[携帯Top] [文字サイズ]
■東雲(19)
[*
前p 0
目次 #
次p]
彩佳たちが帰ってから、龍虎Mは《こうちゃんさん》(山村マネージャー)に文句を言った。
「なんで僕の部屋なのさ?」
「Fの部屋に入れたらFから文句言われるだろう?Nの部屋に入れたらFが怒るだろう?だから消去法でお前の部屋にした」
と《こうちゃんさん》。
Mは考えた。確かにNの部屋に勝手に荷物を入れたらFが酷く怒る気がする。
「分かった。ここでいいよ」
とMは言った。
「冬服とか、入りきれなかった下着とかも置いてあるから、彩佳の分は龍虎が着たり舐めたりそれでチンコ掴んだりしてもいいと言ってたぞ。彩佳の分は赤いテープ、桐絵の分は黄色いテープが貼ってあるから間違うなよ」
「下着を舐める趣味は無いよ」
「女の子の下着舐めると臭いが素晴らしいぞ」
などと《こうちゃんさん》が言うので、こいつ、その内、絶対に痴漢で逮捕されるな、と龍虎は思うのであった。《じゅうちゃんさん》も危ないけど!
「でも下着でおちんちん掴むってどういうこと?」
「オナニーする時にチンコを女のパンティやブラジャーで掴むことないか?」
「何それ?こうちゃんさん、そんなことするの?」
「いや、しないならいい」
と《こうちゃん》は逃げておいた。実は自分がアクアの下着でそんなことしているのがバレたらやばいと思った。
なお熊谷からの宏恵の引越は翌日の3/20(金)に行われた。宏恵のお父さんが荷物を車に積んで再度渋谷まで来た。
龍虎Fは千里に言った。
「ねえ、千里さん。ボクの卵子を冷凍保存しておけないかな」
「なんで?あれ凄く辛いよ」
と京平を作る時に経験している千里は言う。
「辛いのは構わない」
と言ってから、Fは言った。
「ボクたちずっと3人のままやっていくのかと思ってた。でもNが消えて、いづれは1人になるんだということを再認識した。次に消えるのはボクだと思う。本当は消える前に子供を産んで、自分が生きた証(あかし)を残したいけど、人気アイドル・アクアの妊娠なんて許されないし。だから卵子を冷凍保存しておけば、将来誰か代理母さんに妊娠してもらえる可能性があると思うんだ」
と龍虎Fは言った。
「なぜ自分が消えると思う?」
「じゃMが消えるの?」
「さあね」
「やはりボクだよね?だって“龍虎”はやはり男の子として生きて行くんだと思うし」
「そんなこと考えてたら、今すぐ消えるぞ」
と千里は警告した。
「多分、MもFもそのまま生きて行くんだよ」
と千里は言う。
「ずっと2人のままということ?」
「たぶん1年以内には1人になる」
Fは少し青ざめている。1人に戻るのがそんなに早いとは思わなかった。でも昔、あれは確か2017年秋に、大勢の関係者と一緒に厄払いツアーをした時、お伊勢さんでFが『私たちは1つに戻れますか?』と尋ねたら、左斜め前の方角から『3』という声が聞こえた気がした。あれからあと半年で3年経つ。そうか。とうとう1人に戻る時が来るのか。
「お願い。卵子の冷凍したい」
「いいけど、本当に辛いよ」
「頑張る」
この件では、FだけでなくMも排卵抑制剤・排卵誘発剤の副作用に苦しむことになる!
「ところで、Fちゃん、ゲッターロボって知ってる?」
「知らない」
「もう50年近く前のアニメでさ、今ならスーパー戦隊シリーズとかでやっているような、合体ロボものの元祖みたいな作品だよ」
「へー」
「それでさ、イーグル、ジャガー、ベアー、という3機の飛行機が合体して巨大ロボットになるんだけど、組合せによって別の機能を持つんだよ」
「組合せ?」
「3種類の組合せがあって」
と千里がいうと
「3機の組合せなら6通りでは?」
とFが言う。
「さすがアクアだね。これが葉月Mなら3機の組合せは3通りだと思っちゃう」
「あの子、学校のお勉強する時間が全く無かったから仕方ないよ」
「まあアニメでは3種類の組合せが出て来た」
と言って千里は書き出した。
ゲッター1(空陸戦闘)頭=イーグル、胴=ジャガー、脚=ベアー
ゲッター2(地中活動)頭=ジャガー、胴=ベアー、脚=イーグル
ゲッター3(水中活動)頭=ベアー、胴=イーグル、脚=ジャガー
「最初から3種類の戦闘ロボを作ればいいのであって、わざわざ組み合わせるのって無駄だし、無理も出ると思う。接続部分は絶対に弱点になる」
とFが言うが
「まあそれでこの手のものは後には、あまり出なかったのかもね」
と千里も言う。
「でも3つのマシンが合体して1つになるわけだけど、その形態が組合せによって変わるってのが、物語のひとつのポイントでもあったんだよ」
「ふーん」
とFは興味無さそうに言った。
ところでアクアは昨年11月に高校近くの赤羽の賃貸マンションから、今後の仕事での便を考えて代々木の分譲マンションに引っ越したのだが、引っ越してまもなく、意外な“お隣さん”がいることに気づいた。ある日、珍しく夜10時で仕事が終わり、緑川マネージャーにボルボで送ってもらい、御礼を言ってマンション前で降りたら、ちょうどエントランスを入ろうとする、AYAのゆみさんがいたのである。
「おはようございます」
「おはようございます」
と挨拶を交わす。緑川マネージャーは会った相手がAYAと認識し、大丈夫だろうと判断して車を出した。これが松浦紗雪とかだったら、そのまま拉致されて改造手術されてしまう危険があるので、場合によっては駆け付けて保護する必要がある!
一緒にエントランスを通り中に入る。エレベータを待ちながら会話する。
「ゆみさん、こちらにお住まいだったんですか?」
「うん。アクアちゃんもだったのね」
「私は11月に引っ越してきたんですよ」
「へー。私は3年くらい前にこのマンションが出来た時からだけどね」
ゴンドラが来たので一緒に中に入る。アクアは自分の階のボタン10を押してから、ゆみに
「何階ですか?」
と尋ねる。
「18」
それでアクアが18のボタンを押す。
「ありがとう」
とゆみは言ってから
「ずいぶん低い階に住んでるね」
と言う。
「消防車のハシゴが届く階に住んでくれと言われたんです」
「ああ。私はそんなこと全然考えずに、部屋が広いから18階を選んだ」
「そういえば最上階の設備は凄いと聞きました」
「何なら見る?」
「済みません。女性芸能人さんの部屋に単独で行ってはいけないと言われているので」
「アクアちゃんの場合は、むしろ男性タレントさんの部屋に行ってはいけない」
「あはは」
やがて10階に着いたので、ゆみに「おやすみなさい」と言い、自分で閉ボタンを押して降りた。
3月9日(月)静岡の実家に結婚の報告に行った八雲礼江(戸籍上は礼朗)は11日(水)には、真友子の実家に挨拶に行くことにした。
それで「妻の名において命じ」られて、振袖を着た!
「だって結婚したら振袖着られなくなるからね。今の内に着なきゃ」
と言われたのである。真友子自身も振袖を着る。
それで2人で、礼江のポロに乗って、東村山市にある真友子の実家に行ったのであった。
ポロを家の前に駐める。
「ただいまぁ。結婚相手連れて来たよぉ」
と真友子はあっかるく声を掛けて家の中に入った。母が出てくる。
「初めまして。八雲と申します」
と礼江が挨拶すると
「あら、美人さんじゃん」
と母は楽しそうに言った。
礼江が美人なせいか、真友子のお父さんもご機嫌だった。礼江が
「変態で済みません」
などと言うと、お父さんは
「だいじょぶだァー」
などと明るいノリで答えていた。
本当に男性なんですか?と訊かれるので、礼江は“八雲礼朗”名義の運転免許証を見せる。
「ちゃんと普通に女の格好で写真写ってるのね」
「はい。パスポートもそうです」
と言って、礼江はパスポートも見せた。
「パスポートは仕事柄必要なので作っていますが、マイナンバーカードは作ってないんですよね。性別:男と大きく書かれるのが嫌で」
「将来は性転換するの?」
「それはまだ分かりませんけど、真友子さんとの結婚生活を維持したいから、性転換したとしても、戸籍上の性別は変更しませんよ」
「ああ、女同士では結婚できないもんね。不便ね」
とお母さんが言った。
この日は、礼江のまじめな人柄が真友子の両親には気に入られたようであった。
「でも避妊に失敗して、真友子さんを妊娠させてしまって申し訳ありません」
と礼江は謝ったが、
「でも妊娠してなかったら、この子、結婚する気にならなかったかも知れないからね。この子、課長になったからこの先10年は結婚できないなんて言ってたし」
とお母さん。
「課長の仕事してたら、あっという間に10年経ちそうな気もしたんだけどね」
と真友子。
この日は豪華な仕出しが取ってあったので、それを一緒に頂いた。礼江は次はうちの両親を連れてきますと言い、また日程を調整することにした。
真友子の週数が進んでいるので、話は早く進めることになった。礼江も真友子も仕事が忙しく日程の調整が大変だったので、結局その週の内に、礼江の両親は東村山市の真友子の実家に、真友子も礼江も抜きで挨拶に行った。
実は八雲信幸・信繁・京の3人で、信幸の車(14代目クラウン)に乗り込んで東京に出て来て、金曜日(3/13)は信幸と京で田園調布の高木家に挨拶に行き、土曜日(3/14)は信繁と京で東村山市の氷川家に挨拶に行ったのである。
(佳南の父は土日は忙しいので平日の方がよく、真友子の父は勤め人なので土日の方が良い)
信幸と京が高木家に挨拶に行くと、佳南の父・高木真(東郷誠一)は
「僕の方が先にそちらに挨拶に行くべきだったのに申し訳無い」
などと京に謝っていた。
「いえ、こちらこそ昨年の父の葬儀の時は、年末のお忙しい時だったのに、本当にお世話になりました」
と京は挨拶する。昨年末に亡くなった京の父・上田正は、東堂千一夜の弟弟子で、東堂千一夜は東郷誠一の師匠の師匠である。葬儀の時は、東堂千一夜が葬儀委員長を務め、東郷誠一が実際の葬儀の進行や手配などをしている。
「しかしこれでまたお互いに関わりができましたね」
と東郷誠一と京は、感慨深げに話し合っていた。
翌日、信繁と京で氷川家に行くと、真友子の父は
「堅苦しい挨拶は抜きで、楽しくやっていきましょう」
などと言って、取り敢えずホットプレートで焼肉が始まってしまう。
信繁と京は、礼朗(礼江)の性別問題をどう言い訳しようと悩んでいたのに拍子抜けする。そして、ふたりとも、昨日の高木家では緊張したものの、この日はリラックスして真友子の両親と楽しくお話しすることができた。それでホッとしたことと、真友子の母の勧め方がうまいので、うっかり信繁も京もふたりともビールを飲んでしまい、帰りは調布に住む真友子の姉を呼び出して車を運転してもらうことになってしまった。
でも氷川家の膨大なCD/LPコレクションを見た京は「うちの父(作曲家・上田正)より凄い」と驚いていた。国内でここ50年ほどに出たクラシックやジャズのLP/CDがほとんどあるのでは?と思うくらい充実していた。
(現在、上田家は空き家で、月に1度くらい京が掃除と郵便物チェックに行っている)
この2日間の親同士の話し合いで、どちらも結婚式は3月中に挙げてしまおうということになった。時節柄、いづれもネット中継方式で披露宴をおこなう。その話がまとまってしまったので、3/14日に高木佳南は報道各社にFAXを送って、結婚の予定であることを発表したのである。
2020年3月12日(木)、Wリーグは、3月23日から4月6日まで予定していたプレイオフを4月5日までに日程短縮した上で、無観客で実施すると発表した。(既に通常シーズンの試合は全中止になっている)
2020年3月13日(金)、日本水連は4月2-8日に予定していた日本選手権の日程短縮(4/2-7)と無観客実施を発表。選手権自体の延期もあり得るとした。
[*
前p 0
目次 #
次p]
東雲(19)