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■夏の日の想い出・つながり(10)

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結局3人はそのまま3時間くらい、お酒も飲みつつ、出前のお寿司、宅配のピザ、更には政子が勝手に冷蔵庫を開けてお肉をホットプレートで焼いて食べながら、色々とおしゃべりをした。
 
「ああ。でも歌手辞めて田舎に帰ることにいろいろ複雑な気持ちあったんだけど、マリちゃんと話しててスッキリしちゃった」
と妃登美は言う。
 
「ねぇ、マリちゃん、いっそのこと今夜は3Pする?」
と妃登美。
「え〜!?」
と亮平。
「ううん。オセロの勝負で亮平のおちんちんは妃登美ちゃんががもらったんだし、そのおちんちんをたっぷり愛してあげて」
と政子は言う。
 
妃登美は遠回しにさっさと帰れよと言っているのだが、政子には全く通じていない。しかし政子は
 
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「そうだ。これ妃登美ちゃんにあげるよ」
と言って、バッグから鍵を取り出して妃登美に渡した。
 
「田舎に帰るのにも引っ越すのに時間掛かるだろうし、それまでは亮平に優しくしてもらうといいよ」
 
「じゃちょっとだけ恋人のまねごとしてみようかな」
「うん」
 
亮平は頭を掻いていた。
 

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政子は12時すぎになってから
 
「じゃ今夜はたくさん楽しんでね〜」
とふたりに言ってから、タクシーを呼びマンションの部屋を出て下に降りた。
 
そして恵比寿のマンションに戻ると、裸になってベッドに潜り込み、
「冬の馬鹿!!!」
とまた叫んでから、アクアの写真集を見ながら眠りに就いた。
 

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翌日、政子は朝早く起きると、冷凍されているビーフシチューを解凍して食べながら、しばらく考えていた。
 
亮平が妃登美と寝ているところを想像すると、かなり不愉快な気分になる。「もう。亮平の精子は使ってやらないんだから」などと声に出す。それからまたしばらく考えていて「やはり男の娘も遺伝するよね」などとつぶやくと、やがて決意したような顔になる。
 
そしてマンションを出るとタクシーで都内の○○産婦人科を訪れた。
 
「ああ、人工授精で妊娠なさりたいんですね」
「はい。夫は事情があって去勢してしまったので、冷凍精液を使わないと子供が作れないんですが、その精液がこちらの病院で冷凍保存されているはずで」
「確認します」
 
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と言って医師は政子の書いた唐本冬彦という名前の精液のデータを検索してくれた。途中で「あれ?」と声をあげる。
 
「唐本冬彦・中田冬彦、2つの名前で登録されていますけど、これ同じ人ですよね?」
と医師は言った。
 
「はい。もしかしたらこの病院に移管される時に混乱したのかも。精液を冷凍した当時はまだ婚約中だったので」
「ええ、この精子は別の病院から転送されてきてますからね」
「5年くらい前に保管してもらっていた病院が閉鎖されたので、こちらに転送してもらったはずです」
「はい。2013年4月に転送されてきています。今日は冬彦さん御本人はいらっしゃらなかったんですか?」
「今物凄く忙しいんですよ。全然時間が取れないみたいで。一応同意書を書いてもらってきました」
 
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と言って政子は唐本冬彦名義の人工授精同意書(偽造)を提示する。
 
「分かりました。それであなたは前回の生理はいつありましたか?」
「1ヶ月ほど前です。ですからそろそろ生理が来るはずです」
 
「でしたら生理が来た2週間後に人工授精を実施しましょうか」
「お願いします」
 
それで人工授精は6月2日(土)頃に実施することにした。
 

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正望は私と豪華なホテルでの一夜を過ごした後、早朝羽田から札幌に飛び立っていった。その後、北海道で一週間、続いて仙台で一週間過ごすことになったものの、6月3日(日)は休めそうということだった。
 
それでこの日が偶然にも大安であることから、その日に結納を行うことにし、ホテルの予約をした。
 
5月23日(水)に、千里2がふらりとやってきた。
 
「これ、おみやげ〜」
と言って、何かサラミのようなものの入った袋を出す。
 
「Alligatorって、鰐(わに)?」
「そうそう。アリゲーター・ジャーキー。フロリダには結構アリゲーターがいる」
「ああ」
「その辺を歩いていることもあるから気をつけないといけない」
「マジ!?」
「人間と遭遇すると、アリゲーターが食われるか、人間が食われるか勝負」
「壮絶だね!」
 
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「政子が喜ぶかもと思って買ってきた」
「今出かけているんだよ」
「だから来たのさ」
「なるほどー!」
 
政子は千里が結婚して夫と一緒に名古屋に行っていると認識している。もっとも千里1も作曲関係の打合せで週に1度くらい東京に出てきているのだが、桃香のアパートには寄ってないようである。
 

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「でも今、アメリカにいるんだっけ?」
「今両方を往復中」
「往復!?」
「フランスのLFBは今プレイオフをしているんだよ。もっとも私たちのチームは5月8日の準決勝で負けてしまった」
 
「残念だったね」
 
「でも決勝戦が最長で5月28日まであって、表彰式とかはその後だから、それまではフランスに居ないといけない」
「なるほど」
 
「でもアメリカのWBCBLは5月5日から試合が始まった」
「大変だ!」
 
「それで今月はアメリカとフランスを頻繁に往復している」
「お疲れ様〜」
 
「まあ、冬ほど大変ではない」
「大変だよぉ。200曲書きますなんて、言わなきゃ良かった」
 
「冬も断るのが下手だからなあ」
 

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千里は特に用事があった訳ではなく、向こうも色々大変なので気晴らしに立ち寄っただけのような雰囲気であった。
 
「千里の分身さんたちはどうなってるの?」
 
「千里1は名古屋で主婦やってるよ。名古屋の知人に連絡したんで、そちらから連絡が行って、適度なチームで練習させている。今は基礎体力を回復させないといけない」
 
「かなり体力も落ちてるでしょ?」
「まあ1度死んだんだから仕方ないけどね」
 
「3番さんは?」
「9月のワールドカップに向けて合宿に次ぐ合宿。ほとんど遊ぶ暇もないみたい」
「そちらも大変そうだ」
 
「でも1番は、埋め曲が異様に書ける状態になっている。週に2曲くらいのペースで書いている。3番は曲を書くのが気分転換になっている。今年度は3番が書いた曲は、全部ケイの作品として出すことにしたから」
 
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「まあいいよ」
と私は苦笑して言った。
 
「したから」というのは、きっと雨宮先生と相談して決めたのだろう。彼女が一部私の担当分を肩代わりしてくれれば、こちらもかなり助かる。
 

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「それでさ、雨宮先生と話したんだけど、私たちが何とか冬の代替をするからさ、冬はしばらく、KARIONの方に専念しなよ」
 
そうか。これが今日の本題だったのかと私は考えた。きっとそれも雨宮先生と話して決めたのだろう。でもそれはありがたいと思った。
 
「・・・・そうしようかな」
「6月いっぱいくらい、上島さんの代替の方は考えずに、KARIONの楽曲を書いたら?その間、こちらは冬の名前で楽曲を下川工房に送ってどんどん編曲してもらうから」
 
「なんか、工業製品みたいだ」
「上島ブランドは楽曲の量産品だよ、間違い無く」
「そうかも知れないね」
 

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それで、私はしばし「上島代替」プロジェクトから離れることにして、KARIONの楽曲を書くためにリフレッシュすることにした。
 
政子が戻ってきてから言ったら
「じゃ一緒に旅行にでも行こうよ」
と言うので、どこにするか検討することにする。
 
「去年の秋、長崎県に行ったし、年末年始は福岡だったし。3月に岩手に行って。今度は日本海側か北海道行く?」
「まだ寒いけどいい?」
「寒いんだっけ?」
「6月上旬までは雪が降る」
「あまり寒いのもなあ・・・・」
 
などと言っていた時に、桃香が早月ちゃん(ちょうど1歳)を連れて来訪した。
 
「おお、可愛い」
「しゃべる?」
「ママとかマンマとかは言う」
「まあママを呼ぶのはマンマが欲しいからだな」
「ママも食べるものとしてはマンマの一種」
 
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「でも赤ちゃんのお世話で忙しいでしょ?」
 
「起きてる時は忙しいけど、寝てる時は暇だ。千里がいないのがこんなに寂しいとは思わなかった」
 
「でも千里って、そもそも物凄く忙しいから、めったに家に居なかったでしょ?」
「それはそうなんだけど、千里は居なくても空気が残っていたんだよ。今はその空気も無いから、孤独感があって」
 
「実家に帰る?」
「それはいやだ。田舎に帰るとそもそもシングルマザーというだけであれこれ言われそうだし。変な男やもめとか押しつけられそうだし」
 
「ありがちありがち」
 
「少し気分転換に旅行にでも行きたいけど、お金も無いし」
などと桃香は言っている。
 
私と政子は思わず顔を見合わせた。
 
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「私と政子も、どこか旅行にでも行って一度リフレッシュしようかと思っていたんだけどさ、旅行に行くのに、どこかいい所ないかな?」
 
と私は桃香に訊いた。
 
「そちらも旅行かあ。そうだなあ。リフレッシュするなら、温泉地とか、離島とかいいんじゃない?時間がゆっくり流れているよ。自分が行けないから言うわけじゃないけど、海外に行くと結果的に疲れるよ。習慣の違いとかもあって」
 
「うん。私たちもそう思う。でも温泉かぁ、それも良さそう」
 
「温泉なら、四国の道後温泉とか、兵庫の有馬温泉とか、群馬の草津温泉とか」
「草津は近すぎるかな」
「遠い所なら、北海道の登別温泉、和歌山の白浜温泉、九州の別府温泉」
「それ、ドリフターズの『いい湯だな』だ」
「そうそう」
 
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「ドリフターズでは仲本工事の女装がいちばん可愛かったね」
と政子。
「なぜそういう話になる?」
 
「でも別府もいいかもね。しばらく行ってないし」
「以前関鯖食べに行ったね」
「まあコンサートのついでにね」
 
「桃香たちも来ない?実は私が旅先で作曲とかしている時に政子が突然居なくなって困ったりしないように、監視係が必要なんだよ」
 
「政子なら、別府にいたはずが、いつの間にか礼文島行きの飛行機に乗っていたりしかねないな」
と桃香。
 
「えへへ」
 
「まあ礼文島は今空港閉鎖されてるけどね」
「そうなんだっけ!?」
「でもそれでお目付役が欲しいんだよ。ついでに私たちの様子をカメラやビデオで撮影してくれると、後でそれをPVとかに使うかも知れない。桃香はカメラの扱いうまかったよね?」
「うん。わりと自信ある」
 
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そういう訳で、私と政子は別府に行ってくることにしたのである。桃香に政子の監視係兼撮影係をお願いして、旅費はサマーガールズ出版から出すことにする。私たちが不在になっている間、マンションには詩津紅・妃美貴の姉妹に入ってもらって、何かあったら連絡してもらうことにする。
 
私たちは新幹線で小倉まで行き、ソニックで別府に入り、鉄輪(かんなわ)温泉に入った。新幹線やソニックに乗っている最中もしばしば桃香がビデオで撮影してくれた。
 
温泉街の小さな旅館に行き、宿泊手続きをする。別府には立派なホテルなどもあるが、心を休めるのであれば、むしろ小さな旅館がいいだろうと考えたのである。
 
旅館に入ったら
「観光ですか?地獄巡りなどなさいました?」
と訊かれる。
 
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「そういえば、高校の修学旅行で行ったかな」
と私は言ったのだが
「あの時私旅館で寝てて行ってない。行ってみよう」
と政子が言ったので、4人で行ってみることにした。
 
早月は桃香がだっこ紐で抱いたままである。
 

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「でも政子ちゃん、諫早だったか大村だったかの出身でしょ?別府来たこと無かった?」
と桃香が訊く。
「うん諫早の出身。別府は幼稚園の時にも来たんだけど、高崎山の猿とか、マリンパレス(現うみたまご)は見たけど、地獄巡りには行ってないと思う」
 
「へー」
「城島高原で遊んで、臼杵の石仏とかも見た記憶はある」
「あの仏像の首だけのやつだっけ?」
「それは昔の状態で、もう随分昔に胴体の上に戻されたんだよ」
「そうなんだ!知らなかった」
「昔の写真が大量に出回っているからね」
「あれは復元すべきか、首が落ちたままにしておくべきかで、市を二分する大激論をしたんだよ」
「ああ、観光関係の人は、そのままの方がいいと思うかもね」
「今は『首が繋がる』というのでリストラに遭わない御守りと宣伝しているらしい」
「頑張るなあ」
「怪我が治る御守りにもいいかも」
「ああ、確かに」
 
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「だけど硫黄の臭いが凄いね」
「まあ地獄だからね」
 
別府には多数の「地獄」と呼ばれる源泉の類いがあるが、特にその中の7つ、海地獄、鬼石坊主地獄、かまど地獄、鬼山地獄、白池地獄、血の池地獄、龍巻地獄を巡る「地獄巡り」が別府の観光の目玉となっている。そしてこの7つの地獄の内、
 
海地獄、鬼石坊主地獄、かまど地獄、鬼山地獄、白池地獄、
 
の5つが鉄輪(かんなわ)温泉のすぐ近くにあるのである。この5つを歩いて巡る観光客も多い。
 
私たちは旅館のワゴン車でいちばん遠くにある海地獄の近くまで連れて行ってもらい、それから少しずつ戻りながら見学していった。
 
海地獄はコバルトブルーのきれいな地獄である。涼しげな色だが温度は98度という。
 
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「FeSO4だな」
と桃香が言っている。そういえば遙か昔、化学の時間に習ったような気がするが、もうどういう化合物の色がどうだという対応は完璧に忘れている。
 
「入浴剤にもこういう色のがよくあるよね」
と政子は言っている。
 
実際に入浴剤も売っていたので政子が買っていた。桃香は私たちが海地獄を見ている所をずっと撮影してくれたが、この入浴剤を買う所もまた撮影していた。
 

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夏の日の想い出・つながり(10)

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