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■春暁(15)

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芸人クラウドは、今回の事件について、誰かに相談したい気持ちになり、ケンネルに連絡してみたら、
「何でも相談にのるぞ」
 
と言ってもらったので、名古屋でサッカーボール役をした翌日、東京のネルネルの所属する事務所の会議室で彼と会った。
 
「信じられないことでしょうけれど」
と前提を言ってから芸人クラウドは、一昨夜のことを彼に話した。
 
「お前は女子高生に弁解しようと近づく必要は無かった。勝手に逃げて行くのを放置しておけば良かった」
 
「それで後からちょっと来いと言われませんかね」
「それこそ自分は川を眺めていただけだと言えば良い。女子高生を見ただけで痴漢が成立するなら、日本中の男が痴漢だ」
「そうですね!」
 
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「お前は本当に判断力が悪い。気をつけないと、いつか無実の罪に問われるぞ」
「俺、やはり才能無いですかねぇ」
 

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ケンネルはしばらく考えていたが言った。
 
「それで、お前カタツムリ人間に改造されたんだって?」
 
芸人クラウドは自分の股間をケンネルに見せた。ケンネルは息を呑んだ。
 
「お前、一度医者に診せたほうがいい」
「そうしたらどうなりますかね」
「そうだなあ。チンコ以外は女みたいだから、チンコを切ってくれて完全な女にしてくれるかも」
「それ嫌です。俺、女になりたくないですし、チンコ無くしたくないです」
 
「女になりたくないというか、既にほぼ女という気がする」
「でもチンコありますし」
「女性半陰陽と言って、クリトリスがでかくなって、チンコみたい見える病気があるんだよ」
 
でも芸人クラウドは病院には行きたくないと言ったのでケンネルもお前の気持ちに任せると言った。
 
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「しかしもう裸芸はできんな」
「俺もあれは卒業することにします。でも、チンコとマンコの両方があるのはいいとして、俺凄く不安なんです。何かの拍子にカタツムリに変身したりしないか」
 

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ケンネルは自分のスマホを取り出すと、どこかに電話した。
 
「ああ、千夏ちゃん?ちょっと食塩のストックがあったら1袋持って来てくんない?」
 
それで事務の女の子がJTの食塩1kgの袋を持ってくる。するとケンネルはその袋を開封し、芸人クラウドの頭から掛けた。
 
「わっ」
 
「ほら、溶けない。お前がカタツムリになっていたのなら、塩を掛けたら溶けるはず。だからお前はカタツムリじゃなくて人間だ」
 
「そ、そうですよね!良かった」
 
芸人クラウドがホッとしているようなので、ケンネルも微笑んだ。
 

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1月30日の『夜はネルネル』の収録。前回の指示に従って電車のコスプレ?で出て来た芸人クラウドは「動きが遅すぎる」と言われる。それで
 
「そんなに遅いんじゃ、お前は電車じゃなくてデンデンムシだ」
 
と言われ、“電車クラウド”から“デンデン・クラウド”に強制改名されてしまった。するとクラウドは
 
「え〜?俺の爺さんは電電公社に勤めていたけど」
と言った。
 
一応ケンネルが笑ってくれたので、ああ、こんな感じで良かったのかなと思った。実際、フラフラからも「今日の反応は少しはマシだったぞ」と言われ、少しだけ自信が持てた。
 
それで芸人クラウドは以降、“デンデン・クラウド”として、背中にカタツムリの殻を背負って出演することになった(自分が男だという意識があるのなら、もう女装とかお化粧はやめろとケンネルに言われたので、以降は男の格好に戻した)。
 
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ケンネルは芸人クラウドの事務所の社長にも言い、彼を正式に“デンデン・クラウド”と改名させ、事務所のホームページにも“デンデン・クラウド”の名前で掲載されるようにした。テレビ番組でも“デンデン・クラウド”とクレジットされるようになった。
 

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そしてこのカタツムリの殻を背負った格好が、裸芸に代わる、彼のスタイルになったのである。
 
「昔、安岡力也さんは“ホタテマン”と言って、ホタテ貝を背負った格好で人気になったから、お前も頑張れ」
とケンネルは言った。
 
「なんでホタテ貝なんですか?」
 
「バラエティ番組で山伏の格好して“ホラ貝を吹いて”というセリフがあったのを間違って“ホタテ貝を吹いて”と言っちゃったんだよ。それで、ビートたけしさんから『お前はホタテ貝でも背負ってろ』と言われて、そのスタイルになってしまった」
 
「言い間違いが発端ですか」
「だからお前はカタツムリに関するギャグをたくさん考えて、カタツムリといえばお前というイメージを持たれるまで頑張れ」
 
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「はい、頑張ります!」
と“デンデン・クラウド”は明るく答えた。そこには半月ほど前に自殺を考えていた売れない芸人の顔は無かった。
 

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3月9日に、春都と礼江(母的にはいつも女の子名前で呼んであげている)が一緒に帰省してきたかと思ったら
 
「実は僕たち結婚することにしたから、その報告に来たんだよ」
 
と言うので、京はショックのあまり、手に持っていた林檎を落としてしまった。
 
「お母ちゃん、どうしたの?」
と春朗も礼江も不思議そうである。
 
「あんたたち、お願いだから考え直して。あなたたちは血を分けた兄妹なのよ」
 
「いや、僕もちょっとびっくりしたんだよ。僕が結婚しようと思ったのと、ほとんど同時に、のりちゃんも結婚しようと思ったと言うからさ」
 
「だってあなたたち、セックスするのはまだ見ない振りしてあけるけど、兄と妹で結婚するなんて、世間が許さないわ」
と母は言う。
 
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ここで、やっと春朗も礼江も母の勘違いに気づいた。
 
「お母ちゃん、違うよ。僕が礼朗と結婚する訳ないじゃん。僕は僕で、礼朗は礼朗で、各々別の人と結婚するんだよ」
 
「え〜〜!?そうだったの?」
と京は声を挙げた。
 
「で・・・春朗の相手は・・・女の人?」
「女だけど」
「礼江の相手は、男の人だよね?」
「女だけど」
「なんであんた、女と結婚するのよ?」
「はるちゃんによれば、レスビアン婚になるらしい」
「ああ。そのくらいいいわ。最近は珍しくもないし。兄妹で結婚するのでなかったらそのくらい許してあげる」
と母は言った。
 

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「で、いつ頃結婚するの?」
「実はうっかり彼女を妊娠させちゃって。だから向こうのお父さんが許してくれたら今月中に籍だけでも入れようかと。結婚式はいつできるか分からない」
「今の状況じゃね。で、どんな人?」
「東郷誠一って作曲家さんの娘で高木佳南というんだよ」
「あら?女優さんかなんかだっけ?」
「そうそう」
 
「礼江のほうの予定は?」
「実はボクも彼女を妊娠させちゃったから、向こうの御両親が許してくれたら、今月中にも籍だけでも入れるつもり。どっちみち、今は友人呼んで披露宴とかできないし」
と礼江が言うと、母は言った。
 
「妊娠してるのは・・・あんただよね?」
「違うよ。彼女だよ」
「なんであんたの彼女が妊娠するのよ。あんた女なのに」
「女同士でも妊娠することはあるんだよ」
 
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「最近はよく分からないなあ。で、何て方?」
 
と母が訊いたので、礼江が
「会社の同僚というより実は上司なんだけど、年齢は5つ下で、氷川真友子さんというんだよ」
 
と答えた時、春朗はショックのあまり、手に持っていたアップル・iPhoneを落としてしまった。
 

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1月11日(土)の関東ドームでのアクアライブで、幕間で最初に出て来た、ラピスラズリに扮する?ローザ+リリンのマリナと「本物は私たち」と言って出てきたラピスラズリの町田朱美が「どちらが本物か」ジャンケンで勝負して決めた問題は、結構な波紋を呼んだ。
 
マリナは退場する時
「ちなみに今のジャンケンはマジだから」
と言い残して退場した。
 
常識的に考えると、ラピスラズリが負ける訳にはいかないから、最初からお互い出す手を決めておいて、ラピスラズリが勝つようにしていたのだろうと思う。
 
実際、
「出す手は決めてたんじゃないの?」
という声が圧倒的だった。
 
しかし会場に居た人たちの間では
「あれは真剣勝負に見えた」
という声が、かなりあったのである。
 
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「作為があるようには見えなかった。それに朱美ちゃんは少し不安そうな顔をしてた。あれは本気勝負だったのかも」
 
「本気勝負して万一ラピスが負けたらどうするんだよ?」
「その時は、あらためてラピスラズリの名前を取り返すイベントをする手がある」
「ああ、そういう演出で盛り上げるのは確かにひとつの手かも」
 

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そんな議論がネットでなされていた時、ローザ+リリンをよく知る、ネルネルのケンネルがコメントした。
 
「俺はその勝負見てないけど、マジ勝負というのはあり得る。マリナは無茶苦茶じゃんけんが強いんだよ。俺、一度もあいつに勝てたことがない。絶対に勝てるということは負けようと思えば、ほぼ確実に負けられるということだと思う」
 
「そういう人、時々いるんだよね。丸山アイちゃんもジャンケンが凄く強い。たぶんアイちゃんに勝てる人はいないと思う」
とチャンネルもコメントした。
 
「だったら、マリナちゃんと丸山アイちゃんのじゃんけん勝負を見てみたい」
という声が多数あがった。
 
それでその対戦が行われることになったのである。
 
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