広告:放浪息子(1)-BEAM-COMIX-志村貴子
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■春銅(23)

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恵馬は“仮名A”さんの運転する物凄く格好良いフェラーリの助手席に乗ると新宿に戻る。10分200円なんていう駐車場に駐める。料金高ぁと思ったが、お金持ちだから気にしないのだろう。お屋敷も立派だったし、この車とか、5000-6000万はするのではという気がする。
 
ちょっと怖いけど、車を降りる。そして駐車場の外に出る。
 
夏の熱い風がスカートの中に吹き込んでくるのが心地いい。
 
これって女の子だけが得られる快感かもという気がした。
 
人がたくさん歩いてる。
 
恥ずかしー!
 
ひとりだったらどこかに逃げ出したい気分だけど、Aさんと一緒だから何とかなる感じだ。
 
「マスクしてたら顔なんてよく分からないから大丈夫だよ」
「あ、そうですよね!」
 
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「だけどあんた、スカート穿いたの初めてではないね」
「え?」
「だって転ばないもん」
「あ」
 
そういえば、ずっと昔、本当に初めてスカートを穿いてみた時は、いきなり転んだんだったと、思い出した。
 
「これからはスカートが普通になるからね。もうズボンなんて穿かなくていいから」
「・・・・・」
 
よく行く楽器屋さんに入る。店員さん、ボクの顔を覚えてて変に思わないかなあと不安があったが、特に何も言われない。フルートのクリーニングペーパーを買った。“仮名A”さんもクリーニングペーパーを買っている。
 
「Aさんも管楽器するんですか?」
「うん。フルートとかサックスとかね」
「へー」
「そうだ。来週は自分のフルート持っておいでよ。良かったら演奏見てあげるよ」
「ありがとうございます。お願いします」
 
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でも来週も会うんだっけ?
 
その後一緒にHMVに行き。“仮名A”さんはフィオナ・アップルとかいう外人女性歌手?のCDを買っていた。
 
「あんたも何か買いなさいよ。おごってあげるから」
「そうですか?」
と言って、恵馬はHey! Say! JUMPのCDを選んだ。
 
「ジャニーズ好き?」
「好きです。キンプリもスノーマンも好きです」
「女の子アイドルとかは聴かない?」
「あまり聴かないなあ。下手糞な子ばっかりだし。アクアくらいかなあ。あの子は割とうまいから」
「アクアは男の子だけど」
「え?冗談でしょ?」
と恵馬が言うと、“仮名A”さんは、なんか苦しそうにしていた。
 
どうしたんだろう?と恵馬は思った。
 
女の子アイドルにそもそも興味無いからフォローしてなかったけど、カナダで撮影した水着写真集出るとかで(よくこの時世にカナダに渡航できたものだ)、ビキニを着た写真のCMとか流れてたし。女の子だよね?ね?男の子がビキニ着る訳ないもん。いくつか聞いた歌の声も女の子の声だったし。
 
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駐車場に戻る。
 
「君の家近くまで送っていくよ」
「え?でもボク、こんな格好なのに」
「自宅前でなくても、近くでいいよ」
「あのぉ、男の子の服に戻るという訳には?」
「君は女の子なんだから、ずっと女の子の服を着てればいいんだよ」
 
つまり男の子の服は返してもらえない訳か。だったら自宅で着替えるしかない。でもこの人に自宅の場所までは教えたくない。としたら、近くで降ろしてもらうしかない。
 
「だったら**の駅前で」
「OKOK。じゃ来週は##の駅前で」
 
恵馬は返事をしなかった。ボク来週そこに行くのかなあ。自分でも分からなかった。
 

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指定した駅前で降ろしてもらう。
 
「そうそう。ブラウス何枚かあげるから、ボタン留める練習しなよ」
と言って紙袋をもらった。
 
「ありがとうございます」
と御礼を言って、車から降りる。
 
「あ、これもあげるよ。メイクを落とすのに必要」
と言ってクレンジングペーパーをもらった。
「ありがとうございます!助かります」
 
知り合いに会いませんようにと祈りながら自宅まで戻る。玄関は鍵が掛かっているので自分の鍵で開ける。誰もいませんようにと祈りながら中に入った。
 
「あら、お帰り」
と母が言った。
 
恵馬は目の前が真っ白になる気分だった。
 

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千里は桶川に行った翌日(8/14),
 
「そちらに置きっぱなしにしていた和服を引き上げますね」
と康子に連絡した。
 
この日は軽トラを運転して千葉に行き、2階の押し入れに入れっぱなしにしていた、和服衣装ケースを軽トラの荷台に積み込み、落ちないようにロープを掛け、浦和のマンションに持ち帰った。
 

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8月19日(木).
 
西湖が住んでいたアパートの場所に建築中だったマンションが竣工した。ここの一部を§§ミュージックに男子寮として貸すことにしていたので、コスモス・ケイと一緒に見に行ったのだが、コスモスはここが気に入り、結局このマンション全体(6階と地下の西湖が使用するピアノ練習室を除く)を§§ミュージックの男子寮にすることになった。
 
「葉月(西湖)も“元男子”だし」
などとコスモスは言っていた。
 
あの子、もう男の子には戻れないよなあと千里も思った。今更実は男でした、なんて言ったら、同級生女子や散々共演して楽屋を共用していた女優さんに殺されるよ。
 
早速この日ここに引っ越して来た寮生も数人居たが、スカート穿いてる子もいるし、どう見ても既に睾丸の無い子もいて
 
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「やはり男子寮というより男の娘寮では?」
と言ったら、川崎ゆりこもそんなこと言っていたらしい。
 

この寮の管理人兼料理係として門脇真悠の御両親と“妹”の瀬那が、一時的に同居していた赤羽の瀬那のマンションから引っ越してきた。門脇さん一家は、引越の荷物を積んだ2トントラックが待機していて、物件を播磨工務店からフェニックストラインに引き渡し、鍵類を千里がコスモスに渡し、コスモスが管理人室・調理室・キュアルームの鍵とマスターキーを門脇さんに渡すとすぐに、トラックから部屋に荷物を搬入し始めた。
 
その後注文していた調理用品やお米・お肉・野菜・調味料、食器類などもだいたい午前中には届き、門脇さん夫婦、瀬那、それに朝一番に入寮してきて、その付近に居た篠原倉光と弘原如月(一応男手)も徴用して追加したい食料等の買い出しに行き、オープン当日の夕食から、寮生たちに食事が提供された。
 
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ユキちゃん・ツキちゃんも料理配達係として稼働し始める。ふたりは日中は1階のキュアルームに居て、原則として、朝食をユキちゃん、夕食をツキちゃんが各部屋の前に置き配する。
 
ユキちゃん・ツキちゃんは、各部屋のドア前でピンポンを鳴らし、返事があれば部屋の前に食事の載ったトレイを置く。寮生は彼女たちが部屋の前から移動した後、ドアを開けて料理を受けとるようにして、直接は接触しないようにするルールである。接触はしないものの、室内のボタンを押すとモニターにも映るし、またドアを透過モードに切り替えると、実物大!でユキちゃん・ツキちゃんを見ることもできる(こちらの姿も向こうに見えるから裸や下着姿はNG)。
 
配達時に不在だった場合は、連絡票を入れておくので、それを見て連絡してもらえば持って行く。こうしないと、特に夏は、時間の経った料理を食べて食中毒でも起こしたら大変である。
 
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寮生たちは最初の内、朝夕同じ子が配達してくれているものと思い込んでいたが、キュアルームに行った寮生が2人並んでいるのを見て双子だったことに気づいた。その後、ユキちゃんとツキちゃんの見分け方が、寮生たちの間で話題になることになる。
 
(実は、ユキちゃんは右利き、ツキちゃんは左利きなので、動作を見ると分かる。双子で利き手が違うというのは割とありがちである。利き手の違いに最初に気付いたのは弘原如月であった)
 
お代わりについては、そもそもたくさん食べたい子には、大盛りとかあるいは2〜3人前を配膳しているが、足りなかった場合は呼んでもらえば持って行くし、朝食時、夕食時は、ワゴンにジャーと鍋を載せて、ユキちゃん・ツキちゃんが巡回するので、声を掛ければ新たな器に盛ってまたドア前に置いてくれる(感染拡大防止のため、使用した食器に盛るのは当面禁止にしている)。
 
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食器は御飯茶碗や皿などは有田焼の香蘭社、お椀は山中塗の喜八工房、の製品を使用している。日常的に良いものに触れてセンスを磨いて欲しいということから採用することにした。ちなみに女子寮は同じ有田焼の深川製磁と、根来塗の島安の製品を使用している。ただし、日常的に使うものでもあり、食器を洗うのは食器洗い乾燥機を使用するので、食洗に耐えられるタイプの普及品である。
 
食事後の食器はドア前の食器回収箱に入れておけば、回収してもらえる。これは朝はユキちゃん・ツキちゃんのお友達らしい数人の女子が交替でしてくれていたが、夕飯の分は遅くなることもあり、しばしば瀬那がやっていた。それで瀬那も寮生たちのアイドルとなった。
 
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なお、寮生たちは毎日体温計で体温を計り、配布しているアプリを使って報告することになっている。朝9時までに報告しないと警告音も鳴る。
 
「毎朝体温を計っていれば、排卵期も分かるからいいよね」
などと川崎ゆりこは寮生たちに言っていたが、排卵期のある子がいるのか??
 
ゆりこは全室のトイレに汚物入れまで置いていた。ゆりこは更に「夜中に急に生理になった時のために」と言って、ナプキンの自販機まで設置させた!
 
昼用・夜用・パンティライナーが買えるもので、女子寮には以前から設置されている。そしてこのナプキンの自販機が結構売れていて!毎週補充が必要であった!!
 
ゆりこの“男の娘教育”プロジェクトは順調なようである。
 
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竣工の翌日には木下宏紀も引っ越してきたが、スカートを穿いているので、仲の良い篠原倉光から言われる。
 
「ヒロちゃん、女の子になっちゃうの?」
「違うよー。出がけにどうしてもズボンが見当たらなかったんだよ」
「アクアさんみたいなこと言ってる」
 
「姉貴に捨てられたのかも知れない。後でベルメゾンで頼まなくちゃ」
 
取り敢えず事務所からはお店では買わずにできるだけ通販を使うように言われている。
 
「ベルメゾンなの?それってレディスということは?」
「だってボク、メンズではサイズが合わないもん」
「それもアクアさんみたいなこと言ってる。ちなみに、ヒロちゃん、とうとう睾丸を取ったという噂があるんだけど」
 
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「内緒」
「ふーん」
 
内緒にするというのは、取っちゃったのかなあ。この子いつも女の子ショーツ穿いてるし、ブラジャーもつけてるしなあと思う。だいたい声変わりしてないのではという疑惑がある。喉仏は無いし。
 
篠原が宏紀の引越を手伝ってあげていたら、荷物からポロポロと何かの薬のシートが大量にこぼれ落ちる。
 
「あ、ごめん」
「大丈夫大丈夫」
と言って拾って机の引き出しに放り込んでいる。
 
「何かお薬常用してるの?」
「あ、これはエストロモン(*2)」
 
「女性ホルモン飲んでるんだ!?」
 
(*2)プレマリン(卵胞ホルモン(エストロゲン)製剤)のジェネリック薬品のひとつ。エストロモンと聞いただけで女性ホルモンと分かった倉光もたいがいである。しかもジェネリック薬品の名前なので“普通”の人はそんな名前まで知らない。
 
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「母ちゃんが定期的にボクの机の中に入れてるんだよ。DB-10(*3)も」
 
「プロゲステロンも!それを飲んでるんだ?」
 
(*3) プロベラ(黄体ホルモン製剤)のジェネリック薬品のひとつ。ジェネリック薬品の名前なので“普通”の人は・・・以下同文。
 
「飲まない、飲まない。捨てるのはもったいないから取ってるだけ。クラちゃん飲むならあげるよ」
 
「ボクは女の子になるつもりは無いよ!」
 

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千里は、経堂のアパートに住んでいる鶴野明日香に言った。
 
「そちらのアパートがどうもあまり遠くない内に崩壊しそうでさ」
「実はこないだから、変な揺れとかあって、私も不安に感じていました」
 
「ここからは少し離れた所で、小田急沿線じゃなくと東急沿線になっちゃうけど、用賀駅の近くに新築のマンションがあるからさ、申し訳無いけど、そちらに移動してくれない?」
 
「そちらの広さとお家賃は?」
「2LDKだけど、家賃はここと一緒でいいよ」
「それは素敵ですね」
 
それで明日香は橘ハイツの241号室に引っ越すことになったのである。
 
「鏡はどうしますか?」
「あれは別の所に移動するからそのままにしといて」
「分かりました」
 
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なお、明日香が青葉から借りっぱなしにしているショッキング・ピンク(?)のアクアは、橘ハイツ前面の空きスペース(一応駐車枠を白線で描いて、周囲をフェンスで囲っている)に駐めておいてもらうことにして、入庫口の開閉リモコンを渡した。ここに他に車を駐めるのは現時点では、管理人の門脇さん夫妻、キュアルームの看護師・海老原さん、それに西宮ネオンの3人である。カウンセラーの上野美津穂は、ここと女子寮(研修所)とのシャトルバスでやってくる。
 

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8月20日(木).
 
康子は朝から太一に付き添ってもらって桶川市まで行き、不動産屋さんで書類を確認した上で、マンション代の残金・手数料などを振込で支払った。交換で鍵を受け取る。
 
一方、千里は4トントラックを運転して千葉に行き、予め呼んでいたコシネルズのメンバーの手で、取り敢えず、食器などをダンボールに詰めた上で、洗濯機・冷蔵庫・本棚・タンス・食器棚・仏檀・テレビ・寝具、などの大物をトラックに積み込んだ。みんな腕力があるので、タンスなどは中身を入れたまま運んでしまう。食器をダンボールに詰めたのは輸送中に割れないようにするためである。本棚の本も途中でこぼれないように段ボール詰めしている。
 
「千里さん、これで一度持って行って、他のはまた取りに来たほうがいい」
と王風玲が言うので
 
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「じゃ一度持って行くか」
と言って、桶川の入居予定マンションまで持って行く。途中太一さんから連絡があるので、“第1便”を運搬中と言うと、現地で待ち合わせることにした。
 
「あれ?マンションの前にあったスナックが無くなってる」
と現地で康子さんが言った。
 
向いに2階建ての家があり、1階がスナックだったのが、無くなって更地になっているのである。
 
「どうしたんでしょうね」
と千里はしらばっくれて言う。
 
「スナックとかあったら、カラオケにでも行こうかと思っていたのに残念」
 
「母ちゃん、今の時期はお店で歌うの危ないよ。俺がジョイサウンドを家で使えるように設定してやるから」
 
「そう?じゃ後でお願い」
 
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太一さんが鍵を開け、コシネルズのメンバーが荷物を搬入する。太一の指示で家具などを設置していく。
 
「よし、もう一度行ってこよう」
と言って、コシネルズのメンバーが乗る車と4トントラックで千葉まで戻る。トラックは千里が運転して康子も同乗した。太一は康子に頼まれて買い出しに行った。
 
千葉で残っている荷物をどんどん搬出する。空っぽになった家の中を少し寂しそうに康子は見ていた。エアコン、照明なども取り外す。
 
忘れ物が無いか家中を見てまわり、全員退去する。この時、千里はやっとここに置いていた鏡を持ち出した。
 
ここの襖とか畳とか窓ガラスは播磨工務店の人が再利用したいというので持ち出してもらった。特に畳は昨年の水害の後で入れたもので、かなり新しい。ガラスは実は千里が所有する工場でグラスウールの材料にする魂胆である。解体費用は本来120万円という見積もりだったが、これらを売却することで30万円値引いて90万円ということになっている。
 
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千里と康子は彼らが畳などをトラックに積み込むのを見ていた。そして彼らのトラックが出発し、千里たちも桶川に移動しようかと言っていた時、
 
ガラガラガラと凄い音を立てて、家が崩れてしまったのである。
 
「嘘!?」
 
「まあ2階にいると結構揺れてましたもんね。昨年の水害で傷んでいた分もあるかも知れないし。家を出てからで良かったですね」
 
「ほんとに!」
 
そういう訳で、この後の播磨工務店のお仕事は、瓦礫の片付けになったのであった(基礎のコンクリートを崩す仕事はある)。斫り(はつり)専門の茶組の手で1日で片付けられて更地になった。茶組の別の部隊は昨日には桶川で一仕事している。
 
茶組は特殊な部門で、ほとんどが人間の社員だが、割と粗っぽい人が多い。更生中の元ヤクザや元薬物中毒者なども交じっているが、超人的なパワーを持っている茶組幹部が睨みを利かせているので真面目に仕事をしている。むしろ幹部たちに憧れて「舎弟にしてください」と言って「うちはヤクザじゃねぇよ」と言われた者もいたとか?「夜のお世話します」と言って寝床に侵入してきたので、慌てて(幹部のほうが)逃げ出したこともあったとか!?
 
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千里たちは、桶川に移動し、みんなで荷物を運び込んで、コシネルズのメンバーの手でエアコンや照明を取り付け、テレビアンテナの設置と配線などもしてもらい、その後、太一が買ってきていたお寿司を食べて引越祝いとした。
 

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