広告:まりあ†ほりっく 第2巻 [DVD]
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■春宵(12)

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近くのステーキ・レストランで昼食を食べた。食事代は番組持ちである。
 
「しかし素敵なドレスも買ったし、素敵な指輪も買ったし、あとは結婚式だけですね」
などと内野音子は言っている。
 
「だからそんなのしないって」
とケイナ。
「もっともケイナはこないだ、芸人クラウドと結婚したのではという説もあるけど」
とマリナ。
「あれは錯誤無効だろう(*3)?」
とケイナは言った。
 
(*3)民法95条により、錯誤による契約は無効である。契約が無効になるのは、他に、公序良俗違反(90条)、心裡留保(93条)などのケースがある。
 
あの“結婚式”では結婚の相手が芸人クラウドにすり替わっているとはケイナは思いもしなかったので錯誤が主張できるハズ。
 
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公序良俗違反→愛人契約・奴隷契約・殺人依頼のようなもの
 
心裡留保→契約の“双方”が本気でないと認識していた場合。
例えば「5000兆円ちょうだい」「いいよ。明日振り込むね」みたいな類いのもの。
 

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「そうそう。今日の夕方、ハワイで結婚式をあげる日本人のカップルがあるんですよ。その結婚式を見学しませんか?」
 
「そんなの私たちが出席していいの?」
「はい。取材の許可を取ってあります」
と内野音子は言った。これは嘘ではない。ちゃんと彼女らの“事務所”に許可を取っていた。
 
それで夕方からその結婚式を見にいくことにし、午後はダイヤモンドヘッドの登山!をさせられる。登山口までは車(現地スタッフが運転するHONDA CR-V)で行ってから、登山道を1時間歩く。この取材にはカメラマンだけが同行し、内野音子は「私体力無いから」と言ってパスした。
 
(実は夕方の結婚式の準備をしていたのである)
 
「私たちも体力無いんだけど」
「一昨日もマノアの滝まで往復2時間歩いたのに」
と文句言いながらも、ケイナとマリナはカメラマンと一緒に頑張って登山道を登った。
 
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「ここなんでダイヤモンドヘッドっていうんだっけ?」
とケイナ。
 
「この山頂付近で産出するカルサイトがダイヤモンドと似てるから、ここに来たヨーロッパ人が間違えて、ダイヤの出る山ということでそういう名前をつけたらしいですよ」
と七山カメラマン。
 
「ああ、間違ったのか」
「本来の名前はレアヒ(Le'ahi)山らしいです」
「欧米人は結構勝手に名前を付けてるからなあ」
 
「最近、元の名前が復活してきていますよね。エベレストがチョモランマとか、マドラスがチェンナイとか、ヴィクトリア湖もニアンザ湖と呼ぶべきという人がありますし、エンゼルフォールもチャベス大統領が、ケレパクパイ・メルーと呼ぶようにすると発表してました」
とカメラマン。
 
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「よくそんな名前、覚えてましたね」
「昨夜頑張って覚えました」
と七山さんが言うので、マリナも苦笑する。むろん台本である。
 
でもこの後、ケイナとマリナは“口(くち)ギター”でベンチャーズの"Diamond Head"を“演奏”したが七山さんが「凄い」と言って拍手してくれた。温泉や田舎の旅館でやっている芸のひとつだが、これは放送時にも視聴者に随分評価されていた。
 

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1時間半ほどで山頂に到達した。頑張って登っただけあって、ダイヤモンドヘッド(レアヒ)の山上から見た風景は素晴らしかった。
 
「あそこがワイキキ・ビーチか」
「おふたりのビキニ姿、素晴らしかったです」
「まあ、私たちはそれを人に見せるのが商売だから」
「身体が資本なんですね」
「ビキニまでは女に見えるけど脱いだら実は・・・というお仕事だからね」
 
「でもその先を見せられなくなったから、商売の仕方が難しい」
「身体が資本というのは、スポーツマンと同じかな?」
と七山が言うと
「そんなこと言ったら、スポーツマンの方々に叱られますよ」
とケイナは言った。
 

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休憩を兼ねて山上で1時間近く滞在しながらおしゃべりをしたが、この部分はほぼカットされていた。その後、1時間ほど掛けて登山口まで歩いて降りた。現地テレビ局スタッフの運転するCR-Vでホノルル市街地まで戻る。
 
「ケイナさん、マリナさん、汗掻いたでしょう?結婚式に出席する前にシャワー浴びるといいですよ」
と七山さんが言うので、ふたりは“悪だくみ”には全く気づかず
「そうさせてもらおうかな」
と言ってホテルに戻り部屋でシャワーを浴びた。2人が汗を流した後で部屋で少し休んでいると、内野音子から電話が入る。
 
「せっかくだから、午前中に買ったワンピースを着てきてくださいよ」
「あれ少し豪華すぎない?」
「大丈夫です。新郎新婦はもっと豪華な服を着ますから」
「だったら大丈夫ね」
 
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それで2人は午前中に買った2着で26万円もしたシルクドレスを着た。ケイナが青、マリナが白である。
 
それでロビーまで降りて行くと、自身も黄色いドレスを着た内野音子が待っている。
 
「ネコちゃんも素敵なドレスじゃん」
「これは番組の衣装です」
「ああ、私たちも番組衣装で良かったんだけど」
「せっかく買ったんだから使いましょう」
 

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ホテルの前にリンカーン・ナビゲーターが停まっているので仰天する。
 
「これに乗っていくの?」
「出席者にも豪華な車に乗ってもらおうというサービスなんですよ」
 
放送時には、このあたりで番組の先を予測した視聴者もあったようだが、ケイナもマリナもこの時は全く気づかなかった。
 
ともかくもケイナとマリナはリンカーンの3列目に並んで座り、内野音子は2列目に乗って、ワイキキ市内の教会に行った。結婚式はここのチャペルで行われるということだった。
 

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ケイナとマリナが内野音子に先導されてチャペルの中に入る。
 
すると突然物凄い拍手が起きる。
 
「え?え?」
と2人は戸惑う。
 
「さあさ、おふたりともバージンロードをお進みください」
「ちょっと待って、まさかこれって?」
「ケイナさんとマリナさんの結婚式に決まってるじゃないですか?」
「予算が無いとか言ってなかった?」
「スポンサーさんが特別予算を出してくれました」
「うっそー!?」
 
ふたりのそばに、男性と女性(?)が近づいてくる。
 
見ると蔵田孝治先生(黒いスーツ)と雨宮三森先生(白いイヴニングドレス)である!
 
なんでこんな大物がここにいる訳?
 
ここでケイナとマリナは思考停止してしまい、蔵田たちに促されるまま、白いバージンロードを進んだ。蔵田がケイナの手を握り、雨宮がマリナの手を握って歩く。
 
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(普通は新郎は1人で歩いて行き、新婦は父親に付き添われて進んで祭壇前で新郎に引き渡されるが、今回は2人とも“新婦”なので変形バージョンになった)
 
教会に置かれたエレクトーン(Yamaha STAGEA)が演奏される。参列者!が賛美歌312番(慈しみ深き)を歌う。日本では唱歌「星の界(ほしのよ)」として知られている歌である。
 
慈しみ深き What a Friend We Have in Jesus
words by Joseph M. Scriven (1819-1886)
music by Charles C. Converse (1832-1918)
 
What a Friend we have in Jesus,
all our sins and griefs to bear!
What a privilege to carry
everything to God in prayer!
 
大意 なんと素晴らしい友なのでしょう、イエス様は。
私たちが負う全ての罪と悲しみを取ってくださる。
祈る者の全てを神に委ねることは
なんと素敵なことなのでしょう。
 
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日本語賛美歌の歌詞例(宗派?などによりバリエーションが多い)
 
慈しみ深き友なるイエスは
罪・とが・憂いを取り去りたまう
心の嘆きを包まず述べて
などかは降ろさぬ、負える重荷を
 
「星の界(ほしのよ)」杉谷代水(1874-1915)作詞
 
月無き御空に、きらめく光
嗚呼その星影、希望のすがた
人智は果(はて)なし、無窮(むきゅう)の遠(おち)に
いざその星影、きわめも行かん
 
この歌にはもうひとつ、川路柳虹(1888-1959)作詞の「星の世界」(歌い出し:かがやく夜空の星の光よ)もあるが、こちらはまだ著作権が切れていないので歌詞を紹介できない。
 

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賛美歌が終わると、牧師さん(?)が何か祝福の言葉を述べているようだが、英語がわりとできるマリナにも半分くらいしか聞き取れない。あまり英語ができないケイナはさっぱり分からない!
 
祝福の言葉が終わったっぽい所で牧師は青いドレスのケイナを見ながら言った。
 
「Keita Hino. Dost thou take this woman Marina Mizusaki as thy wife and hold, from this day forward, for better, for worse, for richer, for poorer, in sickness and in health, to love and to cherish, till death do you part?」
 
ケイナはチンプンカンプンである。傍にいる蔵田孝治が「アグリーと言いなさい」と言う。それでケイナは訳も分からずに
「アグリー」
と言った。(本当はDost thouと訊いているから I do で良い)
 
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牧師はマリナに向かって言う。
 
「Marina Mizusaki. Dost thou take this man Keita Hino as thy husband and hold, from this day forward, for better, for worse, for richer, for poorer, in sickness and in health, to love and to cherish, till death do you part?」
 
マリナは、まぁいっかと思った。それで
「I agree」
と言った。雨宮三森が頷いている。
 
すると牧師は「God bless you」と言って十字を切った。つられてケイナとマリナも十字を切る。この時マリナはちゃんと頭→胸→左肩→右肩と切ったが、ケイナはよく分かってないので、頭→胸→右肩→左肩と切っちゃった。牧師さんが一瞬嫌な顔をしたものの、スルーした!(右→左は正教式の切り方である)
 
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なおここで牧師はKeita Hino(火野慶太)、Marina Mizusaki(水崎マリナ)と、2人を戸籍名で呼んでいるのだが、多くの視聴者は Keina Hino と聞き取り、各々の芸名で呼んだのだろうと思った。マリナが本名であることを知っていたのは、制作の都合でマリナの戸籍を閲覧した左蔵プロデューサーと内野音子だけだが、ふたりとも個人情報保護の観点から、このことを誰にも言わず、マリナの本名の件は誰にも知られなかった。
 
しかしマリナが本名を変更していたことを知った左蔵と内野音子は、やはり、マリナは実際に性転換したので、戸籍を変更したのだろうと解釈した!
 

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さて式の続きである。
 
誓いの言葉が終わった所で、指輪を内野音子が小さな台に載せて差し出す。
 
「あぁ!」
とケイナが声をあげる。今日のお昼に買ったばかりの指輪である。スタッフが代理で取りに行きますよとか言ってた。マリナも、なるほど全部仕組まれていたわけかと思った。
 
「指輪の交換を」
と内野音子が言う。
 
ケイナは蔵田にも促され、小さい方の指輪(でもペリドットだから高い)をマリナの左手薬指に填めてあげる。続いてマリナは何も言われないまま、大きい方の指輪(ターコイス)をケイナの左手薬指に填めてあげた。
 
「誓いのキスを」
と内野音子。
 
それでケイナとマリナはキスをした(いつもしているので、お互いこれは平気)。
 
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参列者から大きな拍手が起きた。それで牧師さんが2人の結婚が成立したことを宣言し(例によってケイナは何を言われたか分からない)、更に参列者から拍手がある。そして雨宮三森に促されて、2人は手を繋いで(雨宮は腕を組めと言ったのだが)一緒にバージンロードを退場した。
 

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「おめでとうございます。ちゃんと結婚式できましたね」
と内野音子が2人を祝福する。
 
「この結婚式って・・・無効だよね?」
とケイナが心細そそうに言う。心裡留保が主張できる気がした。
 
(法的にはもしマリナがケイナに自分との結婚の意思が無かったと認識していたらこの結婚は無効になる。民法93条。つまりマリナ次第)
 
「有効です。牧師さんが結婚証明書に署名してくださいましたよ」
と内野音子は言って、書類を見せる。Certificate of Marriage(結婚証明書)と書かれている。
 
「で、でも海外結婚式って日本国内で結婚して婚姻届提出証明書か何かを持って来ないと、挙げられないのでは?」
とケイナが焦って言うが
 
「はい、そういう教会が多いですが、ここの教会は証明書提出しなくてもOKなんです」
と内野音子。
 
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「だいたい俺たち男同士なのに」
とケイナ。
「2人のお写真を見せたら、最初、女性同士の結婚式はうちではやってないと言われました。それでケイナさんの戸籍謄本をお見せしたら、女装であっても男性であるのならOKと言われました」
と内野音子。
 
「俺の戸籍謄本、勝手に取ったの?」
とケイナが男言葉になっているのに気づかず文句を言う。
 
「ケイナさんのお母さんにお願いしたら、取ってくださいました」
「お袋か!」
と言って、ケイナは天を仰ぐ。つまりこの結婚は親も承知な訳だ!
 
「でもマリナは?」
「マリナさんの写真を見て、牧師さんは女でないとは疑いもしませんでした」
「あはは」
 
「そういう訳でご結婚、おめでとうございます。これでおふたりは晴れて夫婦デュオになりましたね」
 
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マリナは苦笑した。
 
「あの出席者は?」と訊いてみる。
 
「昨日、ハワイのテレビ局で募集した、偶然ハワイに来ていた日本人旅行者です」
「蔵田先生や雨宮先生は?」
「偶然ハワイに滞在なさっていました。おふたりが結婚すると聞いて、先導役を買って出てくださいました」
 
そういう訳で、ケイナとマリナは、正式に?結婚式を挙げてしまったのであった。ちなみにその夜も、ケイナとマリナはダブルベッドの上で5cm間を空けて寝た。
 
 
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