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■春暁(16)

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お昼のバラエティ番組が場を提供した。出場者はローザ+リリンのマリナ、丸山アイ、同様にじゃんけんが強いという噂のある作曲家の醍醐春海、そして偶然来日していた、ジャンケン世界大会のチャンピオン、パトリシア・ブラウンさん(カナダ)である。
 
放送前に顔を合わせた3人は
「なんか性別の曖昧な人ばかり」
と言い合った。
 
「マリナちゃん、女の身体はどう?」
「調子いいわよ。男の子は1度は性転換してみるべきね」
「まあ、過激ネ」
 
「もう法的な性別は変えたんだっけ?」
と千里が訊く。
 
「変えましたよー」
と言ってマリナは2人に「性別女」と記載されたマイナンバーカードを見せた。そしてアイに一礼する。アイは微笑んでいる。
 
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「おめおめ」
とと2人とも言ってくれた。
 

「ところで芸人クラウドやばくないですか?」
とマリナは2人に相談した。
 
マリナが彼は多分女になっていると言った。自分とケイナがやられた夢魔に彼もやられた可能性が高いとマリナは言う。
 
「女のままでいい気がする。男にしておくと、絶対性犯罪するタイプ」
と千里は言った。
 
「でもあのままだと多分自殺しますよ」
「それも夢見が悪いなあ」
「仕方ない。救済するか」
と丸山アイ。
 
「どっちが助ける?」
と千里がアイに訊く。
 
「ジャンケンで決めようか」
とアイが言うと
 
「それ意味無ーい」
と千里は文句を言った。
 

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しかし3人は番組の収録が終わった後、千里の“顔”で都内の料亭に入り密談。計画を立てた。これが1/23の夜のできごとにつながる。
 
あの事件は3人の共犯であり、救急車を運転していたのはマリナ、芸人クラウドを拉致したのが丸山アイと千里で、3人は“被害者”を都内の廃病院に連れ込み次のような操作をした。
 
・まずは全身麻酔。
 
・アイが「人体実験したい」と言って《自動性転換機(F→M)》で男の形に変える。
 
・千里が***の法を掛ける。どちらの形になるか、アイも千里も不確かだったが、芸人クラウドの股間は女の形に戻ったので、やはり夢魔にやられても根本の性別は変わらないのだということを2人は認識した。
 
・ここで“夢魔の跡”を千里が眷属に命じて除霊させた。
 
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・丸山アイが***の法を掛ける。すると今度は彼の股間は男の形になった。
 
・丸山アイの“実験台”にされて《自動去勢機》で睾丸を除去される。「この睾丸は保存しておくよ。彼が父親にもなれるように」とアイは言っていた。
 
・丸山アイが再度***の法を掛けるが、途中で停めた。それで芸人クラウドの股間の形は男と女の中間の形になった。
 
「性腺は・・・卵巣ができてるね」
「うん。卵巣ができる所まで進めたから、子宮もだいぶ大きくなっちゃった。妊娠できるかも」
 
「まあいいんじゃない?生理もあるよね?」
「あるはず」
 
「でもちんちんがあれば、きっと彼は満足すると思う。彼には睾丸は無い方がいい。でないと、こいつ絶対その内、レイプ事件起こして逮捕される」
とマリナは言った。
 
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「その点はこの3人の意見が一致するね」
 
そして最後に芸人クラウドは、丸山アイが名古屋に転送したのである。ホテルは千里が自分の眷属に取らせておいた。なおフラフラに「名古屋の友だちの所に行って来ます」と言ったのは、芸人クラウドに仮装したアイの眷属である。この仕組みは、万一、芸人クラウドが痴漢犯と疑われて捜査された場合のアリバイ作りのためにセッティングした。
 
(フラフラは“友だち”というのは恋人のことなのだろうと解釈した)
 

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さて、ジャンケン大会の方に話を戻す。
 
3人がこそこそと話している内に、放送が始まる。生放送である。
 
一般参加者も募集したので、ジャンケンに自信があるという人が80人もテレビ局に集まった。マリナ、アイ、醍醐、パトリシアの4人がこの80人とジャンケン勝負した所、マリナ、アイ、醍醐の3人は全勝!した。パトリシアは60勝20敗である。
 
世界チャンピオンでも75%しか勝てないのに、マリナもアイも醍醐春海も不敗だったので、この3人の物凄さが分かる。
 
続いて「負けようとしてください」と言って、負ける勝負をしたら、マリナ、アイ、醍醐春海は全敗であるのに対して、世界チャンピオンは15勝65敗だった。
 
「やはりジャンケン発祥の国・日本は物凄いですね。完敗です」
と言って、世界チャンピオンが退場する。
 
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これで、やはり関東ドームでの町田朱美とのジャンケンはマジだったんだ、というのが多くの視聴者の認識する所となった。
 
しかし対戦者が居なくなってしまったので、テレビ局は、
「本当は優勝者と対戦させるつもりだったんですが」
 
と言って、京葉大学の先生が作った“勝率100%”のジャンケンロボットを連れてきた(持ち込ませた?)。でも実は最初からこの展開を予想して対戦者の1人として使うつもりだったのである。
 

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「くじで組合せを決めます」
と言って、“3人”にくじを引いてもらう(あいにくジャンケンロボには、くじを引く機能が無い)。
 
それでトーナメントの組合せは、醍醐春海−丸山アイ、マリナ−ロボット、ということになった。勝負は11回勝負で、1回でも多く勝った方の勝ちである。これが物凄い勝負になった。
 
最初にマリナとロボットが対決する。マリナはマジ100%である。絶対に負けないはずのロボットが負ける負ける。結局8勝3敗でマリナが勝ち抜けた。ロボットを開発した大学の先生は「出直します」と言ってロボットを連れて帰っていった。
 
この時点でマリナのジャンケンの強さが視聴者に強烈にアピールされた。
 
そして醍醐春海と丸山アイの対決は、両者1歩も譲らない凄い勝負になった。勝敗の数が全く開かない。10戦終わって5勝5敗である。そして最後の1戦。
 
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「負けたぁ」
とグーを出した千里がそのグーを掲げた手にぶらさがるようにして天を仰ぐ。しかしパーで勝った丸山アイに笑顔は無かった。
 
「勝てた気がしない」
と言って、丸山アイは大きく息をついていた。
 

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そして決勝戦、丸山アイとマリナの勝負が始まる。
 
これも一進一退の厳しい勝負となる。8戦終わって4勝4敗である。9戦目。丸山アイの勝ち。そして10戦目。アイの勝ち。
 
この時点でアイの優勝が決定した。
 
しかし勝負は最後までやる。両者マジ100%である。
 
最後の勝負はマリナが勝った。
 
それで結局、丸山アイは6勝5敗で優勝ということになった。
 
「おめでとうございます」
 
と言ってマリナは笑顔で丸山アイと握手した。準決勝でアイに負けた醍醐春海もマリナ、アイと握手した。
 
「アイさん、ひとこと」
 
「私が優勝になりましたけど、この3人の誰が優勝してもおかしくなかったです。3人の実力は横一線だと思います」
 
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それは多くの視聴者が感じたことでもある。
 
「ここに大宮万葉も連れてこられたら良かったんですけどね。彼女もジャンケン強いんですよ。でもオリンピックまでは時間が取れないみたいだから」
 
「それは見たかったですね」
 
と司会者が言ってジャンケン特集は終わった。結局この日はこの番組の枠1時間を全部ジャンケンで消費してしまった。しかし視聴率が物凄かった。
 

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楽屋に帰ってから、丸山アイはマリナと醍醐春海の双方から非難された。
 
「番組盛り上げるのはいいけど、全勝できる所をわざわざ6勝5敗にすることないじゃん」
 
「え?マジだよぉ」
とアイは弁解するが
 
「アイちゃんは罰として、大陸の創成を諦めてもらおう」
と千里は言う。
 
「何ですか?その大陸創成って」
とマリナが尋ねる。
 
「アイちゃんは、太平洋のど真ん中に新しい大陸を作りたいらしい」
「ムー大陸ですか」
 
「まあ新ムー大陸かもね」
 
「そんな凄い広い土地を作るのに、埋め立てる土はどこから持ってくるんですか?」
とマリナが尋ねる。
 
「どこかから運ぶ」
 
「それ大変そうだから、船をたくさん浮かべるというのはではダメですか」
とマリナ。
 
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「君、面白いこと言うね」
 
「だって大陸になるほど埋め立てしたら大変じゃないですか。海流も変わって気象にも影響が出ますよ。広い土地が必要なら、船を浮かべて広い面積の土地みたいなものを作ったらどうかと思って。費用も小さいですよ」
 
「その提案は採用させてもらうかも」
 
それで丸山アイは、マリナの提案に添って、無人島をひとつ買い、その周囲に船を浮かべ始めたのであった。むろん実作業をするのは《こうちゃん》である!
 

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3月9日の夜、春朗は礼江に言った。
 
「なんでお前が真友子と結婚するんだよ?」
 
「ボクは前から真友子が好きだった。でもはるちゃんが結婚するのかと思ってたから遠慮してた。はるちゃんが高木佳南を選ぶのなら、ボクが真友子はもらうよ」
 
「お前、女なのに認知できないだろう?」
「戸籍上は男だからね。できるはず。それにボクが認知しても遺伝子的には矛盾は起きないはずなんだよ。血液型も同じだしさ」
 
春朗はしばらく考えていた。
 
「すまない。借りを作ったな」
 
「そんなことない。ボクは真友子が好きだから彼女にプロポーズしただけ」
 
「指輪は贈った?」
 
「1.2ctのティファニーのダイヤのゴールドリングを贈ったよ」
「俺は1.2ctのカルティエのダイヤのプラチナリングを贈った」
 
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「悪いけど、はるちゃんの振りしてカルティエに行って、実物を確認して、石のサイズを揃えた」
 
春朗は怒るかと思ったら吹き出した。
 
「昔よく入れ替わったな」
と春朗は言った。
 
「色々悪いことしたね」
と礼江も楽しそうに言った、
 

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春朗と礼江が母に結婚することにしたことを報告に行ったのより6日前。
 
マリがデートに行ったので朝帰りだろうとケイは思っていたのだが、マリは0時前に帰宅した。
 
「どうしたの?」
「別れた」
「は?」
「結婚はしない。婚約解消」
「なんで?」
「私が男と別れるのに理由はない。冷めちゃったし」
とマリは言った。
 
「赤ちゃんはどうするの?」
「もちろん産むよ。シングルマザー。どうせあやめで既にシングルマザーになっているし」
 
「亮平さんと一緒に住む予定だった離れは?」
「もちろん建てるよ。ボーイフレンドとデートするのに便利だし」
「他にもボーイフレンドいるの?」
「いないけど、妊娠中は更に妊娠することないから、生でセックスし放題じゃん」
「マリって男の発想だ」
「何を今更。ローディド・シップ(loaded ship)って言うじゃん」
「何だっけ?」
 
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「ローマ(初代)皇帝アウグストゥスの娘ユリアは、自分の夫(アウグストゥスの盟友マルクス・ウィプサニウス・アグリッパ)以外にも、たくさんボーイフレンドいたけど、産んだ子供はみんな夫に似ていたんだって。なぜ器用に夫の子供だけ産めるのかと訊かれたユリアが答えて言ったのには・・・」
 
「荷物が満杯の船には、更に荷物を載せることはできないということか!」
とケイは呆れたように言った。
 
 
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