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■春銅(18)
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それで今日はいい話ができましたと言って、あらためて横居さんと上島が“エア握手”し、上島と愛心が帰ろうとしていた所に、横居さんに緊急連絡が入ったのである。
「え〜〜〜!?東郷先生に断られたんですか!??」
WindFly20のお世話を東郷誠一に頼めると思うと響原部長が言っていたのであてにしていたら、東郷誠一さんは「とても時間が無い」と言って多忙を理由に断られてしまったらしいのである。
横居さんが頭を抱えている。上島と愛心は帰ってもいいはずなのだが、何となく帰りそびれている。
唐突に横居さんが言った。
「上島先生、WindFly20も引き受けてくださったりしませんよね」
「え〜〜〜!??」
上島はさすがにあんな大きな集団の管理は無理と言った。横居さんは、だったら名前だけでも貸してもらえないかと頼む。
それで横居さんと上島は、ローズクォーツのタカを呼び出した!
「え〜〜〜!?ボクにWindFly20の監修をですか?それこないだもお断りしたはずですが」
「楽曲の制作は、松本花子にやらせればいいと思う。日常的な事務はレコード会社にやらせればいい。お金の問題は、○○プロあたりに投げようよ」
「だったら私がするのは?」
「音源制作の監修と、ツアーの統括かな。もっとも今年はツアーはできない。ネットライブはすることになると思うけど」
「うーん」
「もちろん、君だけでやるのは大変だと思う。ヤスさん、サトさんにも分担してもらって」
(マキはあてにされていない)
「うーん・・・」
「ローザ+リリンあたりも使って」
「あ」
「行ける?」
「ローザ+リリンのケイナがわりと使える気がします。あいつ結構規律に厳しいから」
「じゃ使おう」
「じゃそういう体制で管理するということで」
「ありがとう。恩に着るよ」
結局タカは「引き受けます」とか「やります」とか言わないまま、うやむやに押し付けられてしまった!
楽曲提供については、米本愛心がその場で醍醐春海(千里)に連絡して、結局WindFly20用に松本花子のシステムを1台増設してもらえることになった。
実はこの場で松本花子運営チームに唯一直接のコネがあったのが愛心だったのだが、この後、結果的にColdFly5が、WindFly20を事実上監修する形になっていくことにになる。
ColdFly5のベースとなったColdFly20はFly20グループの中でも平均年齢が最も高く、WindFly20は最も平均年齢が若かったので、これはファンの間でも自然なことと受け止められる。結果的に愛心たちは、WindFly20のプロデュース料や提供した楽曲の印税で潤っていくようになるのである。コロナ収束後は、同じ会場を同日に連続して使う“二毛作ツアー”なども行うことになる。これは客層が違うので成り立つのである。昼間にWindFly20のライブをして、中高生を集め、夕方からはColdFly5のライブをして大人のファンを熱狂させるのである。
またローザ+リリンもWindFly20の子たちに“お姉さん格”として親しまれ、彼女たちもWindFly20の売上で潤っていくことになる。ケイナもマリナもWindFly20の子たちから、人生相談までされていた。
ともかくもWindFly20については、上島雷太が名目上のプロデューサーとなり、制作を管理するディレクター格としてローザ+リリンを含むローズクォーツが担当し、実務的な作業はレコード会社のスタッフがすることにした。楽曲は松本花子を使う。事務所は上島が浦中副社長に電話して、○○プロが引き受けてくれることになった。
そういう訳で、上島はWindFly20, ColdFly4 の両方に関わることになったが、ひとりで2つに関わることになると、まるで横居さんの継承者が上島さんのように見えるかも知れないというので(本当に)プロデュースするColdFly4の方は、ワンティスの盟友・三宅行来(雨宮先生の妻:事実上の夫)に電話して名前を借りることになった。それで14日の月村山斗の引退発表では、WindFly20を上島が、ColdFly5を三宅が担当すると発表されることになる。(実際には三宅は何もしない)
ColdFly4のつもりがColdFly5になったのは、このような事情である。
ColdFly4のメンバーは、翌日、7月12日に♪♪ハウスを訪れ、愛心が書いて、上島雷太に添削してもらったデビュー予定曲『レーザーハート』を演奏披露したのだが、白河社長は腕を組んで難しい顔をした。
「ドラムスが悪い」
とハッキリ言う。
リアが顔面蒼白になる。私クビ?と思った。
「君、あまりドラムスやったことなかったでしょ?」
「はい。兄のドラムスセットを勝手に叩いていたりはしたんですが」
「それに君、腕が細いよね。腕力がないせいか、楽曲が進むにつれて微妙にテンポが落ちていくんだよ。これではライブとかでも、最後まで演奏できないよ」
「少しテンポが落ちていくなというのは感じてた。でも腕力鍛えれば何とかなるかなと思ったんですけどね」
と上島も言う。
他の子の顔を見ると、愛心だけはテンポが落ちていく問題に気付いていたようだが、友利恵と鈴美は気付いていなかったようである。
「君は他の楽器に移った方が良い。このバンドはリスムギターが居ないからリズムギターに回らない?君のリズム感では、ドラムスは厳しいけど、リズムギターならまだ使える気がするよ」
と白河社長は言った。
どうやらクビという訳ではないようだというので、リアは少しホッとした。
「分かりました。ギターで頑張ります」
「じゃドラムスはどうしようか?」
と上島さんが言う。
その時、鈴美が言った。
「上島先生、扇歌が使えませんか?」
(鈴美は父親ではあるが、人前なので「上島先生」と呼んでいる)
「ああ。あの子は行けるかも」
と上島は言った。
「“おうか”って誰?」
と友利恵か訊くが、愛心は知っていた。
「鈴美のお姉ちゃんだよ。歌もわりと上手いし、何よりバスケット部に入っていて、腕力はとってもあると思う。去年は都大会でベスト4まで行ったね」
「なんで愛心ちゃん、そんなことまで知ってるの〜?」
と鈴美のほうが呆れている。
(愛心の情報源は実は姫路スピカ。スピカは情報通だが、時々誤情報も混じるのが玉に瑕?)
「姉は友人のバンドでドラムス打ってるんです」
「それは期待できるかも。じゃ、その子を呼んでもらえる?」
と白河社長が言う。
それで上島は長女の木原扇歌の母親・本山たつこに電話し、扇歌を呼び出した。扇歌は自宅にいたが、1時間ほどでやってきた。
譜面を見る。
「ちょっと練習させて」
と言って譜面を見ながら叩いていたが、白河社長が頷いていた。
「合わせてみよう」
「リアちゃんはメインボーカル歌って。私はキーボードに専念する」
と愛心。
「了解」
それで『レーザーハート』をこういう構成で演奏したのである。
Vo.栗原リア, KB.米本愛心, Gt/Vocal.田倉友利恵, B.花咲鈴美, Dr.木原扇歌
白河社長が拍手した。
「ColdFly5のデビュー決定だな」
"ColdFly5"という名前は、この時、白河社長の口から初めて出たのである。この名前は横居さんにも承認され、彼女たちは ColdFly5 の名前でデビューすることになった。
7月14日(この翌々日である)の月村さんの引退発表直前まで水面下では、このようなドタバタが起きていたのである。
なおColdFly5の音源制作は上島監修のもと、このような構成で行った。
KB/Vocal.米本愛心, Gt1/Vocal.田倉友利恵, Gt2/KB.栗原リア B.花咲鈴美, Dr.木原扇歌
栗原リアは実はエレクトーンの6級を持っており、キーボードもかなり上手いので、音源制作では管楽器や弦楽器の代行をしてもらっている。高いテクを持っているので、本当にトロンボーンやホルン、チェロなどを演奏しているかのような音をキーボードで出すことができた。
その後、ライブでは割とこういう構成で演奏することも多くなる。
Vocal/Gt2.米本愛心, Gt1/Vocal.田倉友利恵, KB.栗原リア B.花咲鈴美, Dr.木原扇歌
愛心はキーボードが最も得意だが、ヴァイオリンやギター、サックスなど、かなり多くの楽器を演奏することができる。発売された音源に入っている、ヴァイオリン・サックス・フルートなどの音はたいてい愛心が演奏している。
なおバンドのドラムセットは経済的に余裕のある愛心(実は紅型明美の“一部”なので印税収入がわりと凄い)が買って扇歌に貸与する形にした。
しかし、愛心は元々§§プロの所属だったので、♪♪ハウスに所属するのは事実上の“出戻り”の形になった。
(2020年)7月4日(土)、千葉の川島家では、信次の三回忌を行った。
この日の早朝、季里子!がセレナを運転して、早月・由美・奏音を連れてきた(桃香は助手席)。ただし桃香も季里子も仕事があるので、子供たちを置いて帰ることにする。
「季里子さん、セレナは帰りに私が子供たちを運ぶのに使いたいから、代わりに私のアテンザで勤務先に行ってくれる?後で回収に行くから」
「OKOK」
「それと桃香、後でちょっと頼みたいことがあるのよ。来月くらいになると思うけど連絡していい?」
「じゃメールして」
「うん」
それで三回忌に出席したのは、康子、千里・早月・由美・奏音、太一、波留と幸祐の8人である。(京平はお留守番)
お坊さんに来てもらって仏檀の前でお経をあげてもらい、その後、8人でお墓にも行ってお参りする。その後、また川島家に戻り、仕出しを一緒に食べた。
幸祐と由美はなんか仲良くしていた。幸祐の方が弟なのだが、雰囲気的には幸祐がお兄さんで由美が妹みたいな感じだった。幸祐は4月1日生なので“早生まれ”になり、1月4日生の由美と同じ学年になる。
この場で、早月を信次の子供ということにしちゃおうという康子の計画が語られるが、太一が「この際、それでもいい。信次の子供はあと5〜6人増えてもいい」と言い、波留も了承した。
なお、信次の遺産については、千里・由美・幸祐・太一が相続放棄しており、康子が単独で相続した。ムラーノについてはあらためて康子が優子に譲った形にしたのだが、長年乗った車なので査定ゼロで贈与税などは発生しなかった。
将来康子が亡くなった場合、由美・幸祐には相続放棄させると、千里も波留も言っている。また早月に関しても信次との親子関係が認定されても康子の遺産相続は放棄させると桃香が言っているので、その場合は太一が単独で相続することになる。
太一からは亜矢芽の再婚と妊娠も報告された。
「その妊娠中の子供も康子さんの相続人になるんだっけ?」
「いや俺とは全く関係無いから相続権も無いよ」
「なんか家族関係が複雑すぎてよく分からない」
「元々の川島家が複雑怪奇だからねぇ」
太一は戸籍上は、前妻さんが産んだ子供ということになっているが、本当は康子の親友(康子の亡夫の愛人だった)が別の男性との間に作った子なので、太一は康子と血縁が無いのだが、康子が亡夫と再婚した時に康子の養子にしているため、法的には親子関係がある。信次も前妻さんが産んだことになっていて、法的には康子が養子にしているが、実は康子の実子。川島家は、太一・信次の2人ともが“藁の上からの養子”なのである。前妻さんは2人の子供を産んだことになっているものの、実は自分では1人も産んでいない。
康子が運転免許を取ったこと、またこの家が再開発に引っかかり立ち退くことになったので、康子は生まれ故郷の桶川に引っ越しするつもりであることも報告された。
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