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■春銅(6)
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なお、基本的に浦和のマンションにいるのは千里1+3なのだが、この夜は桃香が求めていたので、桃香のことが好きな千里1を分離して、千里3は板橋で寝ている。朝になってまた合体した。
6/9朝、Nが消えていたことで、自分もこういう風に近い内に消えるのだろうとあらためて認識した龍虎Fは、Mには何も告げないままコスモス社長の自宅を訪ね、自分のヌード写真集を撮ってほしいと申し入れた。
6月9日(火)朝、季里子が起きると“桃香”は、自分のそばで寝ていた。
「お疲れ様。帰ってきたのね」
「うん、片付いたよ」
「もう少し寝てて。今朝御飯作るから」
「ありがとう」
それで桃香は7時半まで寝ていた。もう季里子、来紗と伊鈴、季里子の両親は朝御飯が終わっている。桃香は季里子が温め直してくれた焼き鮭とお味噌汁を食べると
「じゃ行ってくるけど、入学式の時間帯だけ抜け出して学校に行くから」
と言い、“男性用”のエンジ色のビジネススーツを着て、季里子が作ってくれたお弁当を持ち、塾に出かける。
「学校にもそのスーツで来る?」
「黒いスーツに着替えるよ。黒のは塾に置いてるから」
「分かった」
それで“桃香”は季里子にキスして出かけて行った。
6月9日(火)、千里は朝5時頃に合体して、朝御飯を作った。京平は5時半、彪志は6時に起きてきたので3人で朝御飯を食べる。彪志は7時半に出勤して行った。千里は8時に京平を連れて幼稚園に行くつもりだったのだが、桃香が彪志が出勤して行った直後に起きてきたので
「早いね!」
とマジで驚いて言った。
「ちょっと友人に会ってくるから」
「うん。いってらっしゃーい」
それで桃香も朝食を食べる。その間に京平に幼稚園の制服を着せる。京平は制服の下はズボンだけでなくスカートも買ってもらったのだが、今日は自主的にズボンを穿いた。どうも彪志と一緒に暮らすようになってから“男の手本”が身近に存在することから、少しずつ男の子としての意識が育っているようである。実はこれまで京平にはそういう“手本”になる男性がいなかった。
(阿倍子、千里、女装趣味の晴安といった所。貴司は不在がちだった)
結局桃香は千里たちと一緒に出かけることになった。
「アテンザ借りていい?」
「いいけど、走行不能になるほどには壊さないでね」
「慎重に運転するよ」
と言って、桃香は千里にキスしてから、アテンザを運転してどこかに行ったようである。
千里は京平と一緒に歩いて幼稚園まで行き、幼稚園の先生に京平を託した。京平の幼稚園登校第1日目であった。
優子は結局10時頃起きてきた。
「ごめんなさーい。だいぶ寝過ごした」
「強行軍の疲れが出たんですよ。ゆっくり休んでて下さいね」
「午後から桃香と一緒に織絵(XANFUSの音羽)の所に結婚祝いでも持って行こうかと思って。千里さんも来られます?」
「ああ。一緒に行こうかな。でないと帰りに車を運転する人がいなくなるし」
「あはは。すみませーん」
(織絵、桃香、優子は全員同じ高校の出身で、実は優子も織絵も桃香の元恋人である)
さて、千里のアテンザを借りて浦和を出た桃香だが、千葉市に向かった。途中適当な場所に停めて車内で男性用のブラックスーツに着替える。そして千葉市内のJJ小学校に行く。
校内の指定場所に車を駐めて季里子と連絡を取ってみると、季里子は今、家を出たところだということだった。少し待つと、ピンクのレディススーツを着て可愛い黒のドレスを着た来紗を連れた季里子がやってくる。一緒に入学式会場となる体育館に入るが、昨日の幼稚園と同様に、非接触式の体温計で体温をチェックした上で手をアルコール消毒してから中に入った。
こちらも昨日同様、かなり式次第が簡略化されている。
「これより千葉市立JJ小学校令和2年度入学式を行います」と開会宣言があった後「君が代」を斉唱した録音が流される。“歌わないで下さい”と指示されていたので、全員静かに斉唱を聴いていた。
その後、校長先生が壇上に立ち(生徒の氏名読み上げを省略した上で)「新入生102名の入学を許可する」と宣言した。そのあとお話をするが「いかのおすし」だけ話して、3分でまとめた。
(イカない、ノらない、オおきなこえを出す、スぐにげる、シらせる)
その後、PTA会長のお話があるが、これも「手洗い・うがいの励行、マスクをつける」などの話だけ、3分で終わる。その後、1年生の担任の先生と支援員の先生、保健室の先生が紹介された。各々(ほんとうに)一言ずつのメッセージを述べた。6年生が歓迎のために演奏した鼓笛隊の演奏『一年生になったら』をこれも録音で流す。その後、校歌を、これも録音で流す。
“終わりの言葉”があり、入学式は終了した。全部で40分くらいの式であった。その後、教室に入る。来紗は1年2組になっている。生徒たちと担任の先生だけが教室に入り、保護者は廊下から見守るが、密集回避のため児童1人につき1名までということだったので、季里子に廊下で見ててもらい、桃香は玄関前で待機した。
教室の机はできるだけ間隔を空けて配置されているので、いちはん後の子は壁際ギリギリである。窓は全開である。
各自の机の上には教科書の入った袋が置かれている。
担任の先生からお話があり、簡単な注意事項の後、ひとりずつ指名されては自分の名前を言って、教室での、はじめの会は終わった。
「この後どうする?」
と玄関前で待っていた桃香は、来紗を連れた季里子から訊かれる。
「うん。塾にもどらなきゃ。ごめん、その教科書重そうなのに持ってあげられない」
「大丈夫だよ。私が持って帰るから」
「じゃまた」
と言って、桃香は季里子と別れた。
季里子たちの姿が角を曲がって消えたのを見計らって桃香は学校に戻り、構内に停めていたアテンザに乗ると、浦和に戻った。帰り着いたのがちょうど12時くらいである。何とかどこにもぶつけずに帰れた!と安心していたら、駐車する時うっかり駐車場の後の壁にぶつけてしまう。
しまった!
と思って車を前進させ、降りて車の後にまわってみる。
うん。傷とかは付いてないな、良かった。
と思い、車のエンジンを停める。車内で普段着に着替えた。
桃香がマンションに戻ると、
「お帰り〜。今ちょうどお昼にしようと思ってた所」
ということだった。
それで、千里・優子・桃香の3人で千里が作っていたお昼(鶏の唐揚げとお味噌汁)を食べる。
「結構豪華なお昼だ」
「材料費は3人分で200円くらいだよ」
「そんなに安くできるのか!」
「手間さえ掛ければ、割と安く作れるよね。桃香は無茶苦茶だもん」
と優子。
「私は3人分のお昼を作ろうとしたら2000円くらい使ってしまう」
と桃香。
「桃香は主婦はできないなあ」
と優子。
「まあ桃香は男と同じだね」
と千里まで言っていた。
「うん。そろそろ性転換してもいい頃だ」
と優子からも言われている。
昨年石川県X町で、古い祠を取り壊し、御神木を切ったら、その祟りで作業をした作業員2名と現場監督、廃社の儀式をした神職が急死、取り壊しを決めた町内会長まで責任を感じて自殺した。
その後現場は誰も近づけない状態になり、野良猫や野鳥が死んでいるのがしばしば目撃された。東京から来た風水師さんと霊能者が封印をして、7mくらいまでは近づけるようになった。しかしここに熊が現れて封印を壊し、自らは死亡した。
熊の生死を確認しようとした獣医さんが倒れる(2週間入院)。偶然、現場を取材に行っていた〒〒テレビの神谷内が、金沢ドイル(青葉)を呼び、ドイルは東京の偉いお坊さん(瞬法)とともに現場に急行してここを秘法を使って浄化した(以上世間的な見解:〒〒テレビはこの件に関して沈黙を守っている)。
瞬法の勧めで、伐採した御神木を使って新しい祠を建て、現場に再設置した。この祠を組み立てたのは、亡くなった神職の息子と町内会長の息子の2人である。
神職の息子は亡くなった父の後を継いで神職になることを決意。会社を辞めて、神道の勉強をした(最初は古事記も読んだことが無かったし、天照大御神と須佐之男神が姉弟ということも知らなかった)上で、今年2-3月に皇學館大学の集中講座を受け、神職の中で一番下の資格である直階を取得した。
↓神職の資格
直階:一般神社の禰宜・権禰宜になるための資格
権正階:一般神社の宮司・宮司代務者、別表神社の権禰宜になるための資格。
正階:別表神社の禰宜・宮司代務者になるための資格。
明階:別表神社の宮司・権宮司になるための資格。
浄階:長年神道の研究に貢献した者に与えられる名誉階位。
そして彼は今年6月、父親が宮司をしていたX神社の権禰宜(ごんねぎ)に任命されたのである。
「ああ、宮司は他の方がなさっているんですね」
ご挨拶したいと言って、〒〒テレビを訪ねてきた町子栄宝さんに青葉は明るく答えた。
「はい、普段は大して参拝者もいない小さな神社ですが、それでも宮司を空席にする訳にはいかないので、神社庁の指示で、兼任なのですが、金沢市のD神社の宮司さんに、こちらの宮司も兼ねて頂いていたんですよ」
「なるほど」
「私は神社とか継ぎたくなかったから、東京の普通の大学に進学して、そのまま向こうに居座って就職していたのですが、父の死で神社関係と切れてしまうのもしのびない気がして、母親からも泣きつかれて。それで会社辞めて地元に戻って、少し神社とか神道のこと勉強して、取り敢えず伊勢に行って集中講座を受けて直階を頂いたんですよ」
なんか文章の長い人だなと青葉は思った。
「それで権禰宜になられたんですね」
「はい。でも直階では宮司になれないので、4月から大阪國學院の通信講座を受けています」
「あれは2年間でしたっけ?」
「はい。ゼロから始める場合は2年なんですが、直階を持っていたら1年なんですよ」
「ああ、そうでしたっけ」
大阪國學院の神職養成通信講座を受け(て検定試験に合格す)ると、権正階の資格が取れるので一般神社の宮司になることができる。ただしこの通信講座は基本的に、彼のように急に神社の跡取りになることになった人向けのもので一般の人は受講できない。一般の人が神職になりたい場合は、國學院大学か皇學館大学に4年間通うか、神職養成所(山形・宮城・愛知・京都・三重・島根)に2年間通学する必要がある。
「だからこれを卒業できたら来年の3月には宮司の資格が取れます」
「それで宮司に任命される訳ですね」
「それは分かりませんけどね。それに僕は神社の仕事とかしたことなかったから、祝詞をあげるのも下手糞で」
「それは少しずつうまくなっていくと思いますよ」
と青葉は微笑んで言った。
「でも急にこういう精神世界のことに関わることになったせいか、最近よく夢を見ますよ」
と彼は言った。
「へー」
「凄く象徴的な夢が多くて。大半は起きた後には内容を覚えてないんですけどね」
「その手の夢を見る時期ってあるみたいですね」
「でもこの所、繰り返し見る夢がありましてね」
「どんな夢ですか」
「私は道を歩いていて、トンネルとか鍾乳洞とかがあるんですが、そこに入っていくと、細い道が続いているのですが、必ず行き止まりになっていて私は立ち往生してしまうという夢で、あまりにも繰り返し見るものだから、私はひょっとして、宮司の資格を取れないということなのだろうかと不安になってしまって」
青葉は彼の言葉に腕を組んで考え込んだ。
「あと0とか1とかいう数字がたくさん出てくるんですよ」
「0と1?」
「もしかしたら、今の自分は神職としてはゼロで、これから1に進化しなければならないのかもと考えたんですけどね」
「だったらたくさん神事のこととか祝詞の書き方とか勉強すれば、いつか1になるかも知れませんね」
と青葉は言った。
「やはりそうですよね。頑張らなきゃ」
と栄宝さんは言っていたが、青葉は彼の顔に何か暗い影を感じた。
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