は咲く』!」
凄い歓声があがる。
Olive Lemonのヒロシがドラムスの所に座り、丸山アイがギター、フェイがベースの音を出す。
音羽はそのまま私のスタンドマイクを持っていって、光帆と一緒に歌う態勢だ。私はマリのそばに行って、一緒にマイクを使う。他に和泉・小風・美空がひとつのマイク、花野子・梨乃・千里・泰華がひとつのマイク、Flower Fourの4人がひとつのマイクを使って、『花は咲く』の演奏は始まった。
スターキッズ、トラベリングベルズ、パープルキャッツ、ほか多数の追加伴奏者もステージに姿を現す。
会場はまた興奮のるつぼと化す。
そして本当に東北復興の思いを込めて、8000人の観客と50名ほどの演奏者がひとつになって、今年の復興支援イベントは終了した。
曲が終わって、拍手の鳴り響く中、全員が退場し、川崎ゆりこが
『今年の復興支援イベントはこれで完全に終了しました。皆様、お気を付けてお帰り下さい』
というアナウンスをした。
イベントが終了した後は、私たち演奏者はすぐに会場を脱出。バス2台を使って、盛岡市内に移動して、宿泊場所に確保していたホテルの宴会場を使って打ち上げをした。今日の午後のイベントにも同席してくれた、川崎ゆりこ・秋風コスモスも出席した。
「質問。昨日・今日の公演で、ステージで演奏した人の中に男の娘・女の娘は何人いたか?」
と光帆が言い出す。
「それ似た話を以前やったね」
と私は言う。
「2014年のサマーロックフェスティバルの打ち上げの時だよ」
と音羽が言う。
「あの時、何気なく私が何人かな?と言ったら、醍醐春海さんが5人と言ったんだよね」
と音羽は言うが、
「へー。それ覚えてないや」
と千里は言う。千里は天性の巫女なので、唐突にどこかから降りてきたことを口に出す。本人は概して全く覚えていない。
「結局5人というのは、私、千里、近藤うさぎさん、yuki(黒井由妃)ちゃん、桃川春美の5人だったと思う」
と私は言う。
「あの時期、桃川さんはまだ造膣していないと言っていたんだけど、本当は既にしていたみたい」
と私。
「春美さんが造膣術を受けたのは2014年のお正月だと聞いた」
と千里。
「じゃ、やはりそれで合っているみたい」
「あの時、候補にあがっていた、★★レコードの社員さんは?」
と音羽が訊く。
「あの人は確かに身体は性転換して女の身体になっているけど、社会生活は男として送っているから、性転換者にはならないと思う」
と私は言った。
「そんな人がいるんだ!」
と小風が驚いていた。
「それで、昨日・今日のステージの男の娘は?」
「多すぎて分からん」
「微妙な子がいる」
「信濃町ガールズの中で1人だけスカートじゃなくてショーパン穿いてた子は?」
「あの子は普通の男の子だよ」
「あれ、女の子になりたい男の子なのか?男の子になりたい女の子なのか?と思って見ていた」
「ふざけてみんなからスカート穿かされていたことはあるけど、本人は別に女の子になりたい気持ちはないと思う」
「もったいない。可愛いのに」
「あの子、しばしば女子更衣室に拉致されてってるね」
「その内、女の子に対する不感症になってしまうかもとは危惧している」
「既に不感症になっている感じの今井葉月は?」
「あの子は、あとちょっと押すと性転換しそうな気がする」
などと言っているのは丸山アイである。
「Flower Fourの4人は?」
「私が明日の朝までにチョン切っておくから、男の娘でいいよ」
と政子。
「それ、勘弁して〜」
「僕、女の子になっちゃったら星歌から離婚されちゃう」
「星歌ちゃんにはレスビアンを覚えてもらうということで」
打ち上げが終わった後は、全員そのホテルに宿泊し、そのまま解散する。
マリは夜中に居なくなっていた。多分亮平の部屋に行ったのではと思った。全くあの2人はどうなっているのか。
翌朝私が起きるとマリはもう戻っていた。私たちはそのまま東京に戻って『郷愁』の海外版制作、『Simple Collection』の制作を続ける。
青葉は日中市内で過ごした後、夕方近くに盛岡市内の彪志君の実家に行った。千里はすぐフランスに戻ったようである。
そして私は3月18日、新島鈴世さんからの連絡で、上島先生の逮捕が近いことを知り、驚愕したのであった。上島先生は実際には翌日3月19日に逮捕され、翌日送検されて、29日まで勾留された。
上島先生は29日の釈放後、弁護士とともに記者会見をし、無期限で音楽活動を自粛することを表明した。
そして上島先生の作品を含むCDは発売予定になっていたものは全て発売中止となり、現在市場に出回っているものは全て回収となった。大手のレンタル店でも店頭から撤去、通信レンタルでも取り扱い中止となった。
この結果、活動停止に追い込まれるアーティストが大量に出ることが予想されたが、すぐに○○プロの丸花社長などが中心になって、上島先生の作品を多数の作曲家で代替して、何とかそれらのアーティストの活動を支えるプロジェクト上島代替作戦(Ueshima Diversion Mission)"UDM"が発足したのであった。
上島先生は昨年1年間で950曲書いていたらしい。それを代替するといっても実際代替作品が書けるような作家はせいぜい50人くらいしか居ない。その人たちが全員4曲ずつ提供したとしても200曲程度にしかならない。
それでこの機会にあまり売れていない歌手は引退させようということになったらしい。それでだいたい300曲程度節約できる。それでも残り600曲程度を何とかしなければならない。
結局上島先生という人は、物事を断るのが下手くそなので、あちこちから頼まれたものに気軽に応じていた結果、年間信じられない数の曲を書くことになってしまっていたようだ。しかも上島先生の作曲料は買い取り方式の場合、とっても安かった。それで売れない歌手が随分利用していたのであるが、上島先生から曲をもらったのが偶然売れて、ビッグになっていった歌手も結構あった。百瀬みゆき、紀国小鈴、モライス小林、山折大二郎などはその組である。特に山折大二郎は「上島先生の弟子」を自称している。
4月上旬、私は★★レコードの町添専務と秘密会談を持った。現在、町添専務は一応制作部長の肩書きはそのままではあるものの、社内での実権をほとんど剥奪されている。しかし今回の事件に関しては佐田副社長が、自分だけではとても手に負えないので、町添さんにも協力して欲しいと言い、佐田−町添協同態勢で、上島代替問題に対応することにしたのである。
それで町添さんは有力な作曲家に個別に頼み込んで、何とか楽曲制作の代替をお願いしているのだと言っていた。
私はうまく町添さんに乗せられて200曲書きますと言ってしまった。この時点ではそのくらい何とかなりそうな気もしたのである。今回の作業では下川先生の工房が全面的に協力するので、メロディーだけ書けば、編曲は下川工房が全部やってくれるという話だった。
しかしこれで私はKARIONの制作の作業が全くできなくなってしまったし、それどころかローズ+リリーの次のアルバムやシングルの構想も、とても練られない状況に陥ってしまう。
私が楽曲を必死に書いていたら、最近あまり見ていなかった須藤さんとマキが来て、私が書く楽曲が、過去の作品と似ていたりするとまずいから、チェックしてあげるよと言った。
正直、迷惑だと思ったのだが、断る理由もない。それで任せていたら、私の書く作品が全部はねられてしまう!
そりゃ同じ人間が書いていたら、どうしてもメロディーラインの似ている部分は出てくるに決まっている。
それで参ったなと思っていたら、5月中旬になって、突然このチェックが全くされない状態になってしまう。須藤さんたちがチェックをやめた訳ではなく、
「最近はちゃんと自己チェックできているみたいね。過去の作品とぶつかってないよ」
などと言っている。不審に思った私は、過去の作品を歌詞とタイトルだけ変えて!新しい作品として出してみた。
それでもチェックに引っかからない!
それで私はどうも須藤さんたちのチェックは、チェックプログラムのバグか何かで、無効になったようだと判断。安心して過去の作品をどんどん再利用することにした!
この件では、どうも雨宮先生が暗躍していたようであるが、先生は何も言わないし、私も聞かない方がいいだろうと判断している。
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