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■春銅(4)
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ところで、千里たちが2月4日に経堂のアパートから浦和のマンションに引越した結果、経堂のアパートに置かれていた青銅鏡が取り残されることになった。浦和のマンションには“京平自身”が住むのでそこに依代を置くことはできない。それで鏡を敢えて置き去りにし、千里はここの契約を取り敢えずそのまま継続しておいたのである。
するとうまい具合に、青葉の友人・鶴野明日香が、金沢市内で就職するはずだったのが、急に東京本社勤務になったということで、住む所を探しているという話が飛び込んで来た。千里はこれ幸いと、彼女に経堂のアパートに住んでもらうことにした。
ただ問題は経堂のアパートは物凄く安普請なので、あと2年もすれば何もなくても自然崩壊することが予測されていた。万一地震などがあれば即崩壊するだろう。青葉の親友を危険にさらす訳にはいかないので、何とかしなければと千里は考えた。
なお、2月4日に桃香たちが退去してから、4月5日に明日香が入居するまでの間は、暫定的に《げんちゃん》に住んでもらっていた。
「本当は男の娘に住んでもらうのがいいんだけど、げんちゃん女装しない?」
「しないしない。俺は青龍とは違うよ」
「あの子、完全に女装が板に付いてるね」
「もう男に戻れなかったりして」
「性転換したいなら女の子に変えてあげるよと言っているんだけど、嫌だと言っている」
「アクアと同じパターンだな。アクアもあと一押しで性転換に同意する気がするんだけど」
なお明日香は別に男の娘ではなく天然女子だが、適当な男の娘が見つかるまでは仕方ないだろう。
4月頭に発令された緊急事態宣言は2020年5月25日までに全国で解除された。
それを受けて、多くの学校が6月から教室での授業を再開する意向を表明した。
京平が4月から通うことになっていた幼稚園は、6月8日(月)に入園式が行われることになった。千里は桃香に入園式に出席するか問い合わせた。すると桃香はぜひ出たいと言った。早月・由美は、ハード日程になるし感染リスクをおかさせるのもと言って、桃香がひとりで出てくるということだった。また、交通手段だが、結局、優子が自分のムラーノで運んでくれることになった。
今年7月4日には信次の三回忌があるが、コロナのご時世で7月の時点ではまた県境を越える移動が規制されているかも知れないから、移動できるうちに信次の墓参りに来たいということだった。そのついでに桃香も運んでくれるということだったのである。彼女もハードな日程だから奏音は置いて来るということだった。
ところで“桃香”は、1月以来、季里子の家に同居して、千葉県内の塾の講師もしている。季里子の娘・来紗は今年小学校に入学する予定だったのが、コロナの影響で入学式が延期されていた。
それが6月9日(火)にやっと、入学式が行われ、クラスを2分割して1日3時間ずつの授業が開始されることになった。そこで季里子は“桃香”に
「平日だけど、入学式出られる?」
と尋ねた。
「うん。大丈夫だよ。日中はわりと時間が取れるから」
と“桃香”は答えた。
実際には塾も分割授業が行われているため、学生の数に対して多くの講師が必要な状態である。とても数時間職場を抜け出すことはできないし、試用期間中の桃香には休みなど取れなかった。でも“桃香”は何とかなりそうだと考えた。
6月4日(木)、青葉は午前中の放送局での勤務が終わると、自宅で少し休んだ後、夕方から自分の車(March Nismo S)に乗り、東京方面に向かった。
深夜に浦和の千里・彪志・京平が住んでいるマンションに辿り着くと、彪志と一緒の布団に潜り込み(何もしないまま)熟睡した。彪志には「私寝るけど、勝手に“して”いいから」と言ってから眠ったのだが、彪志も青葉が疲れているようなのでキスしてあの付近を手で刺激してあげただけで、青葉が眠ってしまうとそれだけで我慢した。
なお。駐車場は3枠確保していて、ここしばらくはアテンザ・セレナ・彪志のフリードスパイクが駐まっていたのだが、千里は事前にセレナを葛西に移動しておいたので、青葉はその空いている所にマーチを駐めた。
6月5日、青葉は京平に入園祝いのプラレールの車両セット(京平からリクエストされていた新幹線試験車両ALFA-X)を渡してから、朝から§§ミュージックに行き、川崎ゆりこと諸々のことについて打ち合わせる。ここでお昼を頂いた後で、午後からは◇◇テレビに行き、別途移動してきていた金沢〒〒テレビの撮影スタッフとともに今回の取材について確認する。
夕方、ケイさんがラピスラズリの2人を連れてくるのと、途中で合流して、海野博晃さんの御自宅に行き《作曲家アルバム》の取材をした。
海野さんは、いきなり全裸で出て来てラピスの2人が困惑していたが、奥さんの橋本一子さんが出て来て、ちゃんと服を着せてくれたので何とかなった。
取材後は浦和のマンションに戻る。千里が御飯を作ってくれていたので、千里・京平・彪志・青葉の4人で食べる。お風呂に入ってから、この夜は彪志と久しぶりに愛の確認をした。
6月6日は千里は夕方から夜にかけて用事があるということだったが、青羽もこの日はあまり遅くならない予定なので「私が適当に作っておくよ」と言った。
そしてこの日はお昼過ぎから、ケイ・ラピスラズリと一緒に後藤正俊さんの御自宅を訪問して取材をした。後藤さんが硬い人なので、この日の取材は青葉にしても、ラピスラズリや同行してくれているケイも精神的に疲れた。
夕方帰宅すると、京平がひとりでお留守番している。
「おやつ買って来たよ」
と言って12個入りのミニシュークリームのパックを出すと彼は3個だけ食べた。この子、ほんとによく出来ているなと青葉は思う。
シチューっぽい材料が揃えてあったので、青葉は野菜を切り、お肉を解凍してシチューを作った。彪志が20時頃帰宅するので、3人で一緒に食べる。京平は御飯が終わると歯を磨き、21時には寝た。
その後は彪志とイチャイチャしながら千里の帰宅を待つ。千里は0時前にアテンザを運転して帰宅した。
「先に寝てれば良かったのに」
などと千里は言っていたが、シチューを食べて美味しい美味しいと言う。20時にシチューを食べて時間が経って少しお腹が空いていた彪志も一緒にまた食べていた。
「青葉は食べないの?」
「今食べたらカロリーオーバーするからダメ」
と言って青葉は(無糖の)コーヒーだけ飲んでいた。
「青葉、スポーツやる人はたくさん食べなきゃ」
「必要なカロリーは取ってるよぉ」
「まあ太ったら水の抵抗が大きくなるからヤバいよね」
「実はそうなんだよ」
「大変だなあ」
6月6日の(日本時間で)夕方、須佐ミナミは成田に到着した。
LAX 6/05(Fri)12:45 (TG6093 777-300ER) 6/06 16:30 NRT 11'45
機内では雑誌なども全て撤去されていたので暇であった。ひたすら寝ていた。
降機した後、機内で書いておいた質問票を検疫所で提出する。質問票にはこのようなことが書かれていた。
過去14日以内に、下記の流行地域に滞在していましたか?
アイスランド,アイルランド,アゼルバイジャン,アフガニスタン,アメリカ合衆国,(以下略)
氏名・国籍・パスポート番号・性別・生年月日・到着月日・航空便名・座席番号・日本での住所・連絡先
過去14日以内で、発熱やせきなどの症状がある人との接触がありましたか。
過去14日以内に感染した患者と接触していますか。(可能性がありますか。)
過去14日以内で、発熱やせきなどの症状がありましたか。
現在、体調に異状はありますか。(「はい」の場合は↓を回答してください)
症状はどれですか。 A:発熱 B:咳 C:倦怠感 D:その他
解熱剤・かぜ薬・痛み止めなどを使用していますか。
日本での14日間の滞在先はどこですか。 A:自宅 B:ホテル C:その他( )
公共交通機関を使用せず移動する方法を確保していますか。
14日間の滞在先についてご記入ください。
日本滞在中に連絡可能な携帯電話番号
滞在期間 _月_日〜_月_日
宿泊・滞在先名
電話番号
滞在先については、事前に佐和さんから送ってもらっていた情報をそのまま書き移した。この質問票を入手して記入してもらっていたので、問題無く書き写すことが出来た。
検疫所で防護服を着た検査官に体温を計られ鼻腔内の液を採取される(痛い!)そして検査結果が出るまで待機になる。
到着したのは16時半で17時頃検疫を受けたのだが、検査OKになったのは、もう22時すぎであった。
やっと入国する。荷物を受け取り、ゲートを出た所でこちらを見て笑顔で手を振っている人がいる。日本代表の村山千里さんだ!長い髪がトレードマークである。彼女がスマホを取り出し電話をする。ミナミのスマホが鳴る。
「私が40 minutesのオーナーの村山です。ここに車のキー、日本国内で使用できるスマホを置きます。質問票に書いてもらった番号のスマホです。車はここにメモしている駐車場の区画に駐めていますので、それで常総市に移動して下さい。カーナビに既に設定しています」
「分かりました!ありがとうございます。あの」
「はい?」
「まさかずっと待っておられたんでしょうか?」
「須佐さんが検疫OKになる時刻は私の占いで分かりましたから、この時間に到着するように来ましたよ」
「占いで分かるんですか!」
「では2週間後にまたお会いしましょう」
「はい!」
40 minutesのオーナーが“世界の3P女王”村山さん!それを知って須佐ミナミはこのチームに入団することをほぼ決めたのであった。
村山さんは帰ってしまうので、ミナミはその場所まで行き、車のキーとスマホ、車の場所と車種・ナンバーを書いたメモ、自己隔離場所の地図を含むいくつかの書類、自己隔離場所の鍵を拾う。そして駐車場に行き、その区画に駐めてあった青いヴィッツを見つける。車のナンバーを確認する。メモに書いてあるのと同じである。それでキーを差し込み解錠する。荷物を後部座席に放り込み、エンジンを始動する。カーナビがセットされているのを確認して、ミナミは車をスタートさせた。
1時間ほどで到着する。車が左側通行なのに物凄い違和感があって何度か間違いそうになった(脇道から中央分離帯のある道路に出る時などが怖い)が、夜間で交通量が少ないので何とかなった。
到着した場所は、運動公園の一角にあった。これ公共の施設じゃないの?と訝るが、渡されていた紙の地図を確認すると「**運動公園に隣接した私設体育館です」と書かれていたので安心した。鍵を開けて中に入る。施設内の案内図ももらっていたので、それを見て宿泊室に行く。ミナミはシャワーを浴びて、取り敢えずベッドに潜り込み、ぐっすりと眠った。
6月6日、千里3は京平にお昼御飯を食べさせた後、アテンザを運転して出かける。スーパーで食材を大量に買い込んでから常総ラボに入る。一方、葛西に居た千里2も、バイクで常総ラボに行き、千里3と一緒に中の掃除をした。
須佐ミナミに渡す予定の書類はだいたい千里2が用意したのだが、千里3にもチェックしてもらった。“運動公園に隣接した私設体育館です”という注意書きを書き加えたのも千里3である。
その後、千里3はアテンザで、千里2は常総ラボに駐めているヴィッツを出して一緒に成田に向かう。成田の近くでヴィッツは満タンにしておく。千里2が須佐ミナミにこれらを渡し、アテンザで一緒に帰る。最初は千里2が運転して葛西まで行き、その後千里3がひとりで浦和まで戻った。
この日は2人の共同作業であった。
青葉は6月7日(日)、朝彪志をキスで送り出した(医療関係者はとっても忙しい)後、また午前中は§§ミュージックで色々打ち合わせをする。午後からはケイ・ラピスラズリと一緒に田中晶星さんの御自宅を訪問して取材をした。
その後、青葉は浦和に戻り、京平におやつをあげる。千里からは「夕飯に食べて」と言われてお弁当をもらい、自分の車に乗って高岡に戻った。
マーチには他に缶コーヒーとか、クールミントガムとか、非常食のおにぎり、カロリーメイトやおやつに、母へのお土産の白鷺宝(お菓子)なども積まれていた。
更に走行中に何か匂いがするのでふと見ると、いつの間にかまだ暖かい!“峠の釜めし”が助手席に置かれていた!
「ちー姉!不法侵入!」
と青葉は思った。
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