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■春暁(2)

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西湖は古典の授業を受けていた。
 
「春はあけぼの。やうやう白くなり行く山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる」
 
「夏は夜。月のころはさらなり。闇もなほ螢のおほく飛びちがひたる。またただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし」
 
 
「秋は夕暮、夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いとちひさく見ゆるは、いとをかし。日入りはてて、風の音、蟲の音など、はたいふべきにあらず」
 
「冬はつとめて。雪の降りたるは、いふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もてわたるも、いとつきづきし。晝になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし」
 
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(旺文社・対訳古典シリーズ「枕草子」より。但し一部の句読点を変更)
 

「取り敢えず、最初の所、現代語に訳してみろ、野仲」
 
「はい」
と言って、典絵は立ち上がった。
 
「春は曙(あけぼの)の頃が素敵だ。だんだん白くなっていく山際(やまぎわ)が少し赤味を帯びて、紫色っぽくなった雲が細くたなびいてる所は美しい」
 
「“山ぎは”の所、ちゃんと解釈できたな。時々この“は”を助詞と思って、“山ぎが白くなっていくのは”と訳しちゃう人がいるけど、ここは“山の際”なんだよな。“山ぎ”では意味不明だ」
 
ボクも助詞と思った!と西湖は思った。
 
「紫立ちたる、という意味は分かるか?」
 
「はい。私、テニス部でよく朝練に出るんですけど、朝焼けが終わって空が青くなっていく、その微妙な時間、ほんの数分だけ、朝焼けの赤と昼間の空の色の青が混じって空が紫色になる時間帯があるんです。その状態だと思います」
 
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「そうそう。これは早起きしている人だけが見ることのできる風景なんだよな。みんな持っている古語辞典の47ページを開けるように」
 
それで西湖も古語辞典(ベネッセ全訳古語辞典改訂版)の47ページを開ける。
 
「そこに1日の時間帯がまとめてある。最も早い時間帯が“あかつき”で、これはだいたい午前3時から5時頃。まだ夜明け前だな。夜明け近くなったところが、“かはたれどき”“あけぼの”“しののめ”とそこには書いてあるが、実際には空が白くなってきたものの、まだ太陽が昇ってない時間帯が“しののめ”で、太陽がもう顔を出すという時間帯から上がってすぐの頃が“あけぼの”、そしてどんどん明るくなっていく時間帯が“あさぼらけ”だな。その時点でまだ月が残っていたら“有明”の月になる」
 
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と先生は説明した。
 

その時先生は青島瀬梨香が寝ていることに気づいた。それで指名する。
 
「青島」
「は、はい」
と言って、瀬梨香は慌てて起きる。
 
「百人一首で“あけぼの”が入っている歌は?」
 
「え、えっと・・・」
と瀬梨香は悩んだ末にこう言った。
 
「有明のつれなく見えし別れより曙ばかり憂きものはなし」
 
文佳や優美が頭を抱えている。あ、何か違ったのかな?と西湖は思った。
 
「その歌、良く覚えていたな。しかしそこは曙(あけぼの)ではなく暁(あかつき)だ」
 
「あれ〜〜〜?」
 
「青島は古語辞典の47ページをよく見ておくように。菊池は分かるか?」
 
「百人一首には“曙”を詠んだ歌は無かったと思います」
と由美奈は答える。
 
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「それが正解。では百人一首でなくてもいいから、曙を詠んだ歌、何か知ってる?」
 
「藤原俊成の歌。又や見む、交野(かたの)の御野の桜狩り、花の雪散る春の曙」
と由美奈。
 
教室のあちこちから「あぁ」という声があがる。この歌を知っている人が結構いたようである。西湖は聞いたこともないが!
 
「百人一首で“朝ぼらけ”の出てくる歌を全部言える人?」
 
ここで紀子が手を挙げるので先生が「立花」と指名する。西湖はびっくりした。だいたい成績の“悪さ”では、西湖・紀子・伊代あたりがビリを競っているのに。
 
「朝ぼらけ。有明の月と見るまでに、吉野の里に降れる白雪」
「朝ぼらけ、宇治の川霧たえだえに、現れわたる瀬々の網代木」
「明けぬれば暮るるものとは知りながら、なほ恨めしき朝ぼらけかな」
 
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教室から「すごーい!」という声が多数あがる。
 
先生も褒めた。
 
「よく覚えてたな。特に最後の藤原道信の歌は忘れがちだ」
と言っている。
 
「今度出るお正月のスペシャル番組で百人一首やるので、今頑張って覚えている最中です」
 
「おお、それは頑張れ」
と先生も応援してあげた。
 
「そっかー。お正月番組かぁ。またたくさん出ないといけないなあ」
と西湖は思った。
 

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ローザ+リリンは、また年末年始のスペシャル番組で“アイドルを連れて初詣”という番組に出演した。
 
出演するのは月村山斗さんがプロデュースしている集団アイドル FireFly20, WaterFly20, TerraFly20, ColdFly20, WindFly20 (以上デビュー順)の各々ピックアップメンバーの15-16人ずつである。引率するのは、この5人であった。
 
FireFly20 原野妃登美
WaterFly20 近藤うさぎ
TerraFly20 魚みちる
ColdFly20 ケイナ
WindFly20 マリナ
 
人選は30代の女性歌手で、そこそこに名前が通っている人、ということのようだった。
 
原野妃登美は2004年デビューの32歳、昨年の上島騒動で引退した(させられた)ものの、今年、事実上の自主制作で現役復帰した。過去の知名度もあり、そこそこ売れているようである。昔の固定ファンがまたCDを買ってくれているようだし、かえって『昔よりいい』という意見も多い。FMでは割と取り上げられる人だ。実はデビュー前のマリが彼女のバックダンサーをしていた時期がある。このことはあまり知られていないが、ローズ+リリーの研究者!?であるケイナとマリナは知っている。(マリは湘南トリコロールのバックダンサーもしたことがある)
 
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近藤うさぎ・魚みちるは元マリンシスタで、2004年頃デビュー(本人たちもよく覚えていないらしい)の37歳と38歳。ふたりともマリンシスタをやめた後で、様々なバラエティに出ていたが、しばしばこの2人はペア扱いされていた。実際元々仲も良かったらしい。一時期忘れられかけていたものの、2014年夏にローズ+リリーのライブ(苗場ロックフェス)に出場したのを機に再び認知度が上昇。“うさぎょ”のユニット名で、マリ&ケイから提供された曲を歌ったCD『小さな花』は7-8万枚も売るヒットとなり、歌手としての認識も高まった。
 
最近はアメリカのフォークソングやフォスター作曲の歌・ディズニー系の歌などをメインにしたライブツアーをしていて、年間100本以上のコンサートをしている。しばしば中学・高校などに招かれてのミニライブもしており、実は10代に知名度が高い。
 
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近藤うさぎは元男性で性転換手術をして女性になったことを公表している。それでケイナもマリモも気が楽だった。(ケイナは多分性転換していないはずだが)
 
実はこの2人と原野妃登美は、XANFUSを抱える@@エンタテーメントの所属である。
 
ローザ+リリンは2008年デビューで、ケイナが36歳、マリナが34歳である。(マリナが早生まれなので2人は学年は1つ違い)
 
今回は最も歴史の長いFireFly20を、“元・有名歌手”の原野妃登美に任せ、年齢の高いメンバーが多く癖の強いColdFly20をバラエティセンスがあるケイナ、最も新しいグループで若い子の多いWindFly20を“優しいお姉さん”のイメージがあるマリナに任せたとプロデューサーは2人に説明した。
 
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各々の行き先は下記である。2020年の干支“子年”を意識している。
 
FireFly20+原野妃登美 甲斐國一宮浅間神社
WaterFly20+近藤うさぎ 大豊神社 TerraFly20+魚みちる 子之神社
ColdFly20+ケイナ 慈恩寺 WindFly20+マリナ 出雲大社
 
甲斐國一宮浅間神社(山梨県笛吹市)は、富士山の神・木花開耶姫(このはなさくやひめ)を祭る山梨県側の神社で、静岡県側の富士山本宮浅間大社(富士宮市)と対になる神社だが、境内に十二支の石像があることでも知られており、メンバーにこの石像を見せるのが目的であった。
 
大豊神社(京都市)は少彦名命(すくなひこなのみこと)を祀る神社だが、境内に少彦名命の相棒である大国主命(おおくにぬしのみこと)を祀る大国社があり、ここに狛犬ならぬ“狛ねずみ”がいるのである。狛ねずみのいる神社は、他にも大阪市の敷津松之宮、横浜市の戸部杉山神社などもあるが、そばにある哲学の道の風景を映したいということで、ここが選ばれた。
 
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子之神社という神社は実は神奈川県内に多数あるのだが、今回の取材ではその中の横須賀市汐入町の神社を訪れている。
 

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今回唯一のお寺となった慈恩寺 (寒河江市)には、十二神将の像(国指定重文)がある。十二神将の名前は、宮毘羅大将・伐折羅大将などのようになっているところ(新薬師寺など)と、子神将・丑神将などのようになっているところがあり、慈恩寺のは、子・丑方式であるために、今回の訪問先に選ばれた。
 
低予算番組なので東京から貸し切りバスでの往復となった。若い子たちは元気だが、ケイナは正直辛かった。でもユンケルを飲んで頑張った!
 
ケイナは、ColdFly20のメンバーは、みんな他の集団アイドルやバックダンサーなどの経験者ばかりと聞いていたので、うまい子が多くて、自分が食われるかもと思って出て行ったのだが、あまりにも“使えない子”ばかりで参った!どうもあちこちをリストラされたメンバーばかりということのようだ。
 
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何とかなったのがリーダーで元§§ミュージック研修生の米本愛心、サブリーダーで元FireFly20の田倉友利恵、最近加入したらしい中学生の花咲鈴美という子、くらいで、他の子は何もしゃべってくれないし、何か声を掛けても全く受け応えができないので、放置することにした!それでケイナはこの3人とだけもっぱらおしゃべりしていた。
 

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後から聞いたのでは、ColdFly20の音源は、最近まで米本愛心と田倉友利恵の2人だけで作っており、コーラスはスタジオミュージシャンの女性3〜4人に歌わせていたらしい(つまり他の子たちはコーラスもできないほど下手)。
 
他の子はひたすらダンスの練習をさせていると聞いた。初期の頃はダンスのできるメンバーもほとんどいなかったので、愛心の後方に直立不動で並んでいたらしいが、ダンスのできる子を6人加入させて、他の子には彼女たちのマネをしろと指示して、今は何とかなっているらしい。最近、花咲鈴美(誰か知らないがお母さんも元歌手らしく歌がとても上手いしトークセンスもある)が加入したので、米本たちの負荷がかなり減ったという話だった。
 
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この3人の給料が月80万円(年1000万円)、ダンサーの6人は月30万円だが、残りのメンバーは給料ゼロ!で逆にレッスン代を毎月2万円徴収しているらしい。でもテレビに出られるだけで満足でギャラ無しでもいいという子たちが残存しているとも聞いた。きっと前の所属グループで華やかな生活を送ったので“夢をもう一度”という気持ちで残っているのだろう。
 
なお今回の旅にはダンサー6人は、新曲のフォーメーションを組み立てるのに居残りしたいということで、同行していない(ギャラ節約ではという気もした)。
 

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そういう訳でケイナは苦労したのだが、途中の石段で転びそっになった子がいて「大丈夫?」と訊いたら「何とか生きてます」と答えたので、それを機に彼女を会話に引き込むことに成功する。
 
「君は、栗原リアだったっけ?」
「はい、そうです!覚えていてくださって光栄です」
「そりゃ覚えてるけどさ」
とケイナは言う、引率する子の名前が分からなかったらまずいので、昨日、必死で名前と写真を並べて見比べ、全員の名前を写真を見ただけで言えるようにしておいたのである。
 
「だけどリアって変わった名前だね。うっかりマリアかと思った」
「よく言われます。マ抜けのリアです」
「ああ、マが抜けた顔してるよ」
 
これで向こうも調子が出たようで、かなり会話に参加してくれるようになり、後半は5人での会話になった。
 
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そしてこれがこの子のブレイクのきっかけとなり、10年後の大女優・栗原リアを生み出すことになるとは、さすがのケイナにも予想できなかった。
 

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春暁(2)

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