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■春暁(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2020-07-12
 
2020年3月9日(月)。
 
八雲礼朗(礼江)は愛車ポロで静岡方面に向かおうとしていた。が、ふとその人影に気づいてハザードを焚いて車を停める。クラクション鳴らす。
 
「はるちゃん、どこ行くの?」
「あれ?のりちゃんだ。実家に行こうと思って」
と春朗はマスクを外して答えた。
 
2人は兄弟(兄妹?)ではあっても同学年でもあり礼朗(礼江)が春朗を「お兄ちゃん」などと呼ぶことは無い。「はるちゃん」「のりちゃん」である。親しい関係なので「ちゃん」無しでもいいくらいだが、お互い“異性”という感覚があるので「ちゃん」が付く。
 
「ボクも実家に行く所だよ。乗っていかない?今の時期、公共交通機関は恐いよ」
「実はそれ思ってた、じゃ乗せてもらおうかな」
 
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春朗は車を持っていないのである。実際都会に住んでいると車を使う機会は少ない。礼朗(礼江)の場合は、仕事柄、非常識な時間に公共交通の貧弱な場所への移動が多いので車が無いと辛い。なお、公用で使った分のガソリン代は距離(または出発点と到着点)をスマホから手動または"GPS AUTO"で報告すれば、届けている車種に応じた計算式で計算した金額を月に1度給与と一緒に振り込んでくれる。
 

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それで、春朗は礼朗(礼江)の車の助手席に乗り込んだ。その時身体が振れる。礼朗(礼江)は一瞬、高校時代に彼からレイプされたのをきっかけに、しばしば彼の性欲処理をさせられていた頃のことを思い出しキュンと心が痛む。
 
「やめてよ、こういうの」
「妊娠しないんだから、いいじゃん」
 
でもセックスしない範囲では春朗とのデートは楽しかった。女の子の格好をして春朗と映画を見にいったり浜辺を一緒に歩いたりした。女の子水着を着けて海水浴に行ったのなど良い想い出だ。可愛いアクセとかも買ってもらったし。キスとかドキドキしたし。しかし結局自分は春朗のことを好きだったのかどうか、自分でも分からない。
 
ふたりの関係を母はどうも察していたようだった。それで礼朗(礼江)が高校を出たら東京の大学に行きたいと言うと母は賛成してくれた。そして高校を卒業した時点で春朗との関係は解消し、そういう関係を持っていたこと自体、お互い忘れる約束をした。(以上は礼江的見解)
 
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あれからもう15年経った。しかし女の子を同時に2人妊娠させるなんて、冷静で緻密なはるちゃんらしくないミスだなと礼江は内心思った。
 

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助手席に乗り込んだ春朗は、座席を少し後にずらして足を楽にする。昨日は150cmのビンゴ・アキちゃんを乗せたからな、と礼朗(礼江)は思った。
 
ハザードを消し、右ウィンカーを点けて、後方を確認してから発進する。首都高の入口に向かう。
 
「そういえば実家に何の用?」
と礼朗(礼江)は尋ねてみた(分かってるけど)。
 
「実は結婚することにしたんだよ。それでその報告に行くんだ」
「あれ〜?奇遇だね。ボクも結婚することにしたから、報告に行くんだよ」
「へー。お前がね」
「はるちゃんも結婚するのなら、一緒に報告しようよ」
「まあいいけどね」
 
と春朗は言ってから、おもむろに尋ねた。
 
「ちなみに相手は・・・男だよな?」
「まさか。ボクはゲイじゃないし。相手は女性だよ」
「つまり、レスビアン婚か?」
「そうなるんだっけ?」
 
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「だってお前・・・性転換してるだろ?」
「何を今更。でも大した問題じゃないと思うけど」
「大した問題のような気がする」
 

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2人はお互いに恋愛関係にあった時期のことは忘れることにしているので、音楽業界のことや、新型コロナウィルスのことなどで意見を交わした。
 
「物凄い騒ぎになってるけど、まだ序ノ口だよな」
「たぶんね。町添社長が、全てのライブの中止要請を出した。オリンピックもできないよね」
 
「まあ中止か最低でも延期だろうな」
 

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礼朗(礼江)が運転するポロは快調に東名を走り、3時間ほどで静岡県沼津市の実家に到着した。
 
エントランスの前で母の携帯を鳴らして開けてもらい、上の階に昇る。
 
ちなみに昔はマンション内に2つ部屋を確保していて、八雲信幸家と八雲信繁家になっていたのだが、礼朗が大学進学で東京に出て行き、春朗も作詩家の仕事の都合で東京に引っ越した後、“京が向こうの家に泊まっている夜は寂しい”という問題から、その2つのマンションを売却し、新たに別の所に3LDKのマンションを購入して、そこで3人一緒に暮らすことにした。
 
3つの部屋を、信幸・京・信繁が各々使う。京は日替わりで、信幸または信繁の部屋に行って同衾する。生理中や気分の乗らない時は、京は自分の部屋で寝る、というシステムである。京がその日どちらと寝るのかは、完全に京に決める権利があり、夫の側からのリクエストは禁止!である。ひとり寝することになる側には、京はテンガをプレゼントしてあげる。
 
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「今夜はひとりで寝るね。何ならのぶちゃんとのぶちゃんでセックスしてもいいよ。そのくらい許す」
 
「いやいい」
「遠慮する」
 
「でも2人がセックスする時はどちらが女役?」
と京は尋ねた。
 
信幸と信繁は一瞬顔を見合わせたが
「セックスすること自体があり得ないから、考えなくてもいい」
と答えた。
 
「特に難しく考えなくても、お互いが気持ちよくなれるようにすればいいだけなのに。セックスなんて、ミューチャル・マスターベーションだよ」
 
「それに俺たち兄弟だし」
「好きだったら兄弟でも構わないと思うけどなあ」
と京は他人事なので言った。
 

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御飯などは3人一緒に食べているが、京としては、2家体制だった頃のように作った御飯をもうひとつの家に運ばなくても済むから楽、という。
 
それでつまり、現在、春朗の実家=礼朗(礼江)の実家なのである。
 
「ただいまあ」
と言って春朗と礼朗(礼江)は、鍵があけてあったドアを開けて中に入る。
 
「2人一緒に帰ってくるって珍しいね。何かあったの?」
とふたりの母は笑顔で尋ねた。
 
それで春朗と礼朗は言った。
 
「実は僕たち結婚することにしたから、その報告に来たんだよ」
 
息子たち(息子と娘?)の言葉に衝撃を受けて、京は手に持っていた林檎を落としてしまった。
 

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3週間ほど前の2月17日(月).
 
「妊娠してたよ〜」
と、あっかるい声で政子は大林亮平に連絡した。
 
「どうしよう?僕、鱒渕さんに、春まではちゃんと避妊しますと言ってたのに」
 
「避妊してても失敬はあるんだから仕方ないよ。それにどうせ結婚するんだから赤ちゃん出来たっていいじゃん。『立つ!』の放送は3月までだけど、撮影は終わっちゃったから、撮影には影響無いしね」
 
「それはそうかも知れないけど、ローズ+リリーの活動に影響でない?今も全国ツアー中だし」
 
「まだ妊娠初期だから大丈夫」
「妊娠初期こそ大事にしないといけないんだけど」
 
亮平は、なんでこの子はここまで性に関する知識が無いんだ?と思った。
 
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(性教育の時間にいつも眠っていたからである)
 

大林亮平は翌2月18日、コロナ対策でかなりの多忙状態にあるのは承知でケイを都内の料亭に呼び出した。そして避妊に失敗して政子を妊娠させてしまったことを謝った。ケイは驚いたものの、
 
「どうせ結婚するんだから構いませんよ」
と言った。現在実行中のツアーに関しては、マリの体調がよくないのでと称して、この後は、座らせて歌わせましょうと言ってくれた。
 
「今、ふたりの新居になる、離れも建築中ですから」
「すみません。なんか工務店とかの交渉も全部ケイさんにしてもらって」
「マリに任せたら、出入り口がなくて窓から出入りしないといけない家とかができちゃいますから」
 
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「それ、ありそうで恐い」
 

ケイは大林亮平と話した後、その場に鱒渕マネージャーも呼んだ。
 
ケイと違って鱒渕は亮平に
「困りますよ」
と強い調子で苦情を言った。
 
「本当にすみません。気をつけていたつもりだったのですが、手とかに付着した精液が浸入しちゃったのかも」
などと亮平は言い訳をする。
 
ほんとうは政子の「安全日だから」という言葉に欺されて、生でやっているのだから、手に付着も何もあったものではない。
 
「まあどっちみち結婚するんだから、いいことにしましょうよ。この後のツアーではマリは椅子に座って歌わせて」
とケイは言ってくれた。
 
「仕方ないですね。じゃ、そのあたりの演出を七星さん・秋乃さん・氷川さんと4人で詰めますから」
 
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「本当に済みません」
と亮平は謝りっぱなしだった。
 
「ツアーの後、休業期間が必要ですよね」
「予定日が10月18日らしいので、5月くらいから、来年の2月くらいまでお休みにしましょうか。2021年の震災復興イベントで復帰」
とケイ。
 
「そんな所ですかねぇ」
と鱒渕は渋い顔で答えた。
 
ケイとしては、政子が結婚してしまえば、さすがに人気が落ちて、カウントダウンライブかできるほどの客を集めることはできないだろうと考えている。もし、ゴールデンシックスかハイライトセブンスターズあたりがしたいと言ったら、譲ってもいい。しかしそもそもコロナの今の状況では、そういう巨大ライブ自体無理かも知れない気もする。今年の震災復興イベントもできるかどうか微妙だし(中止決定は2月21日。今日は2月18日)、来年のイベントも微妙だが、来年までにはワクチンができていることを期待したい、とケイは思った。
 
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2月中旬、高木佳南は産婦人科で検診を受け、
「今の所順調ですよ」
 
と言われ、楽しい気分で窓口で精算すると病院を出た。本当は検診には彼にも付き添ってほしいけど、まだふたりの結婚は発表してないから、仕方ないよねと自分を納得させる。
 
それでも八雲春朗は近い内に、君のお父さん(東郷誠一)に挨拶に行きたいと言っていたので日程を調整してもらわなきゃと思った。
 
「だけど、はるちゃんが誰と付き合ってたか知らないけど、これで勝てた感じね。ニードルワークって利くなぁ」
 
などと佳南は呟いた。
 
1年近く付き合っているのに、なかなか結婚を言い出してくれないのに、しびれを切らし、春朗が机の中に入れている避妊具にこっそりニードルワークしておいたのである。その結果、佳南は妊娠し、彼からも「結婚しようか」という言葉を引き出すことができた。婚約指輪については「ちょっと整理しないといけないものがあるから少し待って」と言われて保留になっている。
 
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「整理」するものって、別の彼女との関係かなあ、などと佳南は想像していた。
 
佳南は相手の名前や顔こそ知らないものの、春朗の言動から、自分以外に恋人が最低2人は居ることを感じ取っていた。人気作詩家は寄ってくる女も多いんだろうなと佳南は思っていた。
 
そして佳南のニードルワークが、自分だけでなく、別の彼女まで妊娠させることになったことを、佳南は知るよしも無い。
 
(なぜその事態を想像できないのかは知るよしも無い)
 

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