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■東雲(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-08-01
その日、西湖たちは古典の授業で、何個かの和歌を鑑賞していた。
「夏の夜(よ)の、臥すかとすれば、ほととぎす、鳴く一声に明くる東雲(しののめ)」
「古今和歌集・夏の歌、作者は紀貫之(きのつらゆき)、バーチャル女子だな」
と先生が言ったのに、教室内の多数の生徒から笑い声があがったが、西湖はなぜみんな笑ったのか分からず、キノツラユキって人、男の娘だったんだろうかなどと考えていた(*1)。
「浅井、解釈してみろ」
「はい」
と言って童夢は立ち上がる。
「夏の夜(よる)に、ちょっと横になったかと思ったら、もうほととぎすが鳴いて、その一声とともに朝が来てしまう。朝になると鳥が鳴き始めるので、鳥が鳴くということ自体が朝の到来を表しています。夏は昼が長く夜が短いので、その短い夜のことを表現した歌です」
「うん。ちゃんと解釈できてるな。偉い偉い」
と先生は褒めてくれる。
(*1) 紀貫之はこの古今和歌集のメイン編纂者で、同歌集の仮名序を書いている。彼は中学高校の古典では『土佐日記』の著者としても知られる。『土佐日記』の冒頭はこのようになっている。
をとこ(男)もすなるにき(日記)といふものを、をむな(女)もしてみんとてするなり。
(現代語訳:男もすると聞く日記というものを女(の私)もしてみようと思ってするのである)
高校の古典でよく問題にされるのがこの「すなる」と「するなり」の違いである。「すなる」の「なる」は伝聞を表す助動詞「なり」の連体形で、この助動詞は終止形に付くので「すなる」となる。「するなり」の「なり」は断定を表す助動詞「なり」の終止形であり、この助動詞は連体形につくので「するなり」になる。
この冒頭の文は、以下の文書を、かな文字で書くことに対する言い訳である。それまでの文学は多くが漢文で書かれてきた。しかし女性には漢字の知識が無くかな文字しか読み書きできない人も多かった。そこで作者を女性に仮託することにより、かな文字・日本語で日記を書くという新しい文芸スタイルを確立したのである。
これが後の『蜻蛉日記』『和泉式部日記』などの日記文学の発端ともなったし、また平安時代の女性文学を生み出すきっかけにもなったのである。『土佐日記』が書かれたのが恐らく934年かそのすぐ後くらいで、その少し後に『竹取物語』が生まれている。源氏物語には「(竹取物語は)絵は巨勢相覧、手は紀貫之書けり」と言及されているので、紀貫之は、竹取物語にも関わっているようである。
先生が言ったバーチャル女子とは、紀貫之が女性を装って土佐日記を書いたことを言っている。
「ちなみにこのほととぎすはもちろん鳥の名前なんだけど、花の名前にもほととぎすというのはあるな。ユリ科の植物でこんな感じだ」
と言って先生は写真をホワイトボードに貼りだした。
「へー。これがほととぎす?」
と思って西湖はその写真を見た。
「ちなみにこのほとどきすは、東雲(しののめ)という品種だ。ほととぎすには、東雲(しののめ)、桃源、青竜、藤娘、松風、秋空、などという美しい名前のついた品種もある」
と先生は説明した。
『東雲といったら、東雲はるこちゃんだよなあ』
などと西湖は考えていた。あの子、すっごく女の子らしい。だいたいアイドル目指す子って、どちらかというと漢らしい、強いタイプの女の子が多いけど、ああいう子も珍しいと西湖は思っていた。あまりにも儚い感じで芸能界で生きていけるだろうかと少し心配になるくらいだ。相棒の朱美ちゃんのほうがしっかりしているけど、あの子は元々は男の子だったのが病気でおちんちんを切らなければならなくなって、どうせちんちん切るなら、いっそ女の子にしようということで、女の子になったんだとか言ってたっけ?さすが元男の子だよな。名前も男子時代は「曙(あけぼの)」だったのを女の子になったから少しアレンジして「あけみ」に改名したのだとか?
(情報源は主として姫路スピカで一部アクアからの情報も混じっている。スピカは白鳥リズムから聞いた話、川崎ゆりこから聞いた話、花ちゃんから聞いた話などがソースだが、スピカの段階で既に幾つかの話が混線している)
でも朱美ちゃん、女の子でも充分通るから、女の子になって良かったんじゃないかなぁ。ボクも女の子のまま生きて行きたいな。。。。
などと西湖F(聖子)は考えていた。
(1月5日の分裂以来、学校に出て来ているのは西湖Fである)
ぼーっと授業外のことを考えていたら当てられた。
「天月(あまぎ)、この歌を解釈してみろ」
え?え?どこ?と焦っていたら、後の席の奈津が教えてくれた。
「245ページの3番目の歌」
「ありがとう」
3番目ってこれか。
「東雲(しののめ)の朗ら朗ら(ほがらほがら)と明け行けば、己(おの)が衣々(きぬぎぬ)なるぞ悲しき」
と聖子(西湖F)はまず全体を通読する。
「朝がきて、どんどん明るくなっていくと、一緒に寝ていた男女ふたりが各々の服を着て別れなければならないのが悲しい。ここで、“ほがら”ということばは、現代では心の明るさを表しますが、平安時代は物理的な明るさを表していて、これは日が昇って、どんどん明るくなっていく状況をあらわします。本来は“ほがらかなり”という形容動詞ですが、既に“ほがらほがら”という成句で、朝の明るくなっていく状況を意味しています。各々の服を着るというのは、平安時代の夜の寝方を理解しなければいけないのですが、当時は今のような布団というものがなく、昼間着ていた服を脱いで、それを身体に掛けて寝ていました。男女で一緒に寝る場合、ふたりの服を一緒に身体に掛けて秘め事をしていたのですが、朝になると、一緒に掛けていた服を各々自分が着ることになります。そしてその後、男は帰って行くんですね。だから各々が服を着る状態になる、というのがデートの終わりを意味するので、それで悲しいと詠んでいます」
と聖子は一気に解説した。
「正確だ。きれいに意味が取れている。偉い偉い」
と先生は褒めてくれた。
「先週辺りからよく勉強しているようだ。忙しいのに偉いぞ」
「ありがとうございます」
「これからも頑張るように」
「はい」
実は分裂以来、勉強する時間が取れるようになったので、予習・復習をしっかりしているのである。この歌は予習範囲には入ってなかったのだが、ここ半月ほどで勉強した範囲の知識で解釈することができた。もっとも、平安時代の寝具の話は、『源平記』の撮影の中で覚えた知識である。
ローザ+リリンは多忙であった。
1月はローズクォーツの『Rose Quarts Plays Pops』の制作をする予定だったのだが、忙しすぎて参加できない。仕方ないのでクォーツはUTPの若い歌手・丸岡智佳に仮歌を歌わせて、とりあえず伴奏だけ確定させていった。一方のローザ+リリンは、毎日のように、バラエティに出演したり、あちこち地方に出かけたりしていた。おかげでなかなか西東京市のマンションに帰られず、桜川悠子に郵便物のチェックをしてもらったこともあった。
クォーツは『Rose Quarts the Best』も並行して制作していたが、こちらはDisk Aに収録する鈴鹿美里の歌唱は1月に収録したのだが、ローザ+リリンのスケジュールが取れないので、Disk B に収録するローザ+リリンの歌唱については、Popsを優先して進めてBestの歌唱は最終的に4月に録音されることになった。
ローザ+リリンは、1月12日には新潟でお仕事、13日は北海道の釧路まで行ったものの、14日は夕方から博多でFM局主催のローズクォーツの公開録音があるので、釧路から羽田で飛行機を乗り継いで博多まで行った。
KUH 1/14 9:50(HD72 B737)11:40 HND(2T) 12:45 (NH253 B787) 14:50 FUK
この日は博多泊だが、女性に人気のモントレーで泊まる。このホテルは全体的に女性好みの造りなのだが、ローザ+リリンの2人はレディスフロアに部屋が用意されていた。
「ごめーん。レディスフロアにしちゃったから、ダブルが無かったからツインにしたけどいいですか?」
と甲斐窓香から訊かれたが。
「はい、それでいいです、いいです」
と2人とも言った。
それでこの日も慶太は寝付けない様子であった。
「寝れないの?」
「うん」
「だったら眠れるようにしてあげるよ」
「あ、昨日のまたしててくれるの?」
「舐められるのがいい?入れるのがいい?」
「入れたい!」
「OKOK」
それでこの日は広さを確保するためベッドをくっつけた上で、この日は舐めるの無しで、最初から慶太のアレを自分のアソコに入れてあげた。
「これ気持ちいい〜、学、お前ほんとにスマタ上手いな」
ああ、これスマタだと思っているのか。
「いいけど、男名前で呼ばれたら気分出ないからさ、女名前で呼んでよ」
「そうか?じゃ、“マリナ”でいい?」
「うん」
「マリナ、もう一回してもいい?」
「いいよ〜」
それでマリナは一度放出した後で縮んでいる慶太のアレを手で刺激してあげて、10分くらいで再度硬くした。そして自分の中に入れる。
「気持ちいいよぉ」
「良かったね」
それで慶太は眠ってしまった。マリナは彼にそっとキスをして、そのそばでくっついて幸せそうに眠った。
15日は午前中は大阪でローカルの情報番組にゲスト出演、午後は名古屋で素人民謡ショーの司会をした。16日は木曜で、ふだんなら『夜はネルネル』の収録があるのだが、この週は、お正月番組などの影響で1回飛んでしまったので収録は無かった。しかし埼玉で女子格闘技(のショー?)の司会を頼まれ、大いに場を盛り上げた。途中でケイナは司会席に乱入した選手につかまり、リングに連れ込まれて、投げ技をくらい、しばらく立てないようだった。でも女子選手にプレスを掛けられて『幸せな気分』などと言っていたので、マリナも笑っていた(この程度のことで嫉妬するマリナではない)。ちなみにマリナは捕まらないように逃げた!
この日は西東京市のマンションに帰って寝たが、またもや慶太が寝付けないようなので、マリナが処理してあげた。今日は疲れが溜まっていたのか、1回しただけで眠ってしまった。もっとも女子プロ選手に技を掛けられて、腰が痛くて1度しかできなかったのかも!?
この後も、ふたりは全国をかけめぐったが、慶太はマリナに『今日もあれをしたい』と要求するようになったので、毎晩逝かせてあげた。
「まるで女と結婚したみたいだ。俺、ゲイのつもりは無かったけど、マリナにこういうのされるのにハマってしまった。もうこの快楽に身を委ねる」
などと慶太は言った。
「毎晩気持ち良くしてあげるよ。私、慶太の奥さんだもん」
「うん。それでいいよ、マリナ」
ところでローザ+リリンのスケジュール管理であるが、12月中旬以降、ザマーミロ鉄板の手を離れて、§§ミュージックの美咲瞳マネージャーが管理している。それは現在ローザ+リリンの2人に入ってくる仕事の9割くらいが§§ミュージック経由になっているためである。
元々は成田空港で11月に遭遇した時「お仕事あったらください」とローザ+リリンが言ったのがきっかけなのだが、実は§§ミュージックでは、ちょうど彼女らに見合う仕事の話がたくさんあったのである。
§§ミュージックは若い事務所で、社長の秋風コスモス(28)、副社長の川崎ゆりこ(27)を除くと、いちばん年齢の高いタレントは23歳の桜野レイア、次が21歳の山下ルンバ(花ちゃん)・桜木ワルツである。ところが、持ち込まれてくる仕事の中には結構な比率で、もう少し年齢の高いタレントさん向きのものがある。コスモスやゆりこ自身が出演したり、上野陸奥子、日野ソナタなど、姉妹会社の§§プロ所属のタレントさんに話を回す場合もあるが、コスモスもゆりこも多忙だし、日野ソナタは創作活動のため東京にいないことも多いし、上野陸奥子さんはあまりバラエティ向きではない。
そういう仕事をローザ+リリンにアサインしたのである(ギャラ配分率は§§ミュージック:ザマーミロ鉄板:ローザ+リリン=2:2:6)
その結果、ローザ+リリンはこれまてにも増して忙しくなり、ザマーミロ鉄板は急に売上が上昇して、運転資金が一時期不足し、焦ることになる(ローザ+リリンが好調なので銀行が融資してくれて乗り切れた)。
ザマーミロ鉄板は2019年度の売上(3月決算)が前年度の5倍くらいになりそうと会計担当の社長夫人(肩書きは常務)は10月頃の段階で思っていたのだが、11月下旬から急に忙しさが増したので、もっと伸びるかも知れない。
ローザ+リリンの収入も2018年(1-12月)は2人合わせて税込み600万円(1人300万円)程度だったのが、2019年は間違いなく8000万円(1人4000万円)を越えるだろう。
(ケイナとマリナは収入が少ないので住居費節約のため共同生活していた。要するにルームシェアに近かったのだが“2人が恋愛関係にある”と報じられてからは、ずっと同棲していたものと思われてしまった)
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東雲(1)