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■春銅(12)

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「しげちゃん!」
とすぐそばで母が声をあげた。
 
「やった!」
と令美が叫び、思わず隣にいた千里と手を取り合って喜ぶ。
 
「ナースコールしましょう」
と千里が言い
 
「はい」
と言って令美がボタンを押す。
 
「どうなさいました?」
「患者が目を覚ましたんです」
「すぐドクターを呼びます」
 
それで佐々木教授が来てくれた。
 
「お名前は言えますか?」
「町子栄宝(ちょうし・しげほ)」
「生年月日と性別は?」
 
「昭和60年12月19日、性別はたぶん男です。“しげほ”という名前を音だけで聞くと、最後が“ほ”なので女性と思われることがあるんですが、中学高校では男子制服を着てましたし」
 
と、今意識を回復したばかりにしては饒舌である。
 
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教授がお母さんを見る。お母さんが頷く。
 
「大丈夫のようですね。少し検査していいですか?」
 

青葉は目が覚めると、練習の疲れが取れてすっきりした気分である。車を降りて駐車場を出、病院内に入る。神谷内さんが居る。
 
「町子さんは目覚めたと思いますよ」
と青葉は言った。
 
「本当?」
 
そこに千里も降りてきた。
 
「町子さんは意識を回復しました」
 
「良かった!」
 
「取り敢えず引き上げましょう」
「そうだね」
 

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兄が検査のためにMRIに行ったのを見送って、令美はベッドを直す。その時、手が何か硬いものに当たった。
 
「あれ?こんなのどこにあったんだろう?」
 
と言って令美が手に取ったのは、白くずっしり重い、金属製の鏡であった。
 

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この日、栄宝は3時間!にわたって検査を受けた。
 
結果は「異常なし!」というものであった。
 
栄宝はそのまま翌日(6/13土)も1日掛けて、あれこれ検査される。しかし何も異常は見つからない。健康そのものである。それで6/15(月)に退院許可が下りた。
 

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栄宝さんの入院している病院から退去した後、神谷内さんと青葉・千里は、結局青葉の自宅に行き、そこで『金沢ドイルの北陸霊界探訪』の9月放送予定分について打ち合わせた。
 
「実際問題として大会とかはいつ頃から再開されるだろうか?」
「分かりませんけど、夏休み中にあまり感染拡大しなかった場合は10月くらいから再開される可能性はありますね。当初は無観客でしょうけど」
 
「それ、運営する側は辛いね」
「そうなんですよ。本来なら入場料で大会費用の一部を回収していたのに」
 
「じゃ、やはり今のうちに9月分の番組は作ってしまおうよ」
 
「それについて、明恵ちゃんが“純粋階段”とか“純粋ドア”の類いを取り上げたらどうだろうかとこないだ言ってましたよ」
と青葉は言う。
 
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「何だったっけ?」
 

「普通、階段というのは、例えば1階から2階に行くためのものですよね。ところが純粋階段というのは、上った先に何もなくて空中に歩み出すしか無かったり、或いは先が壁になっていてどこにも行けないようなものなんですよ」
 
「それって改築でその先が無くなっちゃったんだ?」
 
「たいていそうです。純粋ドアというのは、2階にドアがあるのだけど、そのドアを出た所から先に廊下も階段も無いというものですね」
 
「純粋階段の逆だね」
 
「あと純粋門というのは、門があって閉められているけど、左右に何も無いので横を通り抜けられるようなものです」
 
「ああ」
 
「純粋トンネルというのもあって、トンネルはあるけど山が無いというもの」
「それも山を崩しちゃったんだ!」
 
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「そしてトンネルだけ残ったものですね。四国のJR牟岐線にある町内トンネルとかは有名です。他にも純粋シャッターとか、純粋坂道とか、純粋エスカレーター、純粋バルコニー、純粋橋とかもありますよ」
 
「面白いかも知れない」
 
「明恵ちゃんと真珠ちゃん、それにミステリー・ハンティング同好会のメンツも動員して、写真を集めさせるといいですよ。写真撮る時は確実に場所も記録しておいて。GPS情報も入れておくといいですね。それで面白そうなのを後でテレビ局で撮影に行けばいいんです。たぶん金沢市内だけでも結構あると思いますよ」
 
「分かった。じゃ明恵ちゃんと話してみるよ」
 
なお、先日撮影した霊界三人娘の“運動会”の様子は、6月26日(金)に放送予定である。
 
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6/15月曜日の夕方、町子栄宝さんと令美さん、お母さん、の3人が青葉の自宅を訪問した。
 
「御自宅に押しかけて申し訳ありません。局の方に行くとお仕事の邪魔になるかも知れないと思ったのと、局では、他の方がおられる所では出来ない話もある気がしたものですから」
と令美は言った。
 
「全然構いませんよ」
と青葉は笑顔で言う。
 
栄宝さんのお母さんが
「取り敢えずの御挨拶に」
と言って、中田屋の金鍔(きんつば)を差し出すので、青葉が受けとる。
 
「御礼は改めて致しますので」
「分かりました」
 
なお、早月・由美は桃香が連れて2階に行っている。朋子も紅茶を入れて出しただけで、1階の自分の部屋に引っ込んでいる。青葉と千里だけで話を聞く。
 
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「あれってやはり昨年の呪いがまだ残っていたのでしょうか?」
とお母さんが訊いた。
 
「あれは栄宝さんは認識なさっていると思いますが、呪いとかではないのですよ。神様というのは、祭る以上はきちんとお世話をする必要があります。それがなされていなかったので怒っていた所を、たまたま関わった人に八つ当たりされたようなものなんです。それは私たちが浄化したから、もう問題は無いですよ」
 
「やはり、親父は閉社するのに失敗したんでしょうね」
 
「神上げは、その神社がきちんとメンテされているのが前提なんです。車のエンジンを停めるのに普通はキーを左にひねればいい。お父さんはちゃんとキーをひねった。ただ、その車が暴走中で、それでは停まらなかった。そういう状態でした。お父さんに非は無いです」
 
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「ドイルさんは優しいですね」
と栄宝さんは言った。
 
「4年前とかにお世話をする人がいなくなったことから荒れていたんでしょうかね」
 
「いえ。あれは少なくとも10年以上酷い状態になっていたと思います。ただそれがそのお婆さんがお世話していた頃はその人のお陰でギリギリ持ちこたえていたのだと思います」
 
「じゃ元々何か荒れる原因があった訳ですか」
 

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「ご神体が無くなっていたのが原因だと思います」
と千里が言った。
 
青葉は内心驚いたが、あたかも自分も認識してたような顔をして頷く。
 
「ご神体?」
と令美さんが聞き返した。
 
「町内会の方とかとお話しなさっていません?あの祠には元々ご神体として鏡が納められていたらしいです。ところが祠を解体した時、それらしきものが無かったらしいんですよ。その時は、どこかに移していたのかもなどと言っていたらしいですが。盗難されたのかも知れません」
 
「だったらそれを取り戻さないとまずいですかね」
 
「新たなご神体を納めて、神降ろしすればいいと思いますよ。あの祠はまだ空っぽですから」
 
「空っぽ?」
「何も入っていません」
 
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「え〜〜!?**神社の宮司さんが神降ろししたと聞いていたのに」
 
「1年くらいはとても神様など降ろせなかったと思いますよ。だから事件から1年経った今年7月にあらためて神降ろしの儀式をなさるといいと思います」
 
「では今は空っぽの祠をお祭りしているのでしょうか」
「御神木をお祭りすることになっていると思いますよ」
「ああ」
 

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「そうだ。それでドイルさんのご意見を聞きたかったんです」
と言って栄宝は鞄から1枚の白銅鏡を出した。
 
むろん青葉も千里も最初からそこに鏡があることは気付いていた。
 
「この鏡がですね。いつの間にか私が寝ていた病院のベッドの上にあったんですよ」
 
「それをあの祠に納めればいいと思いますよ。ご神体になりますよ」
「なるほど」
 
「この鏡を栄宝さんに渡すのが、今回の“向こう”の目的だったのかも」
と青葉が言うと
「ああ、そうかも知れません」
と栄宝は言った。
 
「向こうって?」
とお母さんが訊くが、栄宝さんは
「いや、何となく分かる」
と言った。
 
「古い白銅鏡ですね」
 
「白銅ですよね?」
 
「現代の白銅は銅とニッケルの合金なのですが、江戸時代までに白銅といったら銅と錫の合金だったんです。これは古い形式、錫が使われています」
と千里が言った。
 
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青葉は組成までは分からなかったが、千里姉が言うのならそうなのだろうと思い、頷いている。
 
「実は、神具屋さんにも見てもらったのですが、やはりそういう意見でした。たぷん100年は経っていると言われました」
 
「栄宝さん、夢の中で白銅鏡を手に取ったじゃないですか。その夢の中の白銅鏡が出現したんですよ」
 

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「夢の中のものが出てくるなんてことがあるんでしょうか」
 
「ドイルだと日常茶飯事だね」
と千里が言った。
 
「夢の中で手に持っていたボールペンを起きたら本当に持ってたこともあるって言ってたね」
 
「私が特異体質だから、その影響が出たのかも」
と言うと、栄宝さんもお母さんも感心していた。
 
それで今年7月にこの鏡をあそこに納め、鏡の奉納儀式ということにして、実際には神降ろしの儀式をしちゃえばいいですよと青葉は提案した。
 
「みんなが見ている前で鏡を納めたら、また盗まれませんかね」
「こっそり納めればいいですね。私がしましょうか」
「お願いします!」
 
それで今夜!にもこの鏡をX町の祠に納めることにした。今夜やっちゃうというのは、実は千里がいるからである。この作業は青葉にもできないと思った。多分千里姉くらいしかできる人はいないと青葉は思ったのである。
 
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それでその日の深夜。青葉と千里の2人だけで、その祠の所に行った。
 
祠はそもそも昨年千里が指示した形式で作られている。千里はこの祠に外からは見えない空間を作らせていた。そこにこの鏡を納めたのである。
 
『そうやって外せるのか』
『この仕組みを知らない人には外せないけどね。玉依姫神社のお皿だって、あれは青葉にしか外せないようにできている』
『姫様に教えられたんだよ。でもこの仕組みはあれとは違う』
『たぶん幾つかの流儀があるんだろうね』
 
2人は声は出さずに脳内通信だけで会話しながらこの作業をした。
 
作業はほんの10分ほどで行われたので、誰も気付いた人は無かったであろう。
 
真珠に、朝になったらしてほしい作業を言っておいた。地元の人である真珠がその祠の前に居ても誰も変には思わない。
 
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そしてその真珠の作業で、ここの祠のご神体はロックされたのである。ロックを解除しない限り、誰にもこの祠の中のご神体は取り出すことができない。解除できるのは青葉レベル以上の霊能者だけである。
 
そして朝9時すぎ、いつものように栄宝が巡回してきて祝詞をあげる。栄宝も昨日までとここの雰囲気が違うのを感じた。そしてドイルから教えられた祝詞をあげる。実はこの祝詞は、青葉が、立山の長者さんから頂いた巻物に書かれていた祝詞である。
 
そしてこの栄宝が奏上した祝詞で、本当に神降ろしがされたのである。
 
栄宝も確かに何かが降りてきて祠に入ったのを感じた。
 
栄宝は考えていた。
 
父は常々言っていた。神職や巫女に霊感は要らない。そんなものに惑わされず、定められた手順を忠実に守って儀式をおこなうことが大切なのだと。
 
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父の考えはかなり正しいと今の年齢(34)になった栄宝は思う。岡本天明は日月神示の中で書いている。神と名乗るもののほとんどは邪霊であると。似たようなことを寺尾玲子さんも言っている。神というのは普通の人間がアクセスできるものではない。本当の神はよほどのことがない限り、人間には関与しない。ただ俯瞰するのみだ。だから神を名乗る者はほぼ間違いなく低級霊だ。ただ、岡本天明も言っているが、その“本人”は自分が神だと思い込んでいるから面倒なのである。その低級霊は自分がその人を結果的にたぶらかしていることになっていることに気付いていない。
 
霊感のある人はしばしばそういう邪霊に惑わされる。だから変に霊感のある人は神職や巫女としては危険である。ただ、霊感の告げるものを無視すると手痛い目に遭う場合もある。父も儀式をして、きっと何か変だと思ったと思う。しかしその自分の勘より、自分はきちんと定められた通りに儀式を行ったから問題無いはずという理屈の方を信じた。それで命を落とすことになったのではないか、と。
 
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なお、昨日の話し合いで、最初は1周年のお祭りをする時に、普通の“神降ろし”をすればいいと言っていたのだが、みんなが聞いている所ですれば、変に思う人もあるかもということになり、誰も知らないうちに、やっちゃおうということになったのであった。そして深夜遅く、ドイルさんから連絡があり、この祝詞を使って欲しいと言われたので、その祝詞を使用したら、本当に確かに神降ろしができたのであった。
 
地元の人の中にも、祠に“中身”が入ったことに気付いた人がわりと居たようであった。
 
 
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