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■春暁(14)

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芸人クラウドは先週“芸者クラウド”に強制改名され「次回からは芸者の格好で出て来い」と言われてしまったので、1月23日の『夜はネルネル』の撮影ではテレビ局の衣装を借りて芸者の格好をして出演した。しかしそもそも和服を着慣れてないので、転ぶ転ぶ。
 
「お前、歩くより転がった方がいいな」
「だったら車輪付けて転がそう」
「電車みたいなものか」
「よし。お前は“電車クラウド”と改名するから、来週は電車の格好して出てこい」
などと言われてしまった。
「電車ですかぁ」
と情け無さそうな顔で言って撮影を終えたが、収録後、揚浜フラフラから言われた。
 
「お前さあ、リアクション悪すぎ。何か無茶なこと言われたら、一発何でもいいから、面白いこと言って笑いを取れよ。それを期待してケンネルさんはお前に無茶振りしてんだぞ。お前、きっと来週も強制改名されるだろうから、そこで外してもいいから何か言え」
 
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「分かりました。何か考えておきます」
 

そんなことを言って放送局を出たものの、芸人クラウド(現在は電車クラウド?)は
 
「なーんにも思いつかないよぉ。それに何と改名されるか分からないなら、何を考えておけばいいのさ」
 
などとつぶやきながら、電車で最寄り駅まで帰り、自宅のボロアパート(家賃6000円!でも駅から30分歩く)への道を、とぼとぼと歩いていた。
 
小さな橋を渡る。ふと川の流れを見た。夜中だというのに川は昼間と同様に流れている。芸人クラウドはその流れをじっと見ていた。
 
「いっそ、飛び込んじゃおうかな」
という気持ちが心をよぎる。
 
俺どうせ売れそうにもないし。“この身体”のまま生きて行くのも辛いし。
 
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その時、足音がしたので、振り返る。女子高生くらいの女の子である。こんな遅くに塾の帰りだろうか。
 
ところが芸人クラウドが彼女を見た途端、女子高生は突然
「キャー!」
と悲鳴を挙げた。
 
ちょっと待て。なぜ?
 
「君、俺は何もしないよ。ただ川を見てただけだよ」
と言って、女子高生の方に歩み寄ろうとする。
 

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ところが女子高生は
「やめてぇ!」
と叫ぶと逃げ出した。
 
「ちょっと誤解だよぉ」
と言って、芸人クラウドは彼女の後を追う。追いかけられた女子高生は
「助けてぇ!」
などと声を挙げて走って行く。そのスピードが速い!
 
彼女と芸人クラウドの距離はどんどん離れていく。
 
やがて駅の近く、街明かりのある付近まで来た時
「君どうした?」
と言って、警官が飛び出してきた。
 
え?
 

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「お巡りさん、助けて、追いかけられてるんです」
と女子高生。
 
待てぇ!俺は無実だ!
 
そう思ったものの、警官がこちらに走り寄るので、芸人クラウドは逆を向き走り出した。
「こら待たんか?止まらないと撃つぞ」
 
え〜〜〜!?俺、死にたくないよぉ。
 
(さっき川に飛び込もうかと思っていたことはもう忘れている)
 
そこに突然救急車が来て、芸人クラウドのそばに停まった。
 
え?
 
救急車から、ショッカーみたいに覆面をした男?が2人降りてくると、芸人クラウドを拉致し、救急車に連れ込む。そして救急車は警官を置き去りにして走り去った。
 

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「あのぉ。これ何かの撮影ですか?」
 
救急車の寝台に身体を横たえられ器具で手足と胴体を拘束されたまま、芸人クラウド(電車クラウド)は尋ねた。
 
「我々はショッカーだ。君をこれからゴキブリ男に改造する」
「ゴキブリ?いやだぁ!!」
 
「チーター女でもよいが」
 
芸人クラウドの頭の中で、ゴキブリ男のイメージとチーター女のイメージが浮かぶ。
 
「すみません。その選択ならゴキブリ男でいいです」
 
「ゴキブリ男になると殺虫剤に弱くなるが良いか?」
「女より男がいいです」
「チーター女になれば時速90kmで走れるようになって車とか要らないのに」
 
「それ疲れそう。それに俺チンコが欲しいから」
「ああ。別にチンコなんて無くてもいいのに」
「ゴムホースでもつけとけばいいよね」
 
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「ゴムホースは嫌です。チンコが欲しいです」
「だけどゴキブリのチンコは小さいよ」
 
と言われて、芸人クラウドは急に不安になった。
 
「あのぉ、小さいって5-6cmとか?」
「体長2cmのゴキブリのチンコが5cmもあるわけない」
「あ、そうか」
「だいたい0.1mmくらいだな」
 
芸人クラウドは0.1mmのチンコを想像してみた。
 
「いやだぁ!!!!」
 

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それで芸人クラウドはアイマスクで目隠しをされ、どこかの建物の中に連れ込まれた。廊下のようなところを歩く。消毒薬の臭いがする。何やら堅いベッドの上に寝せられる。
 
「麻酔打った方がいい?」
「できたらお願いします」
「で、結局ゴキブリ男にしようか?チーター女にしようか?」
 
どうもショッカー戦闘員?の間でまだ意見がまとまっていないようだ。
 
「じゃ、間を取って、カタツムリ人間で」
「へ!?」
「カタツムリは両性体だから、チンコもマンコもあるから良かったね」
「え〜〜〜!?」
「男になるか女になるか悩まなくて済むよ」
 
それで芸人クラウドは何か注射をされて意識を失った。
 

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目が覚めた時、芸人クラウドは自分がどこにいるか分からなかった。
 
急に気になって、“そこ”に手をやる。
 
「チンコがある!嬉しい!!」
 
変な夢を見て、チンコが突然消滅してから3ヶ月ほど。それは苦難の日々だった。生理も辛かったし、最初は処理の仕方が分からなくて苦労したし。
 
起き上がってみると、どこかのホテルのようである。
 
取り敢えずトイレに行く。便座を上げて立ち小便をする。
 
「ああ、この感覚。やっはりチンコあるといいなあ」
と芸人クラウドは思った。
 
汗を掻いているようなので、裸になってシャワーを浴びることにする。
 
服を脱ぐとバストが小さいながらもあることに気づく。
 
「昨日までよりずっと小さい」
 
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昨日まではCカップサイズのバストがあったので、それを隠すのに苦労していた。このバストは多分Aカップくらいとみた。このくらいなら、俺太っているからと言い訳できそう、などと思った。
 

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シャワーでチンコを洗っていて違和感がある。
 
「あ、玉が無い」
 
チンコの後にあるべき玉と袋が無いのである。
 
「でも取り敢えずいいかな」
と彼は思った、チンコに比べたら、玉はなくてもこの際、いいことにしよう。なんかこれまでに比べたら、随分マシな気がした。
 
「あ・・・」
 
芸人クラウドは、チンコの後に“割れ目”があることに気づいた。
 
「嘘・・・俺まだ女なの?」
 
いったんシャワーを停めて、自分の“身体”をよくよく観察した。すると、チンコの後に昨日までと同様の“二重の割れ目”があり、奥の方には“大きな穴”があるようである。しかし昨日まであった“小さな穴”はなくなっており、おしっこは穴からではなく、チンコの先から出るようになっている。
 
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要するにこの身体はどうも男と女の中間体のようである。
 
芸人クラウドは少し考えたが
「まいっか」
と思った。
 
チンコがあれば他はわりとどうでもいいや。
 
なんか女の身体で過ごした3ヶ月のおかげで自分が大胆になった気がした。
 

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シャワーを終えてバスルームを出る、裸のまま窓の外の風景を見たら、ここが名古屋の栄のようであることに気づいた。
 
「何で俺、名古屋とかにいるんだろう?」
 
それを考えていた時、昨夜自分が痴漢に間違われ、その後、救急車で拉致されて、ゴキブリ男かチーター女に改造すると言われて・・・
 
そうだった!カタツムリ人間に改造すると言われたんだった!と思い出す。
 
ここまであまりにも非現実的なことだったので、忘れていたのである。そしてハッとする。
 
「カタツムリは両性体だから、チンコもマンコもあるから良かったね」
と言われたではないか。
 
今、自分の身体には、チンコもマンコもある。
 
ということは、俺、本当にカタツムリ人間に改造されてしまったんだったりして!?
 
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どうしよう?何かの拍子にカタツムリの姿に変身してしまったりするんだろうか?
 

その時、スマホが鳴った。
 
見ると事務所の社長からである。
 
「おはようございます。芸人クラウドです」
「お前今どこに居る?」
「あ、すみません。今名古屋なんですが」
 
「よかった。実は今朝、揚浜フラフラさんが名古屋の“モーニング・シャッチー”という番組に出る予定だったらしいんだけど、うっかりダブルブッキングして、仙台の朝の番組“朝だぁべがるたぁ”という番組にも出ることになっていて、今彼は仙台にいるらしい。確かクラウドさんが名古屋に行くと言っていた気がしたから、もし名古屋におられたら代わってもらえませんかということなんだよ」
 
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「分かりました。どこの局ですか?」
 
それで芸人クラウドはテレビ局を聞いてそこに急行し、番組のゲストで・・・サッカーボール役を演じた!
 

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埼玉県**町で発生した女子高生痴漢未遂事件であるが・・・・
 
“被害者”の女子高生がいつの間にか居なくなってしまっていたので、結局犯人?を追いかけた警官も報告書だけ書き、事件は捜査もされなかった。
 

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