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■春銅(19)

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三回忌の行事が終わり波留(+幸祐)も太一も帰った後、片付けものが終わってから、千里は康子に言った。
 
「実は三回忌も終わったので、これをお返ししようと思って」
 
と言って、千里は左手薬指につけていた結婚指輪を外すと、アルコール・ウェットティッシュで拭き、ジュエリーケースに納めてから、バッグから取り出したもうひとつのジュエリーケースとともに、康子に差し出した。
 
康子は黙って受けとった。
 
「桃香さんと結婚するの?」
 
「誰と結婚するかはまだ分かりませんけど、この辺りで区切りを付けた方がいいかなとも思って。信次さんは、波留さんの後(うしろ)に付いてるし」
 
「言ってたね!」
 
「それと籍も抜きたいんですが」
「うん。もちろんいいよ。由美の方は?」
「それは前にも話し合いましたように、川島信次の戸籍に置き去りにします」
「分かった」
 
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実は川島の苗字を名乗る者がいなくなるのが寂しいので、良かったら由美の苗字はそのままにしておいてくれないかと言われていたのである。
 
婚姻により氏を変更していた人(日本では多くの場合女性側)は、離婚した場合には3ヶ月以内に、元の氏に戻るか婚姻中の氏を継続して名乗るか決める必要があるが、死別した場合の復氏届には提出期限が無い。何年経った後にでも提出することができる。ただし復氏届は本人だけに適用されるため、一般的には子供はあらためて(裁判所の認可を受けた上で)入籍届を出して母親の新戸籍に移動して同じ氏に変更する。千里はこの手続きをせずに、由美を川島信次の戸籍に置き去りにして、川島由美のままにするつもりなのである。むろん戸籍が分かれていても、由美の親権は千里が持つ。
 
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恵馬は、起きるように言われたのでベッド(手術台?)から起きて立ち上がった。
 
キャミソールを渡されたので自分で着た。
 
ボク、こんな服を着ていいのかなあ、と背徳的な思いが込み上げてきて、それが更にドキドキさせる。ナイロンの肌触りが、これって本当は女の子だけに許されるものなのにという思いを引き起こし、更に悪いことしているような気分にさせる。
 
可愛いチェックのプリーツスカートを渡されるので穿く。ホックを留めてファスナーを上げる。
 
スカート穿くなんて、本当に女の子になったみたい!
 
ブラウスを渡されたが、ボタンをうまくはめられない。それでこれは填めてもらった。
 
「これは慣れだから、毎日練習するといいね」
「はい」
 
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「最後にこれかな」
といって上着を渡されるので、それを着る。
 
「鏡を見てごらん」
「可愛い」
 
鏡に映っていたのは、とても可愛い女子高生の姿だった。
 
「君は本当はこういう服を着るべきなんだよ」
と言われる。
 
「いいかも」
と恵馬は陶酔した気分で答えた。
 
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2020年7月4日(土).
 
前日に週刊誌が、AYAのゆみと俳優・高橋和繁の熱愛報道があったのを受けて、この日2人はネットを通して記者会見を行い、交際中であることを認めた。2人はまだ結婚に関する話し合いなどは全然していなかったのだが、会見中にゆみが「指輪をもらったら考えてもいいな」と言った。それで高橋は翌5日(日)、ゆみを誘って銀座のティファニーに行き、1.2カラットのフローレスダイヤモンドを載せたプラチナ(Pt900)の指輪を購入した。それで夕方には帝国ホテルのレストランでコース料理を食べ、そのまま帝国ホテルのスイートルームに泊まった。これで、ゆみ・高橋の2人の間では婚約成立ということにした。
 
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「既に結婚しているのではという説もあるのだけど」
「まあそう遠くない時期に婚姻届を提出するから、時間的誤差の範囲ということで」
 
7月6日の朝、2人は帝国ホテルをチェックアウトすると“いつものように”高橋の実家に赴き、高橋の両親に婚約したことを報告した。実を言うと、数ヶ月前から、ゆみは事実上ここに“住んでいる”のである。たまに荷物を取りに代々木のマンションを訪れているだけである。
 
むろん高橋の両親からは歓迎され、年内にも結婚式を挙げる方向で、各方面との調整をすることにした。(ゆみの両親は既に亡い:結婚式では上島雷太夫妻に親代わりをしてもらう方向で内諾を得ている)
 
ゆみは$$アーツから独立する予定で、前橋社長と条件面の確認をしている最中だったので、この各方面との調整は、独立した後の新会社の専務に就任予定の高崎充子が前橋の承認のもと、作業をしてくれることになった。
 
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7月5日(日).
 
千里は早朝からも早月・由実・奏音の3人を連れ、Gulfstream G450 で羽田空港から能登空港へ飛んだ(京平はお留守番)。実はこの飛行機には、輪島を取材する旅番組に出演するラピスラズリの2人と彼女たちのマネージャー・倉橋も同乗した。
 
由美はラピスラズリ2人のアイドルになっていた!
 
能登空港には、優子がムラーノで迎えに来ていたので、彼女に早月・由美とともに奏音を渡す。奏音は半月ぶりにお母ちゃんに会えて嬉しそうだった。優子はムラーノで早月・由美を桃香の家にポストしてから、奏音と一緒に自宅に戻った。
 
ラピスラズリはこの日、輪島で朝市、キリコ会館、輪島塗会館、永井豪記念館、を取材した後、輪島市街地近郊にある男女滝(なめたき)までレポートしていたが、男女滝は細い山道を結構走るらしいので、取材は大変だろうなと千里は思った。付近はトイレが無いよというのは、事前にリサーチャーの人が確認していたので、2人は市街地でしっかりトイレに行ってから、現地入りしたらしい。
 
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千里は午前中、空港のまわりをジョギングした後、空港の駐車場でドリブルなどして汗を流していた。すると、ちょうど知り合いのJA学園(空港に隣接する。航空機整備士になるコースなどがあり、能登空港を併用している)コーチから声を掛けられ、同校の女子バスケット部を2時間ほど指導することになり、昼食まで頂いてしまった。午後はG450の機内で仮眠した後、空港内のテラスで、のんびりと作曲などしていたのだが、ラピスラズリと倉橋は夕方近くに戻って来た。それでG450はそれから能登を発って羽田に戻ったが、3人とも機内で熟睡していた。
 
今日はかなりハードな取材だったようである。
 
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7月7日(火)、ゆみは荷物を少し取りに代々木のマンションに行ったのだが、エントランスで偶然、アクアと遭遇する。ゆみは、アクアが先月末に水着写真の撮影をしたという噂をある方面から聞いていた。水着写真というのは、きっと女子水着写真だろう。
 
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ゆみは以前、温泉の女湯でアクアと遭遇したことがある。その時アクアは間違い無く女の子だった。ただ、ふつうの17-18歳の女子に比べると身体の発達が遅く、まだ中学生女子くらいの感じに見えた。
 
ゆみは再度アクアの性別を確認しておきたい誘惑にかられた。
 
それで
「取って食ったりはしないよ」
などと言って、婚約指輪をもらったのを見せたいという理由でアクアを自分の部屋に誘った。
 
アクアは普通に女子用ワンピースなどを着ているし、胸の膨らみも服の上から確認できる。やはり高校を卒業して、男子制服とか着なくてもいいので、普通に女物の服を着て出歩いているんだろうなと想像する。
 
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普通にお茶など入れておしゃべりして、相手の警戒心を解いておく。そして
「指輪持ってくるね」
と言って、奥の部屋に入ると全部服を脱いで全裸になってしまう。
 
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そして持ち歩いているバッグから指輪のケースを取り出すと、ケースを手に持ったままリビングに戻った。
 
つまり、奥の部屋に入らなくても、ゆみはバッグの中から指輪を取り出すことができたのである。奥の部屋に入ったのは純粋に服を脱ぐためである。
 
裸で入ってきた自分を見てアクアはギョッとしている。でもその表情は黙殺して
「ほらこれだよ」
と言って指輪を見せ、自分で左手薬指に填める。
 
それでおしゃべりしていると、アクアは逃げたそうな顔をしながらも会話に付き合っている。
 
そしてアクアの隙を見て襲いかかり!アクアの服を脱がせてしまった!
 

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全部衣服を剥ぎ取るつもりだったのだが、アクアはパンティだけ死守した。
 
しかしそこには豊かなバストがあるし、くびれたウェストもある。パンティにはその下に何か突起物があるかのようなしるしも見られない。アクアが女の子であることは確実である。
 
結局、全裸のゆみと、ほぼ裸のアクアで2時間くらいおしゃべりした。この時、ふと思いつき、自分が結婚して正式に高橋の家で暮らすようになった時、ここは退去するので、このマンションを買いとってくれないかとアクアに打診した。アクアはそれも悪くないような感触だった。
 
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2020年7月7日(火)、松江市で旗仲真倫は旗仲佐理との間の娘・花音(かのん)を出産した。
 
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同じ日、大坂の寝屋川市では、藤山渚が藤山竜太の息子・大海(たいかい)を出産した。
 
どちらも元男の娘の出産である。真倫はかなり辛い思いをしたのだが、渚は超安産で、出産直後に、喉が渇いたと言って自販機にジュースを買いに行き、さすがに叱られた。
 
マリナは出産の翌日、渚に電話で
「お疲れ様。そしておめでとう」
と言った。
 
「お見舞いに行けたらいいけど、コロナの折だし、こちらも妊娠中だし」
「うん。無理しないで。出産祝いだけもらえたらいいよ」
「昨日発送したから、今日明日にも届くと思うよ」
「さんきゅ、さんきゅ」
「御祝儀は振り込みしておいた。少額だけど」
「それがいちばん嬉しい。マリナちゃんも出産頑張ってね」
「うん。ありがとう」
 
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風山早太は長距離のトラック運転手である。今年はコロナの影響で2月中旬頃から忙しさがハンパ無いものになり、3月下旬に一度休みをもらって妻の妹の婚約式(実際にはその場で婚姻届を書いたので内輪の披露宴のようなものになった)に出た以外は、ひたすら全国を走り回っている。
 
青森まで荷物を運んだら、「今度はこれを新潟に頼む」と言われ、新潟まで持っていくと「次はこれを高松へ」と言われ、という連続で、休みも無ければ自宅にも全く戻れない生活が続いている。もっとも人間なので、食事も必要だし、お風呂に入ったり睡眠を取ったりもしたい。一応荷物を運んだ拠点拠点で、営業所のお風呂に入ったり、仮眠室で数時間の仮眠を取ることもあるが、すぐにまたトラックを出して荷物を運ぶ。こんなに休めないって違法じゃないのかー?とも思うが、とにかく荷物の量が異様に多くて、完全に人手不足の状態のようである。
 
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7月中旬。
 
早太は久しぶりに川口市の自宅に帰った。5月に一度帰宅してから2ヶ月ぶりである。玄関は鍵が掛かっていた。ピンポンを鳴らしてみるが反応が無い。
 
「買物にでも出てるのかな?」
と思い、自分の鍵でドアを開けて中に入る。
 
取り敢えずトイレに行った後、冷蔵庫に麒麟ラガービールが冷えていたので開けて飲む。それでしばらく待っていたが、妻は戻ってこない。テレビなど見て待っていたのだが、帰って来ないので、早太は妻のスマホに電話してみた。
 
「あ、そうちゃん今日はどこに居るの?」
と妻の明るい声がする。
 
「いや、自宅に戻ってきたんだけど、あゆは買物か何か?」
「ああ、私最近自宅には戻ってないんだよ」
「へ?実家かどこか?」
 
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「いや、コロナの折、あまり通勤電車とか乗りたくないからさ。妹が渋谷区に事務所を借りたから、そこのお留守番を兼ねて、ずっとそちらに居るんだよ。そこからスクーターで会社まで通勤してる。そうちゃんもずっと家に帰ってこないしさ」
 
「俺、腹が減ってるんだけど」
「ごめーん。ピザか何か頼んで」
「え〜〜!?」
 
「だって今から川口まで移動して買物とかまでしてたら2時間はかかるし。その後調理とかしてたら、結局3時間くらい待たせることになるもん。ピザなら30分くらいで配達してくれるよ」
 
「うん。分かった」
 
それで電話を切ったものの、なんか凄く寂しい気がした。
 
せっかく自宅に戻ったのに!
 
結局ピザも注文したが、コンビニに行って、カップ麺とかおにぎりとかチキンとかも買って来た(普段の食生活)。
 
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そして早太が次に休みをもらって戻ってこられたのは9月であった(川口市の自宅ではなく、渋谷区の事務所の場所を訊いてそちらに行った)。
 

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7月17日、Wリーグは今季のレギュラーシーズンの組合せを変更すると発表した。
 
本来は12チームの総当たりでリーグをするのだが、今年は東西6チームずつに分割し、その6チームの総当たり戦で実施することにした。これで移動を減らし、感染リスクを減らすという方針である。
 

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