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■春暁(1)

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水崎マリナは窓口で料金を支払ってから、病院内のコメダ珈琲に入ると、店内て飲むウィンナーコーヒーと、テイクアウトするサンドイッチを頼んだ。空いているテーブルの所に座り、クリームたっぶりだが、砂糖は入れてないコーヒーを飲みながら、もらった2通の診断書の内、1通を開封してしまった。2ヶ所に提出すると称して2枚発行してもらい、その内の1通を自分で見ようという魂胆だった。
 
マリナは診断書に目を通してふっと溜息をついた。そして封筒に戻すと、2通とも、今テイクアウト用に買ったサンドイッチの入った紙袋の中に放り込んだ。
 

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2019年11月14日、(本家の)ケイとマリはこの所、熊谷市の郷愁村に籠もってアルバム『十二月(じゅうにつき)』の制作をしていたのだが、BH音楽賞の授賞式を兼ねたスペシャル番組に出演するため、大阪に向かった。
 
それが終わってから大阪で1泊し、翌日の午前中いったん東京恵比寿の自宅マンションに戻ってみると、雨宮先生、ローズクォーツのタカ、それにローザ+リリンのケイナ・マリナが来ていた。お留守番の大町ライトによれば、昨日、雨宮先生が連れてきて、一晩飲み明かしたということだった。どうも無料で飲める居酒屋くらいに思っているなあとケイは思った。しかし、この場でローズクォーツが5年前に出した『Rose Quarts Plays Sex Change』のリブート版が制作される話がまとまってしまった。
 
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ところで、来訪していた人たちの中で、雨宮先生とローザ+リリンはハワイから戻って来たところということで、ローザ+リリンは現地で結婚式を挙げたというのでケイは驚いた。彼女たちの仲が進行しているらしいというのは夏頃から噂に流れていたのだが、とうとう結婚に踏み切ったということで、ケイは驚いたものの彼女たちを祝福し、御祝儀を渡した。雨宮先生とタカも、ケイからお金を借りて御祝儀を渡していた。
 
しかし、XANFUSの音羽と光帆も結婚式をあげることを計画しているようだし、最近は同性婚もみんな堂々とやるようになってきたなとケイは思う。もっともローザ+リリンの場合、男同士の結婚なのか、女同士の結婚なのか判然としない感じもある。友人では、淳と和実のケースは、元々2人が(戸籍上)男同士の時に知り合い、和実が性転換して(法的にも)女になった所で結婚し、その後、淳も性転換して女になったので、最終的には女同士の夫婦になってしまった。彼女たちは、結婚維持のため、淳の法的な性別は変更しない。
 
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ローザ+リリンの場合、2人の内、マリナは8月に性転換手術を受けたという話も聞いていたので(本人は曖昧な言い方をしているが明確に否定もしない)、ひょっとしたら実は単純な男女型の結婚なのかもという気もした。その日、ケイは実際にケイナ・マリナと話していて、マリナが自分を女として意識しているのを感じた。マリも、マリナちゃんは凄く女の子っぽいと以前から言っていたので、ケイナは単なる女装者だが、マリナは実は元々女の子になりたかったのかもという気もした。
 
しかしマリナが実際に性転換したのであれば、法的な性別も変更してケイナとちゃんと法的にも婚姻すればいいのにとケイは思った。
 

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(2019年の)9月頃、ケイは秋風コスモスと話した。
 
「今年のロックギャルコンテストで優勝した、月乃岬ちゃんだけど、芸名はもう決めたんだっけ?」
 
「“東雲(しののめ)はるこ”というのを考えています。そして実は3位だった落合茜ちゃんとのデュオで売り出そうかと思って」
 
「へー!デュオというのはこの事務所では初めて・・・かな?」
「初めてですね。今までは全員ソロでした」
と言ってから、コスモスは説明した。
 
「実を言うと、彼女は音楽的な才能が物凄く高かったので優勝させたんですが、ここ数ヶ月あの子を見てて、どうも精神的に弱いなと思って」
 
「ああ、それは少し感じたことはある」
 
「このままデビューさせると、明智ヒバリみたいに、プレッシャーに耐えられずに破綻する危険もあるなと思って。これに対して茜ちゃんは、凄くしっかりした子で、元々親友でもあるし、一緒にやらせたら、お互いに支え合ってやっていけるんじゃないかと思ったんですよ」
 
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「うん。それはいいかも知れないね。実は私もちょっと、コスモスちゃんのお姉さんを一瞬イメージした」
 
「姉はステージ度胸が無かったんですよね。何度もステージ上であがってしまって足が震えて立っていられなくなり、座り込んでしまうというのをやっちゃったから、なかなかデビューの話に到達できなかった」
 
「確かにメロディちゃんは、初めて見た時に、すごく儚げな印象はあった」
「美人なのはいいんですけどね〜。姉はよく、立てば芍薬・座れば牡丹・歩く姿は百合の花と言われたんです。妹の私は、立てば韮崎観音・座れば鎌倉大仏、歩く姿は大魔神と言われて」
 
「なんかありがたい存在じゃん!」
 
(韮崎観音が出てくるのは多分コスモスの出身地に近いからだろう。彼女は山梨県の生まれ)
 
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「ところで“しののめ”ってどういう意味だったっけ?東の雲と書いて“しののめ”と読むのは知っているけど」
 
「よくマンガとかに出てくる学校の名前にありますよね。東雲高校とか」
「ありがちありがち」
 
「私も姉からの受け売りなんですが、朝の時間帯を古い時代には、あかつき(暁)・しののめ(東雲)・あけぼの(曙)・あさぼらけ、と分けたらしいです」
 
「へー」
 
「あかつき(暁)はまだ明るくなる前、別のことばで言えば“未明”ですね」
「ああ」
「しののめ(東雲)が、明るくなり始めてからで、完全に朝になると、あけぼの(曙)。朝ぼらけは日は昇ったものの、まだ高度が低い時間帯らしいです」
 
「日本語はなんか美しいね!」
とケイは言った。
 
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「それで今はまだ未完成だけど、少しずつ大物に育って行って欲しいということで、東雲というのを考えたんですよ」
 
「なるほどー。“はる”も夏に向かって行く季節ということね」
「はい、そうです」
 

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「茜ちゃんの方はどうするの?」
 
「彼女は、岬ちゃんを引っ張っていくポジションだろうと思って、しののめのひとつ先の“あけぼの”ということで」
 
「男の子みたいな名前だね」
 
「ええ。それはさすがに可哀想なので、女の子に性転換して、“あけみ”ということにしました」
 
「それは名前だね。苗字は?」
「町田ということで」
「どこからそんな名前が?」
 
「彼女のボーイフレンドが町田市生まれなんですよ」
「ボーイフレンドとか居ていいの?」
 
「若い子だから交際禁止しても守るわけないから、妊娠だけはしないように確実に避妊しろと、山下ルンバに言わせました。さすがに私が言う訳にはいかないので」
 
「中学生なのにセックスしてるの〜〜?]
「今どき珍しくないでしょ」
とコスモスは言った。
 
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しかしあの子がしっかりしているのは、既に“大人”だからなのかも知れないとケイは思った。逆に黙認することで、彼女の精神力が高まると策士のコスモスは読んだのだろう。
 
「避妊具もルンバから渡してあげることにしました。買っている所を誰かに見られて投稿されると困るので」
 
その彼氏は中学の元同級生で、この春に、病気治療のために東京の学校に転校してきていたらしい。つまり茜は東京に出てくることで、いったん離れ離れになっていた彼氏と簡単に会えるようになった訳だ。茜が研修生になることに積極的であった理由が分かった、ともケイは思った。
 
しかしボーイフレンドの出身地とか、芸名に使っていいのか??
 

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「あけぼの(曙)とあかつき(暁)の違いですか?北に行くか、西に行くかの違いですね」
と白鳥リズムは言った。列車マニアの彼女らしい返事である。
 
「“あけぼの”は、上野から福島・山形・秋田経由で青森まで走っていた特急です。この列車が、秋田−青森間では、金沢発・秋田行きの急行しらゆきの一部の車両を併結して青森まで行っていたんですよ。だから金沢から青森に行きたい人は、秋田行きのしらゆきに乗っておけば、秋田終着なのに、終点の秋田駅で降りずに待っていると、ちゃんと青森まで連れていってもらえたんです」
 
「そうか。リズムちゃんの“白鳥”の由来になった列車だ!」
 
この“急行しらゆき”が後に“特急白鳥”になったので、“雪が鳥に変身した”と言われたのである。
 
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「そうなんですよね。一方の“あかつき”は東京−大阪間の夜行急行の名前だったんですが、その列車が廃止された後、今度は京都−長崎・佐世保間を結ぶ寝台特急としてその名前が使用されました。どっちみち西に行く列車ですね」
 
とリズムは説明した。
 
「花ちゃん(山下ルンバ)のお母さんが、若い頃に佐賀から東京に出てくる時、いつも夜行のあかつきで新大阪に出て、朝の新幹線に乗り継いでいたらしいですよ」
 
「寝台列車もいいよね」
 

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11月20日(木)、ケイは小浜に行き、建築中(実際には工事はほぼ終わって検査待ちになっていた)の小浜ミューズシアターの下見に行き、播磨工務店の青池さん、ミューズセンターの太原さんから説明を聞いた。
 
帰りには偶然和実と遭遇して東京まで一緒だったのだが、先日会った時は、彼女のお店クレールのそばに巨大ショッピングセンターができるらしいというので悩んでいたが、今回はだいぶ明るくなっていたので安心した。
 
「あそこがダメなら仙台市街地に支店を作っちゃえばいい」
などと積極的なことも言っていた。その彼女は言った。
 
「あけぼのとあかつきの違い?男か女かの違いだね」
 
「ほほぉ」
 
「曙といえば、やはりお相撲さんの曙。男の名前」
「ふむふむ」
 
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「あかつきといえば、仏檀に備える、銅製の水を入れる器のこと」
「あれ、あかつきと言うんだっけ?」
「漢字ではこう書く」
と言って、和実は書いて見せた。
 
“閼伽坏”
 
「へー!アクアの坏か!」
 
「そうそう。あの器はどう見ても♀でしょ?」
「まあ確かに」
 
「アクアも女の子だという疑惑が濃厚だけどね」
「あはは」
 

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東京駅で和実と別れて、さて郷愁村に戻るかと思っていたら、政子から電話がある。
 
「もうびっくりしたぁ。死んだかと思った」
「何があったのさ」
 
政子の言葉は、しばしば主題が無くて、さっぱり意味が分からない。
 
「うちのお隣の家が爆発したのよ」
「はぁ?」
 
「私寝てたのに、戦闘機で爆撃でもされたかと思った」
「ガス爆発か何か?」
「どうもそうみたい」
「そちらに行く」
 
それでケイは電車で、政子の実家まで行ってみた。
 

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お隣の家が完全に崩壊していた。政子の家の建物は爆発した家から双方の庭をはさんでおり、10mくらい離れていたし、境界(のこちら側)には槇の木が5本並んでいたので、こちらの家屋には被害は無かったらしい。ただ、槇の木は5本の内3本が完全に折れ、残りの木も多数の枝が折れていた。また、ガレージの屋根に向こうの家の破片が何個か突き刺さっていた。どうも槇の木がクッションになってくれたようである。
 
「槇の木さん、ありがとうって言ったの。折れた木は建てる離れの建材に使えないかなと思ったんだけど、木は伐採した後、半年くらい乾燥させてからでないと建材に使えないんだって」
 
「うん。生きている木は大量の水分を含んでいるから、乾燥させずに使ったら建てた後で曲がっちゃうんだよ。半年というのも人工乾燥の場合だね。自然乾燥なら10年くらい置く必要がある」
 
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「そんなに掛かるんだ!あと、このガレージは崩す予定だったし」
「確かに」
 

実は政子が、来春に結婚する予定の大林亮平君と一緒に住むのに、ここに離れを建てるつもりで、このガレージは実は来週にも取り壊す予定だったのである。
 
なお、この実家は、現在政子のお母さんがひとりで住んでいる。政子のお父さんは仙台でデパートの店長さんをしているのだが、単身赴任である。政子は、普段は恵比寿のケイのマンションに住んでいるのだが、ケイが小浜に行ってくるので、その間、(食事の心配をしなくて済む)実家に戻っていて、偶然この爆発事故を身近に体験することになった。
 
なお、政子の実家はそういう訳で実質被害は庭木だけだったのだが、反対側の隣の家、真向かいの家・裏隣の家では、窓ガラスが割れ、室内にあるものも落下して壊れたりして結構な被害が出たらしい。特に真向かいの家は玄関のドアがひしゃげていて、爆発の威力をまざまざと見せつけていた。政子の家も庭木が無かったら家屋に被害が出て、政子も怪我したりしていたかも知れない。
 
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爆発した家の人も含めて近所の人たちがみんな外出中だったため、この爆発で誰も怪我人が無かったというのが奇跡的である。結局爆発箇所から最も近くに居たのが政子だったようである。
 

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