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■夏の日の想い出・つながり(23)

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8月19日(日).
 
信次さんの四十九日の法要が行われたので、私と政子は千葉の川島さんの家に行き、法要に出席した。今回出席したのは、康子さん・千里・太一さん夫妻と生まれたばかりの翔和君、康子さんのお兄さんの小林成政さん、康子さんの亡夫の弟(信次の叔父)川島義崇さんといった親族7人と、千里の友人として桃香と青葉、私と政子、小夜子とあきら、淳と和実、それに千里のマネージャー天野貴子さんの9人で合計16名である。
 
千里を見た感じは、お葬式の時に比べるとかなりマシになっていて、私たちが行くと
 
「来てくれてありがとうね」
と言って涙を流していたので、私も政子も千里をハグして
「少しずつでもいいから元気を出してね」
と言った。
 
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やはり本当に少しずつであるが、回復してきているようである。
 

四十九日の法要が終わった後、川島宅に残った桃香を除いたクロスロードのメンツ7人でお茶を飲んだ。
 
「淳さんは、お仕事の方はちゃんと片付きそう?」
「うん。システムは安定していて、今はずっとドキュメントの整理をしているんだよ」
「だったら、予定通り性転換手術受けられそう?」
「それもうドキドキしていて・・・」
 
「逃げるなら今だよ」
とあきらが言う。あきらも実は年末に性転換手術を受けることにしている。それでクロスロードのオリジナルメンバーは全員女性になってしまう。
 
「逃げたい気分半分だけど、逃げたら女になるチャンスはもう無いだろうから頑張る」
と淳は言っている。
 
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「あとわずかの命になった、おちんちんを可愛がってあげよう」
と政子は言っているが
「実はここの所、毎日のようにしている」
などと淳。
「セックス?」
と訊くと首を振る。
「じゃオナニー?」
と訊くと、恥ずかしそうに頷く。
 
「まるで乙女のような恥ずかしがり方だ」
「40歳にもなって、オナニーくらいで恥ずかしがることないのに」
「さすがにまだ40歳ではない」
「まあ40歳前に女になることができてよかったね」
「女の子と呼ばれる年齢で女になることができなかったことは残念だけどね」
 

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けっこうみんなで淳をからかっていたのだが、青葉が沈んだ雰囲気なのが気になった。
 
「青葉、どうかしたの?」
と私が訊くと、本人は
「あ、えっと・・・」
と言って、何かためらっているような表情。
 
すると和実が言った。
 
「青葉は、彪志君と破局したらしいんだよ」
「うっそー!?」
 
「別れたことは認める」
と青葉は言う。
 
「なんでまた?」
「うん。ちょっと・・・」
 
「言っていいかな?」
と言って和実が説明してくれた。
 
「彪志君にお見合いの話があったらしいんだよ。彪志君のお母さんが持ち込んできた」
「なぜそんなことを?」
「もちろん彪志君は断った」
「だろうね」
 
「ところがその話を聞いた青葉はせっかくお見合いの話があるんなら受ければいいのにと言ったらしい」
「なぜ?」
 
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「私が悪かったんだよ」
と青葉は言っている。
 
「それで彪志君と言い争いになってしまったらしくて」
「え〜?」
「それで青葉は、子供の産めない私なんかより、ちゃんと産める天然女性と結婚すればいいじゃんとか言って、すると彪志君も怒って、だったらそういう人と結婚して子供8人くらい作るよとか言って」
 
「ああ」
 
「それで結局喧嘩別れ」
と和実は渋い顔で言っている。
 
「青葉、それ彪志君も一時的に怒っただけのことだよ。きっと青葉のことをまだ好きだから、喧嘩したことを謝りに行っておいでよ」
と私は言った。
 
「別にあいつと話すことなんか無い」
と青葉は言っている。
 
「そんな意地張ってたら絶対後悔するよ、と私も言ったんだけどね」
と和実も困ったような顔で言っている。
 
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「私は結婚する資格の無い女なんだよ。だからずっと一人で生きていくし、それで平気だから」
と青葉は言うものの、その目には涙が浮かんでいた。
 

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私はその夜再度青葉に電話を掛けて話し合ったのだが、青葉は泣いていた。
 
「だって千里姉の2番さんはずっと貴司さんと恋仲なのに結婚できずにいて、その間貴司さんは2度も他の天然女性と結婚しているし、1番さんはせっかく男の人と結婚したのに亡くなってしまうし、私たちみたいな種族は幸せな結婚はできないんじゃないかと思って」
と彼女は涙声で語った。
 
「そんなことはないよ。私も正望と婚約したし、ほら、チェリーツインの桃川春美さんは紆余曲折あったけど、ちゃんと男の人と結婚したじゃん」
 
「あっ・・・」
 
「自信を持ちなよ。過去に男の子だったなんて関係無い。今青葉は女の子なんだから、ちゃんと男の人と結婚する資格があるよ」
 
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「そうですね・・・」
「だから彪志君に会いに行ってみなよ。彼はきっと青葉のことを待ってるよ」
 
「すみません。もう少し考えてみます」
「うん」
 

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四十九日法要から一週間も経たない、8月25日(土).
 
この日の午前中、私はローキューツの秋から冬にかけての大会スケジュールの確認や費用概算について、キャプテンの原口揚羽と打ち合わせた。私が忙しいので彼女に恵比寿のマンションまで来てもらい打ち合わせる。
 
「まあ強敵は多いけど、何とか上まで行きたいね」
 
「地域リーグも昔からの強豪、レピス、湘南自動車、BC運輸、千女会といったところと新興のKL銀行、江戸娘、40 minutes、ローキューツの4者との激しい争いになって、結局この8者で一部リーグという線に落ち着きましたからね」
 
「今年は赤城鐵道、MS銀行、NF商事、東女会といった所が涙を呑んだね」
「そのあたりが当然2部上位になって入れ替え戦に出てくると思いますから、こちらも絶対負けられませんよ」
「なんか物凄くハイレベルになっている」
「KL銀行と40 minutesはさっさとWリーグに昇格して欲しいんですけどね。だってWリーグの下位チームより明らかに強いですよ」
 
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「その意見、江戸娘の青山さんからも聞いた」
「あはは」
 
江戸娘のオーナーは現在政子なのだが、政子の性格で実際のオーナーの業務ができるはずもなく、政子は結局お金を出すだけで、実際の業務はほぼ全て私が代行している。
 

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「そういえば昨日、うちの千城台体育館に千里さんが来たんですよ」
「え!?」
 
「しばらくバスケから離れていたんで少しここで練習させてくれと言って」
「へー!」
 
「ワールドカップ前の合宿で激しい練習やってんじゃないかと思ってたんで、何を言っているんだろう?と思ったんですが、手合わせしたら、ほんとになまっている感じだったんですよ。1on1で私が半分勝てましたから」
 
「ふーん・・・」
 
揚羽がマッチングをして半分くらい勝つというのは間違い無く千里1だと思った。千里2でも千里3でも、100%揚羽には勝てるはずである。しかし半分勝てるというのは、少なくとも数日前に見た千里1とは全然違うと私は思った。あの千里ならたぶん全敗だ。
 
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「千里、元気そうだった?」
「時折、ボーっとしている感じの時もあるんですが、気合いが入るとやはり気迫が違うんですよ。でもどうも身体が思うように動かないみたいで、結構首をひねってました」
 
「その時居たのは、揚羽ちゃんだけ?」
「私と紫(揚羽の妹)だけです」
 
「もしまた来たら、相手をしてあげて。でもこの件はあまり人には言わないようにして」
「はい、でもどうしたんでしょうね。ホントに調子悪そうだった」
 
「他の人には漏らさないで欲しいんだけど、千里は昨年夏くらいから二重人格状態になっているんだよ」
 
「え!?そうだったんですか?」
「片方はもちろん世界のトップレベルなんだけど、片方はプロの二軍レベル」
「なるほど〜!」
 
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「実は結婚して主婦していたのも、そちらの千里で、世界大会に出て活躍している方の千里は自分が結婚したことも知らない」
 
「うっそー!?」
 
「このことは、千里の周辺のごく少数の人だけが知っているんだけど、そういうわけで、千里と会った時は、どちらの千里かによって話を合わせてあげて。多分どっちの千里なのかは見ただけで分かると思う」
 
「はい。多分私も分かると思います。それで昨日のことが納得行きました」
 

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それで揚羽は帰ったのだが、彼女の話からすると千里1はかなり回復している気がする。いったい何があって急にそんなに状態が改善されたのだろう。
 
私は彼女に会いに行ってみようと思った。千里1はまだ千葉にいるはずなので、政子のリーフを借りて、千葉まで行ってみる(エルグランドは川崎ゆりこが借りだしていた)。
 
「こんにちは、千里いる?」
「あ、冬、おはよう!」
と言う千里1の表情は、かなり活き活きしている。日曜日に見たのとは全く違う。
 
「だいぶ元気になったみたい」
「うん。少し元気になった」
と本人も言っている。
 
それであがって持参のケーキを出し、千里が入れてくれたお茶を飲みながら少し話した。康子さんは外出中ということだった。
 
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「私の作曲が停まっててごめんね〜。少しは貢献しなきゃと思って少しピアノ弾いたりもしてみるんだけど、なーんにも思いつかないんだよね」
 
「まあ今回のことはショックだったろうから今は仕方ないよ。無理せず少しずつ精神力を回復させていけばいいと思う」
 
「ありがとう。バスケも少し練習しなきゃと思って、先日はローキューツの体育館に行ってみたんだけど、ちょうど居合わせた揚羽と勝負してみたら半分しか勝てなかった。かなり実力が落ちているみたい」
 
「練習していれば回復するよ」
「うん。そう思って取り敢えず毎日4km走ることにした。実はまだ10km走る自信がなくて」
「最初はそのくらいから始めればいいよ。深川アリーナにも来ればいいのに。ここから深川はわりと近いし」
「いや、あそこで40 minutesやジョイフルゴールドのメンバーと顔合わせたらとても恥ずかしいプレイしかできないと思う。だからもう少し自分を鍛えないといけない」
 
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「でも強い人と練習しないと伸びないよ。そうだ。ちょっと待って」
 
私は時計を見る。現在14時。アメリカは午前1時である。千里2はまだ起きていると思った。それでいったん部屋の外に出て、彼女に電話する。
 
「え!?そんなに回復しているの?」
と千里2は驚いていた。
 
「うん。かなり元気になってるよ。まだ作曲は無理っぽいし、揚羽ちゃんと1on1やって半分くらいしか勝てなかったらしいけど」
 
「そのくらいまで回復してるなら、いい練習パートナーを行かせるよ。南野鈴子(みなみのすずこ)さんという人から連絡させるから。実はローキューツのOGなんだよ。千里とは入れ違いになっていて知らないだろうけど」
「分かった」
 
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それで千里2との電話を切った後で、
「南野鈴子(みなみのすずこ)さんというローキューツのOGさんがしばらく練習パートナーを務めてくれるって」
「その人知らない」
と千里1は首を傾げて言う。
 
「うん。千里とは入れ違いになったから、千里は彼女のこと知らないはずと言っていた。短期間の在籍だったらしいし」
「へー」
 
「練習場所も2人だけでできる所を確保するからと言っていたよ」
「凄い。あ、でも場所代は?」
「2人分の年間パス代だけ払ってって」
「分かった。だったら、新しいバッシュとボールとか買おうかな」
「ああ、いいんじゃない」
 
千里とは1時間ほど話したが、この様子だと多分数ヶ月以内に千里1は復活すると感じた。霊感はまだ喪失したままのようであるが、おそらく体力が回復すれば霊感も戻ってくるのではと私は思った。
 
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夏の日の想い出・つながり(23)

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