[携帯Top] [文字サイズ]
■春宵(16)
[*
前p 0
目次 #
次p]
さて、ローズクォーツのアルバム制作だが、制作期間を短縮して、クォーツの4人、結果的にはローザ+リリンの負荷も減らすため、5年前の伴奏音源の上にローザ+リリンの歌を乗せる方式で制作は進む(後日一部の伴奏を録り直した)。
2人とも上手いので、11月中に『珠と鉾の歌』を含めて『plays Sex Change』の制作は完了し、12月に入ると『Brass Quarts』の伴奏音源に男声で歌を入れる作業に入る。これは1週間で終わって、おかげで年が明けたら、すぐ、『Rose Quats plays Pops』の制作に入れる態勢になった。
ケイナとマリナはここまで男声で歌ったのだが、12/15以降は、どうやっても男声は出なくなった。
「そういえば1ヶ月くらいだけ出るようにしてあげるとアイさん、言ってたもんなあ」
とマリナは言った。
「丸山アイさんにまたお願いできないかな」
とケイナは言うが
「ついでに身体は女に変えられるかもよ」
とマリナが言うと
「やはり、あれアイさんのせいだったの?」
と訊く、ケイナも若干疑っていたようだ。
「あの人、不思議な力を持っているみたいね。醍醐春海さんがそれをキャンセルしてくれたんだよ。あの人も、大宮万葉さんのお姉さんだけあって、ある程度の霊的力があるみたいだから」
「そうだったのか!」
とケイナも納得したようである。
「でも声はこのまま?」
「女の声で特に不便なことは無いし」
「そうだな。ちんこさえあれば、声はどうでもいいや」
とケイナも納得したようであった。
しかしそういう訳で、今年度のローズクォーツは、かなり精力的にアルバムを出すことになったのである。
2019.07『Brass Quarts』(女声)
2020.01『Rose Quarts Plays Sex Change "Reboot" −女になりました』(男声)
2020.01『Brass Quarts flip side』(男声)
2020.04『Rose Quarts Plays Pops』(女声)
2020.06『Rose Quaars Best』(vocal:ローズ+リリー、鈴鹿美里、覆面の魔女、Ozma Dream, Milk Chocolate, アンミル、メグとノン、透明姉妹、Rosa+Lilin) Aside:歴代ボーカル Bside:Rosa+Lilin
なお、2020年の春はコロナ騒動のせいで、新たな代理ボーカルの選任が保留され、ローザ+リリンは契約期間を半年間延長して、9月まで代理ボーカルを務めることになった。それでベスト盤の新規録音は、4-5月に、ローザ+リリン“のみ”スタジオに入って録音作業をしたのである。ベスト盤は2枚組で、
Disk A : 歴代ボーカル
Disk B : ローザ+リリンが全歌唱
という構成になっている。
ローザ+リリンの負荷が大きいことから、Aサイドの追加録音は、鈴鹿美里の2人にお願いした。実はそもそも鈴鹿美里が歌ったローズクォーツの音源自体が存在しなかったのである。元々この2人は1日だけライブで代理を務めただけであった。それでAサイドには鈴鹿美里が歌った曲が4曲入ることになった。
「そういえば鈴鹿ちゃんはいつ性転換するの?」
とサトが訊いたら
「もう性転換しちゃったんですよ」
と言うので、びっくりした。
「いつの間に?」
「ちょっと改造するだけだから、すぐ済みましたね」
と美里が言うので
「簡単に言ってる」
とタカが呆れていた。
「手術は国内?」
「はい。性転換したのは高松でした」
「へー。四国にそういう病院があるんだ?」
12月はアルバムの制作を進める一方、ローザ+リリンは多数の年末年始の番組に出演した。
「なんか凄く忙しい」
「でも頑張ろう」
『ミッドナイトはネルネル』は夜9:00-10;00の時間帯に移動し『夜はネルネル』と改題された。進行役はもちろんネルネルで、サブの位置にこの時点ではほとんど無名だった、めろでぇず(Melowdays)の2人、そしてローザ+リリンはその次くらいに位置づけられていたので、2人は驚いた。
深夜番組時代の中核だった、貝割横浜・貝割川崎のコンビ、揚浜フラフラ、健康バッドなどはそのままである。ローザ+リリンは、貝割横浜・川崎の方が自分たちより上の位置づけと思っていたので、板付社長と一緒に2人のところに“お詫び”に行ったが、彼らはサバサバしていて
「俺たちは2012年のデビューだけど、ローザ+リリンさんは2008年のデビュー。ローザ+リリンさんの方が俺たちより先輩だし、実際面白いよ。番組は楽しく制作すればいいのであって、ランクとか気にせずに、お互い頑張ろう」
と言ってくれた。
なお、アシスタントは内野音子のままである。
そしていちばんびっくりしたのが、芸人クラウドである。彼はなんと女装での参加であった。
「誰かと思った」
「性転換したの?」
「いや、お前は性転換だけはやめた方がいい」
「もしかして痴漢で捕まって去勢刑をくらったとか?」
「すみません。裸芸が禁止されたから、しばらく女装キャラで売ることにしました」
と彼は言っていた。
例の結婚式の時のお化粧は、放送事故とまで言われたのだが、女装キャラを演じるために、わさわざカルチャーセンターのメイク講座を受けて勉強したということで、この程度のおばちゃんはいるかもという程度にはなっていた。
「女装している時は女子トイレ使ってもいいかと尋ねたんですがダメと言われました」
「そりゃそうだ。お前みたいなのが女子トイレに居たら即通報されて逮捕されるぞ」
とフラフラから言われている。
「でもこの格好では小便器使えないので、男子トイレの個室使うことにします」
「まあ、スカートでは立ち小便できないだろうな」
「ガードルもつけてるんで、立ってするのは不可能です」
「ああ、それは分かる」
とケイナが言っていた。
「ガードルくらい付けさせておかないと、女の格好してるから女と思い込んだ若い女性アイドルが気を許して襲われたりしたら、あかんからな」
と健康バッドから言われている。
「俺、そんな悪いことしませんよぉ」
「いや、しそうな顔をしている」
「そもそも、いくらスカート穿いてても、この顔見て女だと思う娘はいないって」
と有斗興梠(ありとこおろぎ)。
「ああ、そうかも」
などと、芸人クラウドはみんなから無茶苦茶言われていた。
ケイナとマリナの新婚旅行・結婚式は12月20日の1時間半スペシャルで放送された。
「だけど本当に結婚おめでとう」
とケンネルが言うので、もうケイナもマリナも、“いいことにした”。
「これで晴れて夫婦漫才(めおとまんざい)になったんやね」
と揚浜フラフラが言う。
「私たち、漫才じゃなくて歌手なんですけど」
「だったら夫婦デュオか。以前いたね。カズンだっけ?」
「カズンは従姉弟ですよぉ」
とマリナ。
「ルクプル(le couple)が夫婦デュオですね」
と内野音子がフォローした。
「チェリッシュもだよね?」
とケンネルが言う。
「そうそう。あの人たちも夫婦です」
と内野音子。
「雷鳥も夫婦だっけ?」
「あの2人は姉弟ですよ」
「なんだ」
「結婚せんの?」
「姉弟は結婚できないでしょ」
「だけど、******は兄妹だけど結婚してたんだろ?」
というチャンネルの発言は放送時にピーで消された。
「それ噂はあったらしいですね。兄妹でも結婚できる国に行って結婚式を挙げたという説。でも関係者はみんな否定していますよ」
とここはマリナが語った。
「別に好きだったら兄妹で結婚してもいいと思うけどな。昔、父娘で結婚するドラマもあったぞ(*4)」
とチャンネルはまだ言っている。
「お前、妹がいなくて残念だったな」
とケンネル。
「弟が性転換したら結婚考えてもいい」
「お前が性転換したら?」
(*4)石立鉄男と大場久美子が主演した「秘密のデカちゃん」である。この設定にはかなり視聴者の反感があったのか、途中で「父娘として暮らしてはいたが、実は(血の繋がらない)兄妹であった」と設定変更された。民法上は血が繋がっていなければ兄妹は結婚可能だが、父娘はたとえ血縁関係がなくて、親子関係を解消しても、結婚できない:だから同性カップルが戸籍をひとつにするために養子縁組していた場合、将来同性婚が認められるようになっても、そのケースでは養子縁組を解消しても結婚はできないことになる。親子関係というのは物凄く重いのである。
ハワイで撮影した映像が流れた後で、スタジオでケンネルから言われる。
「君たち指輪はしないの?」
「持ってはいるんですが」
「つけるといいね」
それで、2人は各々自分のパッグから指輪を出すと自分の指に填める。
出演者たちがパチパチと拍手をして2人を祝福した。
「某作曲家さんから聞いたけど、2人とも性転換して女になっていたけど、結婚するために、ケイナは切り取ってから、念のため冷凍保存していたちんちんを、再度つける手術を受けたんだって?」
某作曲家って、雨宮先生だろうなとケイナは思った。あれって切断してから冷凍保存とかできるんだっけ?その説は初めて聞いた。
(性転換するために切り取ったペニス・睾丸を冷凍保存しておき、後でまたつけるという話は『鏡の国のアリス』(広瀬正)や『逢魔がホラーショー』(千之ナイフ)に出てくる。どちらも本当に女になりたい訳ではなく、本人の性別意識も男だが、一時的に女の身体になりたいだけだった。但し前者は実際には性転換手術をせず(男の身体のまま誤魔化して女湯に入っちゃう)、後者は女の身体にハマってしまい、女になったまま男には戻らなかった)
「私、手術とかしてないんですけど、なんか反論する気力が無くなりました」
とケイナは言っている。
ケイナとマリナが結婚したという噂は8月頃から出始めて、もうほとんど既成事実と思われている。御祝儀も20人以上からもらっている(親戚からももらっている!)。マリナが女になったというのも既にwikipediaにまで「複数の証言があり、幾つもの報道がある」として記載されている。仕上げに今回の“新婚旅行・結婚式”である。(その日の内にwikipediaには「ふたりは夫婦である」と記載された!)
「ハネムーンベイビーできた?」
と女性タレントの準レギュラー、篠崎夏奈子から尋ねられる。
「3月まではローズクォーツの代理ボーカルで忙しいから妊娠できません」
とマリナは答えた。
「ああ。ちゃんと避妊してるのね。ケイナは結婚した以上、生でやりたいだろうけど」
「じゃ、4月になってから製造するんだ?」
「4月に仕込んだら、産まれるのは、年明けくらいかな」
「それだと紅白歌合戦に出られませんね」
とマリナが言ってみた。すると
「だったら2月くらいに仕込んじゃえばいいよ。そしたら11月くらいに出産できるから、紅白は問題無いよ」
と貝割横浜が言っていた。
この放送は物凄い反響を呼んだ。
中にはあからさまに嫌悪感を表現する人もあったものの、プロデューサーが期待した通り“女性同士の結婚”にはそれほど強い反感は無かったようである。しかもマリナは本当の女になったらしいという噂もあることで、実は普通に男女の結婚と考えた人も多かったようである。ツイッターなどでも「おめでとう」と書いている人が大半だった。
ケイナとマリナのアカウントのフォロワーもあっという間に1万人を越えた。女性のフォロワーが多く、たぶんビアンの人も多いのではと想像された。やはり自分達は、女同士の結婚とみなされているなとマリナも思った。
また、ケイナとマリナへのファンからの結婚祝いのプレゼントも20-30倍に膨れ上がり、板付社長は、プレゼントの整理をする係を5人も雇った。中には変なものを仕込んだプレゼントもあることが予想されたので、ローズ+リリーの紹介で、金属探知機・X線透過機などを持っている○○プロに危険物のチェックをお願いすることにした。また、ケイのアドバイスに従って、個人発送の物は全て廃棄させてもらうことにした(すぐホームページにその旨の記載をした)。
[*
前p 0
目次 #
次p]
春宵(16)